第50話 十兵衛、旅立つ準備をする。

「っふ!」




朝の空気を切り裂いて、木剣が迫る。


わしの太腿を掠める軌道で振るわれるそれを、こちらも木剣で逸らす。




「えいっ!」




逸らされた勢いを利用し、加速した木剣が・・・今度は反転して脛へ。


ふむ、いい勢いじゃな。




「ほっ・・・と」




引き戻した木剣が大地へ突き立つ。


それによって脛への攻撃を阻止された木剣が止まった。


・・・手応えも中々じゃな。


しっかりと体重が乗っておる。




「ふむ・・・よし!」




「はぁ・・・ふぅ・・・あ、ありがとう、ございましたっ!」




わしの声に、どちゃりと地面へ尻もちをついたのはナリア嬢であった。


滝のような汗をかき、息も絶え絶えじゃが・・・目にはまだ力がある。




「今までで一番良い、特に逸らされてからの加速・・・ふふ、この前わしの言ったことをよく覚えておったのう」




キトゥンから渡されたタオルで、その顔を拭ってやる。




「え、えへへぇ・・・」




ナリア嬢は、疲れてはいても嬉しそうじゃ。




「短い期間だとは言え・・・よう頑張ったのう、いい子じゃいい子じゃ」




「ふみゅぅ・・・へへぇ・・・」




汗をぬぐうついでに、頭を撫でてやる。


そうすると、ナリア嬢は花が咲いたように笑った。


・・・孫がおるとすれば、このような気持ちなんじゃろうか。




「さて・・・では確認しておこうかの。・・・小太刀の使い方とは?」




「・・・てあしのさきと、かんせつのうら、それにふといけっかんをなぞってきる!です!」




「そうじゃそうじゃ、あくまでもなぞる・・・それが大事じゃぞ。小太刀は鋭い切れ味じゃが、ナリア嬢の力では肉は斬れても骨は断てぬ・・・ゆめゆめ忘れぬことじゃ」




「はいっ!せんせー!」




打てば響くように答えが返ってきた。


基礎はできておるな。


これなら、この先も自己鍛錬で磨いてゆけるのう。


ある程度の振り方は身についておるようじゃし、まったくいい弟子じゃわい。




アリオ殿の邸宅の庭で、わしは小さな弟子の成長を感じていた。








大蚯蚓共の群れを討伐してからもうだいぶ日にちが経ち・・・気付けば3日後には王都へ出発することになっておった。


あの後もペトラやラギと何度も依頼に行ったが、特に変わったことはなかった。


わしとしてはまた大物に出会いたいものじゃったが・・・そうそう上手くはいかんらしいの。


ペトラには『あたいの何倍も生きてんのに頭の中は腕白ボウズじゃねえかよ・・・』などと呆れられていたが。


まあ、否定はせん。


男なぞ、いくつになっても子供よ。




そうそう、宿に籠っておったセリンじゃが。


その後どうなったかと言うと・・・




「なるほどですわね・・・そんな住み分けが・・・」




『つっても結構適当だけどねー。水の子たちなんか特に海流に乗って動き回ってるし』




庭のベンチに腰掛け、サンドイッチ片手になにやら天鼓と話し込んでいる。




・・・そう、なんとセリンは宿から出てきたら精霊と会話ができるようになっておった。


なんでも精霊と話したくて話したくて悔しさのあまり、3日3晩飲まず食わずでひたすら瞑想をしておったらしい。


げっそりとやつれておったから、何か変な病気かと思ったわい。




わしにはどうもピンとこんかったが、それは前代未聞のことじゃったそうな。


この前知り合ったニキータ殿に街で聞いた所によると、




『いかにハイ=エルフといっても、セリンはまだ若いのです。精霊との完全な意思疎通を可能にするにはそれこそ100年単位の修行が必要なのですが・・・まったく、彼女は天才ですね』




