蛇足のXYZ
XXの悲劇(X chromosome)
(前回のあらすじ:失踪していた地下アイドルの薬丸シロ子の遺体が川からあがった。同グループに所属する田原トモ世へ「W90に死す」というメッセージを残して。シロ子の彼氏であったセラ
明け方近くの、突然の心不全だという。心不全とは、つまり原因不明というに等しい。
確かに易子は、健康とは程遠そうな体型をしていた。先日亡くなった薬丸シロ子と似たような体型で、マトリョーシカの外と内(小柄な易子が内)といった風情があった。だが、一方で体力バカでもあり、急死するような不健康さはなかったはずだった。
「きっとシロ子の呪いよ……」
楽屋で押し黙っていた田原トモ世がぼそっと呟いた。そろそろ大学の後期も始まろうとする頃で、『残暑をふっとばせ! 夏の地下祭り!』というイベント会場の楽屋に、ふたりと親しかった地下アイドルグループ「ヘキモリモリ」の四人は揃っていた。いや、現存するメンバーの四人は、というべきか。
失踪後、水死体として発見された薬丸シロ子は、ローカルではあるものの最近一気に有名になったヘキモリモリの筆頭株だった。
「シロ子の呪いってさあ」
呆れたような声を出したのは、リーダーのたすぎ薫だった。メンバーでは脇と脚を担当している。長すぎる美脚をその道の姐さんのように床に叩きつけ、睨むようにしてトモ世を見た。羽織っただけの白衣から覗くガーターベルトと編みタイツには、長さもあいまって相応の迫力があった。
「そもそも自殺ってことで決着ついたんじゃなかったのかい? 大体、あいつは恨まれるようなタイプではあっても、恨むようなタイプじゃなかったよ」
「恨むなら、易子……あたいもそう思う……」
暗くて聞き取りづらい声で言ったのは、地雷担当の荻K子だった。てんでバラバラなチーム衣装のヘキモリモリだったが、ゴスロリ衣装におどろおどろしいメイクのK子は、中でも異彩を放っていた。
「でも」とトモ世。「易子は、これからシロ子の保険金だって入ったはずだし、シロ子の元彼の
「ユーレイの仕業ってこと?」自分こそ幽霊みたいなガリガリの肢体をビキニと法被で覆い隠したナベコノリが表情のつかめない顔で言う。「ミレンはあったかもしれないけど、でもねえ……」
出番ですよ、というスタッフの声がして、四人は話を打ち切った。めいめい気合を入れるジェスチャーをして、舞台袖へと向かっていく。きっと待つ人は多くないだろう。喫煙だ休憩だと会場をハケているかもしれない。知名度が上がったのは、あくまで亡くなった薬丸シロ子のお陰で、人気に火がつく前に花火は散った。
暦の上では夏はとっくに終わり、けれどまだまだ暑い九月の上旬のことだった。
*
ナベコノリは自室の寝室の隅にうずくまり、ガタガタと震えていた。寒くてたまらず、厚手のスウェットにダウンジャケットを着込んだ格好で、膝を抱えて坐っていた。
全部屋の照明は点いている。点いているが、どこか薄暗い。居間の大型テレビは大音量でどこぞのバンドのライブ映像を流していた。もしこの部屋の壁が薄かったら、きっと壁を叩かれるなり、ドアチャイムを連打されるなりしていたかもしれない。
チカッチカッと部屋の照明が一斉に明滅して、コノリは小さく悲鳴を上げた。帰宅してからかれこれ二時間以上も経つというのに、全然慣れない。明度が最大限下がった瞬間、人ならぬものの影法師が右に左に上にと現れ、ないはずの目に射抜かれるようなピリピリとした視線を感じるからだ。
最初に異変を感じたのは、玄関のドアを開けたときだった。ムッとする外気と冷気が入り乱れた空気の流れを感じ、コノリは怪訝な顔をした。エアコンを消し忘れたのだろうか、と思った。そんなシロ子のようなドジ、私がするはずないのに——。
部屋に入ってしまえば、湿度にさらされた体に部屋の冷気は心地好く、ハンドバッグだけ椅子の背にかけ、テレビの電源を入れると、冷蔵庫から缶ビールを取り出した。
口をつけた瞬間、部屋の照明がチカッチカッと明滅し、コノリは首をかしげた。
テレビは変わらぬ平穏な様子でバラエティ番組を映し出している。
——どこかで雷でも鳴ってるのかしら?
