第24話 十兵衛、仲間と親睦を深める。
「ジュウベエ様、樽はこちらでよろしいですか?」
「うむ、すまんのうキトゥン嬢」
ここは、アリオ邸の中庭である。
そこの井戸端じゃ。
昨日は精霊教やら何やらで大層大変であった。
あの後、中々洒落た食事処で大いに飲み食いし、日付が変わる前に解散した。
よく考えたらわし以外全員若いおなごじゃからな。
あまり夜遅くまで連れ回すのも良くない。
・・・セリンは・・・心が若いからのう、うむ。
わしも色々と疲れたので早々に寝ることにた。
そして、朝起きるとすぐにキトゥン嬢に頼み、大きな空の樽を用意してもらった。
中が綺麗なもの、と前置きしてのう。
「あのジュウベエ様、いい機会なので言いますが・・・私のようなものに、嬢は付けていただかなくても結構ですよ?」
「ふむ、そう自分を卑下せんでもよいが・・・では同じ平民どうし、改めてよろしくのう、キトゥン」
「はい!よろしくお願いいたします!」
耳をピンと立ててキトゥンは微笑んだ。
「のう、ならわしにも敬語はいらんのじゃが・・・」
「ジュウベエ様はアリオ様の大事なお客様ですので!」
ふむ、しっかりしておるのう。
「それで、この樽をどうなさるんですか?」
「うむ、約束を果たすんじゃよ」
「約束・・・ですか?」
何が何やらわからぬ、といった顔のキトゥンを横目に、井戸から水を汲む。
バケツから黙々と水を樽に移しつつ、説明することにする。
「昨日、精霊に助けてもろうたんでのう・・・これが約束の礼じゃ」
「お水が・・・ですか?」
「あ、キトゥン!ジュウベエさま!」
邸から出てきたナリア嬢が、わしらを見つけて駆け寄ってくる。
「おはよう!キトゥン!おはようございますジュウベエさま!」
「おはようございます、ナリアお嬢様」
「おはよう、ナリア嬢」
とてとてと近付いてきたナリア嬢は、わしの作業に気付いて不思議そうに見てくる。
「ジュウベエさま、みずくみのおしごとですか?」
「ふふ、まあそのようなものじゃよ」
ようやく樽に水が満ちたので、足元の背嚢から壺を取り出す。
昨日食事に行く前に買っておいたものじゃ。
壺の口を覆う紙を取り、中の粉末を樽にざばざばと入れる。
同じように背嚢から柄杓を取り出し、つっこんでグルグルとかき混ぜる。
「じゅ、ジュウベエ様、もしや今のは・・・」
「うむ、砂糖じゃよ」
「お、おさとうをこんなにいっぱい!?」
2人は恐れおののいている。
昨日精霊どもに約束した『砂糖水』
前の世界の基準で安いと考えておったが、大間違いじゃった。
この世界は魔物の影響で物流が発達しておらん。
その上、農業や科学技術も未発達なので、砂糖というものの価値がべらぼうに高かったのじゃ。
安請け合いしたことを後悔したが、約束は約束。
身銭を切って砂糖を用意した。
なお、昨日の精霊教からもらった金は飲み食いと砂糖で綺麗に消えた。
あまり手元に残したくない金じゃったからのう、丁度よかったわい。
「ふむ、このようなもんかの」
ひしゃくから手に水を垂らし、ペロリと舐める。
・・・前の世界の砂糖と比べて雑味が多いが、まあ砂糖水に違いあるまいて。
そこまで考えて横を見ると、ナリア嬢とキトゥンが目を皿のようにしてこちらを見ている。
・・・ああ、この世界では甘味も貴重なんじゃろうなあ。
ましてやおなご、甘いものは好きじゃろうしのう。
「・・・わしは辛党での、すまぬが2人とも味見してくれぬか。ようわからん」
「そっ!そんなっ!?精霊様への貢ぎ物に口を付けるわけには・・・!!」
「そっそうです!そんなこと・・・!」
断る割にはキトゥンの尻尾はうねうね動いておるし、ナリア嬢は目をキラキラさせておる。
・・・正直者めが。
「精霊への貢ぎ物じゃからこそ、しっかり味を見ておかねばならぬじゃろう。ほれほれ」
なみなみとひしゃくに汲んだ砂糖水を、背嚢から出した2つのコップに入れる。
依頼に行くための背嚢じゃからの、コップも完備じゃ。
「あうう・・・そ、それでは・・・」
「い、いただき・・ます!」
