第30話 十兵衛、明日への刃を研ぐ。

「っし!!」




振り下ろした脇差が、檻の鍵を破壊する。


・・・ふむ、斬れたか。


鍵を探す手間が省けたわい。




「おうい、もう大丈夫じゃ」




そう声をかけると、囚われていた村人たちが恐る恐る出てくる。


なるほど、たしかに若者ばかりじゃな。


数は全部で20人といった所か。




「あの、ありがとうございます!傭兵さん!」




先程話した娘が、わしに頭を下げてくる。


恐ろしかったろうに・・・気丈な娘じゃな。




「なんのなんの、頼まれたからのう・・・別動隊がおらんとも限らん、すぐに村へ戻るぞ」




散々斬った盗賊程度、物の数ではないが・・・この人数を庇いながらとなるとそれなりに難しい。


早々に撤退するのが吉じゃ。




「す、すいません、あの、1人足りないんです!連れて行かれた子がいて・・・!」




別の男が慌てて声をかけてくる。




「うむ、その娘ならもう助けた。この先の部屋で待たせてある」




「そうですか!・・・よかった・・・」




胸を撫で下ろす男。


あの娘も不安がっておるじゃろう。


早く行ってやらねばな。






「バルちゃん!」




「・・・エラちゃんっ!」




娘の待つ部屋に入ると、さっきの娘が毛布を抱える娘に抱き着いた。


頭目にいたぶられていた娘は、しっかりと服を着ておった。


バル・・・そうか、この娘がサグの姉か・・・




「ひ、酷い傷・・・ああ、なんて・・・」




「大丈夫よ、その傭兵さんが助けてくれたから・・・」




服の裾から覗く傷を見て、エラと呼ばれた娘が涙ぐむ。


他の村人たちも痛ましそうにしておる。




「感動の再会を邪魔して悪いが・・・お嬢ちゃん、立てるか?」




「あ、傭兵さん・・・す、すいません・・・足が、痛くて・・・」




見れば、両足に酷い打撲の跡がある。


これではすぐに立つのは難しかろうな。


あの頭目・・・もう2、3刻んでもよかったのう。


見た感じ骨まで折れてはおらぬじゃろうが・・・




「ふむ・・・おうい、男衆。誰かおぶってやれ」




声をかけると、男衆はお互いに見つめ合うばかりで中々前に進み出ようとはせぬ。


何をモタモタしておる、情けない。


わしが背負ってもいいが、不意の敵襲に対応できぬからのう。




「馬鹿者!足を怪我したおなごくらいすぐ背負わぬか!お主ら、それでも男か!!」




一喝すると、やっと1人の男が進み出た。


情けない限りじゃ・・・




「ご、ごめんなさい・・・トログさん」




「いや、いいんだよ。俺こそ気付かないでゴメン」




ようやっと男・・・トログがバルを背負う。




「さて、長居は無用じゃ。行くぞ」




「は、はい!」




わしは、村人の先頭に立って歩き出した。




「あの、傭兵さん・・・む、村の様子はどうでしたか?」




わしの後ろを歩くエラが、問いかけてきた。


・・・むう。


まあ、隠すことでもないしのう・・・




「・・・わしらが村に着いた時にはもう生き残りは1人しかおらなんだ」




「・・・そ、そんな・・・そんな・・・」




エラを初め、後続の村人たちの中からも絶望を含んだ声が上がる。


無理もない・・・無事に帰っても迎えてくれるものが1人もおらんのじゃからな。


この先、こやつらはどうなるのかのう・・・




「よ、傭兵さん!その生き残りって・・・」




バルが、背負われた状態で聞いてくる。


わしは何も言わずに、懐から短剣を取り出した。




「それ・・・それって・・・」




バルはそれを見るなり、ボロボロと涙を零した。




「・・・お主、今度結婚するそうじゃな」




「は、はい・・・あの、トログさんと・・・」




なに?


その男とか?


