第36話 十兵衛、港町を満喫する(※性的描写あり)

・・・動けぬ。


目を覚ましたら、体中が雁字搦めじゃ。


顔を動かすと、窓から星空が見える。


・・・ふむ、もう夜か。


少し楽しみ過ぎたのう。


窓からこちらを覗き込む精霊どもを手で追い払いながら、わしは息を吸い込んだ。


濃い、淫靡な匂いがする。




「んふ~・・・♡」




先程戦っておった時とはまるで別人のように表情を緩め、ウルリカがわしにしがみついておる。


その豊満な体から伝わってくる、暖かな熱が心地良い。


色々した後、寝てしまったようじゃな。




「・・・おうい、シャワーでも浴びぬか?」




心地良いが、いささか汗をかきすぎた。


寝具も何でとは言わぬが濡れておるし、一旦仕切り直しといきたい。




「ん~・・・んぅ?」




わしの胸にぐりぐりと顔を押し付け、ようやっとウルリカは目を覚ましたようじゃ。


その目に少しずつ理性の光が戻って来るように感じる。




「お目覚めかのう、お嬢さん」




「・・・ぁは、んんん~♡」




寝ぼけ眼のウルリカは、いきなりわしに濃厚な口付けをかましてくる。


こら、舌を入れるな舌を。




「んはぁ・・・♡・・・あ、え?」




しばらく堪能しておったら、ウルリカが顔を離す。


お互いの口から、涎が糸を引く。


そこまでやって、とうとう完全に覚醒したようじゃな。




「起き抜けにまた、随分と積極的じゃなあ」




「う、うわ!?~~~~~~~っ!?!?!?」




途端に顔を真っ赤に染め、凄まじい勢いでベッドから跳ね起きるウルリカ。




「おお、いい眺めじゃのう」




下からだとより美しいわい。


何とも艶めかしい・・・このままいつまでも見ていられるのう。




「ち、ちょちょちょ、ちょっと・・・無理、もう、無理だからぁ!?」




わしのどこを見たのか、そのままへたり込むウルリカ。


以前のリーノたちの時のように、際限なしにがっついたつもりはなかったはずじゃが・・・?




「ふふ、それもいいが・・・汗をかいた。シャワーを借りるぞ」




少し・・・イジメすぎたかの?


反応がいいものでついついやりすぎてしもうたような気も、まあする。


わしとしては満足したので二回戦はやめておこうかの。




立ち上がって部屋に併設されている風呂場へ行く。


港町とあってか、ここではどこに行っても風呂の習慣があるらしい。


現代日本から来たわしにはありがたいことじゃのう。


ま、風呂桶はなく簡易的なシャワーのみじゃが、贅沢は言っておられんわい。




見てくれだけは前世と同じシャワーの蛇口を捻り、水を出す。


魔法のせいか、すぐにちょうどいい温水が流れ始める。


やはり便利じゃなあ、魔法。




「・・・貸しなよ、それ」




何なのかよくわからん紫色の石鹸めいたものを泡立て、スポンジで体を擦っていると。


ぬっと後ろから手が伸ばされた。




「ほう、いいのか?」




「い、一応・・・そこもサービスに入ってるからな」




ウルリカにスポンジを渡し、体を洗ってもらう。


うーむ、極楽極楽・・・ぬ。


手つきが・・・これは・・・なんとも・・・


もしや・・・?




