乳、映える。(Enchant)
最初はお出かけした時の風景写真や、ちょっと豪華な食事の時だけにインスタにアップしていた。ネット上の自分用のアルバム、ぐらいのつもりだったのだ。
だが、いつのまにか美織は自撮りをアップするのが習い性になってしまった。顔は映さず、首から下、ヘソの上あたりまで。ムーミンのキャラクタや、サンリオのキャラクタなど、可愛らしいTシャツの絵を見せるつもりだったのだが、ある日を境に急激に閲覧数もハートも増えて、それが病みつきになった。
どの絵柄がウケるかに頭を悩ませていたのはほんのひと月ほどだった。うすうすは気づいていた。名も知らぬ誰かがイイネをするのは、シャツにではなく、自分の胸に、であることに。
「こんなのに需要があるなんて絶対おかしいよ……」
そう呟きながら、今日もバストアップ写真(ただし首から下)を撮って、インスタに上げる。見られる快楽というのも違う。誰かが待ってるのだからという義務感とも違う。自分の行いひとつが、世界に何かしらの波紋を投げている、ということそのものが喜びへ繋がっている気がする。
だから下品なコメントをされたとしても腹が立つことはない。ただ眺めるでも、ただ通り過ぎるでもなく、コメントせずにいられなかったという事実だけが、そこにはある。
『ミオリンの雄っぱい、サイコーです!』
「ん……雄っぱいってなんだ?」
美織は、わからない言葉があるとすかさず調べられずにはいられない子だった。
残暑のまだギラギラした陽射しの下、上半身裸のあられもない写真を美織が晒すまで、あと18日。
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