思わずトログを睨みつけると、トログはビクついて目を逸らした。




「貴様・・・未来の嫁さんが怪我をしておるんじゃぞ?真っ先に背負わぬか!戯け!!」




「はっ・・・はい!すみません!!」




「しっかりせい!!馬鹿者!!」




「はい!!」




・・・まったく、情けない男じゃ。


トログをしかりつけ、バルに目を向ける。




「・・・サグは死に際に、わしにこの短剣を渡して依頼をしてきたんじゃ」




「さ、サグも・・・し、死んで・・・」




トログの背で、バルは顔を覆って嗚咽を漏らす。


・・・酷じゃろうが、今わかるも後わかるも同じことじゃ。


今なら村人たちもおる。


幾分か悲しみも和らぐじゃろう。




「最後の最後まで・・・痛いとも苦しいとも言わず、お主のことだけを案じておったぞ」




「う・・・うう・・・」




最早バルは声すら出せぬ。




「立派な子・・・いや、立派な男よ」




明かりが見える。


出口が近付いてきたな。




「辛くとも、苦しくとも生きねばならん・・・振り返っても、そこには何もありはせんのじゃ」




最後にそう言い、わしは光に向かって進んだ。








「ジュウベ!!」




村の外に立っていたラギが、わしらを見て走り寄ってくる。




「おう、出迎えご苦労」




「怪我、ナイ!?ダイジョブ!?」




抱き着くように体当たりしてきたラグが、わしの体をペタペタ触る。




「大丈夫、大丈夫じゃ。わしがあんな奴らに後れを取るものかよ」




「デモ・・・デモ!1人、ダメ!!」




捻りの効いた尻尾が飛んできた。


うむ、地味に痛い。




「すまんのう・・・今度はお主にも手伝ってもらうからのう」




「モチロン!ジュウベ、守ル!!」




そう、この件はまだ終わりではない。


あの紫の優男が何故おったのかは知らぬが、明日受け取りに来る集団がいるはずじゃ。


そ奴らも、叩かねばならぬ。




・・・後顧の憂いは断っておかねばならぬ。


後の平穏のために。




今回は救出の目的もあったため、わし1人の方が都合がよかった。


それに、サグに頼まれたしのう・・・


今度は遠慮なく、最大火力で叩き潰してやろう。






「お早いお帰りですのね、ジュウベエ」




「ひえー・・・ほんとに傷一つねえでやんの」




村に入ると、セリンとペトラがおった。


ペトラは何故かシャベルをもっておる。




「随分と・・・綺麗になったもんじゃの」




「流石にあのままでは哀れですので・・・埋葬させていただきましたわ」




「おう、この先に墓場があったんでな。そこに埋めたぜ」




結構な数があったろうに・・・恐らくアゼルも手伝ったんじゃろうな。




「おお、これはこれはラヒ村の皆さん・・・この度は、何と言ったらいいか・・・」




丁度その時、アゼルを伴ったアリオ殿が戻ってきた。




「あ、アリオ様!ジュウベエさんの雇い主はアリオ様でいらっしゃったんですか!?」




バルを背負ったトログが驚愕しておる。


・・・そうか、元々知り合いであったか。


そういえば酒がどうとか言っておったな、アリオ殿。


この村にもよく訪れていたんじゃろう。




「ああ、トログさんじゃないですか!ご無事で何よりですなあ・・・手放しには、喜べませんでしょうが・・・」




「いえ・・・こうして命があっただけでも・・・」




「勝手かと思いますが、村の方々はそれぞれの家の墓地に葬らせていただきましたよ・・・」




「いえ、いえ!そ、そこまでしていただいて・・・なんと・・・あり、ありがたいことで・・・うぐ、ううううう~~」




トログは両目から大粒の涙を零し始めた。


今まで張りつめておったものがとけたのじゃろうなあ・・・


バルが背負われたまま、服の袖で涙を拭っている。


・・・なんじゃ、似合いの夫婦ではないか。






『ジュウベエさん!』






不意に、わしの耳に声が聞こえた。


振り返ると、精霊どもに交じって半透明のサグらしき影が立っていた。


わしが帰るのを、本当に待っておったんじゃなぁ・・・




「・・・おう、サグか。今帰ったぞ」




声をかけると、サグが嬉しそうに駆け寄ってきた。


周囲のものには見えぬようで、急に虚空に話しかけたわしを不審そうに見ておる。




『すごいや!バルねえさんも、みんなもたすけてくれたんだね!』




「・・・言ったじゃろう、わしは強いとな」




『うん!』




頭を撫でようと思ったが、手がすり抜けた。


こうまでハッキリ見えていても、やはり幽霊なんじゃのう。




「(精霊ども、このままじゃとわしが不審者じゃ・・・なんとかならんか)」




小声で呟く。


・・・それに、姉との別れもさせてやりたい。




『しょーがないなー』『とくべつに!』『ごほうしかかくで・・・』




『あ な た た ち !』




『ぴゃ!』『あねさま、まだいた!』『わかりましあ!!』