「おい、二回戦を始める気か?」




「・・・って」




「ぬ?」




「やっぱり、俺も・・・洗っ・・・て」




消え入るような声と共に、スポンジが渡された。


・・・ふむ。




肩越しに振り返ると、潤んだ目が見つめてくる。


・・・今日は泊まりになりそうじゃな。


後で宿への言伝を頼もうかの。




「こら、離れてくれねば洗えんじゃろうが」




「いいじゃん、このまま洗えば・・・」




「まったく・・・手のかかるお姫様じゃ」




「ぁっ♡」




眠れるかの、今夜は。








むう、朝か。


日差しが目に染みるわい。




「おい、起きろウルリカ、朝じゃぞ」




「もうらめぇ、壊れりゅぅ・・・♡」




ウルリカは色々丸出しで寝入っており、まるで起きる気配が無い。


・・・やりすぎたかのう。


仕方あるまい、誰か起きているものに会計を頼むか。


この街にはまだ滞在するし、後日また来よう。




シャワーを念入りに浴び、着替えて部屋から出る。


この街の魔法ギルドで、匂い消しの魔法もかけてもらうとするか。




「お、アマラか丁度いい」




階段を下りていくと、椅子に腰かけて朝食をしているアマラの姿があった。




「・・・ゆうべは、おたのしみでしたねぇえ・・・」




何とも棒読みじゃな、機嫌が悪い。




「おう、伝言まで頼んで悪かったのう・・・すまんがウルリカが起きれぬのでな、会計を頼みたいのじゃが・・・」




「そりゃあねえ、あれだけお楽しみでしたらねえ・・・(防音魔法貫通するとか、ウルリカ姐さんも声がデカすぎるのよ・・・)」




なにやらブツブツ言っておるアマラの前に座る。


・・・寝不足じゃろうか?


変な客でもついたのか?




「はいはい、しますよお会計・・・こんなものね」




手書きのレシートめいたものを渡される。


提示された金額はいやに安い。




「・・・計算、合っておるのか、これ?」




黒糸館でただ飲んだ時よりも安いぞ。




「姐さんに殴り合いで勝ったから割引よ」




・・・なんじゃそれは。




「ほんとに知らないのねえ・・・この店のルールなのよ。戦うのが好きな子とはあそこで戦って、その勝敗で金額が決まるの・・・もちろん、それが嫌だってお客さんは普通に寝ることもできるけどね」




なんとまあ。


前の世界では考えられん娼館じゃな。




「特に姐さんは好き嫌いが激しいからね、だいたい・・・っていうか今まで負けたことないのよ。だから万が一勝っちゃった場合は安くなるの、負ければ結構な金額取られるわよ?」




「ほうほう、それでこの値段というわけか」




「そ、姐さんは書類上は娼婦だけど・・・そっちの『仕事』は滅多にしないの。傭兵をして稼いではいるけどね」




・・・同業者じゃったか。




「『蒼の団』って結構有名な傭兵団なんだけどね・・・知らない?」




「すまんな、この辺には最近来たばかりでのう」




「ああ、それなら仕方ないわね・・・というわけで、ウチは部族で傭兵団と娼館を経営してるってワケ。戦闘志向の子は傭兵団、それ以外は娼館ってな具合でね」




なるほどのう。


異世界は広い・・・このような集団がおるとは。




「意外と多いわよ、こういうの。アランシアのアマゾネスとか、コルトラカスのバーバリアンとかね」




「お主は、どうなんじゃ?」




「私?私も姐さんと一緒、まあ・・・娼館の『仕事』も嫌いじゃないからよくやるけどね?」




「強い男と寝るの、好きだから。」




そう言ったアマラは、妖艶な雰囲気を醸し出しておった。


・・・ううむ、今度また来るか。


流石に今からでは今日も泊まることになるやもしれん。




「まったくもう・・・姐さんはウチの族長だから今回は譲ったけど・・・次は私とも『仲良く』してよね、ジュウベエさん」




そう言うとアマラは金を受け取り、わしの耳を軽く摘まんで頬に口付けした。


族長とな・・・随分と若い・・・いや、年齢はわからぬが。


・・・ふむ、そうまで言われては仕方あるまいな。




「・・・あ、あと、私の時は優しくしてよね?姐さんみたいにされたら、きっと死んじゃうわ」




「・・・肝に銘じておくとしよう」




頬を撫でると、軽く指先を噛まれた。




「うふ、待ってるからね」




「おう、次は―――」




言いかけると、店の裏手から何人ものセイレーンが顔を出した。




「わたしも!」「あたいも!」「タダでもいいよ!」「でも優しくねぇ!」




口々にそう言いつつ、なんともねっとりした視線を送られた。




「な!?駄目よっ!私が最初に唾つけたんだからねっ!!私が最初なんだから!!」




「・・・はは、精々稼いでまた来るわい」




巨人のアレ、わしも使った方がいいのか・・・?