子供の頃、田舎ではよく雷雨が来ると停電になったものだ。こちらに越してきてからは、停電自体は何度かあったか、照明がこうなったことはなかった。
なんだか懐かしいな、と思った瞬間、テレビの電源が落ち、暗くなった画面にうすぼんやりとした自分と、その横に張りつくようにして立つ黒いのっぺらぼうが立っていた。
ヒッ、と悲鳴を上げた途端今度は照明がまたたき、先程黒いのっぺらぼうがいたと思われる方向に顔を向けてしまっていたコノリは、背後に気配を感じた。
何かがいる。
だが、見れない。
確認したくない。
照明が元に戻るやいなや、テレビは何事もなかったかのように放送を再開し、エアコンも入っていないというのにやたらと寒い。いつのまにか吐く息まで幽かに白く、缶ビールはまったく汗をかいていなかった。
「さ、寒い……」
この部屋にいてはダメだ、と思い、コノリはバッグを再び肩にかけると部屋を出ようとした。
ねちゃり、とまるでゴキブリやネズミを捕るための粘着シートのような重さを足に感じたが、気にしないことにして足早に玄関へと向かう。途端に、
ドンドンドン!
とドアを叩く音がして、その音の向こうに隠れた凶暴性を感じ取ると足が竦んだ。
何かが外にいる。
部屋にいたらいけない。凍え死ぬ……けれども外へも出られない。
ハッとして振り向く。
ベランダから外へ——この部屋は三階だ。落ちる姿勢さえ気をつければ怪我ぐらいで——
開けた記憶も、閉め忘れた記憶もない窓を覆い隠すレースのカーテンがひらひらと揺れている。さっきまでは、カーテンのことなど気にも留めていなかったのに。
ドンドンドン!
背後からドアを叩く音。
揺れるカーテン。
また明滅する照明。
右側の首筋の毛が逆立ったような気がした。チリチリとした、気配だけの存在。
動けない。
足はすっかり床に貼りついている。
嗚咽が漏れ、泣いたところで状況が変わるわけでもない。
ドンドンドン!
やっと足が動き、コノリは居間を抜け、寝室へと入った。
そこに得体の知れない化物でもいたなら、きっと失神できただろう。だが、寝室は不思議と静かで、ドアを閉めてしまえば不思議に揺れるカーテンも見えない。
いや、窓を確認して、空いているなら閉めるべきだったかもしれない。気配ではない何かが、あそこからやってくる可能性も……。
泣きながらコノリはクローゼットを開け、スウェットとダウンジャケットを取り出し、帰り支度の上から無理やり穿き、羽織った。
ベッドに寝転がることもできず、部屋の隅、窓には背を向ける位置に坐り込み、そうしてそこから動けなくなったのだった。
居間から、誰かが這いずるような音がする。止んで、代わりにテレビの音が大きくなる。かつて耳にしたこともないような大音量だった。涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら泣き始めたのは、テレビの音に紛れてなら泣けると思えたからか。コツン、と何かがすぐ近くの窓に当たった音が聞こえ、ヒッと声を上げ、あわててコノリは手で口を塞いだ。異質な音は、存外よく響く。
しゃっくりを無理に抑え、わなわなと体を震わせながら、もう何も見たくないとばかりにコノリは膝に顔を埋めた。
何もせずとも、そのうち寒さで凍えるに違いない。それは、比較的マシな死に方のように思えた。
*
お笑い研究会の部室へとやってきた田原トモ世は、中に誰もいないことに落胆した。長期休暇中も、いつも誰かしらはいる部室だ。
いや、必ずいたのは易子だけで、つまり易子がいなくなったいまとなっては、これが当たり前の光景なのかもしれない。