『あねさま』の声に、精霊どもは飛び上がって驚いた。




一瞬後、周囲の村人がどよめく。


どうやら見えるようにしたんじゃな。




「さ、サグ!?サグなの!?」




『ねえさん!』




バルに駆け寄ったサグが、嬉しそうに声をかける。


バルは驚愕に目を見開いておる。


背負っているトログもじゃ。




『ごめんね、おれ、がんばったんだけど・・・だめだった。とうさんも、かあさんも・・・アンジェも』




・・・そう、か。


死んだことでわしの嘘もバレてしもうたか。




『でもね!ジュウベエさんにおねがいしてよかった!』




「でも・・・でもあなたが、あなたが死んじゃあ・・・!」




『・・・しかたないよ!おれ、なにもできなかったんだから・・・』




俯くサグ。




「違う、それは違うよ・・・サグ、キミのお陰だ。キミが、ジュウベエさんを呼んでくれたお陰だよ・・・」




トログが涙を零しながら、強い口調で言う。


ほう、こやつ・・・少し見直したわい。




「そうだよサグ!」「ありがとう!サグちゃん!」「ありがとう!」




後ろの村人たちも、口々に礼を言う。




「・・・誇れ、サグよ。お主が耐えたからこそ、皆が助かったのじゃ」




『・・・へへ、そうかな』




「そうとも。誰にでもできることではないぞ」




はにかんだサグが、照れくさそうにしておる。




『・・・あ、じかんだ』




サグの体が発光し始めた。


周囲の精霊どもが、腕を×の字にしている。


現世にとどまっていられるのもそろそろ終わりらしい。




「・・・逝くのか、サグ」




『うん、なんかね、やさしいこえがするんだ。もうじかんだって』




「・・・そうか」




「いや!いやあ!サグ、サグぅ!!」




「バル・・・!ダメだよ、見送ってあげなくちゃ・・・ね」




トログの背でもがくバルに、もう一度サグが寄っていく。




『ねえさん、げんきでね!げんきなあかちゃん、うんでね!』




「サグぅ・・・!サグうぅ!」




『トログさん、ねえさんをよろしくね!なかせたら、ゆるさないよ!!』




「・・・ああ、僕・・・いや、俺に、任せてくれ!」




少しの間にすっかり男の顔になったな、トログ。


まあ、この光景を見ても情けないままじゃったら、わしが張り倒すがの。




『ね、ジュウベエさん』




わしの方を振り返ったサグが、真っ直ぐこちらを見る。


まるで人型の虹のようじゃ。


リトス様の次くらいには美しいかもしれん。




「ふむ、なんじゃ」




『おれ、もしうまれかわったら・・・でしにしてね!』




「・・・おう、この国どころか、この世で二番目に強くしてやるわい」




『一番は?』




「もちろん、わしじゃよ」




『あはは!すごいや!!』




楽しそうに笑ったサグは、最後に愛おしそうに泣きじゃくるバルの頬をそっと撫で。




『きっと、きっとだよーっ!!』




精霊どもに導かれるように、天へと昇って行った。


雲の隙間に、荘厳な衣装を身にまとった美しい女性が一瞬見えた。


・・・リトス様ではないようじゃな。


こちらの世界の地蔵菩薩かのう。


何やら目が合ったような気がする・・・




「さあて・・・長生きせねばならんなあ」




なるべく早く戻って来いよ・・・サグ。




「ジュウベ、泣イテル?」




「・・・これは小雨じゃい」




「ジュウベ、チョットカワイイ」




「・・・やかましい」








「捩じれた角・・・紫の肌・・・黒い稲妻・・・恐らくそれは吸血鬼でしてよ、ジュウベエ」




硬いパンをスープに浸しながら、セリンが言う。




「吸血鬼・・・十字架やニンニク、日の光に弱いアレか?人の血を啜って眷属を増やすという」




「ジュウジカやニンニクが何かはわかりませんけど・・・おおむねその通りでしてよ。ジュウベエのお国にもいるのですね」




いるというか・・・空想上というか・・・






わしらはラギ村のはずれに天幕を張り、野営している。


元々ここに泊まる予定じゃったからな。


今からでは、急いでも港町には着けぬ。


周囲の脅威は排除したので安全じゃし。




「へえ~!ジュウベエ、吸血鬼ともやったのか!・・・アレ?でもお前聖剣持ってたか?」




干し肉を豪快に食いちぎりながら、ペトラが感心したように言う。




「・・・聖剣とな?」




そんなものは持っておらんが・・・普通に斬ったら死んだんじゃがのう。




「神聖魔法を付与した剣のことですわ。吸血鬼は聖剣か神聖魔法、もしくは日光でしか殺せないのですが・・・ああ、なるほど」




セリンがわしの刀に目をやりつつ、寄ってきて耳打ちした。




「(・・・女神様の魔法具なら、それどころの騒ぎじゃありませんわね。並みの吸血鬼なら掠っただけで灰になりますわよ・・・なにせ最上級神聖魔法の塊で殴りつけるようなものですから)」




