第23話 十兵衛、宗教を知り、女神と再会する。

・精霊教とは、この世界において広く信仰されている多神教である。


あまねく自然に寄り添う精霊たちを慰撫し、感謝と信仰を捧げることを教義とする。


精霊と、その上位存在である者たちと契約を結んでおり、こと精霊機等の精霊を害する物の撲滅を邁進している。




・・・ふむ、なるほどのう。


これが精霊教か。


大体は神道のようなもんじゃが、実際に神々と意思疎通ができる点が違うのう。


・・・さて、なぜ今わしがそのような知識を確認しているかというと。






周りをぐるりとそやつらに囲まれておるからよ。




「・・・」「・・・」「・・・」




何か喋らぬか。


不気味でならんわい。








事の起こりはついさっきのことじゃ。




ラシュッド家での大立ち回りを経た翌々日、わしはセリンたちとの約束の刻限に魔法ギルドへと向かった。


色々疲れたので、昨日は一日のんびりとしておった。


受付で用向きを話し、前と同じソファーで待っておると急にまた受付に呼び出された。




「じゅ、ジュウベエ様・・・こちらに、いらしてください」




三つ目の受付嬢が、引きつった顔で奥を指し示す。


ふむ、何か用じゃろうか。




かなり緊張してる様子の受付嬢に先導され、いつぞやの闘技場めいたところにたどり着いた。


あの時は見物客やなにやらで賑わっておったが、今は人っ子一人おらぬ。




「わ、私はここで!すぐに相手方がいらっしゃいます!!」




そう言うや否や、すぐに受付嬢は消えた。


・・・ううむ、なんじゃろうか。




しばし腕組みをしながら待っていると、わしの周りに気配が現れた。


隠形・・・とも違うの。


まるで急に現れたようじゃ。




自然な動きで大刀の鯉口を切り、左手の内に棒手裏剣を用意する。




そうこうしているうちに、闘技場周囲の暗がりからそやつらは現れた。




全身を真白い布で隠し、見えるのは口元だけ。


音もたてずにゆっくりとこちらへ歩いてくる。


・・・耳の部分の布が出っ張っている。


恐らくハイ=エルフじゃな、こやつら全員。






そして、話は冒頭に戻る。




わしを取り囲んだきり、一言も喋らぬな。


何か言わぬか、不気味じゃのう。


精霊教じゃろうとは思うが、一体わしに何の用じゃ。




「・・・ジュウベエ様、ですね」




わしの正面の者がやっと口を開く。


何らかの魔法じゃろう。


男か女かわからぬ声に変えておる。




「・・・いかにも、お主らは?」




「わたくしは、ラトゥール。精霊教の司祭です」




ふむ、それなりの立場の者のようじゃな。




「・・・わしに用向きとは、ラシュッド家の精霊機についてか」




途端に、空気が張りつめた。


もはや殺気に近い。


・・・なるほどのう、精霊教にとって精霊機とはよほど邪悪なものらしい。


知識にもあったが、こうして目の当たりにすると実感するわい。


1日でわしまで特定するとは思わなんだが。




「悪いが、あそこであった以上のことは何も知らぬぞ」




精霊機とやらも、あの場で知ったことであるが。




「いいえ、ラシュッド家の精霊機の件ではありません。・・・あなたの剣を、調べさせていただきたい」




口調は柔らかじゃが、有無を言わさぬ迫力がある。




「ぬ?なぜわしの刀を?これは先祖伝来のわが愛刀・・・のはずじゃ。記憶が曖昧じゃがそれはわかる」




いかんいかん・・・記憶がない設定をしばしば忘れそうになるのう。


しかしなぜこれを調べたがる。




「あなたの事情については、バッフ様から聞いています・・・その上でお願いしたいのです」




「・・・精霊教に歯向かうつもりはないが、しっかりとした理由を聞きたい」




周囲からの圧が高くなる。


ふん、自分の愛刀を易々と預けられるものかよ。




「精霊機を破壊できるのは、より格上の精霊機かそれ以上の魔法剣のみだからです」




・・・なるほど、合点がいった。


つまりあの場でロアールの精霊機を叩き折ったこの刀に、精霊機疑惑が出ているというわけじゃな。


・・・面倒臭い事よのう。




「ふむ、調べはすぐに終わるのか?」




「はい、この場で」




それならば、よいか。


この場はそうせねば収まらぬじゃろうし。




「あいわかった、お好きになされよ」




わしがそう言うと、ラトゥールは小さく何かを唱えた。


すると、わしとラトゥールの間に荘厳な台座が姿を現す。


・・・魔法か、もう何が出てきても驚かぬわい。




「こちらへ、刀身を出して置いてください」




抜刀し、台座の上に刀を置く。


手を離す瞬間、脳裏にこちらの世界へ来た時の女神の言葉が蘇った。






『どうせお前以外が持てば生きてはおれぬ』






手を柄から離した瞬間、台座からみしりと音が聞こえた。


それと同時に、この前のような紫電が刀身からほとばしる。




一瞬後、台座はバキバキと音を立てながら割れ、刀は地面にずしりとめり込んだ。


・・・どうしたことじゃ、これは。




「んなっ・・・!?」「なんと・・・!!」「おお・・・!!」




周囲の白頭巾から驚愕の声が漏れる。


これは奴らにも想定外のことらしい。




「こ、これは・・・」




正面のラトゥールも同じように驚いておる。


魔法も消えたか、本来の声が聞こえた・・・女か。




「おお!おおっ!!」




わしの後ろから走り出た白頭巾が、感極まったように刀に手を伸ばす。


こっちは年寄りの男か。




「これは、これはもしや・・・」




わしは、そやつに声をかける。




「やめておくがいい、刀に触れるな」




一応な、あの言葉を知っておるだけに注意はしておく。




「何を言う人族めが!これはまさしく我らへの福音、お主ごときの好きにしてよいものではない!!」




聞かぬ、か。


わしはもう知らぬぞ。




「お、お止めなさいイェール師!それに触れてはなりませぬ!!」




ラトゥールも泡を食って言うが、一瞬遅かった。




「これは・・・素晴らしき神器っいぃ!?」




イェールとやらが柄に触れた瞬間、先程の紫電が一斉に襲い掛かる。


見る見るうちに布が焼け、全身が青白い炎に巻かれていく。




「がああ!?なあぜ!?何故ええええええええええ!?!?!?」




そのまま放電を続ける刀が、イェールの手を離れ空中へ。




「げぅ!?」




半回転し、イェールの頭部を唐竹割にした。


・・・即死じゃな、あれは。




どよめく周囲に見せつけるように、優雅に血振りの動作をした後。


刀は地面へ綺麗に突き刺さって沈黙する。




「こ・・・れは・・・」




絞り出すようにラトゥールが言ったその時。






空気が変わった。






まるで重さを持つかのように、全身に重圧が襲い掛かる。


精霊教の何人かは、その場に膝をついてしまった。


この感覚・・・前に覚えがある。


もしや・・・




その重圧が刀の前に凝縮した感覚の後。


一転して、辺りは清浄な空気に満たされる。


霊山のような空気・・・やはりこれは。






いつからそこにいたのか。


目の前に眩い輝きがある。


風もないのにゆらゆら玄妙に揺れる髪。


たゆたう衣。


そして、忘れもせぬ・・・あの美しい瞳。


荘厳な雰囲気を纏った美女・・・女神リトス様が、空中に浮かんでおった。






「あ・・・あああ・・・」




ぺたりと、ラトゥールが尻もちをつく。


他の教徒も似たような姿勢じゃ。


わしだけが空を見上げておる。




しばらくぶりじゃが、相も変わらず恐ろしい美しさじゃのう。




わしに目をやると、悪戯っぽい顔でリトス様は微笑んだ。




そして周囲の精霊教・・・特に死んだイェールとやらに視線を向け、口を開く。






『不遜である、下郎』






ずん、と音がするような幻覚。




「ぎっ!?」「あが!?」「うう!?」




どうやら重圧が、わし以外に襲い掛かったらしい。






『よくも薄汚い手で、許可なく我が加護に触れよったな、精霊の落とし児ども』






先程わしに向けたのとは違う、恐ろしい殺意を持った瞳。


まるでルビーのような深紅に染まっておる。


・・・これも美しいのう。




「お・・・許し・・・くださ・・・い、リトス・・・様・・・」




地面に這いつくばるラトゥールが、血反吐を吐きながら言う。


ほう、なかなか根性があるのう、こやつは。




『(久しいのう、十兵衛。そなたの様子、いつも楽しく見ておるぞ)』




頭に言葉が響く。


リトス様に目をやると、また先程の悪戯っぽい笑み。


その眼はエメラルドめいた緑色の優しい輝きじゃ。


・・・どうやら普段の様子は筒抜けらしい。




『(・・・先程のお怒りの様子もなかなか魅力的でしたのう、リトス様)』




そう考えると、不意に頭痛。




『(出会い頭に女神を口説くやつがあるか、戯けもの)』




つい、と片眉を器用に釣り上げたリトス様。




『(いや、ついつい再会が嬉しゅうて・・・お許しを)』




『(ふふふ、相も変わらず愉快な男よ・・・して、この場はどうする?こやつら全員捻り潰してもよいが?)』




物騒な女神様じゃな。




『(いいえ、どうやら他の連中は話が分からぬ馬鹿ではない様子。釘だけ刺せばよろしいかと)』




『(欲のない男・・・いや、自分で斬りたい男じゃろうな。・・・わかった、そなたに免じてそのようにしておこう)』




すると、リトス様は再び口を開く。






『この男に害なすこと、まかりならぬ。貴様らのものより、はるかに古き盟約が故に』






・・・出まかせを言いよるわい。


ついこの前の盟約じゃろうに。




『(さあびすじゃ、さあびす)』




『(そこまで贔屓されると、なにやら悪いですのう)』




『(ふふふ、我は我儘じゃ。それはこやつらもよおく知っておる)』






『此度はこの愚か者の命で収める。・・・二度目はないぞ、落とし児ども』






「あ・・・ありがたき・・・しあわ、せ・・・」




震えながらラトゥールが絞り出すと、ぱたりと倒れる。


重圧が消えたのじゃろう、他の連中も楽そうにしておる。




『(まったく・・・そなたとはもう少し静かな場所で再会したかったのだが・・・此度はこれで帰るぞ)』




『(それは残念・・・次はよき所で会えますかな?)』




空中からわしの目前に下りてきたリトス様は、わしの頭を抱え込む。


何とも形容しがたい色の瞳で、まざまざとわしを見つめた後。




『(そなたが望む限り、必ず)』




そっと額に口付けすると、空間に掻き消えるように姿を消した。


・・・額が何やら熱くてたまらぬのう。


気に入られたもんじゃなあ、わし。






「おうい、大丈夫か」




倒れたままのラトゥールに問いかける。




「・・・は、い・・・なんとか・・・」




口元の血を拭いつつ、よろよろとラトゥールは立ち上がった。




「すまぬが、もう刀を拾ってもよいかのう?」




「ご、ご随意に・・・なさって、ください」




許しが出たので、地面に突き立った刀を引き抜く。


・・・砂も血も付いておらん。


全く出鱈目な刀じゃわい。


納刀し、周囲を見渡す。




・・・ぬ?




イェールの死体がない。


・・・神隠し、というやつかのう。




「それで、わしへの疑いは晴れたか?」




ラトゥールに向き直ると、びくりと震えた後に口を開く。




「は、はい!それはもう・・・っひ!?」






『こらー!』『ぷんぷん!』『ゆるさんぞー!』






そこら中から、今度は精霊どもが湧きだしてきた。


・・・そういえば今までおらんかったのう、こやつら。




天井から、床から、はたまた空中から。


わらわらとわしの周りにまとわりついた精霊どもが、円状に広がる。


まるで盾のようじゃな。




『じゅうべえ、いじめちゃダメ!』




「お、お許しを!お許しを!!」




『もやすぞー!』




「ひいいい!お許しください精霊様!!」




『だめなんだから、ねー』




「はい!はい!誠に、誠に申し訳ございませぬ!!」




いい大人が、手のひらサイズの精霊に土下座の嵐じゃ。


精霊ども・・・わしが思うより偉いものなのか?






「精霊様ですわ!たっくさんの精霊様の気配がしますわーっ!!」




「セリン様!駄目ですぅ!今は立ち入り禁止ですぅ!!」




・・・何やら知った声まで聞こえてきた。




『じゅうべえ、だいじょうぶ?』『あねさまに、とめられてた』『いやなこと、されてない?』




「おう、お主らのおかげで助かったわい。今度礼をせねばのう」




『『『わーい!』』』






その後もしばらく騒動は続き、やっと精霊どもは帰っていった。




「ジュウベエ様・・・此度のこと、誠に、誠に申し訳ございません!!!」




目の前には、綺麗な土下座をする精霊教の一団。


異世界に来てこうまで見事な土下座を見るとは思わなんだわ・・・




「・・・なんですの、この状況は・・・」




「わしにもよくわからぬ」




いつの間にか背後におったセリンも、少し引いておる。




「誤解が解けたのなら、わしとしては何も言うことはない」




「なんと寛大なお言葉!我ら一同、感謝の言葉もありません!!」




「もう、顔を上げても・・・」




「いいえ!もうしばらくこのままでいさせてください!!お顔を見れる資格が我々にはありませぬ!!!!」




「そ、そうか・・・」




「(ちょっとジュウベエ!精霊教相手に、一体何をやらかしたんですの!?)」




「(後で説明するわい)」






そうしてよくわからぬうちに、精霊教の一団は帰っていった。


迷惑料として結構な大金をわしに握らせた上で。




いらぬと言うたが、断られたら死ぬ!という勢いでおしつけられたもんでのう・・・


あやつらにとって、精霊や女神に睨まれることは死ぬより辛いらしい。




刀についても、このまま持っていていいそうじゃ。


むしろ手放される方が困るようで、




「あなたについてはわが教団の隅々まで情報を共有させていただきます!あくまで教団内でのこと、ご迷惑は決して、決しておかけしません!!」




と、最後には涙声で言われた。


・・・まあ、駄目じゃと言われても持つがのう。








「・・・とまあ、そういうことがあった」




魔法ギルドの闘技場で、集まってきた仲間に顛末を話す。


先日のラシュッド家での立ち回りも合わせて。




ここは、セリン経由で貸し切りにしてもろうた。


他に人がおる所では、なかなかできぬ話じゃしのう。




「なんて濃い話ですの・・・この3日間でとんでもない濃度ですわ・・・」




セリンは頭を抱え。




「なにぃ!?あの後そんなことになってたのかよぉ!!あたいの馬鹿!酔いつぶれなきゃついて行けたのに!!!」




ペトラは悔しがり。




「メッ!ジュウベ、養生シナイ!悪イ子!メッ!!」




ラギには尻尾ではたかれた。


しなりが効いていて地味に痛い。


爺様扱いか、子ども扱いか、どちらかにしてほしいものじゃ・・・






「それにしても、リトス様が顕現なさるとは・・・わたくしが子供の時以来ですわ」




年齢を聞きたいが、やめておこうか。


口ぶりから察するに、かなり昔のことのようじゃな。




「ひええ・・・女神の雷かよ、おっかねえ・・・あの時触らなくてよかったなあ」




ぶるり、と震えたペトラが青い顔で言う。




「お主らが触れる分には、それほどひどい事にはならんと思うがのう・・・」




なんとなく、そういう予感がする。


あのイェールとかいう男は、わしの制止を振り切ってまで触ったのでああなったのじゃろうが。




「ジュウベ、凄イ!神ノ恩寵!加護ノ戦士!!」




びたんびたんと尻尾を叩き付けつつ、喜ぶラギ。


ラギよ、そうまで褒めるようなことでもないぞ。


わしの加護、翻訳だけじゃもの。




ぬ、そういえばこの刀はどうして・・・


丁度いい、セリンに聞いてみるか。




「のう、セリン。この前の戦いで起こったことじゃが・・・」




かいつまんで説明をすると、セリンはしばし考えた後に杖を出した。