2人は恐る恐るわしからカップを受け取り、ちびりと舐めた。
「「お、おいしい~~~~~・・・・!!」」
その後は言葉も喋らず、ゆっくりと堪能しておる様子じゃ。
ただの砂糖水で・・・幸せそうじゃのう。
今度依頼で金が入ったら甘いものでもこさえてやろうか。
さて、これで準備はできた。
早速呼ぶとしよう・・・む、そういえばこの2人には精霊と喋れることを言っておらなんだな。
・・・この2人になら言っても大丈夫じゃの。
「のう、2人とも。これからビックリすると思うが、後で説明するからのう」
「え?なにがですか?」
「・・・見てのお楽しみよ」
ナリア嬢に笑いかけると、空中に声をかける。
「おうい!約束の砂糖水ができたぞー!!」
ぽかんとした様子の2人が、次第に驚愕の表情に変わる。
見えぬようでも、魔力のざわめきに気付いたようじゃ。
『『『わーーーーーーーーーい!!!』』』
空中から、地中から、生け垣の中から。
無数の精霊が飛び出してきた。
風の精霊と・・・炎の精霊じゃな。
ぬ?青いのやら緑色やらも混じっておる。
別の種類の精霊かのう?
考えつくのは水やら大地じゃが・・・
『のみほうだい!』『でかしたじゅうべー!』『うれしみ!!』
わしの肩やら頬やらに纏わりつきながら、精霊どもは猛然と樽に突進していく。
わしらの目の前で、樽の砂糖水がみるみる減っていく。
・・・足りるかのう、これ。
「さ、さとうみずがどんどんへっていきます!」
「こ、この気配・・・ものすごい数の精霊様ですよ、お嬢様!!」
そうか、そういえば2人は姿を見れぬのじゃったな。
さぞ不気味な光景じゃろうて。
「(・・・のう、おぬしら。この2人はわしが世話になっておる恩人でな。姿を見せてやってくれぬか?)」
『しょーがないなー』『ちょっこしつかれるけど』『サービス!さーびす!!』
ぬ?
若干精霊どもが光っておるような・・・
「にゃ、ニャアアアアアアアアアアアア!?」
「わああっ!すごい!いっぱいいます!これがせいれいさまですか!?」
「お、2人にも見えたようじゃの。わしが頼んで姿を現してもろうたのよ」
いい思い出になるといいのう。
ナリア嬢は目をキラキラさせて周囲を見回しておる。
キトゥンはおっかなびっくりという感じじゃが、それでも嬉しそうじゃ。
『あじがこい!』『さとういっぱい!』『うれしみ!!』
精霊どもも喜んでおるのう。
大枚はたいた甲斐があるわい。
『このこ、おめめきれい!』
「ひゃあ!な、なんですかせいれいさま」
『このめ、くもらぬように~』
水色の精霊が、ナリア嬢の瞼にそっと頬ずりをし。
『このおみみも、きれーい!』
「にゃん!?にゃんですか!?」
『このみみ、よきおときくように~』
緑色の精霊が、キトゥンの耳に頬ずりをした。
・・・なんじゃそれは。
『しゅくふくー!』『じんわり』『しあわせになるのー!』
「ほう、随分気に入ったものじゃのう」
『ふたりとも』『こころも』『きれいだから!』
「まあ、それはわしにもわかるがのう」
悪いものでなければそれでよい。
リトス様よろしく持っていくのかと一瞬ひやりとしたぞ。
『『『またねー!!!』』』
樽を見事に空にした精霊どもは、周囲の空気や地面に溶けるように消えていった。
先程の喧騒は去り、静寂が訪れる。
毎度毎度、賑やかな奴らじゃわい。
「はわー・・・」
「にゃ~・・・」
2人は庭に座って半ば放心状態じゃ。
無理もないのう。
100以上はおったしな、精霊。
「さっきのは祝福じゃと、そう言っておったぞ。わしにはよくわからぬが」
「にゃん!?」
雷に打たれたように背筋を伸ばしたキトゥンが、ぎぎぎとわしの方を向く。
「じゅ、ジュウベエ様・・・ひょっとして、精霊様とお話が・・・?」
「うむ・・・外の者には内緒じゃぞ?」
「ええーっ!?すごい!すごいですジュウベエさま!!」
「ふふ、そうかのう」
ナリア嬢が立ち上がってわしの手を取り、ぴょんぴょんとはねる。
子供は無邪気でええのう。
孫がおればこんな気分なんじゃろうか。
いや、この体では子供か。
