ヤケクソ(VVV)


 あいつは犠牲になったのだ、と言われたがところがどっこい俺は草葉の陰に隠れて、残されたおまえらを見ている。

 インベーダーの襲撃は激しく、光線によって男も女も子供も塵となり、建物はえぐれ、倒壊し、そこらじゅうで肉の焼ける旨そうな匂いがしていて吐き気がする。

 たかだか十人程度の命を、囮になって一時守ったところで、ほんのわずかの時間の引き伸ばしに過ぎなかった。自己満足にもほどがある。二陣三陣どころか波状に奴等はわらわらとやってきて、トーチカの陰に隠れたところで何も防げないだろう。藁をつかんでいるだけだ。

 俺はもう手も足も出ないから、ただただ見ていることしかできない。勇者とか新型兵器とかが現れて、インベーダーを一掃してくれるといった奇跡でも起きない限り、もう誰も生き残らない。

 誰かの放った対空砲の一撃がインベーダーへ命中し、きらきらときれいな火花を散らしはしたものの、ただそれだけだ。ダメージはほとんどない。

 もう終わりだ、と思ったところで突然妖精のような見た目と大きさの、淫らな格好をした女が宙空へ現れ、俺へと告げた。

「ニンゲン ヤメマスカ?」

「もう辞めてるというか、死んでるんだが……」

「ニンゲン ヤメマスカ?」

 辞めたらどうなるのか、辞めることがそもそもできるのか、さっぱりわからないまま、俺は頷いた。

 Vが光る。

 VはバーサスのV

 VはヴァンパイアのV

 そして、VはビクトリーのV

 とっくに人間を解脱していた俺はみっつのVを抱いて、インベーダーへと立ち向かった。


 最新兵器でも歯が立たなかったインベーダーを俺は生身で数体も撃破した。気持ちよかった。だが、見える範囲だけでも数十体以上いるインベーダーに、やがて俺は消滅させられるだろう。結局、これすらたいした引き伸ばしにもならなかった。


 そうして人類は滅んだ。


 誰だよV V Vになれば一発逆転あるとかいった奴は。焼石に水じゃねえか!

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