中にはテレビやBDプレーヤー、それからミニファミコンやよくわからないゲーム機、それからお笑いのソフトなどがたくさんあるのに、誰も鍵をかけない。
盗ろうとすると呪われる、というのは誰かが魔除け代わりに吹聴した単なる噂なのかもしれないが、学生皆が信じるだけの、何か理由があったような気もする。
トモ世は廃材利用のベンチに腰かけ、するともなしにリモコンでテレビを点けた。
息せき切って部室へ駆け込んできたのは、たすぎ薫だった。
「あれ、ミーティングって今日——」
「なに呑気なこといってんだよ! コノリ、死んだぞ!」
トモ世は、一瞬目を丸くしたあと、にへら、と笑った。
「そんな冗談、笑えないよ」
「冗談じゃねーよ、マジだよ、マジ。自室で、原因不明の心臓発作だかなんだか」
「え、嘘でしょ——」
薫が部屋の大部分を占めるテーブルへ、腰を載せた。積み上がっていたソフトがざらっと崩れ落ちる。
「呪われてんだよ、あたしたちは。次はあたしか、あんたか……それかK子かも」
「なんの呪いだってのよ」
笑いながら言ったつもりが、トモ世の口角は引き攣っている。ヘキモリモリのメンバーがすでに二人死に、関わりの深い易子も死んでいる。発端となったシロ子の呪いなのだろうか……?
けれど、なぜ?
あれは不幸な事故ではなかったのか?
部室にいれば、マン・フレッド飛鳥に問いただしたいところだ。あの事件を、シロ子が亡くなった事件を、本気で事故だと考えたのか、それとも場を宥めるべく嘘をついただけなのか。
だが合宿に、どこぞの山寺へ行ったとかで、お笑いコンビ・マンドリルの二人の姿はここ数日見ていない。そういえば渦中の人であるはずの、セラ公威の姿も。
「なあ」という薫の声にトモ世は現実に引き戻された。「ここって、なんか祓い屋みたいのがいるって話なかったか?」
「ここって、大学に?」
「聞いたことないか、祓い屋みたいのがいて、学食のチケットで引き受けてくれるとかなんとか」
「……そんな噂聞いたことないし、いたとしても学食のチケットでなんて……それより、昔コラボしたYouTuberの——」
「なんか神通力授かったとかいう触れ込みのあいつだろ、なんだっけ、HARAUだっけ? あんなポンコツ、役に立つわけねーだろうが、あれだったらよっぽど」
薫が黙った。
何を言いたいのか、トモ世には見当がついていた。
シロ子だ。
シロ子のほうがよっぽど霊感があったし、対処だってできそうだ。以前、事故物件に住んでどんどん生気が失われていった学生を、何やら助けたこともあったはずだ。
青い顔をして、薫がトモ世を見た。見返す自分の顔も似たようなものだろう、とトモ世は思った。
そのシロ子を殺したかもしれない何かが、自分達を狙っているという考えは、余計に恐怖を煽るだけだった。
「そういえばK子は無事なのか?」
「え、Kちゃんなら朝連絡をとったけど」
「……いや無事ならそれで」
その日の深夜、荻K子が自宅の風呂で溺死した、という一報がトモ世の元に入った。
*
とにかく二人で寄り添って、よくわからない呪いだか何かだかに対抗しよう、という田原トモ世の意見は却下された。たすぎ薫は、自分でなんとかすると言って、トモ世の手を振り払った。
もうトモ世にできることはない。
頼みの綱の飛鳥にも、おそらくキーマンであるはずの公威にも連絡は取れず、できるのはただ部屋に閉じこもることだけだった。
トモ世も馬鹿ではない。
亡くなったメンバーが自室で謎の変死を遂げたということはわかっている。部屋に閉じこもるのが最良とは思っていない。
部屋に篭ったところで、何か不可思議な力が襲いかかる可能性は充分ある。
だが、だからといってどこに行けばいいというのか?
