第35話 十兵衛、(二重の意味で)暴れる。

セイレーンのアマラに先導され、歩くことしばし。


わしは、アマラの店の前に立っていた。




「・・・ここは、食事処というわけではなさそうじゃのう」




店を見上げて呟く。




「あら、食事処なんて言ってないけど?」




くすくすと笑うアマラ。


まあ、たしかに言ってはおらんかったが。




『岬の女王』と書かれた看板には、右側に艶めかしい人魚の足。


そして左側には煽情的な表情で片目を閉じるセイレーンの顔が描かれておる。


店自体の雰囲気も落ち着いてはいるが、隠しきれない淫猥さが見え隠れしておるの。




これは・・・どう見ても娼館ではないか。




「・・・のう、わしは普通に飯を食いたいんじゃが・・・」




「ふふ、安心してジュウベエさん。ウチはこの時間帯は食事処もやってるのよ?」




・・・本当かのう?


悪戯っぽい顔をしているアマラからは、虚実が読み取り辛い。


だがまあ、嘘ではないんじゃろう。


店の中から魚を焼いたような香ばしい匂いが漂ってくる。




「ふむ、それならお邪魔しようかの」




「はぁい、1名様ごあんなーい!」




楽しそうにわしの手を引くアマラに続き、店へと入った。






入ってみると、なかなか面白い店構えであった。




恐らく3階建てであろう建物の1階は、傭兵ギルドの酒場のようにカウンターとテーブル席がある。


わしの他に客はおらんようじゃ。


奥の方には俗に言う『お立ち台』の姿も見える。


2階と3階部分は吹き抜けになっており、黒糸館のように個室のドアがずらりと並んでおる。


なるほどのう・・・『あっち』の舞台は2階と3階、飯を食ったり女を選ぶのは1階というわけか。




さすがに片道の依頼を終えたその日に女を抱くほど飢えてはおらん。


色々あって疲れておるし、なにより夕方にもなっておらん。


飯だけ食って退散するとしようかの。




通されたテーブル席に座って待っていると、店の奥からアマラが戻ってきた。


ここからでも少し調理器具が見える。


あそこが厨房かの。




「それで、ご注文は・・・『サシミ』でいいのよね?」




なんと。


こちらでもそう呼ぶのか。




「確認じゃが・・・『サシミ』というのは、魚を短冊状の食べやすいサイズに切って魚醤につけて食う料理じゃな?」




だが、ひょっとしたらわしの知っておる刺身とは違うかもしれんので一応聞いておく。


名前は同じでも踊り食いとかじゃったら流石に困るしの。




「ふふ、そうに決まってるじゃない。ジュウベエさんのお国では違う呼び方なの?」




「ああいや、ふと気になっただけじゃ・・・それならそれでよい」




ふうむ。


この世界にも日本のような国、もしくは文化圏があるのやもしれん。


なんとも、不思議なことよな。


あの猫の店員が言っておった『東国』というのがそれなんじゃろうか。


・・・あいにく頭の中の百科事典には、それに類する項目はないようじゃ。




「はぁい、少々お待ちくださいねぇ」




そう言うと、アマラは先ほど買った魚を持って腰を振り振り厨房に入って行った。


うーむ、いい尻をしておる。


・・・それにしてもあやつが料理をするのか?