・・・なるほどのう。


あ奴が灰になったのはそういうことか。


障壁を斬るつもりで力を込め過ぎたからのう。


女神様々、じゃな。




「銀ノ矢ジリ、ヨク効ク」




「ほう、ラギも戦ったこともあるのか」




「爺様カラ聞イタ。矢ジリハ今ナイケド、ナイフアル」




ラギが懐から大ぶりな銀のナイフを見せてくる。


立派なものじゃな。




「あたいは用意してなかったからさあ、前は大変だったぜ」




「ペトラは経験者のようじゃな」




「もう斬っても斬っても生き返りやがるんでよ、最後は斧で滅多打ちにして挽肉にしてやったぜ・・・それでようやくくたばったなあ」




「ほう、そういう方法もあるのか」




「ジュウベエ・・・ペトラには地母神の加護がありますし、並外れた膂力もありますの。普通は無理でしてよ」




軽く頭を押さえてセリンがこぼす。




「へっへへ、褒めろ褒めろ」




「スゴイ!スゴイ!」




「へっへへへー!」




ペトラは鼻高々の様子じゃ。


いい性格じゃのう。




「さて・・・アリオ殿」




傍らで浮かない顔をしていたアリオ殿に声をかける。


この村とはかなり付き合いが深かったらしく、凄まじい落ち込み様じゃ。


いつもの元気がない。




「はい・・・なんでしょうか」




「頼みがある・・・もう一日、ここでおってくれ」




そう言い、わしは頭を下げた。




「・・・『依頼人』を殺すのですな」




低い声でアリオ殿が答える。




「ああ、ここで潰しておかねば・・・この村にまた災禍があるやもしれぬ。何の儲けにもならぬし、デュルケン到着も遅れるが・・・この通りじゃ」




関わったからには徹底的に潰す。


ここで放置してまた村が襲われるようなことがあれば、今度こそ村は滅ぶ。


そのようなことになったら、サグに会わせる顔がない。


せめて、この禍根は断っておかねば。




「ジュウベエ様・・・それは、私がお願いすることですよ」




アリオ殿は、執念のこもった目でわしをじっと見る。




「トログさんのおじい様には、駆け出しの頃大変よくしていただきました。バルさんとサグくんのお父様は、蜂蜜酒に工夫を加えて必死に村を富ませようとしていました・・・」




懐かしむように、アリオ殿が虚空を見上げる。




「ハリクさんには、私が死んだ息子に似ているとよく可愛がっていただきました。美しいアラヤさんには、若い頃憧れたものです・・・」




その後も何人も何人も名前を挙げ、それらについて語る。


まるで、愛おしい家族のように。




・・・こことは、かなり関係が深かったようじゃな。




「ジュウベエ様、私は商人です。あなた方傭兵のようには戦えません、ですが男として、いや人間としてこれを見過ごすことはできない」




まっすぐに、アリオ殿がわしを見る。


そればかりか、椅子から地面に座る。


そしてそのまま、深々と頭を下げた。




「お願いします・・・お願いします!皆の仇を、討ってください!」




ぽたり、と涙が地面に落ちた。




「このような・・・このような非道が許されていいはずがありません!いかに『夜の神』の信徒と言えど、これはあまりにも目に余る!!」