おそらく薫は、部屋ではないどこかで、いざという時助けになってくれそうな男の元へでも逃げ込んでるに違いない。
これが単なる
自室でシャワーを浴び、缶ビールを開け、お気に入りのアイドルのMVを観ながら、トモ世は半ばなるようになれ、という気持になっていた。
抗ったところで、いや抗う術がない現状、勝手に恐怖で自滅するよりは、淡々と、日々の生活を送ったほうがなんぼかマシだと、……開き直ったわけではないが考えたのだった。
それが功を奏したりはしない。
人の思惑など関係なく、トモ世のもとへも、怪異は迫っていた。屈託なくくつろいだような
まずは気配から。
鼻歌を歌いながら推しのいるグループのMVを観ていたトモ世は、ふっと気配を感じて振り返る。ほとんど反射的な行動だ。
背後に人などいるはずもないし、いたら困る。
トモ世は首を傾げ、またテレビへと向き直る。——自分はいま過敏になってるだけなのだ、と自分に言い聞かせながら。
急にシンクへと落ちる水滴の音が気になり始める。きちんと閉めたはずなのに、なぜ水滴が——。
立ち上がったとき、怖気を感じてトモ世は天井を見た。
そこには何もいない。いるはずがない。
シトッ、シトッ、と水滴の音。
不意に足元を掠めて、何かがカサカサと音を立てながら通り過ぎたように感じ、トモ世は小さく声をあげた。
飛び退くが、床には何もない。
窓をバンバンと叩く音。
シトッ、シトッ。
カサカサ。
気配と音の奔流にトモ世は膝が震えるのを感じた。足に力が入らない。
そして、いま。
視られている、というこれまでにないほどの強い気配を天井から感じ、けれども顔を上げることはできなかった。
そこに何かがいるのは見るまでもないことに思えたし、もしそれと目が合えば、きっと自分の魂は抜けてしまうだろうと、本能で強く感じていた。
脛を擦るように何かが駆け抜け、ひたっひたっと素足で歩くような音が近づいてくる。そのままへたりこみそうになるのを堪えながら、ずっと感じる天井からの視線をとにかく無視することしかトモ世にはできなかった。
どうやって一晩、正気を保ったのかトモ世にすらわからなかった。気配、音、感触、匂い、それらがどれだけトモ世を、この世にしがみつく力を、ひっぺがそうとしてきたことか。
何順目になるかわからないMVが、変わらぬ愛らしい笑顔と肢体を惜しげもなく晒す動画を、もはやトモ世は見ていない。ただ、愛らしくもピッチなどという概念を持たない歌声だけが脳に届き、そこに重なるようにして朝を謳歌する小鳥の囀りが。
「朝か……」
呟くその声は、ガサつき、トモ世は咳き込んだ。それからおもむろに立ち上がり、窓越しの世界を眺める。
明るさに満ちた、普段と変わらぬ朝がそこにはあった。
深々と深呼吸をし、トモ世はテーブルに載るスマホだけをつかんで玄関へ向かった。
サンダルを履いて、部屋を出る。
エレベータが来るのを待ち、乗ってエントランスへ。
いつもと変わらない、なんでもない早朝の空気の匂いと、先日までとは色味の変わった空の色。秋の気配を感じる。
外に出たトモ世は、ようやく生き返ったような気がした。
そこへ、ありえない速度で走るバイクが、瞬時に距離を詰め、その気配すら感じていなかったトモ世の体を空へ跳ね飛ばした——
——かに見えた。
が、激しいブレーキ音がしてアスファルトを擦りながら滑るバイクと乗り手をよそ目に、何が起きたのかもわからないまま、トモ世は若い男へ抱えられていた。
「あ、え……あなたは……?」
「あー、名乗るほどの者じゃないというか、通りすがりの陰陽師だ」
同世代に思える男は、自分の口にした言葉が可笑しくて仕方ないというように唇をひくひくとさせていた。
それに釣られて、トモ世はふふっと声に出して笑った。
「あんた腹減ってないか? 俺はもうぺこぺこだよ」
トモ世を下ろすと、男は派手にコケたバイクの方へ向かい、ライダーへと手を貸していた。
近所のファーストフード店に誘われて、素直についてきたのは何故だったのか。事故から助けてくれたからか、どこか浮世離れした感じに危機感を覚えなかったからか。
トモ世は、アイスティを飲んでようやく人心地がついた思いだった。