「その上祝福にゃ・・・精霊様の祝福にゃ・・・」
キトゥンはなにやらうわの空じゃ。
地の言葉?が出ておるぞ。
察するに祝福とやらは、なかなか珍しいものなんじゃろう。
「まあ、くれると言うなら貰っておけばよかろう。減るものではなし」
「あにゃにゃ・・・毎日砂糖水をお供えしにゃくては・・・」
「やめい、早晩破産するぞ」
当たれば高給取りのわしと違って、普通の女中じゃしの。
『きもちがこもってれば』『なんでもよし!』『おいのりでも』『おなかふくれる!』
ぬ、まだおったのか。
肩に乗るのが好きよな、おぬしらは。
「・・・今聞いたが、お祈りでも残飯でも、気持ちがこもっておればよいそうじゃぞ」
『ざんぱんノウ!』『ひどい!』『おに!あくま!こわえるふ!!』
「・・・残飯はいやじゃと」
セリンの別名がもう罵倒語として使われておる・・・哀れな奴よ。
「ね、キトゥン!じゃあまいにちおいのりしましょ!いっしょに!!」
今度はキトゥンの手を取って、ナリア嬢がぴょんぴょんはねる。
「・・・お祈りで、いいんですかニャ?」
「要は感謝の気持ちじゃ、それがなければ砂糖水とて泥水と同じことよ」
『きもちなくても』『あまいもの』『だいかんげい!』『べつばら!!』
・・・ややこしくなるから黙っておけ。
どうせ聞こえぬが。
「ま、たまに果物でも供えてやるがよかろうよ」
そういうことにして、話を切り上げた。
2人は決してわしと精霊とのことは口外せぬ、と約束してくれた。
・・・今までの経験から、人族で精霊と話せるものは、どうやらかなり珍しいこともわかっておる。
精霊教以外の変なところに目を付けられても困るのう。
まあ、殺しに来れば殺すだけじゃ。
わかりやすくてええわい。
「よしっ!今のはいいぞ!突くと見せて突かぬ、突かぬと見せて突く!その駆け引きが大事じゃ」
「は・・・はいっ!」
朝食後、アゼルの体が空いていたので稽古をつけてやる。
うむ、飲み込みが早いし素直じゃ。
これはひょっとしたら、いっぱしの使い手になるやもしれん。
時間を見つけて自主稽古もしておるようじゃし。
・・・前の世界の弟子を思い出すのう。
元気にしておるかの、田中野の小僧は。
・・・あやつは真面目な上に適度に性格が悪い。
最近は道場に来ておらなんだが、修練を積めば中々面白い使い手になるじゃろう。
まあ、前の世界で斬った張ったは早々起こらんじゃろうし無駄な心配じゃが。
「・・・はぁっ!」
考え事を隙と見たか、アゼルが今までで最速の突きを放ってきた。
狙いは喉元。
いい鋭さじゃ・・・が。
「うわぁ!?」
「馬鹿者、掛け声と視線で狙いが見え見えじゃ」
木刀の剣先を添え、少しばかりの力を加えて逸らす。
全力だったのか、アゼルは勢いよく地面に倒れ込んだ。
「倒れるな!全力で突きかかって体を崩せば格好の餌食ぞ!」
「はっ・・・はい!」
槍を支えに立ち上がったアゼルが、急に動く。
足元を刈り取るような払い。
跳んで躱すと、反転した石突が空中のわしに。
こやつ、これを狙っておったのか。
「っし!」
が、甘い。
石突を上から踏みつけ、着地して地面に縫い留める。
そのまま一足で懐に飛び込み、首筋でぴたりと木刀を止めた。
「まっ・・・参りました!」
「うむ、よくなっておるぞ。特に最後がよかった」
「ほ・・・本当ですか!」
「おう、切り返しの速度をもっと速くすれば当たっておったのう。精進せいよ」
「はいっ!ありがとうございました!!」
素直なことじゃ。
ふふ、たまには人に教えるのも悪くはないのう。
ナリア嬢のナイフも早く調達してやるとするか。
「ジュウベエ様、お客様方がお越しです。『七つ谷』のセリン様と名乗っていらっしゃいます」
稽古も終わり、汗を拭いて一息入れていると初老の男・・・リグがわしに声をかけてきた。
「おお、すまぬな・・・じゃが、本当に屋敷に入れても良いのか?」
「いえ、ジュウベエ様の客人は私どもにとっても客人でございます」
にこりと頭を下げてくるリグ。
・・・なんとまあ、信用されたものよ。