・・・何やら聞き馴れぬ名を聞いたが、水を差すので聞かずにおこう。




わしはアリオ殿の肩に手を置くと、軽く叩く。




「・・・あいわかった、顔を上げられよ」




涙に塗れたアリオ殿の見る前で、脇差を少し抜く。


それを勢いよく納刀し、きぃんと甲高い音を立てる。




「これはの、決して違えぬ約定を交わす戦人の習わしよ」




「おお・・・では、では・・・」




「はっは、そもそも頼んだのはわしではないか」




アリオ殿を立たせ、大きく頷く。






「南雲流、田宮十兵衛・・・奴らを、討つ。・・・1人として生かして帰さぬ、決して、のう」






わしは、全身に気迫を漲らせて言った。






そうと決まれば早く休み、明日は早朝に起きてまた洞窟に行かねばならぬ。


奴らがいつ来るかはわからぬしのう。


まあ、吸血鬼なら夜に来るじゃろうが。




「明日は、わたくしたちもご一緒しますわよ?」




寝袋を用意していると、セリンたちが寄って来た。




「勿論じゃ、お主らを頼りにしておるぞ」




「・・・なにか気持ち悪いですわ」




酷い言われようじゃのう。




「あ、あたいも頑張る、ます!ジュウベエ・・・さ、様」




・・・誰じゃ、こやつは。


別人のようになったペトラがつっかえつっかえ言ってくる。




「どうしたどうした、気持ち悪いぞペトラ」




見れば、ラギも何やらもじもじしておる。




「だ、だってよ・・・ひ、人が悪いぜ、貴族なら貴族って言ってくれりゃあ・・・」




「ジュ、ジュウベ、貴族?」




・・・ぬう?


何を言っておる、こ奴らは。




「さっき思いっきり苗字名乗ってましたわよ、ジュウベエ『様』・・・アリオ様は気付いていらっしゃらないようでしたけど」




・・・あ、いかん。


つい本名を名乗ってしもうた。




「・・・はあ」




潮時じゃ。


わしはこんな七面倒臭い設定、もう御免じゃわい。


こやつらはいい娘たちじゃ。


それは今までのことでよおくわかっておる。


・・・この嘘もそろそろ終わりじゃな。




「あー・・・お主ら、わしは苗字があるが、貴族ではない」




「・・・ほんとかよ?」




「・・・ホント?」




じとりとした目線で聞き返す2人。




「本当じゃ・・・ああもう、じゃがのう、お主らに嘘をついておった」




「・・・だろうと思っていましたわ」




セリンは何事か気付いておったらしい。




「・・・明日の憂いに繋がってもいかんからのう。ええか、今から話すことは全て本当のことじゃ、信じられぬとしても本当じゃぞ?」




これ以上、このいい娘らに嘘を付いておきたくない。


なあに、大丈夫じゃろう。


大丈夫でなくとも、構うものか。


その時は、わしの目が狂っておっただけの事じゃい。




周囲に目をやる。


アリオ殿はもう馬車で休み、アゼルも馬車の横で寝息を立てておる。


・・・他に気配は、ない。




「わしはのう・・・こことは違う世界から来た」




わしは、3人に今までのことを話し始めた。

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