とのことであった。


・・・その執念、恐るべしじゃ。




まだ野良の精霊には怖がられておるようじゃが、他より賢い天鼓とは普通にコミュニケーションが取れておるの。


たまに暴走するのが困りものじゃが・・・まあ、幸せそうじゃからいいとするか。


元々暴走するのは思うように話せぬ苛立ちから来ておったとするならば・・・落ち着いていくじゃろうしの。






それはともかく、わしは朝からナリア嬢の稽古の成果を確認しておる。


王都にどれほど滞在するかはわからんが・・・しばらくはここを離れねばならんしな。


はじめは興味本位かと思っておったが・・・中々どうして、弱音の一つも吐くことはなかった。


あの親にして、この子ありといった所かの。


これはひょっとして・・・成長すれば一角の女剣士になるやもしれんな。


はは、親馬鹿ならぬ師匠馬鹿かの、これは。




まったく、前の世界の若者共には爪の垢でも煎じて飲ませてやりたいもんじゃわい。




「さて、今日までよう頑張ったな・・・これは、わしからのちょいとしたご褒美じゃ」




息が落ち着いてきたナリア嬢に、背嚢から細長い包みを取り出して手渡す。




「ふわぁ・・・あけてもいいですか!?」




「ああ、いいとも」




布包みを急いでほどいたナリア嬢の目が輝く。




「わぁあ・・・!すごい!」




そこから出てきたのは、白い拵えの脇差じゃった。


ナリア嬢の体格に合わせてあるので、どちらかと言えば懐剣であろうか。




以前にも訓練用の小太刀を与えてはおるが・・・あれは実戦向けではないしの。


この歳で修行に音を上げず耐えたのじゃ、これくらいは師匠としてせねばなるまいて。




「抜いてみよ」




「はいっ!・・・きれい・・・」




朝の陽ざしを反射して、波紋が輝いておる。


ふふ、グリュンには随分と無茶を言ったが・・・流石の仕事ぶりじゃな。


口伝えの製法を、見事に再現しおった。


・・・まあ、その分値段は中々のものであったが。


この嬉しそうな顔で帳消しじゃわい。


わしもそれほど金遣いが荒いというわけでもないしの。




金はまた貯めればよいわ。


それこそ・・・この世には斬って金になる相手が星の数ほどおるでな。


ははは、いい世界じゃ。




「これからも精進するんじゃぞ。王都から戻ったらまた稽古してやろうかの」




「はいっ!ジュウベエせんせえ!ありがとうっ!!」




鞘に戻した脇差を胸に抱き、ナリア嬢は上気した頬を緩ませた。


このまま抱いて寝る勢いじゃな、これは。


ううむ、あまり大事にし過ぎてもよくないのう。




「・・・ええか?脇差はまた作ればよい。大事に手入れすることは大事じゃが・・・いざという時にはためらわず使え」




「はいっ!」




・・・ふむ、大丈夫そうじゃな。


たしかに武器は大事じゃが、それを気にするあまりに使うことを怖がっては本末転倒じゃからの。


咄嗟の状況でそれは絶体絶命を招きかねん。






「・・・それで、体は温まったか?」




キトゥンに手を引かれ、ベンチで休憩するために歩いて行ったナリア嬢を見送り・・・控えておったアゼルに声をかける。




「はい、いつでも!」




その目には、燃えるような戦意。


・・・いい目じゃ。




「ナリア嬢は必要最低限の自衛はできるようになった。なったが・・・わかっておろうな?」




「はい!それをさせない事こそが、私の役割です!お嬢様には何の危険も負わせません!!」




そうじゃ。


それでこそ、護衛じゃ。


主人を危険に晒さぬこと、それが大事じゃ。


