バルサ材とマブチモーター(お題:自由研究)


 あれは小学校……三年生だったか四年生だったか。夏の自由研究で、リモコン(有線)で動く車を作ろうとしたことがある。

 車体はバルサ材で、駆動系はマブチモーター二個。

 タミヤのリモコン操作のできる戦車のプラモデルを作ったことのある人ならすぐ想像できると思うが、左輪と右輪を別々のモーターで動かすことによって、前進、左(右)折、左(右)回転する、というような動き方をする車——

 ではなく、前進後退にひとつのモーターを使い、もう一つのモーターでステアリングを操作して方向転換させよう、という試みだった。

 だがギアの存在する理由を知らず、摩擦や強度なんてものも知らず、実に稚拙でろくに動かないものが出来上がった。バルサ材の車体を片手で持ち上げステア部分のモーターを動かせば、かろうじて動くが床に置けば微塵も動かない。推進用のモーターは回るが、重さと摩擦で空転する。

 理想と現実には大きな隔たりがあると、落胆したものである。

 それでどうしたかといえば、素知らぬ顔で新学期の初めに自由研究として提出した。誰も何もいわなかった。

 タミヤ製の出来合いの戦車を持ってきた子もいて、みんな盛り上がって遊んで教師に怒られるのを傍目で見ながら、俺の方が絶対すごいことしようとしてたのに、と考えていた。

 ちょっとお高いプラモデルだったのか、その子のリモコンはオレンジ色でいかにもリモコンといった感じのものだったが、私のは茶色の地味なスイッチといった感じのリモコンだった。

 いまにして思えば、茶色く機能的なあの安いほうのリモコンには妙にそそられるものがあるが、当時はなんだかちょっと惨めだったような気がする。

 あれからもうン十年と過ぎたが、私はあの頃となにも変わっていない。ろくに機能しない、ハリボテのような作品を、そうとわかりながらしれっと提出し続けている。惨めな気分はないし、これはこれで妙にちょっとそそられるところもあるはずだ、等と反省もせずに私は生きている。


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