ホモが嫌いな女子なんていません!(None of)
BLを書くということは、ひとつの生き様である。クソデカ感情をぶつけ合う男たちの、行きすぎた情熱が性別を超えた関係性にまでいたってしまう、ということをまるで関係のない立ち位置にいるのに書くのだから。
と、いうようなことを滔々と語り、あたしはすっかり文芸部で腫れ物扱いだ。
皆、好きなくせに。
「のび太は本当にバカだなあ」
副部長の太一がコピー機にもたれながら、心底呆れた顔でいった。
「誰がのび太だ」
「お、そうだな。あやとりとかできなさそうだもんな、名前は綾なのに」
あたしは今月出す部誌の原稿を確認しながら、いつもテキトーなことしかいわない、顔以外取り柄のない副部長へ訊ねた。「で、なにがバカだって?」
「エロ本を読まない男子はいません、なんて力説されて、そーだそーだ、と喝采する奴ばかりなわけないじゃないか。ましてやウチは文芸部だぞ。せめて高村薫の世界にかこつけて話すとかさあ」
「稲垣足穂だったら?」
「少年愛は、ちょっと……またジャンルがちがうというか」
あたしは耐えきれず、吹き出した。
太一の、見た目は典型的陽キャのくせして、妙に生真面目なところがあるのは嫌いじゃない。
「ねえ、太一?」
「副部長っていえよ」
「おっぱいの嫌いな男なんていないの?」
「あ、え? おっぱい? ……いや、そりゃいないだろうよ。巨乳より美乳とか、貧乳こそ正義とかあるかもしれんけど、嫌いってやつはいないんじゃないかな?」
「太一は?」
「副部長って呼べって。好きだよ、大好きだよ、大きなおっぱいも、慎ましやかなおっぱいも、それから」
「ストップ! それ以上はいわなくていい」
「ちぇ」
「男同士の恋愛を好むのは、自分にある性を考えたくはないけれど、でもクソデカ感情には強く惹かれるからだって」
「中島梓か?」
「でも、それって失礼だと思わない? 自分は阻害されているからとか、生々しいアレコレから逃げてファンタジーでしか性を楽しめないとか、BL好きがそんなんばっかりだと思われるのは釈然としない」
「そんなんばっかりだと思われてたのも、俺らがちっちゃい頃の話だろ。いまはそんなこという奴いねーよ」
「そんなことないでしょ、でなきゃ低俗だとか単なるポルノだなんて、皆だっていわないはずだよ」
うーん、とあごに手を当てて、首も少し捻って太一、
「多分さ。根本を否定してるとかじゃなくて、そういうことを臆面もなくいう存在が憎々しいんじゃねーの。こっちはもっと必死で高尚なことをいおうとしてんのに、みたいな」
「いえばいいじゃん。あたしもいう、相手もいう。毒も喰らう、栄養も喰らう、天地も喰らう」
「なんでそこで勇次郎なんだよ……え、最後のなに?」
あたしは立ち上がり、コピー機に持たれたままの太一のすぐそばへ立ち、あごをつかんでクイっとこちらを向かせた。
「な、なんだよ……」
「というわけでさ、今度軽く口説いてきてよ、あの期待の一年生男子をさ」
「なにが『というわけ』なのかも、後輩口説くことを強要されるのも、ほんと意味わからん!」
「成否に関係なく、あたしのおっぱい触らせてあげるから。太一、あんた、地味メガネ巨乳好物でしょ」
「おまえなあ、ふざけんのも——」
「ふざけてない!」
あたしは全身を使って声を振り絞った。
「本気で、あたしは、男同士の絡みが好きなの。業なの、
「生き様ねえ……」
太一は心底嫌そうな顔をしながら、こくんとうなずいた。
「揉んでもいいか?」
「展開次第」
「わかった、首を洗って待っとけ!」
吐き捨てるようにいって教室を出ていく太一に、あたしは喜びを隠すことなく叫んだ。
「乳首を洗って待ってる!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます