岬へ(お題:岬)


 岬は、この世とあの世の境界だという。

 だから岬に赴く者は、しっかりとこの世への想いを掴んでおく必要があるのだ。

 うっかりと、あるいは彷徨うように岬に赴いた者は、そのまま向こうへと持っていかれてしまう。

 その岬は、特に境界があやふやで、強い意志を持って訪れたとしても、向こう側へ引かれてしまう、という話だった。

 私がそこへ行く決意をしたのは、決して世を儚んだからではない。向こう側にいるはずの、ある人物に用があったからだった。

 普段はしないようなおめかしをし、髪もきちんと整え、その岬へと向かった。頬に唇に紅をさしたのはどれぐらいぶりだろう。

 会えるという確信はなかった。

 向こうでも会いたいという強い想いがなければ、いや想いだけがあったとしても時機よく会えるとは限らない。

 それでも私は確信を持って岬へ向かった。

 岬には、娘がいた。

 麦わら帽子と涼しげな色のワンピースを着て、満ち足りたような表情で岬に立っていた。

 それだけで満足だった。

 娘は元気にしている。朗らかに笑っている。手に持つ花を手向に海へとほうり、やってきた若い男性へと振り返る。

 ああ、よかった。

 私がいなくても娘はこんなに大きく育ち、そして寄り添う相手を見つけたのだ。

 そう思った瞬間、私は向こう側に引かれてしまった。この世からあの世へと。

 意識が薄れていく。

 最後に目にしたのは、男が優しく娘の腹に手を添え、柔和な笑みで受け止められ、そのふたつがおそらく向こうの私に向けられるという予感へとつながり、ついに私は霧散した。

 幸せな消滅


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