交配のアクアリウム(お題:アクアリウム)


 球形である必然性はおそらくなかったはずで、つまりこれはオーナーの趣味なのだろう。5t越えの水槽の中に、優雅に泳ぐ女二人に、男が一人。

 方形の水槽と違い、どうやって彼等を入れ、どうやって飼っているのかがさっぱりわからない。

「なかなか美形でしょ」

 若く見えるがおそらく五十は超えているはずのオーナーは、目をキラキラさせながらアクアリウムから目を逸らさない。

 薄暗がりの中、アクアリウムからの照り返しを受け、濡れたように見える目が色っぽい。だが、こんな人あらざる行いを成す人物に欲情したなどと、たとえ冗談だったとしても、口にすれば戒告ものだろう。

「おそらくあっちの子」

 小声でいったのは、距離を考えてのことか。我知らずのうちに彼女へと距離を詰めてしまっていたらしい。

「近いうちにはらむわ。きっと美しい子が生まれるわ」

「は、はあ……」

 自分の役どころを忘れたわけではないが、間の抜けた庶民の声が出てしまい、けれど妖艶に喉を鳴らしてわらう彼女に見惚れたまま、何をしていいかもわからない。

「あなたになら、わけてあげてもいいわよ、子を……」

「あ。ああ、ええ、是非……」

 自分の無意識以上に距離が近く、香水ではない、女の発情した匂いを感じて唾を呑んだ。

「それとも……」

 胸の中に飛び込んできたような距離感で、大罪人の人非人にんぴにんの女オーナーが囁く。

「あなたが、あの中に入ってみる……?」

「え」

「もうひとつ作るつもりなの、アクアリウム。そこには私のクローンが入る予定。まったくの合法よ。私、あなたとの間の子、見てみたいわ、刑事さん……」

 球形のアクアリウムの中は、まるで天国のように穏やかで、住まう三人も天使のように神々こうごうしく満たされている。

 が、俺は彼女の腕を取り、手錠をかけた。

「あんたの似姿じゃなく、あんたとやれるんなら考えないでもなかったが」

 BCインカムが騒がしくなる。もうじき仲間が大量にここに押し寄せる。

「すまんね、オーナー。俺はおはD熟女専なんだ、出所する頃にまた会おう」

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