途端に姦しくなった店内を抜け、後ろ手に手を降って店から出た。








店から出てすぐに、なにやら騒ぐ声が路地から聞こえる。




「行くニャ!早くするニャア!!」




「ま、待てって、その人泊まってるんだろ!?もう無理だって、ミイラみたいになってるって!!」




「何言うニャ!じゃあせめて成れの果てでも引き取るニャアアアア!!!」




ぬ、両方聞き覚えのある声じゃな・・・




路地を覗き込むと、はたしてそうであった。




「何をしとる、お主ら」




「ニャアアアアア!?立ってる!歩いてるニャアアアアアア!?!?」




「ウッソだろマジ・・・で・・・あ、兄貴!ジュウベの兄貴じゃないっすか!?」




そこには昨日魚を買った店の娘と。


顔見知りの虎ビースト、ダイドラがおった。






「兄貴・・・俺っち、尊敬するッス!!まさかセイレーンを向こうに回して無事に帰って来るなんて!!!」




「はわわわわ・・・化け物ニャア、正真正銘の化け物ニャア・・・」




ダイドラたちと連れ立って街を歩く。


どうやら、この娘とダイドラは知り合いらしい。




「おう、いい女であったぞウルリカは」




「うるっ・・・!?」




「ニャギ!?!?」




何故動きを止める。




「お、おおおおみそれいたしましたああああああああああああああああああああああああああ!!!」




ダイドラは、地面に付きそうなほど頭を下げてきた。


・・・またか。


何がこやつの琴線に触れたんじゃ。




「あ、あああアマラだけでもアレニャのに・・・うる、ウルリカさんとニャぁ・・・だ、旦那もしかしてすごく小さいアークオーガだったりしますニャ???」




袖口をくいくい引きつつ、尋ねてくる娘。




「ジュウベの兄貴は人族・・・だと、思う、うん」




歯切れが悪いぞ、ダイドラよ。






市場の一角。


わしらは、娘の魚屋に腰を下ろしておる。




「改めまして、ラドラですニャ、旦那・・・ダイドラのお知り合いニャ?」




「うむ、何度か一緒に仕事をしたこともある・・・お主はダイドラの縁者かの?」




「従妹なんでさあ、兄貴」




ふむ、世間は狭いのう。


全然似ておらんから気付かなかったわい。


・・・そもそも、獣成分が多いタイプのビーストは見分けがつかん。


虎と猫じゃぞ?


そりゃあネコ科という括りでは一緒じゃが。


訛り具合まで違うぞ?




「それで、何故わしを追いかけてきた?」




そう聞くと、ダイドラは頭を掻いた。




「いや、俺っちも仕事・・・隊商の護衛でさっき着いたばかりなんスけど、会うなりラドラ姉ちゃんが助けてくれって縋り付いて来て・・・」




「・・・アマラの店に行ったら、人族はだいたい搾り取られて干物みたいになるニャ。ここいらの人間はよく知ってるんだけど、たまに旅の人が被害に遭いますニャ・・・」




干物と言っても、ミイラにされて殺されるわけではない。


ただただ精魂尽き果ててしばらくは半死半生のようになるのだという。




「セイレーンの女はとにかく性欲が強いんでさ・・・そりゃ、俺っちたちビーストもそうッスけど、桁が違うんス」




「旦那はいい人だから、もしそんなことになったらせめて回収だけはしようと思って・・・そこにダイドラがたまたま寄ってくれたんですニャ・・・」




「はは、それは心配かけたのう」




魚を買っただけだというのに、いい娘じゃな。


やはり、いい嫁さんになりそうじゃ。


少し、突っ走りすぎなところもあるにはあるがのう・・・




「いや、ご無事で何よりですニャ・・・でも、ウルリカさんとその、寝ても何ともない旦那ならいらない心配だったニャ・・・」




「ウルリカ姐さんって言えば、ここいらのセイレーンの中でもその、すげえって評判で・・・気に入った男としか寝ないし、しかもべらぼうに強えぇし・・・」




傭兵としても有名だと言っておったなあ、そういえば。




「ジュウベの兄貴はすげえなあ・・・ほんとに」




「はは、こんなことで褒められてものう・・・おう、ラドラよ、昨日の魚は大層美味かったぞ。また買わせてくれ」




「ニャっ!ホントニャぁ!?」




尻尾をピンと立て、喜色満面のラドラ。




「活きのいいの、仕入れてますニャ!」




そう言って昨日のタコ魚・・・テンタクラーを持つラドラ。




「ね、姉ちゃん・・・またそんなゲテモノを・・・」




「ゲテモノなのか?刺身で食うたが旨かったぞ?」




「そうニャそうニャ!上の『本身』の部分は最高ニャ!!」




・・・なに?




