ライトカラカゼ 〜とある夏の、けいけん〜(お題:雷雨)

「ライトカラッカゼかなあ?」

「シノブケノクニってどうよ」

 などとかなりだらけきった格好でしゃべっていた二人の前に、差し入れのレジ袋を置きながら、

「なんの話よ?」

 僕が訊くと、ユーイチのほうがレジ袋をごそごそといじりつつ、

「競走馬につけるなら、どんな名前かなって。お。31サーティワンじゃん。不二家でもいってきた?」

「デイリー。え、競走馬ならライトカラカゼってのはもういたぞ」

「さすが競馬データベース」

 笑いながらケータがユーイチから受け取ったアイスを食べはじめた。

 部室にはクーラーがない。OBから譲り受けた扇風機がカラカラと回っているだけだ。温い空気がかき混ざったところで、たかがしれてる。

 僕も座って、余った抹茶きなこ黒蜜を食べ始める。ユーイチめ。なぜ鯉のようになんでも食べるケータに、ポッピングシャワーを渡した。

「にしても、よくそんなマイナー馬知ってたな。おまえら日曜メインぐらいしかやらないくせに」

「いやね、ケータが『これ上毛かるたじゃね?』って言い出して」

「上毛かるたから他に競走馬の名前つけるなら、どんなんがいいかなって」

 僕はぽかんとした。

「え、なにジョーモーカルタって?」

「ええっ」テーブルにユーイチが手をついて、ガタッと鳴った。「おまえ、上毛かるた知らんの⁉︎ 群馬にいるくせに!」

「おいおい」とケータ。「タケシは通いだから。横浜から」

「だべなあ、いつもスカしてんもんなあ。おお、やだやだ」

「グンマーとかってバカにしてんべ、ハマのシチーボーイさんはよぉ。やってらんねえべ。上毛かるたってのがあるんだよ、群馬にはさ。テレビでも何回かとりあげられたことあるぞ」

「急に訛るなよ……。あ、これか。上毛かるた、ねえ。『らいとからっ風 義理人情』。あ、ココロノトウダイもそうなのか。勉強になる。あれ?」

「なに?」

「オーナー、新潟出身だってさ。なんで上毛かるた……」

「そういえば」とユーイチ。「レッドミラージュって馬がいてさ」

「いるね」

「マジ⁉︎」

「よもや、と思って調べたらミッションルースとかマキシとかいるの」

 それが何、と言おうとした僕をさえぎって、ケータがすげえじゃん、とバンバン机を叩く。うるさい。

「なにがすげーの?」

「ご存じ、ないのですか⁉︎」

 なんか小芝居が入って、こういうときのユーイチは、まあうざい。

「それこそ、ファイブスターストーリーズのキャラクターばかりを馬名にする雅也ちゃんです!」

「ちゃんって……」

「え、知らねーの? これだからシチーボーイは」

 ケータのダル絡みも、うざい。

「あ、シチーっていえば冠名かんむりめいに使ってたとこあったな。タップダンスシチーとか」

「へえ、流石競馬DBデータベース

「あー、腹減ってきた! おい、データベース、美味しいラーメン屋はどこだ!」

「ラーメンデータベースじゃないわ、味音痴のくせして! 雑なんだよ色々!」

「ラーメン飽きたあ! 久々にペーパームーンでも行こうぜ、ハンバーグ食べたい!」

「肉食うならにしようよ、。車でさ」

「おー、シチーボーイが車出してくれるってよ、持つべきは友だな友」

「電車通学なのに車なんかあるかボケ! おまえが出すんだよ! 教員用に無断で停めてるの知ってるからな!」

 ワイワイやりながら棟を出ると、雷鳴。

「雨来るだろ、これ」

 というと、ケータが

「雷注意報出てたけど大丈夫だろ……たぶん」

「キャッ!」

 ユーイチの悲鳴。「降ってきた降ってきた走れ走れ!」

「雷注意報じゃねーのかよ、雷雨じゃねーか!」

「どうでもいいから早く走れってーの! 雷雨注意報なんて存在しねーんだよ、なんでも雑なんだから!」

「雷とからっ風じゃねえなんて、義理も人情もねえな!」

 騒ぎながら車に乗り込む、我々競馬研究会の面々。とある夏の、けいけん、という一幕。どっとはらい。

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