性別(Sex)


 性別の欄に「SEX」と書いてあったので正直に「週二回」と書いた、なんていう笑い話が昔にはあったらしい。いまでは性自認がどうのとうるさく、性別の欄が消えたり、アプリの登録でも「答えたくない」が選択できたり、なんというか色々と小うるさい。


 などと俺が思っているなんて周りの連中はきっと考えたこともないだろう。


 俺の体はほとんど男で、しかも筋トレが趣味だからかなり隆々としている。タッパもある。睾丸はなく、代わりに浅いヴァギナと機能しているかどうかすら不明の卵巣もあるらしい。それからペニスがある。


 普通、こういう場合、ペニスは機能したりはしないらしいが、俺のは自分でいうのもなんだが男らしい。クラスの奴と見比べても見劣りしないだろうと思う。

 もっとも勃起時の他人のペニスなんて、一人しか見たことがないが。射精はするが、そこに精子は含まれておらず、つまり俺は妊娠させることもすることもないだろう、ということだった。


 体を動かすのは好きだが競技スポーツは好きではない。もし俺に才能があってオリンピックを目指していたとしたら、色々と面倒なことになっていただろう、と思う。


 そんなことをつらつら考えたのも、遅ればせながらオリンピックのとある女性選手の記事を読んだからだった。


「待った?」


 制服の短いスカートをひらひらさせながらやってきたリクに俺はかぶりを振る。待ったというほどの時間ではない。


 俺の肘に捕まるようにして抱きついてきたリクが可愛いので、思わずつむじの匂いを嗅いでしまう。


「ちょ、やだあ」


「いい匂いだよ、あいかわらず」


 匂いの好悪こうおは遺伝子レベルの問題だというが本当だろうか。いい匂いのする相手から、臭いと嫌われる、なんてこともあるはずで、ずいぶん胡散臭い話に思える。


「どうする、映画でも観に行く?」


「俺は……」映画でもよかったのだが。素直な自分の欲求に従うことにした。「いますぐリクとやりたいな」


「えぇ〜」


 頬を膨らますが、怒っているというより、映画が本当に観たかったのだろう。


「夜の映画も悪くないよ、安いし」


「そういうところ、……嫌いじゃないけどね」


 まだまだ先だというのに、リクの将来を見据えたようなところは、俺も嫌いじゃない。ただ子供は——子供についてはどうなのだろうか。


「なんかちょっとくらい目になった」


 上目遣いで唇をとがらせたリクに、俺はキスをして誤魔化した。


 リクは、その気になれば、相手さえきちんと選べるならば、子供は作れるだろう。いまはまだ若いから、先送りにだってできる。けれど、数年後はどうなのだろうか。


 繁華街を歩いて、細い路地裏へと向かう。安いが、不便はないホテルが少し上がった先にある。客が制服姿だろうと気にしない、大らかさも好ましい。


 突風が吹き、リクのスカートが派手にめくれあがる。艶かしい脚の付け根、JK御用達の黒パンの下で、期待に膨らんだリクのペニスを、俺は愛おしく思った。

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