てっきり娼婦かと思っておったが・・・


まあ、切るだけじゃからさほどとんでもない代物は出てこんじゃろう。


待つとするか。


・・・それにしても腹が減ったのう。




不意に視線を感じた。




編み笠を脱ぐ時に、視線を軽く走らせる。


・・・2階の手すりに寄りかかって、こちらを見ている娘がおるな。


短髪のセイレーンじゃな。


アマラとは違って、大柄な女じゃ。


恐らく、わしよりも上背がある。


ペトラといい勝負じゃな。


筋骨隆々・・・とはいかんが、各所に鍛え上げられた筋肉が見て取れる。


じゃがペトラとは違い、艶も妖艶さもある。


年齢は・・・ううむ、わからん。


恐らく今のわしより少し若いくらいじゃと思うが・・・この世界の人種、見た目通りの年齢をしておらんからのう。




そやつはわしの方を見ながら、淫靡な舌をちろりと出して唇を舐めた。




・・・値踏み、されておるな。


男としてか、戦士としてか。


まあ、わかっておるがな。






「お待たせしましたぁ~」




2階の女から見られつつ待っておると、アマラが大きい皿と瓶を持って戻ってきた。




「どうぞ、テンタクラーの『サシミ』よぉ」




ことり、とわしの前に置かれた皿には。


わしが考えた通りの刺身が乗っておった。




魚部分は・・・タイに似ておるな。


上品な白身じゃ。


脂も乗っておってキラキラと光っておる。


そして触手・・・というかタコの部分は、まさしくタコの刺身じゃな。


刺身の横には、魚醤を入れるであろう小皿が添えられておる。




「ほう、これは美味そうじゃ・・・この小皿の横にある赤い粉末はなんじゃ?」




「これは乾燥させた海藻の粉よ、ピリッとした味が好きなら使ってみて?」




わしの横に腰かけたアマラが言う。


指に粉を付け、舐めてみると鋭い辛みがある。


ふむ、山葵ではないが・・・唐辛子のようなものかのう?


海藻にこんなものがあるとは・・・辛いのは好きじゃから、今度市場で探してみようかのう。




「うむ、気に入った。それではいただこう」




「私もいいかしら?」




「はじめに言ったであろう、これだけの量じゃし一緒に食おうではないか」




「お酒も、飲む?」




「まだ日も高いゆえわしはいらぬが、お主は好きにするといい」




そう言うと、アマラは嬉しそうに瓶の口を開けた。




添えられておったのは2人分のナイフとフォークじゃが、わしは懐から箸を取り出す。


やはり刺身は箸で食いたいからのう。




「へえ、それで食べるのねえ」




興味深そうにこちらを見るアマラをよそに、わしはまずタイの方を掴んだ。


魚醤と海藻粉を付け、頬ばる。


口いっぱいに海の香りと、魚のうまみが広がる。


ううむ、美味い。


これはタイと言うよりヒラメじゃな。


昆布締めにしても美味いじゃろうのう・・・




「美味い!最高じゃ!」




「あら、お口に合ってよかったわぁ」




くすくすと笑い、アマラはフォークで刺した刺身を上品に口に運ぶ。




「・・・んん、新鮮ねえ・・・さすがルルフが仕入れた品だわぁ」




ルルフというのはさっきの猫娘の店の名前じゃろうか。


随分とわしを見張っておったようじゃな。


・・・まあ今はそんなことより久方ぶりの刺身じゃ!




タコの方へ箸を伸ばし、同じように頬張る。


うーむ、ねっとりとしておって魚醤がよく絡んで・・・


・・・イカじゃな、こちらは。


見てくれは完全にタコじゃが・・・おもしろいのう。


魚醤を塗って焼いても美味いじゃろうなあ。




「うむ、こちらも美味い!!」




「ふふ、本当に美味しそうに食べるわねえ・・・それだけで肴になりそう」




お猪口のようなグラスで酒を飲みつつ、アマラが笑う。


・・・なんじゃ、その緑色の酒は。


どう見てもインクにしか見えぬが・・・




「ほれ、注ごう。こんな美人に手酌させては悪い」




「あら、紳士ねぇ」




瓶を持って促すと、アマラは杯を空にして差し出してきた。


ほんのり上気した桃色の頬が、その青肌と相まってえもいわれぬ色気を醸し出しておる。




「いい男に注いでもらうと、いつもより美味しいわ」




「嬉しいことを言ってくれるのう」




酒を注ぎつつ、刺身を頬張る。


異世界で刺身が食えるとは・・・感無量じゃ。


ここに来れてよかったわい。


一つ難点なのは、白飯がないところじゃがな。


まあ、贅沢を言ってもしょうがあるまい。


刺身があるんじゃ、白飯もきっとどこかにあるわい。






「さっき衛兵が門の近くでケラトが出たって騒いでたけど、ジュウベエさんが戦ったのねえ」




「おう、なかなか硬い殻じゃったわ」




刺身を綺麗に平らげ、腹を満たした後。


わしはアマラと他愛もない話をしておる。


刺身だけで大分腹が膨れたわい、6分目といった所かのう。




「見た所怪我もしていないみたいだし、強いのねえ」




「なあに、仲間のお陰じゃよ、仲間の」




最後の1匹はセリンがいなければ危なかったしのう。




「でも全部で4人って言ってたでしょう?そんな少人数で群れを相手に無傷で勝つなんて・・・すごいことだわぁ」




アマラはわしにしなだれかかって、潤んだ目で見つめてきた。


おいおい、随分と積極的じゃのう。




「ははは、お主らセイレーンも剛の者じゃと聞いておるぞ?」




「あら、海の中なら遅れは取らないけれど、陸となるとねえ・・・私は苦手だわ」




ふむ、そう言えば人魚であったな。


確かに人魚が陸上で縦横無尽に活動するのは違和感があるのう。






「私は・・・と言ったのう、アマラ。それではわしの後ろのお嬢さんは・・・違うようじゃのう」






そう声をかけると、アマラはぴくりと体を震わせた。






「はは・・・気付いてたのかい、ジュウベエさん」






背後から声がかかる。




「そりゃあのう・・・お主のような美人が見つめてくるんじゃから、わからぬはずもあるまいよ」




「へえ、嬉しいねえ」




先程2階におった女が、背後におる。


刺身を食う間に下りてきたようじゃな。


気配を殺しておったつもりじゃろうが・・・いかんせん視線が熱烈すぎたからのう。


アレでは気付かぬ方が難しいというものじゃ。




「それで?わしに何の用事じゃな?」




立ち上がって振り向くと・・・やはりあの女じゃ。


ほう、近くで見るとますますいい女じゃ。


アマラとは違った美人じゃな。


胸と股間の部分を僅かな布地で隠しただけ、ときておる。


・・・それがガサツに見えんのは、娼婦ゆえか。


恰好はほぼペトラと同じだというのに、のう。




「いやなに、あんたがいい男だからさ。ちょっと付き合って欲くなっちまってね」




「ほう、こんな日の高いうちからか?」




そう言うと、女は歯を剥き出して獰猛に笑った。




「そっちだって・・・いつでもいいって顔、してる癖に」




「はは、これはまた熱烈じゃな」




女から濃密な殺気が放出される。


肌が泡立つ。


はは・・・たまらんのう。


わかっておったよ、初めから。


『そっち』の誘いじゃということはのう・・・?




「ちょ、ちょっとウルリカさん!やめてくださいよ!!」




アマラが泡を食ったように叫ぶ。


ふむ・・・こやつが店主ではなかったのか?




「黙ってなアマラ・・・ねえ?いいだろうジュウベエさん」




だらりと下げた手を、ごきりと鳴らすウルリカ。




「挑まれてはのう・・・嫌とは言えんな、じゃが条件がある」




二刀を鞘ごと抜き、椅子に立てかける。




「ふうん、なんだい?そっちが勝ったら飲み食いの料金はタダでいいけど」




「そんなみみっちいことは言わんわい。・・・わしが勝ったら、『上』でも一勝負せぬか?」




そう言うと、ウルリカは面食らったように目を丸くした。




「・・・俺ぇ?あ、アマラじゃないのかい?」




予想外だったのか、頬を軽く染めて問い返してくる。




「なんじゃ、お主は娼婦ではないのか?」




「いや、そうだけどさ・・・」




「なら決まったのう、わしはお主がいい」




強そうなおなごは大好物じゃ。


その上これほど美人とあれば・・・誘わぬ理由がない。


腹も満たされたことじゃし、据え膳も頂くとするか。




「・・・そうかい、じゃあ俺が勝ったら・・・『上』で一勝負しようか」




「ぬ、同じことではないか?」




「主導権握られんのは、趣味じゃないんでね」




「・・・気が合うのう、わしもじゃよ」




視線を合わせて笑い合う。




「ああもう・・・はいはい、わかったわよ・・・みんなァ!手伝ってェ!!」




立ち上がったアマラが、呆れたように大声を出す。


すると2階や1階の奥から何人ものセイレーンが出てきた。


・・・大まかな気配は感じておったが、こりゃまた大勢おるのう。




セイレーンたちは嬉しそうにてきぱきとテーブルを運び、あっという間に広場を作った。


そして何人かが、奥にあったお立ち台をその空間に運んでくる。


いや、お立ち台ではないな・・・これは。




「店の中に闘技場とは、なんとも素敵な店じゃな」




「え?ジュウベエさん知らなかったのかい?ウチらセイレーンの娼館はこれが普通だぜ?」




きょとんとしたウルリカが言ってきた。


セイレーン・・・なんともイメージと違う種族じゃな。


もうアマゾネスと名乗った方がいいのではないか?


人魚姫のイメージが音を立てて崩れていくのう・・・




「わしはただ飯を食いに来いと言われたからのう・・・この街に来るのも初めてじゃし」




「あらら・・・てっきり知ってて来たのかと思ってたわあ、じゃあやめとく?ジュウベエさん」




アマラが背後から声をかけてくる。




「まさか、願ったりかなったりじゃよ・・・おっとそうじゃアマラ、わしの刀には触れてくれるなよ?」




「なあに?盗まないわよ?」




「ちーがう、ちがう」




わしは笑いながら二刀を持ち、壁際に移動させた。




「まあなんというか、わし以外が勝手に触ると最悪死ぬるぞ。焼死体になりたくなければこのまま置いておけ」




何が何やらといった表情のアマラを尻目に、設置された闘技場へ上がる。


羽織と襦袢を脱ぎ、上半身裸となる。


手裏剣やらなんやら入っておるしな。


向こうが素手じゃもの、こちらもそうせねば無粋というものよ。




「・・・いい、体じゃないか」




ウルリカが言ってくる。




「なあに、お主も中々のものじゃよ」




いつの間にやら周囲はわしらを囲んで、セイレーンが車座になって見ている。


どうやら日常茶飯事ということじゃな、ここでは。


娼館で格闘試合とは・・・異世界は広いのう。




「ルールはシンプルだ。殺しはナシ、急所はナシ、気絶するか降参するまでやる・・・いいかい?」




「構わんよ。じゃが、急所は好きに狙っても構わんぞ?」




「とんでもない、ご自慢の『剣』が駄目になっちゃ楽しめないだろう?でも安心しな、仲間に治癒の魔法が使えるやつがいるからね」




「ああ、なるほどのう・・・」




そこだけは娼館らしいのう。


しかし治癒魔法とは・・・好きなだけ殴り合えということか。


はは、なんとも・・・素敵な店じゃ。




向かい合って構える。




ウルリカは腰を落とし、両手を広く広げる。


ふむ、レスリングのような重心じゃな。


組技が得意と見た。




わしはゆるく右拳を握り、脇へ。


左手は腰の位置、掌は下に。




「『ポルク棚』のウルリカ・・・行くよ!」




出身地かの?


ならばわしも名乗るか。




「南雲流、十兵衛・・・参る!!」




わしらは同時に地を蹴った。






「らあああああっ!!!」




低い姿勢でウルリカが走り込みながら手を突き出す。


ほう、速い!


そこまで低い姿勢でよくも動く!




「っしゃあ!!」




まずは小手調べ、顔面目掛けて蹴りを放つ。




足と手が鈍い音を立てて衝突する。




ふは、重い!


わしの蹴りと拮抗するとは!!




「おらァ!!」




ウルリカの空いた手が、拳を作ってわしの顔面に向かう。




「っし!!」




踏み込み、それをいなしつつわしも顔面に掌を打ち下ろす。


狙うは、顎先。




「っが!?」




ほう、脳が揺れんか、これで!


なんという強い首じゃ!




「うるあァ!!」




ウルリカはいなしたはずの手でわしの袴の帯を掴み、引き込もうとする。


やはり、組技に持ち込む気じゃな!




「ぬぅん!」




重心を下方にずらし、しっかりと踏みしめる。


わしが動かぬとわかり、わずかに狼狽するウルリカ。


その隙に左手で腰布を掴み、瞬時に上方向へ引っ張り上げる。




「んぁっ!?」




やけに色っぽい悲鳴を上げ、ウルリカの上半身が起きる。




「っふ!!」




右拳を、その立派な腹筋の中央へ叩き込む。


撃ち込み、さらに体移動でそこから体重を乗せて押し込む。




打撃によって緊張した腹筋が緩んだ瞬間に、拳を押し込んで追撃。


『二段抜き』と呼ばれる手法じゃ。


筋肉は鍛えられても、内臓は鍛えられないからのう。


こいつは、効くぞ?




「んぐ!?」




二段目を放つと同時に掴んでいた手を離すと、ウルリカは打突の勢いに押されて後方へ吹き飛ぶ。




「ぐあぅ!?・・・ぐるうああああああっ!!!」




壁に重々しい音を立てて激突したが、獣じみた咆哮を上げて瞬時に飛び掛かってくる。


ほうほう、なんとも硬い筋肉じゃのう。




まるで鞭のようにしなる下段蹴りを跳んで躱すと、空中に向かってすかさず旋回した蹴りが放たれる。


なんちゅうバネじゃ!


これは避けられんのう!




蹴り足の関節を、肘と膝でギロチンのように挟む。


手応えあり、じゃ!




「ぎいいあああああ!!」




たいそう痛かろうに、なんとそのまま振り抜いてきおった!


おいおい筋を痛めるぞ!




飛ばされた勢いに逆らわず、膝を屈伸させて壁に着地。


衝撃を逃がしつつ、背中のバネを使って地面に下りる。


ウルリカは足を押さえ、苦悶の表情。




ううむ、タフさが仇になっておる。


このままやれば壊してしまうわい。


この世界の人間はなまじ体が強靭な分、関節技に対する研鑽が浅い。


思い切り殴れば事足りるからのう。


じゃが、肉体表面の損傷に比べて内部のそれはもっと重篤な事態を招く。




・・・よし、アレを使うか。




「アマラぁ!治癒魔法の使い手、必ず準備せいよ!」




「え、えぇ・・・わ、わかったわ」




構えを変える。


左手の掌を前に、右拳は弓を引くように腰へ。




わしの空気が変わったのに気付いたか、ウルリカは表情を険しくした。


傷む足を気力で押さえつけ、またも前傾の姿勢。




大地を蹴り、一気に最高速へ加速する。


ウルリカも踏み出すが、足の痛みに邪魔をされてか一拍遅れた。




「があああああああああああっ!!!」




それでも声を上げ、速度の乗ったいいパンチを放ってくる。


まともに喰らえば、頭蓋骨は陥没するのう。




まともに、喰らえばじゃが。




パンチに添えるように左手を巻き付かせ、手首の関節を極めながら引く。


同時に、上半身を回しながら床に足を踏み下ろす。


半身の旋回と、大地を踏みしめた体重。




「破ッッッッッ!!!!!!!」




それらを全て右拳に乗せ、ウルリカの鳩尾へ叩き込んだ。


突き抜ける衝撃と共に、ウルリカの背中から汗が後方に霧のように広がった。






南雲流甲冑組手、奥伝ノ五『鎧貫き』


本来は甲冑相手の技じゃが、この肉体なら鎧のようなもんじゃろう。






「っが・・・あぁ・・・」




目を見開き、悲鳴を絞り出した後。


ウルリカはそのままどすんと尻もちをついた。




「アマラ!はようせい!!」




「は!はいっ!!」




アマラと一緒に、杖を持ったセイレーンが駆け寄りすぐさま治療に入る。






「おう、もう大丈夫そうじゃのう」




「あ、ああ・・・」




しばらく後、治療を終えたウルリカに声をかける。


ふむ、打ち込んだ痕も消えておる。


さほど内臓は傷ついておらんじゃろうから、治りも早いじゃろう。




「まさか俺が、素手で負けるとはな・・・」




「世界は広い、ということよ。ほれ」




手を差し出すと、ウルリカは恥ずかしそうに掴んで立ち上がる。




「はっは、さっきまでの威勢はどうした」




「お、俺より強い男なんざ、親父以来だったからさ・・・」




しおらしくわしを見つめ、照れくさそうにしておる。


ふむ、さっきまでの様子もよかったがこれも中々・・・




「さてと、それでは親父にはできなかったことをしてやろう、かの!」




「きゃあっ!?」




足をさらい、横抱きにするとまるで娘のような悲鳴を上げた。


ふむ、重いが・・・思ったほどではないな。




「では、もう一勝負といこうか」




「あ、う、う・・・うん」




顔を近づけると、目を潤ませて見返してきた。


ふふ、近くで見るとますますいい女じゃな。




「よし、では行くとするか」




そのままの状態で歩き出す。


どうせなら最上階へ行ってみるかのう。




「ご、ごゆっくり・・・」




背後からアマラの声を聞きながら、わしは階段を上った。






「さて、まずは水でも浴びねばな・・・さすがに汗をかいた」




「・・・早くしとくれよ、我慢、できそうにないから・・・」




「ふふふ、可愛い奴よの」




「~~~~~っ」






『~~~~~~♡!!!!!♡!!!~~~~~♡!!!!!』




「姐さん声でっか・・・」




「いいなあ・・・いいなあぁ・・・」




「っていうかあの人族さん化け物じゃない?族長がまるで生娘扱いよ?」




「あとで混ざろうかなあ・・・」




「やめときなって、殺されるよ。姐さん多人数嫌いだし」




「ううう・・・うにゅうう・・・!!」




「アマラ、諦めなよォ、姐さん相手じゃ分が悪いよ」




「わた、私が連れてきたのにィ・・・!!!」




『ぜつりん!』『けだもの!』『ぶんぶんまる!!』




「・・・なんかここ精霊の気配濃くない???」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る