玉子焼き(お題:焦がす)
目玉焼きを焦がしてしまった。焦げて端が捲れ上がっているのも許し難いが、それより黄身に火が入りすぎているのがまた許せない。
それを、ネクタイを締めながら来た夫が、お、旨そうじゃん、といったのが、これまた許せない。
失敗を慰めようとしてではなく、単に見たまんまをいってるだけなのがわかっていて、だからこそ。
皿に移し、夫に渡して、と同時にトーストがポップして、タイミングだけは絶妙なのがまた腹立たしい。
娘のお弁当用の卵焼きを作る。こちらはこちらで、適度に焦げがあったほうが美味しそうに見えて、頭のスイッチを切り替えなければならないのがちょっとムカつく。
スマホを観ながら夫が黙々と朝食を食べてるのを気配で感じながら、出汁巻きではない、玉子焼きを作る。
娘が起きたてのぽやんとした雰囲気をまとったままわたしの背後に立ち、夫と同じように論評を述べる。
「美味しそうじゃない、ママ。そうそう、タカシくんがいつもあたしのお弁当狙ってるんだけど、ママの玉子焼きが一番美味しいって」
小学校低学年ののろけを朝から聞かされるのは腹立たしいが、美味しそうではなく、美味しいといってくれる存在がいることは、ちょっとうれしい。
玉子の焦げ目をしっかり見極めながら、私はフライ返しをそっと差し込んだ。
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