第55話 十兵衛、邪神に喧嘩を売る。
「なんとも、清々しい気分で御座るなあ・・・」
からん、と音を立て。
井宮殿の面頬が地面へ落ちた。
その下の顔は、予想よりも大分若い。
今のわしよりも、少し年下といった所じゃな。
「苦労をおかけ申した、田宮殿」
「なんの、わしの方こそ・・・よい経験であったわ」
まるで憑き物が取れたように、その顔はあどけない。
その体からは、今も魔力が空中に溶けるように放出されている。
やはりもう、尋常の体ではないようじゃな。
『じゅー!べーっ!!』
わしらの戦いを見届けた天鼓が、慌てたように飛んできた。
その後ろからは、ゆっくりと歩くセスルの姿もある。
『これどうぞー!妖精印の特級回復軟膏どうぞー!!』
そう言うなり、わしの傷に緑色に輝く軟膏のようなものを塗り始めた。
いつつ、意外と沁みるのう・・・お?
「なんとも、これは・・・」
塗られる端から、痛みと共に傷が消えていく。
とんでもない効き目じゃな。
『こないだ友達に分けてもらったのー!数量げんてー!!』
なにやらそう聞くとありがたみが薄れるような・・・
「・・・驚いた、妖精の軟膏とは。私もこれまで生きてきて、2、3度しか目にしたことはないぞ」
追いついてきたセスルが、感心したようにこぼす。
それほどのものをホイホイ使うでないわ。
「そんな貴重なものを・・・すまんな、天鼓」
『にゅへへ~、にゅへへへ~、いーのいーの!』
頭を撫でてやると、天鼓は花が咲くように笑って肩に飛び乗った。
『・・・でもさ、このヒトには使えないの。肉体がもうないから・・・ゴメンね、じゅーべー』
天鼓は笑ったかと思えば、座り込む井宮殿を見て申し訳なさそうに顔をしかめた。
「・・・いらぬ気遣いよ、妖精殿。拙者には、もう必要ござらん」
井宮殿はそう言って、薄く微笑んだ。
どうやら天鼓を認識できているらしい。
その体になったからか?
「井宮殿・・・」
「南雲流、と、申されたな。まだ拙者が消えるにはいささか、時があるらしい・・・無駄話に、付き合ってもらおう」
相も変わらず魔力の放出は続いているが、すぐに消え去るような気配はない。
「懐かしき名を聞いた・・・南雲の、玄隆斎殿は、ご健勝でおられるか?」
「ほう、我が流派をご存じであったか」
「なに・・・まだ拙者が若造の頃、胸を借りたことがある・・・なんとも、強い御仁であった」
ふむ・・・
・・・おそらく、6代ほど前の宗家じゃな。
時代的にも、井宮殿と合致するのう。
さて、たしかその者は・・・
「おう、お師匠なあ・・・この前、また子供が産まれたと喜んでおったわい。はは、お盛んなことじゃ」
「おお・・・それは、めでたきことに御座るなあ」
井宮殿は、嬉しそうに目を細めた。
南雲流以外の武芸にも通じ、今も残るいくつかの奥伝を創り出した不世出の達人じゃ。
特に槍の技に秀でており、わしが前にアゼルへ披露した『旋華』なぞ、貫かれた相手が痛みに気付く間もなく絶命したという逸話も残っておる。
だが、その武名に負けず劣らず・・・かなりの女好きとしても知られておる。
最終的に、12人の妻との間に28人の子供を成したそうな。
臨終の際には、床の間から溢れるほどの一族が見送ったと伝わっておる。
多くの妻を娶ったが正妻や妾の区別なく、その全てを等しく愛したという。
・・・ううむ、男として大いに尊敬できるのう。
まあそのせいで、次代の宗家が揉めに揉める遠因にもなったとも聞くがの。
アレで分家が増えたり色々大変じゃったと聞く。
わしはそれよりもかなり後の時代の出じゃが、消えゆく井宮殿にわざわざ教えるほどのことでもない。
本来ならば、決して交わらぬ相手と技を競った・・・それだけで、よいではないか。
「・・・どうやら、そろそろらしい」
井宮殿の言葉通り、放出される魔力の量が減ってきたように見える。
枯渇しかけておるのじゃな。
その存在を維持するための、魔力が。
「田宮殿、この井宮源九郎・・・一世一代の頼みが御座る」
そう言うと井宮殿は姿勢を正し、兜を脱いだ。
そして地面にしっかりと正座し、胴体の鎧を外す。
・・・この、姿勢は。
「拙者はとうに死したもの。この体は、誰とも知れぬ禍々しきモノに縛られた産物・・・せめて、刀を合わせたあなたに願いたい」
言いつつ、井宮殿は腰の匕首を抜く。
血の汚れが一切ない、澄み切った刀身が姿を現した。
「・・・死者の妄執、其許の太刀にて、お晴らし願いたく候」
その瞳が、真っ直ぐわしを貫く。
・・・覚悟は、決まっておるようじゃな。
それならば、わしに言うことは何もない。
誰が止められようか。
武士の、最期を。
「・・・未だ若輩者なれど、全身全霊にて」
わしは、愛刀を抜き放ちつつそう答えた。
「・・・痛み入る」
そう言うと、井宮殿は薄く微笑んだ。
「・・・天鼓よ、綺麗な水を頼む。それを、刀身に沿って流してくれ」
『えっ?う、うん・・・はいどうぞ!』
天鼓によってどこからか取り出された小さなコップにより、愛刀の刀身が清められる。
それを、ゆっくりと天に掲げ・・・井宮殿の背後に立った。
「・・・いつでも」
「・・・では」
わしらの姿勢から、何が行われるのか察したのじゃろう。
天鼓は神妙な顔をして、セスルの近くまで飛んでいった。
「体がこうなったからか、何故か『わかる』・・・拙者が死ねば、『あの者』にも幾許かの意趣返しができよう、とな」
「・・・左様か」
井宮殿は着物の前をはだけ、腹を露出させる。
そして匕首を両手で持ち、しばし瞑目した。
「嗚呼―――子供だけは、斬りとうなかった、なあ」
その目から、一筋の涙が落ちた。
「っふ・・・う!!!」
どん、と音を立て、匕首が腹に吸い込まれた。
「ぐ、う、うううう・・・!!!」
そのまま、匕首が腹を真一文字にゆっくりと横断する。
お見事・・・では!
「お、待ち・・・を・・・!この、程度、では・・・!!」
身構えるわしにそう伝え、井宮殿は匕首を腹から引き抜いた。
「ぬう・・・ん!!!」
それを、今度は下腹へ刃を上にして突き刺す。
これは・・・まさか!
「拙者が成した、悪業・・・せめて、せめてこれくらい、せね、ば・・・!!」
魔力の光を放ちながら、匕首がゆっくりと上へ動く。
『十字腹』とは・・・、なんたる、覚悟!
「こお、おおおお・・・!!」
それに合わせ、息吹と共に魔力を練る。
掲げられた刀身が、瞬く間に紫電を纏い始めた。
これを、せねばならぬという『確信』があった。
何故かはわからぬが、確かにあった。
「ぬうう・・・!!が、あああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!」
絶叫と共に、井宮殿は匕首を鳩尾の上まで斬り上げた。
そのまま、ぐらりと体が前に倒れる。
「―――お願い、致す」
精魂尽き果てたような、か細い声。
「御見事―――御免ッ!!!!!!」
半ば無意識に、刀を振り下ろした。
空中を焼き焦がすように愛刀は疾走し。
肉とは違う何かを断つ、そんな手応えをわしにもたらした。
井宮殿の首は、皮一枚を残して断たれ。
両手で抱えられるように、前に倒れた。
そのまま、首を抱えて体は地面に倒れ込み・・・
まるで初めからそこにいなかったように、柔らかな光だけを残して・・・空間に溶けて消えた。
『忝かたじけない・・・おさらばに、御座る』
わしの耳に、不思議な幻聴を残して。
井宮殿が消えた空間を見ながら、わしは静かに納刀した。
初めての試みであったが、なんとか無様を晒さずに済んだ、のう。
「―――おん あびらうんけん ばざら だとばん」
手を合わせ、井宮殿の平穏を祈る。
大日如来さまよ、もしここにもその目がお届きならば・・・あの立派な若武者を、何卒往生させていただきたいものじゃ。
望まぬ相手を、望まぬままに斬り捨てる。
さぞ、辛かったじゃろうのう・・・
あの時に零した涙が、その証拠じゃろうな。
『じゅーべー・・・あの』
天鼓が黙り込んだわしに何か声をかけようとした、その刹那。
『――――――――――――ッ!?!?!?!?!!?!??!?!?!?』
名状しがたい悲鳴のような何かが、空間に満ちる。
続けて地面が、空気が、空間全体が、揺れた。
『ぴぇええ!?』
天鼓が耳を押さえ、悲鳴を上げながら懐に飛び込んできた。
「―――なるほど!『パス』か!」
急にセスルが叫ぶ。
「先程の戦士を操るために、ここの『主』は強固な魔力の『パス』を使っていたんだろう・・・!ジュウベエの練り上げた魔力の奔流が、戦士の体を通じて『主』に逆流しているんだ!!」
ふむ・・・つまりは操り人形の糸のようなモノ、か?