ナリア嬢は確かに強くなったが・・・それはあくまで子供としてのこと。


成長するまでは、護衛がそれこそ死に物狂いで守らねばならぬ。




「では、口だけではないことを今・・・見せい」




「はいっ!!」




木槍を構えたアゼルが、後ろへ跳び下がりその切っ先をわしに向ける。


初動は、よし。


視線も読みにくくするように苦心したようじゃな。


わしから見れば稚拙じゃが・・・それでも進歩しておる。




「わしは『1人』じゃ・・・来い」




先程のナリア嬢相手の稽古とは違い、言葉に少しばかりの殺気を込める。




「・・・行きますっ!!」




それに臆することなく、アゼルは答えた。


技術はともかく、性根は立派じゃ。




下段に構え、様子を見る。




「っふ!!」




アゼルはすり足で踏み込みつつ、わしの足元を払う。


ふむ、中々に鋭い振りじゃ。




それを木剣で弾くと、払われた勢いを殺しつつ跳び下がって・・・また払い。


・・・今度は上半身が狙いか。




弾けば下段。


それも弾けば、また上半身・・・かと思いきや、頭。


うむうむ、緩急とフェイントを織り交ぜておるの。




わしが『1人』と言ったことを理解しておる動きじゃな。


細かい振りで牽制しつつ、隙を狙う。


相手が単独ならこれでよい。




何度目かの下段狙いを逸らすと、翻った切っ先が突きの軌道。




「しっ!!」




ぼ、と空気を切り裂く鋭い突きがわしに迫る。


そのけら首に木剣を合わせ、逸らしつつ踏み込む。


さあどうじゃ、懐に入るぞ。




「ふっ・・・っはあ!!」




アゼルは後ろに跳ぶと同時に、上半身の力を上手く使って木剣の軌道を変えた。


槍を引き戻しつつ、縦に旋回させ・・・石突の部分で鳩尾狙いの突き。


木剣でそれを叩いて弾くと・・・そのまま距離を離す。


ふむふむ、よいな。


深追いをしておらん。


護衛の何たるかを心得ている動きじゃな。


敵を倒すことに夢中になるあまり、主人のそばを離れていては駄目じゃからな。




「それでは・・・わしの他に『3人』!」




「・・・!」




そう声をかけると、アゼルの構えが瞬時に変わる。


先程とは手の間隔を縮め、より速く鋭い突きや払いができるように。


穂先は下段、油断なく周囲に目をやっておる。




「ほれ」




「っ!!」




無造作に間合いへ踏み込むと、足先へ向けての鋭い牽制の突きが飛んできた。


それを弾くと、すぐさま引き戻して再び待ちの姿勢。


呼吸を整えつつ、わしの攻撃に備えておる。


・・・飲み込みが早いのう。




敵が多数の場合は深追いを一層せず、主に受けに徹する。


カウンターや牽制を主とし、決して自分からは踏み込まない。


教えたことをよく守っておるな。




「・・・良し、それでは・・・全力で来い」




構えを正眼に戻し、真っ直ぐにアゼルの目を見据える。




それを受けて、アゼルは構えをまた変えた。


ほんの少し穂先が上を向くような中段へと。




「・・・っは!!」




刹那、一足でわしに飛び込みつつの突き。


今までで一番の伸びじゃ。




唸る穂先を体裁きで躱し、軽くカウンターを合わせる。




アゼルはそれを柄で受け流しつつ、そのままの勢いでわしの頭部へ斬り下ろしを放つ。


ほう、ほうほう。




「っしぃい!」




足から力を抜き、瞬間的に姿勢を低くして躱す。


そのまま、片手で握った木剣を地面と水平に振るう。


狙いは、足首。


わしの狙いを知るや、アゼルが軽く跳び下がる・・・が。




惜しい。


そこはまだ・・・わしの間合いよ!




