Aから始まる23

エイリ誘拐(abduction)


 宇宙人に誘拐されるというのは、UFO話のかなり初期からあった話で、おそらくいまでもホットな話題なのだろう。宇宙人エイリアンといえば誘拐アブダクションといってもいいぐらいに。

 だから僕が最初にそのグレイな奴を見た時にまっさきに誘拐を疑ったとしても、これは仕方のないことだと思う。

 宵闇の中、明らかに異質な全身グレイの何者かが、小さい緑色の子供を抱えている。人気のない森のとば口。

「手を挙げろ! その子を離せ!」

 僕は銃をグレイの奴に向けた。もちろん脅しだ。奴の抱える子供に万が一でもケガをさせるわけにはいかない。

『イヤダ、ハナサナイ! オマエハナンダ!』

「私はMIBだ。殺宙コロシ許可証ライセンスを持っているぞ」

『カンケンオーボー! ウッタエテヤル!』

 銃を気にせず、奴は空いている方の手を上げた。僕は撃つべきかためらった。にわかに周囲が明るくなる。ざわめく木、舞いあがる砂埃。見るまでもない、すぐ上に宇宙船が来ている。

 僕はあきらめた。

 間違って子供にケガをさせるよりは、素直に連れ去られてしまったほうが安全だろう。今時の営利誘拐には、保険も効く。

 捕獲光線トラクタービームに浮き上がったグレイは僕を見下ろしながら、まだ怒っているように見えた。

 抱えられた子供は、楽しげにこちらに手を振っていた。子供とはいつでも無邪気なものだ。僕も手を振りかえした。

 振りかえしながら気づいた。

(あれ、あの子も宇宙人じゃね……?)

 彼らの姿が消え、周囲は暗くなり、宙に浮いた光はZの字を描いて消えた。

 宇宙人同士のいざこざについてはMIBの介入する余地がない。

 冷汗が出たが、しかし他種族の子供を連れ回してるとすれば奴にも負い目があったのかもしれない。

 無邪気な、緑色の中で光る、赤い目。

 木株こかぶに腰かけ、煙草を吹かす。

 頭を抱えた。

 ああ、訴えられませんように! あれは地球に遊びに来た義理の親子ステップファミリーだ……!

 寛大なる里親の、寛大さが僕にも向けられますように。エイメン。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る