先端に、丸く小さい炎の塊が出現する。




「これを、同じように斬ってくださいまし」




抜刀し、ゆっくりと斬る。


刃が炎を通過した瞬間、やはり何かが体から抜ける感触。


炎は、そのまま溶けるように消えた。




「・・・」




それをじっと見つめていたセリンが口を開く。




「・・・なんということですの、その剣には強力な魔法が込められていますわ」




「ふむ、そうじゃろうの。して、どのような?」




「あえて言葉にすれば、『拒絶』や『消滅』ということになりますわ」




・・・?


それはつまり、どういう・・・?




「魔法を『拒絶』するからこそ魔力で構成された刀身を受け止められますし、魔法を『消滅』させられるからこそ炎塊を斬れたのですわ」




ふむ、なるほどのう。




「合点がいった。セリンは説明がうまいのう、良い嫁さんになれそうじゃ」




「いやですわそんな・・・じゃなくて!いいこと!?この剣は史上稀に見る至宝ですの!その価値がわかって!?」




くねくねしたかと思うと、急に我に返ったのか胸倉を掴まれる。




「そうは言われてものう・・・これ、わしにしか使えぬのじゃろう?さほど気にせんでも・・・」




「ジュウベエごと取り込もうって連中もいるかもしれねえぜ、それ。一子相伝の魔法具持ちなんかに貴族がやるよ、たまにな」




ペトラが頭を掻きながら言う。


ほう、なるほど・・・そういうこともあり得るわけか。




「無理やり結婚させてよ、子供に受け継がせるんだ。まあ、ジュウベエのは女神様の魔法具だから、血筋だっつても継承されるかは微妙なんだけどな」




「ダメ!ダメ!!」




「ラギよ・・・爪が肩に食い込んで痛いんじゃが・・・」




随分とわしに懐いたもんじゃのう、こやつ。




「はぁあ・・・しかし知られたのが精霊教でよかったですわ・・・あいつらは精霊の言うことなら何でも聞きますし、今回はリトス様直々のお言葉ですから、死んでもジュウベエの情報は漏らさないでしょう」




セリンが頭を押さえて溜息をつく。




「ならばよかったではないか、一件落着じゃのう」




「ううう・・・国家どころか大陸が蠢動するレベルの魔法具・・・いや神器ですわね、それを持っている本人が一番能天気ですわ・・・」




遠い目をしたセリンが疲れたようにこぼす。




「今日はこの先の予定を決めるハズだったんですけど・・・明日にしましょう、疲れましたわぁ・・・」




随分と疲れておるのう。


お、そうじゃ。




わしはセリンの頭に手を置くと、ぽんぽん叩く。




「ならば今日は皆で食事といこうではないか!・・丁度いいことに使っても全く懐が痛まぬ金がここにあるしのう!」




「酒!酒は飲んでもいいか!?ジュウベエ!!」




「肉!肉ト野菜モ!!」




飲むのか、ラギ。




「おう!わしの奢りじゃ!どうせならいい店に繰り出そう!!」




「よっしゃあ!!」




「歓喜!!」




肩を組んでギルド方面の出口に歩いていくラギとペトラを見つつ、もう一度セリンの頭を撫でる。




「刀がどうでも、女神がどうでも、わしはわし、ただの十兵衛じゃよセリン」




「・・・妙齢の女性の頭を撫でることは、わたくしの部族では結婚の申し込みでしてよ、ジュウベエ」




・・・なに!?


慌てて手をどかしたわしに、セリンが片目を閉じて舌を出す。




「嘘ですわぁ♪・・・では値の張る所へ行きますわよーっ!!」




わしと手を組み、ぐいぐいと引っ張りながらセリンは歩いていく。


・・・やれやれ、これでどうにか収まったようじゃの・・・




その値の張る所がどんな場所なのか、わしは想像しながらセリンと歩き出した。








『じゅうべえ!』『おれい!!』『さとうみず!!』




「(随分と安いのう・・・お主ら)」

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