欲望(Long for〜)


 手の届かないものほど、恋焦がれてしまう。そういうのは誰しも感じたことが一度はあるのではないか。

 アイドルや歌手など、テレビ越しにしか知らない相手を、決して出会うことなどないとわかりながら推すのは、安心安全に恋を楽しめるひとつの方法だ。なまじ、手が届いたりなんてしないから。

 けれど。

 例えば、血のつながらない弟に恋をした場合はどうか?

 届かなくは、ない。

 子供の頃から、歳が離れてることもあって可愛がってきたし、懐いてもいる。私が手を伸ばしさえすれば、喜んで飛び込んできそうな気すらする。

 だが弟はあくまで弟で、しかも私は切望しているくせ、そうなることを本当には望んでいない。いや、それは嘘だ。私にだって肉の快楽はある。弟が獣のような欲望を向けてくれるだけなら、喜んで受け入れ、抱きしめ、むさぼることすらできただろう。

 けれど。

 私は弟と男女の関係になりたいわけではなく、それどころかいつまでも自慢の姉でいたいのだ。いつまでも弟には弟でいてほしいし、私は姉でいたいのだ。

 母を傷つけるとか義父を悩ませるとか、そんなことはどうでもよく、ただ単に、これは私の求めるもののメリットとデメリットの問題にすぎない。

 ああ。

 早く弟が大人になってくれないものか。大人になってしまえば、私はきっと。

「ただいま」

 ドアが勢いよく開き、学校帰りの弟がバタバタと廊下を走る。ダイニングに来て、のんびりとお茶をする私の姿を見つけ、目をきらきらと輝かせた。

「姉ちゃん、帰ってたの!」

 私は立ち上がり、胸に飛び込んでくる弟を受け止める。随分と背が伸びて、あと数年もすればきっと私の背を超えるだろう。

 そうすれば、もう弟は——


 私の好みから、外れるのに。

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