確かに、井宮殿は今まで戦ったここの敵よりもよほど強かった。
自由意思を残したまま操る・・・それは、よほど強い『糸』を使っていたんじゃろう。
「ははは!なるほどのう・・・はははは!!!」
揺れ動き、空間ごと歪み始める光景を眺め・・・わしは笑った。
「ざまあみろ!!外道めが!!!精々存分に苦しめい!!!!!」
―――早速一矢報いたぞ、井宮殿!!
『―――オノ、レ!!』
目の前の虚空に、突如として気配が産まれた。
咄嗟に、それに抜き打ちを合わせる。
「っぐ!?」
愛刀は空間に激突し、何か酷く重たいものを斬りつけるような感触を伝えてきた。
これは・・・リトス様と同じ感覚!
先程斬り付けたのと同じ、感覚!
ならば・・・!!
「お出ましかあ!!外道ォ!!」
歯を食いしばり、全力で魔力を練る。
空間に縫い留められたままの刀身から、縦横無尽に紫電が放出された。
「ここで・・・会うたが、百年目よ!!」
さらに魔力を練る。
丹田を通じて流れ出る魔力が、渦を巻きながら愛刀に流れ込んでいく。
「やっとじゃ!!やっと・・・真に斬りたいものを、斬れるのう!!!」
足に力を込める。
全身の力を、愛刀に注ぎ込む。
「お主に、返してやろう!!」
じりじりと、微かに刀身が動いた。
「手前勝手に、面白半分に、喰い散らかされた者たちの、怒りを!!」
一瞬気が遠くなる。
舌を噛んで無理やり意識を覚醒させる。
「恨みを!!」
懐の天鼓が何か叫んでいる。
セスルが、焦ったように細剣を引き抜いた。
「憎しみを!!!」
『―――ッヒ!?』
悲鳴が、空間に木霊した。
「があ、あ!!あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!」
軋む体に鞭を打ち、裂帛の叫びと共に腕を振る。
渾身の力と練りに練った魔力を乗せた愛刀は、確かに『何か』を、斬った。
そして、空間に無数のヒビが入る。
霞む視界でそれを確認しながら、わしは気を失った。
『・・・ベー!じゅー!べー!!』
耳元で天鼓が怒鳴っている。
「む、う・・・」
まるで酷い深酒をした翌日のように、頭が痛んだ。
目を開けると、新緑が飛び込んできた。
・・・ここ、は?
『おぎだー!!ジューベー!!ジューベエエエ!!!!』
「起きたかジュウベエ。戻ったぞ」
涙目でわしを覗き込む天鼓の後ろに、セスルがひょいと顔を出す。
「・・・戻った、とは?」
どうやら地面に寝ておるらしい。
青臭い香りが鼻を突く。
「ジュウベエが『主』にダメージを与えたことで、あの空間が消えたんだ。ここはもう元の世界だぞ」
『復帰!復帰しましたー!』
天鼓の嬉しそうな声を聞きつつ、体を起こす。
むう・・・気怠い。
これは、以前にもあった魔力を使い過ぎた疲れか。
ままならんのう・・・残量もなにもわからぬ。
やはり、頼りになるのは元々持っておった力じゃな。
「おっと、あまり激しく動くなよ?キミは魔力がほぼ枯渇している・・・あの一撃は凄まじいものだったからな」
「・・・奴は、『主』は倒せて・・・おらぬ、よなあ」
どうにも、斬った手応えこそあれど、命を奪った感触はない。
「それはそうだ、あの空間の規模から察しても相手は恐らく『神』かそれに準じるもの・・・魔物のように斬ったら死ぬというものではない」
『ほとんどふじみー!』
不死身、か。
これはまた厄介な連中じゃな。
「わかりやすくいえば、あの時あそこに顕現しかけていたものは・・・そう、指の先くらいのものだ。まあ、それでも障壁を貫通してダメージを与えられるだけでとんでもないことなんだがな」
「っは・・・それはまた、随分と強い指じゃの」
アレで指先、とな。
ふん・・・容易い相手ではないな。
だからといって、諦める気は毛頭ないが。
・・・待っておれ、いつか必ず。
そっ首、叩き落としてやるわい。
「『神』達はそもそも生命としての成り立ちからして我々とは違う生き物だ。キミも、リトス様と付き合いがあるなら少しはわかるだろう?」
・・・はて。
こやつにその関係のことを、わしは喋ったのか?