「下の触手の部分は・・・食わんのか?」




「・・・食べたんですニャ!?」




「やっぱ、ジュウベの兄貴ってすげえや・・・」




いや、アマラも美味そうに食っておったんじゃが・・・?


聞けばテンタクラーの触手部分は、よほどの物好きかセイレーンのような海洋種族でもないと食わんらしい。


・・・猫はイカを食うと腰が抜ける、と聞いたことがあるからそれが原因かのう?




「魚醤を塗って焼いても最高じゃと思うんじゃがなあ・・・」




「う、確かにそれなら美味そうッス・・・」




「やったことないですニャ・・・」




なんとまあ、勿体ない事よ。


腹も減ったし、それではここらへんで焼いてみるか?


ちょうど店には竈もあることじゃし・・・




「正直今まで捨ててたから、料理の仕方もわからんですニャ」




料理・・・?


ただ串に刺して焼くだけじゃが・・・?




「ふむ、それでは金は払うから竈を使ってもええかのう?『運動』して腹も減ったしの」




「姉ちゃん、俺も食ってみたい!」




「この時間なら暇ニャし、ジュウベの旦那さえよければ・・・」




とまあ、そういうことになった。








なったのじゃが・・・




「こんな時間まで帰ってこないとみんなで探しに来てみれば・・・一体全体どういうことですのォ!?」




「こればっかりはわしにも何が何やら・・・」




「兄貴!兄貴!!2本追加ッス!!」




鉢巻を巻いたダイドラが悲鳴のような声を上げる。




「ほいほい待っとれよ・・・」




あらかじめ用意した串に魚醤を塗り、焼く。


周囲には魚醤の焦げる何とも言えぬ香ばしい匂いが立ち込める。




「・・・なんなんですのォ!?」




「ウマウマ!ウマウマ!」




「たまんねえにゃあ、これ!酒が進む進むゥ!にゃはははははは!!!!」




・・・ラギとペトラは少しは手伝わんか、まったく。






きっかけは、朝昼兼用の食事にしようとテンタクラーを焼き始めた時のこと。


思った通り美味そうに出来上がり、さて3人で食おうとしたら・・・




『美味そうだなあそれ、いくらだい?』




となりで野菜を売っていた商人に、そう話しかけられた。


売り物ではないが、多めに作ってあったのでラドラに許可を取って1本売ってやった。


それを食った商人が美味い美味いと騒ぎ・・・




「こっちに2本追加!」「こっちも1本!」「持ち帰りで10本!!」




「兄貴ィイ!!!」




「だんニャアアアアア!!!!」




「わしにまかせておけい!!」




人は人を呼び、あっという間に即席イカ焼き屋台の完成というわけじゃ。


ふう・・・まさか異世界に来て、祭りで働いた経験が活かせるとは思わなんだのう・・・




「セリン!魚醤が切れそうじゃ!買ってきてくれ!!」




「わたっわたくしが!?」




「すまぬ、助けると思って・・・!」




「んあああああ!貸しは高くつきますわよおおおお!!!」




強引に頼んだところ、セリンはどこかへ走り去っていった。


うむ、いい娘じゃ。


わしより遥かに年上じゃがのう。




「ラギィ!手伝え!」




「ワカッタ!!・・・ペトラハ?」




「酔っぱらいは放っておけ!」




「ウン!!」




ひとしきり食べて満足したであろうラギが、嬉しそうに寄ってくる。


ペトラは・・・もうそのへんに転がしておこう。


酔いもあってかいい感じに服がはだけ、それが客寄せにもなっておることじゃし。


初めは大丈夫かと思ったが、先程乳を触ろうと手を伸ばした助平親父を酔ったまま半殺しにしておったからな。


あれほど酔えば手伝いもできんじゃろうし、そのままにしておこう。




「いいか、ここから串を通して・・・そうじゃそうじゃ、筋がいいのう、ええ子じゃのう」




「エヘヘ!」




「戻りましたわあああああああああああ!!!」




