キは金塊のキ(G is for Gold)

 金はなによりも素晴らしい! まず、その色合い。唯一無二のつややかな色と光沢。それから柔らかく加工しやすく、それでいて安定しているから朽ちることもなければ、飲み込んだところで毒性もない。

 ああ、いままでどれだけの人類が金を得ようとして争いを起こし、隠された金を獲ようとして汗水を流してきたか!

 普遍の価値と換金性の高さから、埋蔵するなら金、隠し持つなら金、夢と希望の具現化されたもの、それが金だ!

 そして俺は、その金を無限に作り出すことができる。錬金術みたいな、ちゃちなものじゃない。何もないところから、俺は金を得ることができるのだ。

 ありえない?

 ふふ、あってほしくないの間違いじゃないのか。出所の明らかでない金が世に広まれば、その価値は下落すると。金なんていくらあったっていい、簡単に価値なんて下がるものか! いや、だが俺はありあまる金を作り出して世界を支配しようなんて思わない。

 貧しくも、可愛いあの娘が、明るい笑顔を浮かべられるだけの金があれば、それで幸せなのだ。

 それに……本当はまったく対価がないわけでもないんだ。金を作るたびに、なんだか少しずつ景色の色が失われていくような、記憶が色褪せていくような、そんなちょっとした疲れが溜まっていくのがわかる。

 彼女が綺麗に着飾った服で、ご馳走を美味しい美味しいと食べてくれることはこのうえない喜びだが、飽きてきたのか俺の舌はそこまで美味しくは感じない。段々、色々なものが色艶を失っていく中、彼女の笑顔と、俺の作り出した金だけが、永遠に変わらないだろうあでやかさと光沢を放ち続ける。

 今晩も、また俺は高級な料理店へ、彼女を誘い出すだろう。見たことも食べたこともないようなものは、もうほとんどなくなってしまったけれども、それでも俺は彼女の喜ぶ姿を見たくて、金を作り出す。

 キ印だろうとなんだろうと好きに呼んでくれ。キは金塊のキ、俺にとってはそれ以外の何物でもない。

 では、俺はそろそろここを出させてもらうよ、ドクター。何、ほんの立ちくらみだ、心配してくれてありがとう。…………。

 ドクターにもささやかながら、この金を差し上げよう。いやいや、遠慮はいらない。どうせ何もないところからり出した、単なる金だ。



参考文献:「黄金の脳を持つ男」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る