おはなし(Jingle)

 ドライブの最中、適当なチャンネルに合わせて音楽を楽しむのが昔からの彼の楽しみだった。DJだかMCだかの喋りが始まると、すぐ局を変えて音楽の流れているところへ行き着く。人が自分のことでも、他人のことでも、はたまた話題のことでもなんでも、話すのなんて興味がなかったし、耳障りなだけだった。

 せめて車という個室の中、自分だけの空間を楽しんでる時ぐらいは、全人類が沈黙していたらいいと彼は考えていた。

 みんなお喋りがすぎる。

 何をそんなに話したいのだろう、何をそんなに話すことがあるのだろう、と車窓を流れる景色を眺めながら彼は思う。

 その時、よく聴くジングル——いまはサウンドロゴというほうがいいのか——が聴こえた。

 その局の統一ジングルで、色々なバージョンはあったが、それを聴くとなんだか人心地つくような気がした。

 その局はよく聴くことが多かったし、そのジングルを聴くたび、ああ、やっぱりこの局だったか、とは思うのだが、そのあとに妙に渋い声のナレーションが続いたり、甲高い若い女の声が響いてきたりすると、やはり彼は局を変えた。

 人のお話なんて、うんざりだ!


 彼は出囃子を聴きながら、これもジングルというのだろうか、とふと思った。思ったがすぐ頭を切り替えて、今日の演題へとスイッチを切り替える。

 高座に座り、手にする扇子をぴしゃりと空いているほうの手に打ちつけ、まくらを滔々と語り始めた。



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