「ああ・・・安心しろ。普通の人間にはわからんことだ、我々エルフに連なるものは、少々他より鼻が利くからな」
そう言うと、セスルは顔を近寄らせわざとらしく鼻を鳴らした。
「ふふ、強い男の匂いがするなあ」
長い睫毛じゃなあ。
エルフというものは美人揃いで眼福じゃ。
寿命が延びるわい。
「お主こそ、いい女の匂いがするのう」
「おや、嬉しいことを言ってくれるじゃないか」
『起きた瞬間に口説くのは禁止!きんしですよー!!』
かわいらしく頬をはたく天鼓を捕まえ、肩に乗せる。
さて・・・元の世界には帰ってきたが、これからどうしたものか。
「来るときは一直線に空から落とされたからのう・・・ここがどこかもわからんな。セスルはどうじゃ?」
「私に聞くか?こちらは『アヴェノ樹林』から飛ばされて来たんだぞ?」
ぬ、その名前には聞き覚えがある。
いつだったかセリンに聞いた、『地竜』の生息域の近所じゃな。
あんなに遠くから飛ばされて来たのか。
「天鼓はどうじゃ?」
『むーん、わっかんないけど~・・・人の住んでる場所とかなら、周りの子に聞けばわかるよ!』
おう、流石は精霊。
役に立つのう。
「・・・腹に力が入り辛いのう。もう少し休憩したら、動くとするかの」
「そうだな、人里まで行けば現在位置もわかる。それがいいだろう・・・幸いにもまだ日は高い」
そういうわけで、わしらは暖かな日差しの中で休憩することにした。
『どぞどぞ~』
天鼓が嬉しそうに、どこからか果物のようなものを取り出して渡してくる。
さっきの水といい、一体どこに入っておるのじゃ。
妖精用のマジッグバッグでも持っておるのか?
「ふう、甘露甘露・・・体に染みわたるな」
セスルも受け取り、上品に齧りついてる。
わしもその、リンゴとナシの中間のような果物を齧る。
・・・メロンの味がする。
この世界の食い物は、本当に面白いわい。
「ジュウベエ、キミがあの戦士にしたことは・・・なんだ?腹を斬るまで待って首を落とすとは、皆目聞いたことがない」
「ああ、あれは・・・・わしらの国での作法じゃよ。もう、歴史の彼方に消え去ったはずの、のう」
わしは、うまくやれただろうか。
さすがに、介錯の経験なぞないからのう。
「腹を自ら斬ることで豪胆さと武勇を知らしめ、首を断つことでその勇猛さに報いる・・・とまあ、こういうわけじゃ。誰にでも許される行為ではない、立派に戦いを終えた、戦士への礼儀のようなものよ」
「随分と凄まじい国から来たのだな、キミは」
・・・理解はしておらぬか。
まあ、さもありなん。
別に、わかってほしいほどのものではない。
『じゅーべーはやっちゃダメだかんね!まだまだ元気で私と一緒にいるんだかんねー!』
「こやつめ、かわいらしいことを言いよるわい」
『にゃむ~、へへへ』
顔に飛びついてきた天鼓の頭を撫でる。
切腹・・・切腹のう。
わしはせんじゃろうなあ。
どうせ死ぬなら、最期まで刀を握って・・・斬り殺されるのが性に合っておるわ。
その時・・・木々が、ざわめいた。
風ではない、これは。
魔力の、発露か。
果物を放り、立ち上がりながら抜刀する。
隣のセスルも、わしと同じように瞬時に戦闘態勢へ入った。
「妙な気配がするわい、なんじゃこれは」
「・・・ある種の魔物が産まれる時の気配に似ている。似ているが、それはエーテルの濃い場所でのことだ・・・今の状況には合致しない」
ほう、魔物は親の腹以外からでも産まれるのか。
なんとも、興味深い。
『みゃー!まただ!またへんなの来る~!!』
天鼓が悲鳴を上げるのとほぼ同時に、さほど離れていない場所の風景が歪んだ。
歪みの中から、何かが出てくる。
これは・・・
「ふむ、どうやら先程の『神』・・・よほどキミに腹を立てたらしいな」