昨日の打ち合わせは、今日に日を改めることになった。
初めはただこの店の前で待ち合わせるつもりじゃったが、それを今朝聞いたアリオ殿が屋敷の応接間を使ってくれと言ってきた。
「ジュウベエ様のお仲間なら、悪い方々ではないでしょう」
との、ありがたい言葉と共に。
そこまでよくされると居心地が若干悪いのう・・・現状何も借りを返せておらぬし。
なにか考えておかねばな。
「お邪魔いたしますわ」
「ジュウベ、オハヨウ」
「いい屋敷じゃねえか、おっすジュウベエ」
応接間で待っておると、3人がやってきた。
「おう、わざわざ来てもらってすまんのう」
「いいですの、ジュウベエを外に出すと何か面倒ごとに巻き込まれかねませんから」
「人を問題児のように・・・まあええわい」
セリンはいつも通りじゃが、ラギは落ち着かぬ様子じゃ。
こういう家に馴れておらぬのかの。
ペトラは物珍し気に、周囲の調度品を眺めている。
「ようこそお越しくださいました。粗茶ですが、どうぞ」
ワゴンを押して入室してきたキトゥンが、わしらの前に茶と干菓子を置いていく。
「すまぬのう、キトゥン。いろいろ手間をかけるな」
「いいえ、ジュウベエ様のお客様ですから・・・皆様、ごゆっくりなさってください」
にこりと笑ったキトゥンは、一礼して部屋を去った。
「・・・随分と懇意ですわね?アリオ商会とどうやってコネを作りましたの?」
「うむ、盗賊に襲われとったのを助けただけなんじゃがなあ。ここまでよくしてもらうと逆に心苦しいわい」
「あら、そうですの?最近物騒ですわねえ」
優雅に茶を飲んだセリンが呟く。
「なあなあ、盗賊ってのはひょっとして・・・紫の宝玉がはまったでっかい斧を持ってるやつか?」
ペトラがやおら身を乗り出してきた。
おいおい、こぼれるぞ。
茶ではない何かが。
「お?・・・ううむ、そうじゃったような・・・?たしか斧の魔法具を使っておったのう」
「じゃあ間違いねえな、『風刃』って盗賊だ!そうか、ジュウベエが殺ったのかぁ」
あたいも狙ってたんだよなあ、とこぼすペトラ。
なかなかの賞金首だったらしいのう。
さほどの強敵でもなかったが。
「さて、それでは改めて打ち合わせを始めましょうか」
そう言うと、セリンが何やら地図のようなものを広げる。
む、この街がここにあるということは・・・これはこの前行った荒野周辺の物じゃな。
「この前地竜と遭遇したのが・・・ここですわ」
セリンが一点を指す。
ふむ、こうして見ると荒野の端も端よな。
入ったばかりの所じゃのう。
「見ての通り、こうまで『浅い』場所に地竜クラスの魔物が出没するのは異常事態ですの。わたくしの記憶では、ここ200年はなかったことですわ」
とするとセリンの年齢は・・・いややめておこう。
「地竜はええと・・・荒野を越えた先にある・・・何とか森林と言ったかの?」
「『アヴェノ樹林』ですの?」
「おおそうじゃ、そこから来たものか?」
「違ウ、首狩リウサギガソコ。地竜、モット先」
ラギが訂正してくる。
おお、あの気持ちの悪いデカいウサギどもか。
「地竜がよくいるのは『グロウル平原』ってんだ・・・この地図にゃあ載ってねえな。樹林を越えてさらに6日くらい行った先だな」
ふむ、確か荒野から樹林まで3日と聞いた。
ということは・・・町から最低9日歩いた先か。
かなり遠いのう。
「そこから来たということか・・・かなりの大移動じゃのう。確実に何事かあったな、獣が住処をこうも離れることはあり得ん・・・じゃろう?」
前の世界基準じゃがな。
こっちは飛ぶものやデカいものも多いし、どうかわからんが。
「ですわ。特に地竜は縄張り意識が強い竜種ですし・・・上位種によって追われた説が濃厚でしてよ」
ほう、上位種・・・面白くなってきた。
「出た出た・・・ジュウベエのその顔、おっかねえけど結構好きだぜ、あたい」
「爺様ソックリ!カッコイイ!!」
・・・わし、蜥蜴に似ておるのかのう。
「ジュウベエ・・・申し訳ありませんが、今回は行きませんわよ?」
なにっ。
そうなのか!?