「でかした!!」






ひたすらイカ焼きを作り続けることしばし。


材料が尽きたので、やっと店じまいができた。




「つ・・・疲れましたわ」




「お主には給仕までさせて悪かったのう、撫でられた尻は平気か?」




「アイツは軽く魔法で炙ってやりましたわ!!スッキリですの!!」




いや、うん。


まあ・・・元気そうで何よりじゃわい・・・




「ちゅーちゅーたこかいな・・・ニャン!!いつもの10倍の売り上げですニャぁ!!」




「兄貴って、すげえや・・・」




目をキラキラさせるラドラ。


精魂尽き、上半身裸になって地面に寝転がるダイドラ。


こやつもよく働いたのう・・・




「楽シカッタ!」




ラギは尻尾を振り回して上機嫌じゃ。




「うにゅう~???」




ペトラは・・・お前・・・その恰好はもう女としていかがなものか・・・


隠れているのは最低限ではないか、まったく・・・




「セリン、毛布かなにか・・・」




「かしこまりですわ!」




用意がいいのう。


マジッグバッグは便利じゃなあ・・・




「旦那、旦那!今日はありがとうございましたニャ!」




ラドラがわしの手を握り、嬉しそうに感謝してくる。


疲れよりも売り上げがある嬉しさが勝っておるようじゃな。




「いや、わしのほうこそ・・・迷惑をかけたのう」




「いいええ、この『イカヤキ』はウチの主力商品にするニャ!ゆくゆくはこの街の名物にしたいですニャ!」




・・・イカ焼き、定着してしもうたわい。


焼いておる最中、ずっと連呼しておったしの・・・


しかしまあ、なぜあんな簡単な料理に気付かなかったのかのう、この街の住民は。


ふうむ、思い込みとは怖いものじゃな。




「ダイドラ、お主にも世話になったな。お詫びに今度いい店にでも行こう」




「せ、セイレーンだけは勘弁ッス・・・まだ死にたくないッス・・・」




うつ伏せに転がったままのダイドラは、尻尾を弱弱しく振った。


・・・そんなに嫌か?セイレーンの性欲は・・・さほどとも思わなんだが・・・




「の、ノーコメントですわ!」




「ジュウベ・・・大人・・・」




「何がじゃ」




例によって酔いつぶれたペトラを背負い、宿に帰ることにする。


時刻はもう昼過ぎ・・・随分と屋台をやっておったのう。


まあ、イカ焼きの作り方は簡単じゃし、明日からはラドラでもできるじゃろう。




「旦那!お気をつけて!」




「おう、そちらもあまり無理をせんようにな」




「はいニャ!・・・ダイドラ起きるニャ!片付け手伝うニャ!!」




「姉ちゃん勘弁してくれ・・・」




「・・・無理をせんようにな」




そう言って、わしらは市場を後にした。




「まったく、ジュウベエは目を離すとすぐどこかに行きますわね!困ったものですわ!!」




「ジュウベ、節操ナシ!メッ!!」




「・・・ひどい言われようじゃのう、明日からの仕事はきっちりやるから許せ・・・イカ焼き食うか?」




懐から包みに入ったイカ焼きを取り出す。


・・・そういえばわしも食うておらんかったな。




「いただきますわ!考えてみればわたくしも食べていませんでしたし!」




「ジュウベノコレ、好キ!!」




・・・色気より食い気じゃな、こ奴らは。


3人でイカ焼きを頬張りつつ、宿へ帰ることにした。




「うまま!」「あまじょっぱくてよし!」「はごたえすきすき!!」




いつの間にか編み笠の上でイカ焼きを貪る妖精共を見上げながら、わしは苦笑いをこぼした。


・・・頼むから、わしの頭にこぼさんでくれよ・・・




なお、宿に帰ってアゼルにセイレーンの娼館の話をしたところ、大層尊敬する目で見られた。


ならば連れて行こうかと言ったら、泣いて断られたわい。

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