わしの身長ほどもある、白骨の手が歪みから這い出してきた。
「空間を捻じ曲げてまで配下を送り込むとは・・・はは、熱烈なことだ」
そのまま手首が見え、腕が見え・・・ついには上半身が出てくる。
歪な鋭い角を生やした、白骨の巨人であった。
「執着されるのは、いい女だけにして欲しいものじゃが・・・まあ、よい」
「目がまるで真逆のことを考えているな?ふふ、本当にキミは人族か?・・・オーガやドラゴニアンの変異種だとすれば、納得もするが」
また知らぬ名前が出た。
おそらく好戦的な種族じゃな・・・覚えておこう。
いつか、戦いたいものじゃ。
「そんな目をしている所悪いが、魔力を使うのはよせ。枯渇ギリギリだからな、死ぬぞ?・・・最後の見せ場は私に譲ってもらおうか」
セスルの細剣に魔力が集まっていく気配を感じる。
すぐに、刀身に纏わりつく稲妻が顕現した。
「さて、デカブツにはこれが一番・・・あ」
何があったのか、細剣から稲妻が消えた。
『GGGGYYYSGHAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!』
全身を現し、名状しがたい雄たけびを上げる巨人。
その全長は優に10mを越えておる。
「おい、どうしたセスル」
なにやら興の削がれた顔のセスルに声をかける。
戦意すら雲散霧消しているような気配じゃ。
「ああ・・・うん、嫌な知り合いの気配がしたものでな。そして・・・私の見せ場は来ないらしいよ」
「ぬ?」
何のことか聞き返そうすると、わしも違和感に気付く。
なにかが、こちらへ向かって・・・
巨人の背後の空に、黒い点が見えた。
それはみるみる大きくなり、見覚えのある形になった。
「キュオッ!!クルルルルルルルルゥ!!!」
聞き覚えのある声まで聞こえてきた。
あれは・・・魔導竜!
どうやってわしらを見つけた!?
「やはりそうか・・・あーあ、せっかくキミにデキる女を見せつけられると思ったのだがな」
心底つまらなそうな表情で、セスルが細剣を納刀した。
どんどんこちらへ近付く魔導竜の背中に、誰かが乗っているように見える。
いや、アレは乗っているわけではなく・・・飛んでいる、のか?
『FAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAGGGGAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!?!??!?!?』
巨人が背後のそれに気づき、振り返ったその時。
魔導竜の背中にいる人影・・・レイヤが、その身長を越える長さの杖を振り下ろした。
魔導竜の周囲の空間に10を超える魔法陣が出現し、その全てから目もくらむ閃光を纏った光の柱が飛び出した。
『IGAAAARRRRAAAAAAAAAAA!!?!?!?!?!?!?!??!!??!?!?!!??!』
その柱はあっという間に全てが巨人へと着弾。
さらに強い閃光が走り、巨人は初めからいなかったかのように・・・吹き飛ばされて消え去った。
・・・なんという、魔力の渦。
あれが、『万識』のアルゥレイヤ・・・か。
凄まじいのう。
『竜ちゃんだ~!出迎えごくろー!!』
「キュオッ!キュオッ!!」
嬉しそうに両手を天に掲げ、飛び回る天鼓。
「やあやあジュウベエ。迎えに来たよぉ・・・おやおやおや、128年ぶりに見る嫌な女まで一緒じゃないか・・・気分が下がるなあ」
「・・・抜かせ、性悪婆」
頭上を睨みつけるセスルを見ながら、わしはようやく肩の力を抜いた。
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