「なんでそう不思議な顔をしますの!当たり前ですの!この分だと樹林の時点でかなり強力な魔物と出くわしますわ!」
セリンがきゃいきゃい言うてくる。
そうか・・・残念なことよな。
「ぬう・・・ではどうする?前のように荒野から行くか?」
「いいえ、今回行くのは・・・こちらですわ」
セリンが地図をひっくり返すと、そこにはまた別の地形が描かれている。
これは・・・港か?ではこちらは海じゃな。
「海か。なんでまたそうなったのじゃ」
今までとまるで逆方向ではないか。
「・・・地竜のせいですわ」
ぷくりとむくれたセリンが吐き捨てる。
こうするとまるで少女のように見える。
不思議じゃのう、エルフとは。
「あ、セリンひょっとして・・・『屠龍隊』が動くのかよ!?」
「そうですの・・・報告するの、遅らせればよかったですわあ・・・」
がくり、と項垂れるセリンに苦々しい顔のペトラ。
ラギは・・・この尻尾の動きはイラついておるな、多分。
「アイツラ、キライ!」
「なんじゃその・・・『とりゅうたい』とやらは」
項垂れた姿勢のまま、セリンが器用にこちらを向く。
「竜種専門の傭兵団ですわ・・・」
ほう、そんなものがおるのか。
「東西南北、竜と聞きゃすぐに駆け付けてきやがる連中さ。今までも、何度横槍を入れられたかわかりゃしねえ」
頭を乱暴に搔きながら、ペトラも不機嫌そうに吐き捨てる。
どうやら、傭兵の間でもあまり好かれておらんようじゃの。
「横槍を?傭兵間では優劣は基本的にないと聞いておるが・・・?獲物は早いもの勝ちのハズじゃろう?」
前に貰った冊子に書いてあったのを思い出した。
「アイツらは例外さ、幹部が全員『二つ名』持ちの大所帯だからな」
なんと。
それは凄い。
「おまけに貴族にも名が売れていますし・・・争うと後々面倒くさいんですの」
ほう・・・ああ、竜種の素材は貴族に人気らしいのう。
それもあるのか。
「戦ウトコロ、一度ダケ見タ。強イケド、勇猛違ウ、ゴーレムミタイ」
ラギは気に入らんようじゃ。
「まあなあ、アイツらの戦い方は正面から数で押し包んで狩るやり方だしよ。そりゃ強いし安全なんだが、淡々としてて見ててもつまんねえ」
「はは、その様子ではペトラの婿候補はおらんかったか」
「ダメダメ、どいつもこいつもむっつり黙っててよお。面白くもなんともねえや」
ふむ、屠龍隊のう。
まあ、覚えておくとするか。
立ち合いは望めなさそうじゃが。
「なんですの?ペトラのお婿さん探し、まだ続いてましたの。あなたより強い戦士なんて早々いませんわよ?」
「ま、二の次だけどなあ。世界は広いからよお、じっくり探すわ」
「婿・・・ペトラ、大人!」
尊敬した声色でラギが言う。
・・・こやつ、16なんじゃがな。
いまだに信じられんが。
「なんだよ、ラギもあたいとそう変わんねえだろ?あたい16だし」
「我、15」
「ホラ変わんねえじゃねえか」
・・・なんじゃと?
15!?
今15と言うたか!?