「えと、……あなたは?」
「ああ、俺? え、べつに俺の名前とかどうでもよくない? いや、よくなくはないか。こういうところが良くないところだな。反省。あー、ハルアキ。ハルアキでもハルでも好きに呼んでくれ」
「あ、じゃあ、ハルさん」
居住まいを正して、トモ世は頭を下げた。
「先程は助けていただいて、ありがとうございます」
「いや、助けたというかなんというか……まあ、ともかく何事もなかったようでよかったよ、田原さん」
トモ世の坐る椅子がガタッと鳴った。ほんの数瞬前の打ち解けた雰囲気は強張り、トモ世の腕は顔の前に伸びていた。
目を丸くしたハルアキと名乗った男は、すぐに爆笑した。
ひとしきり笑ったあと、腹イテェと呟きながらストローを口に加えるハルアキへ、ようやくトモ世は訊くことができた。
「……もしかして最初から私の名前知ってました?」
「知ってたというか、昨日からずっとあんたのこと見張ってたからな。通りすがりといったな、ありゃ嘘だ」
「見張って……?」
「ああ、ダチに頼まれてさ。今晩あたりヤバそうだから、頼むから見ててやってくれって」
「……もしかして飛鳥さんですか?」
「そんな名前だったか、あいつ……?」
「ま、根本の問題はあいつらがなんとかするだろうし、おそらくあんたのほうも、もうおかしな現象とかは起きないと思う。えーと、なんだっけ? あれ? えー、……ま、いいや。あんたのグループはおしまいだろうけど、他にもやりようはあるだろうし、頑張ってくださいな」
席を立とうとしたハルアキを、トモ世は引き留めた。
「ちょっと全然わからないんだけど! 結局、どういうこと? あなたは誰で、誰に頼まれて、何しに来たの?」
「俺はさっきもいったがいわゆる陰陽師で、後輩に頼まれてあんたの無事を見届けにきた。……満足?」
「満足ではないけど、まあ。それ以上言う気がないなら仕方ないか。……えっと、ありがと。これで終わった、ってことでいいの、かな?」
ハルアキは、んーと顎に手を添えたまま、一秒ほど思いを巡らすような顔をし、
「ま、大丈夫なんじゃないの? どうしても心配なことがあったら、後輩にでもいって声かけてくれれば手助けぐらいはするさ。ま、学食のチケット次第ってとこかな」
ブーブーという振動音が鳴って、ハルアキはポケットから取り出したスマホを耳に当て、何度か頷いた。それから、トモ世の顔をまっすぐに見ながら、
「あんたのグループの、えーとなんだっけ? カオルちゃん? 命に別状はないそうだ、よかったな。いやあ、しかし凄い女もいるもんだな。ヤケになって男四、五人引き連れて草と酒の大乱行スマッシュブラザーズだったとか。結果的に、それで助かってるんだから、素人は恐ろしいねえ。そんな散らし方があるなんて目から鱗だ」
「え、薫も無事なんですか? ……というかヤバかったんですか? やっぱり呪いだったんですか?」
「むしろヤバかったのはあっちのほうだよ。俺の見立てじゃ、今頃お陀仏だ。あんたのほうは……自分で乗り越えてたじゃないか。本当にヤバそうなら窓蹴破ってもよかったけども。……呪いってのとはちと違うかな? いや、発端は確かに呪いだったのかもな。あー、……俺が勝手な見解述べるのもな。まあ数日もすればあいつらも戻ってくるだろうし、その時にでもあれこれ問いただせばいいさ。じゃあ、ほんとにもう俺は帰る、いや、せっかくだ、例のダイイングメッセージだかなんだか見せてもらえないか?」
「え、ダイイングメッセージ? あ、シロ子の最後のメッセージのことですか?」
トモ世は自らのスマホを操作し、それからハルアキの方へ向けて手渡す。
「W90人死す、ねえ。やっぱ物騒だな。まあ学外含めても10パーセントほどで済んで、御の字ってところかな」
「え、90人って……」
「
手を振って去った男のほうを呆然と見ながら、トモ世は小さく頭を振った。
おまけに男は伝票を置いていった。
夏の終わりのディゾナンス スロ男 @SSSS_Slotman
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