夏の自由研究(お題:琥珀糖)
シャミちゃんちにおよばれして、わたしと妹はちょっときんちょうしていた。大きい家、広い部屋、すてきな家具やランプ。シャミちゃんのお部屋は、わたしんちよりも広かった。
「カヤちゃんと——」
妹さん、とつづくシャミちゃんの声にかぶさるようにして、フキが自分の名を告げた。
ふふ、と笑ってシャミちゃんはフキの頭を撫でた。「かわいいね、一年生?」
「……三年生です」
部屋のドアが開き、シャミちゃんのママがお茶とお菓子を持ってきた。白いポットに入ったお茶はとてもすてきなにおいがした。ママさんが部屋を出ていくと、えんりょしないで、とシャミちゃんがいった。
フキがわたしを見る。わたしがうなずくと、目をキラキラさせてお菓子に手を伸ばすフキに、なんだか悲しくなった。
かわいらしいガラスのテーブルを挟んですわるシャミちゃんが、お上品にお茶を飲みながら、そういえば、といった。
「カヤちゃんはもう夏休みの宿題終わった?」
「ううん、まだ」
「もう夏休みも終わるのに、だいじょうぶ? カヤちゃんっぽいけど」
「なんとでもなるよ、べつになにしろとも決まってないし。ドリルのほうは全部終わってるし」
「日記は?」
「サボらないで毎日書いてるよ。今日はお誘いいただき、ありがとうございます。悩まずに書ける、助かった。シャミちゃんは?」
「え、日記——じゃなくて自由研究? わたしのは、アレ」
シャミちゃんが顔を向けた先にはステンドグラスっぽい絵が壁にかかっていて、モナリザか何かに見えた。
立ち上がってそばに寄ると、やっぱりそれはモナリザに見えた。すぐ近くに来たシャミちゃんが、ちょっとしたドヤ顔を見せた。
「それ、食べられる、かいが。ウエハースの土台にコハクトウを食べられるのりではって作ったの、どう、すごいでしょ?」
確かにすごかった。ちょっと小学生の作るレベルじゃないんじゃないか。わたしは奥歯をぐっとかんだ。
ママさんが「お夕飯も食べていきなさい」とにこやかにいってくれたけれど、わたしと(みれんまるだしな)フキはおじきをしてシャミちゃんちを出た。
『おかあさんが待ってるといけないので』
けれど母が家で待ってるはずもなく、家のそばのこども食堂へ、今日も頭を下げにいくことになるだろう。
「シャミちゃんち、すごかったね!」
フキが楽しそうなのは、本当によかった。連れてってよかった。置いていくわけにもいかなかったけれど。
わたしはちぎってきたコハクトウのひとつを、フキの手ににぎらせた。
「なに、これ?」
「お菓子だよ、食べないなんてもったいないよね……」
残る一個を口に運んだ。
固くて、あまりおいしくなかった。
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