「(リザードの女性は大体16から17で体が完成しますの。見分けるコツは尻尾の先の色ですわ)」
驚愕しておるわしに、セリンがそっと耳打ちしてくる。
尻尾の先・・・
ちらりと見ると、紅い色じゃな。
「(成長が終わると綺麗な銀色になりますの。それまでは深紅でしてよ)」
・・・なるほどのう。
しかし15とは思わなんだ、わしより少し背も高いし。
15ならまだ爺様が恋しい年ごろじゃのう。
懐かれた理由がわかったわい。
孫のようなもんじゃな、うむ。
「(ちなみに、ラギはリザードでも小柄な方ですわ)」
・・・わしより背が高いのにか。
どうりで食うわけじゃ、成長期じゃもの。
「なあなあ、そういやジュウベエっていくつなんだ?」
ふと思いついたように、ペトラが顔を向けてきた。
「なな・・・さて、曖昧じゃが30くらいかの」
危ない危ない。
急に聞かれたので、危うく実年齢を言うところじゃったわい。
「へー・・・25くらいかと思ってた。人族はわかりにくいなあ」
「上ノ兄サマト、同ジクライ」
ラギは随分と年の離れた兄貴がおるんじゃの。
・・・待てよ、たしか爺様が255歳じゃと言っておったな。
それならばありえるか。
「む、そうじゃ。今まで聞きそびれておったが、ペトラはどういう種族なんじゃ?」
頭部の角から人族ではないと思っておったが・・・
「あれ?言ってなかったか、あたいは『リ・オーガ』・・・になんのかな?オーガはオーガなんだけどよ、結構血が混じってるらしくて」
「ああ、ダイドラが言っておった種族か。勇壮な者が多いとか」
実際には乳がデカいという情報しか知らんがな。
あの戦いぶりを見れば種族もそういう感じなんじゃろう。
「まあ、傭兵か兵隊で飯食う奴らがほとんどだなあ。ジュウベエも似たようなもんだろ?あんなに強いんだもんよ」
「うむ、多分そうなんじゃろう」
適当に話を合わせておこう。
たしかひいひい爺さんは侍じゃったはずじゃし。
「しかし、ジュウベエ程の腕を持つ集団ならもう少し知られていてもいいはずですが・・・やはり他の大陸から飛ばされて来たのかもしれませんわね?」
「海の向こうか・・・空でも飛べりゃ、行けるのになあ。船旅は命懸けだしなあ」
「ジュウベ、寂シクナイカ?ウチノ部族、イツデモ遊ビニ来テイイ」
「お主は優しい娘じゃの、ラギ」
「・・・照レル!!」
「大分脱線しましたけど、次の目的地は海方面でよくて?」
しばらく世間話で盛り上がっておった。
いかんいかん、竜の話から大分膨らんでしもうたの。
「わしはどこでもよい。海も見ておきたいしの」
「あたいも!」
「問題ナイ」
一瞬で決まったのう。
ま、司令塔はセリンじゃ。
そこはおまかせする。
わしは戦えればそれでよい。
「さてと、それじゃあ飯でも食いに行くかの?ちょっと早めの夕食じゃが」
気付けば夕方になっておる。
大分長い事無駄話したしのう。
「お、いいねえ!行こうぜ」
「行ク!」
「そうですわね、お腹も空きましたし・・・」
連れ立って応接間から出た所、キトゥンと丁度鉢合わせた。
「あら、ジュウベエ様。お話はお済みですか?」
「おう、長い事使わせてもろうて助かったわい。これから飯を食いに出るところじゃ」
「まあ!それはいい所でした!皆さんも夕食をご一緒にいかがです?」
なんと。
さすがにそれは・・・
「いやいや、さすがにアリオ殿に悪いわい」
「いえいえ、ご遠慮なさらず。私どもも皆さんのお話を聞きたいですし」
当の本人が歩いてきおった。
「ジュウベエ様のお仲間でしたら、問題ありませんよ」
「いやいやいや、さすがにそれは・・・」
「実は、もう用意もしておりましてな。食材が無駄になりますし、ささ、どうぞどうぞ」
・・・押しが強いのう。
さすがに一門の商人じゃ。
「ぬう・・・というわけなのじゃが、お主ら、よいか?」
「え、ええ・・・そちらがよろしければ」
「あたいみたいのでもいいんなら・・・」
「・・・ジュウベガ、イイナラ」
さすがにセリンも驚いておるな。
ペトラも面食らっておる。
唯一堂々としているのはラギじゃな。
・・・わしの衣の裾を持っておらねばじゃが。
というわけで、急遽食事を共にすることになった。
しかしまあ、本当にずいぶんと信頼されたもんじゃわい。
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