遠心力に合わせ、指の力を抜く。


柄を手が滑り・・・・柄尻ギリギリで止まった。




「ぃぎ!?」




疑似的に伸びた切っ先が、空中のアゼルの足を払った。






南雲流剣術、『寸違え』






・・・ギリギリで躱そうとするから、そうなる。




空中で痛みによりバランスを崩したアゼルが、不格好に着地をした時。


それに合わせて踏み込んだわしの木剣は、アゼルの首筋でピタリと止まっていた。




「ま、参りまし、た」




いつの間に・・・と言った顔のアゼル。


それを見て、わしは木剣を引く。




「動きは格段に良くなったぞ。そこらの相手には苦戦をせぬほどにのう・・・これからも精進せい」




「は、はいっ!ありがとうございます!!」




短い稽古の間に汗だくになったアゼルは、それを拭いもせず答えた。


集中力と瞬発力には光るものがあるのう。


あとはそう・・・もう少し性格を悪くせねばな。


目線が正直すぎて、何を狙っておるのかわかりすぎてしまう。


ま、これは若さゆえかのう・・・




「い、息も乱していないなんて・・・ジュウベエ様はすごいですね・・・」




「当たり前じゃ、年季が違うわい年季が。コツはのう、無駄に息を吐かんこと、無駄に動かんこと・・・じゃな」




「・・・さほど年は離れていないのに・・・もっともっと頑張ります!」




・・・すまんのう、60年は離れておるぞ。


わしを輝く目で見つめるアゼルから、ついと目を逸らす。


半分インチキのようなもんじゃしの、現状は。




・・・こればかりは経験がものを言う。


まだ若いこやつには少し難しかろうて。


じゃが、生き残れれば自然と覚えていくじゃろう。




さて、ナリア嬢には脇差を用立てたことじゃし、アゼルにも何かやろう。


初めは槍の穂先でも・・・と思うたが、0から訓練を始めたナリア嬢と違ってアゼルは曲がりなりにも大人。


癖や好みもあろうからの、物を送るのはやめにした。


・・・娼館に連れて行こうとも考えたが、まあそれは王都から帰った後じゃな。




「アゼル、あそこにある槍を持って来い」




離れた場所に立てかけてある、何の変哲もない槍を持ってこさせる。




「天鼓、手筈通りにな」




『あいあいさー!』




わしの声に、セリンと話し込んでいた天鼓が振り向いて答える。




「さてアゼルよ。お主に一つ、技を見せてやろう」




「技、ですか?」




「おう、我が流派に伝わる槍の技をな・・・天鼓、頼む」




足を肩幅に開き、穂先を気持ち上に向けて構える。




『ふんぬぬぬぬぬ・・・』




天鼓はわしの背嚢から、南瓜と西瓜のあいの子のような野菜を掴んで持ち上げた。


・・・もう少し軽いものにしてやればよかったか。




「あああ・・・あんなに頑張って・・・愛くるしいですわぁあ・・・」




おいそこのエルフ、少しは抑えぬか。


そのような態度じゃから精霊に怖がられるんじゃぞ。


現に今さあっと距離を取られてしもうたではないか、他の精霊に。




「見とれよ、アゼル・・・よし!」




『えらっしゃー!』




珍妙な掛け声と共に、わしに向けて野菜が飛ぶ。


 


それに合わせて踏み込みつつ、体重を乗せて槍を突き、そして捻る。




「ぬんっ!!」




空中の野菜が、円状にくり抜かれて飛び散る。






南雲流槍術、奥伝ノ一『旋華つむじばな』




突きの瞬間に手の内を捻ることで、刺突と止めを同時に行う技じゃ。






『むえー!ぺっぺ!』




野菜まみれになってしもうた天鼓が涙目になっておる。


・・・これはすまん事をしてしもうた。




『むがー!ジュウベ―!!』




「すまんすまん、少し盛大にやりすぎたかの」




野菜まみれのまま、わしの胸をぽこぽこ叩く天鼓の頭を撫でる。




『もーう!この貸しは大きいかんねーっ!!』




「わかったわかった」




じゃれつく天鼓をいなしながら振り返ると、アゼルが目を丸くしてわしを見ておる。




「魔法・・・いや違う、アレは僕の槍だ・・・」




ブツブツと呟くアゼル。




「魔法なものか、これは純粋な槍の技よ・・・ただ突きと捻りをほぼ同時に行うだけのな」




「技・・・」




手渡した槍を見つめながら、アゼルは茫然自失の状態でまたも呟く。




「わしの先達が作り、そして練り上げながら受け継がれて来た・・・のう」




その肩を叩き、続ける。




「まだお主には無理じゃろうが・・・いずれは至れる、必ずの。たゆまぬ努力と折れぬ心さえあればな」




「わ、私に・・・できるでしょうk痛っ!」




その頭に拳骨を落とす。




「・・・たわけが。はなから『できるでしょうか?』じゃと?阿呆、『できる』と思わねば一生できぬわ」




「は・・・はい」




「ふん、これから順を追って他の技も教えてやる故、精進せいよ」




「・・・はい!」




そう言ってわしの目を見つめ返したアゼル。


そこには、確かな決意が宿っておった。


ふふ、いい目じゃ。




「さて・・・王都から帰ってきた時には、そうじゃ・・・『いい店』に連れて行ってやろうかの」




「え・・・えぇ!?」




打って変わって目を白黒させるアゼルに背を向け、歩き出す。


さて・・・今日は気分がいい。


弟子2人の成長を拝めたからのう。




こういう時は・・・うむ、あそこじゃな。




『こらジュウベー!アゼルんまでスケベの道に引き込むのはやめろーっ!!』




「何を言う、男は最初から助平じゃよ」




頭の上で喚く天鼓に軽口を叩きつつ、わしは出かける準備に取り掛かった。








「えぇーっ!?ジュウベエ様、王都に行っちゃうんですかぁ!?」




賑わう店の喧騒の中、リーノが悲痛な声を上げた。


ここは『黒糸館』


アゼルたちの稽古が終わった後、軽く汗を流して夕食を食べ・・・その足でここへ来た。


天鼓は途中からアリオ邸に帰っている。




「言うのをすっかり忘れておってな、雇い主の用事じゃから仕方あるまいて」




杯を傾け、中の酒を喉に流し込む。


この雑味のある果実酒にも、すっかり慣れたのう。




「わうぅ・・・ど、どれくらいの期間ですかっ!?ここに帰ってきてくださるのですかっ!?」




リーノは必死な顔でわしにしがみつく。


慌てておるのか、そのご立派な胸が押し付けられて形を変える。


・・・ふむ、良い。




「さあてのう。行きは魔導竜とかいうものを使うらしいからすぐに着くが・・・その先はとんとわからんな、一旦帰っては来るがの」




ゆくゆくはこの大陸を旅したいとは思っておるが、まずはここ周辺からじゃな。


アリオ殿に恩も返さねばならぬ。


・・・というか、アリオ殿の方が恩義を感じておるからのう。


いつになれば旅立てるのかわからんな。




「そ、そうですか・・・」




耳も尻尾もくたりと垂れたリーノが呟く。


・・・懐かれたもんじゃのう、わし。


しかしまあ、娼婦としてはどうなんじゃろうか。




「なんじゃその顔は・・・はは、しょぼくれておるのう、似合わんのう」




前の世界でよくしておったように、その頭を乱暴に撫でる。




「わふぅ・・・ふぁあ・・・」




しばらくそうしておると、耳が立ち上がり尻尾が元気になってきた。


わかりやすい娘じゃの。




「と、いうわけでな。王都に行く前に・・・思う存分堪能させてくれ」




「ひゃふ!?・・・んみゅふ!んはぁ・・・♡」




顔を近づけて囁くと、リーノは貪るように唇を重ねてきた。


おいおい、ここはまだ1階じゃぞ。


周りの客がよく見てくるわい。




「で、行きたいか?『2階』」




「わぁう・・・♡連れてって、ください♡」




とろんとした瞳で、熱に浮かされるようにリーノが呟いた。


ふむ、その意気や良し。




「では・・・一勝負といこうか!」




「わ、ふ!?」




そのままリーノを横抱きにし、階段へ向かう。


客が方々から囃し立て、娼婦たちは羨ましそうな目線を向けておった。






「・・・わう!前は後れを取りましたが!今回の私は違いますよっ!!ジュウベエ様の足腰をがっくがくにしちゃいますからねっ!!」




「・・・言葉だけ聞けば立派なのじゃがのう」




苦笑いで返すわしの眼前には・・・準備万端といった上気した表情で腹を見せてベッドに横たわるリーノの姿があった。


艶めかしい尻の隙間から、高速で往復する尻尾が見える。


色気と間抜けが同居しておるのう・・・




「ふふん!そう言っていられるのも今のうちですっ!こんなこともあろうかといい魔法薬を飲んでおいたんですからっ!」




「魔法薬・・・?」




「絶倫になる薬です!今夜の私は違いますよっ!!」




・・・それは、女が飲んでも効くものじゃろうか?


まあとにかく、やる気は十分のようじゃな。




しばしの別れじゃ、わしも本気になるとするか。




「えっ!?ええ・・・!?な、なんですかその・・・その・・・ふわぁ♡すっごい・・・♡」




どこかを見て目を潤ませるリーノに、わしはすぐさま覆いかぶさった。


夜は長いが・・・それでも短い!






「ジュウベエ・・・学習能力、ないのぉ?」




「いや・・・その、魔法薬があると聞いたもので・・・」




「魔法薬ぅ?・・・馬鹿ねぇこの子、これ・・・感度がすっごい上がる薬じゃない」




「なるほど、それであのように・・・」




「酷い人ねぇ、ジュウベエ・・・ふふ」




呆れたように笑うミリィに、わしはひたすら頭を下げ続けた。




「わふぅ・・・♡じゅうべえ、さまぁ・・・♡」




「まぁ、これだけ幸せそうに気絶してれば大丈夫でしょぉ」




あられもない姿で気絶しているリーノにそっと毛布をかけながら、わしは自らの暴走をただ恥じていた。




「いっそのこと・・・オーガの娘でも雇おうかしらぁ」




そんなわしを、どこか楽しそうにミリィが見つめておる。


・・・む?


何故わしの体に手を・・・




「どう?王都行きの前に・・・また」




「・・・今日はリーノとの日なのでな」




「あらあら振られちゃったわぁ・・・あ、そういえば・・・明日って定休日なのよねぇ・・・」




凄まじい色気のある流し目がわしを襲う。


・・・こやつ。




「れ・・・連泊するかのう」




「あは♡」




とまあ、そういうことになった。

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