第42話 十兵衛、ギルドで報告する。
「ようジュウベエ、さっきぶりだな」
「おう・・・そちらは全員ではないんじゃな」
傭兵ギルドの入り口で、ウルリカが軽く手を上げる。
その周囲には、昨日の戦いで見知った顔のセイレーンがちらほら見えるな。
何人かは、わしの顔を見ながら仲間内で何やら赤い顔で囁き合っておる。
・・・どうやら昨日は随分と声が漏れておったらしい、のう。
「大所帯になっちまうからね、ここにいるのは主だった連中ばかりさ」
「・・・アマラの姿が見えぬようじゃが?」
あやつも大分活躍しておったが・・・
「だーめだめ、すっかり腰が抜けちまって歩けねえんだ・・・ジュウベエのせいだかんな?」
「・・・それは、すまぬのう」
やはり昨日、少しばかりイジメすぎたようじゃ。
いやなに・・・その・・・反応がいいもので、ついうっかりしておった。
反省せねばなあ。
「それはそれとしてよ・・・なあなあ、ジュウベエ」
寄って来たウルリカが耳打ちをしてくる。
「(後ろにいる薄い方のエルフさん、なんで俺をずっと睨んでんだ?)」
少し振り向くと、セリンがどこから取り出したのかハンカチを噛み締めながらこちらを見ておる。
・・・なんと、古風な。
「ぐぬぬぬぬぬぬぬ・・・ぬぬぬぬぬぬ・・・脂肪の塊ぃい・・・」
「お、お姉さま・・・」
カリンがなだめておるな。
あれでは、どちらが年上かわからぬのう。
「(・・・乳がデカい女は嫌いらしい)」
「(・・・ああ、なるほどねえ。ま、慣れてるよそういうのは)」
苦笑いするウルリカである。
「失礼ですが、ジュウベエ様ですか?」
その時じゃった。
ギルドの入り口に立った職員らしき男が、わしに問うてくる。
「ああ、わしで間違いない・・・これがカードじゃ。後ろのエルフは雇い主じゃな」
「お預かりいたします」
カードを受け取った職員は、抱えていた黒い石板にそれを置く。
青い光で浮かび上がった文字を読み取ると、すぐカードを返してきた。
「確認いたしました・・・それでは中へどうぞ、ギルド長がお待ちです。『七つ谷』のセリン様、カリン様も」
「おう」
セリンたちは既に知られておるようじゃな。
「長くなりそうだぜ・・・こりゃあよ」
「ま、仕方あるまいて」
わしにしなだれかかり、胸を押し付けてくるウルリカと共にギルドへと足を踏み入れた。
「おう!英雄様方のお越しだな!」
「昨日ぶりじゃな、ゲイン殿・・・顔色が優れぬようじゃな」
「はっは!ゲインでいいぜ堅苦しい・・・いやなに、ちいと搾り取られすぎてなあ・・・しっかしセイレーンはやっぱ最高だぜ!!」
案内された場所は、ギルドの二階にある会議室のような場所じゃった。
奥に大きな机があり、その手前に椅子が並べてある。
入ると、中には3人の人物。
今しがたわしに手を振った、船の護衛隊長のゲイン。
・・・どうやらセイレーンと『仲良く』しすぎたらしいの。
そして、奥の大きい机にはギルド長・・・確かディッセル殿だったか。
その横には、先程わしを案内した職員。
立ち姿に隙がない。
どうやら、ただのヒラ職員ではないようじゃな。
「昨日の今日で来てもらって悪かったな、すまんが事実確認をしたい。『王』種絡みは速やかに報告を上げる義務があるもんでな・・・まあ、座ってくれ」
ディッセル殿が椅子を差し示す。
わしらはそれぞれ、適当な椅子へ腰かけた。
「さて・・・それではまずはゲイン、頼む」
「おう、ええと・・・まずは朝方だ、潮読みから報告が上がってきて・・・」
まずはゲインが、魔物との接敵の状況から話し始めた。
職員の男が、恐ろしい勢いでそれを聞き取りながら筆記しておる。
それは、次のような話であった。
昨日の朝方、偵察担当の魔法使いから潮の流れがおかしいと連絡が来た。
この季節にはあり得ないほどの流れに、何か嫌な予感を覚えて護衛の傭兵たちに周知。
連絡が行き渡ったくらいの時間に、海の中から一斉に魔物が飛び出して来た。
多様な魔物が行動を共にする・・・そんな異常事態であった。
それは普段では考えられないこと、らしい。
それからすぐに乗客を船室へ避難させ、甲板上で即座に魔物を迎え撃った。
だが、魔物は倒しても倒しても湧いて出て来る。
切れ目のない戦いに疲労は蓄積し、倒れるものも出始めるころ・・・
海を割って、あのクラーケンが出現した。
魔物だけならともかく、海上で相手をするには分が悪すぎる相手。
船は魔導機関を全開にし、デュルケンへ向けて全速力で離脱を開始。
だが、運の悪いことは重なるもので魔導機関が故障。
速度を落としながらもなんとか逃走を続けていた頃に、セイレーンとわしが到着した。
「・・・とまあ、こんな感じだな」
「なるほど、クラーケンが倒されるところは見たか?」
「ああ・・・」
ゲインはわしを振り返って続ける。
「すげえもんだったぜ・・・落雷みてえな轟音がしてよ。その方向を見たら、このジュウベエがクラーケンの脳天に丁度剣を突き立ててたからな」
おや、どうやら見られておったらしい。
「ほう・・・そんな高度まで。ジュウベエは魔法も使えるのか」
ディッセル殿は、わしに視線を移す。
「いや、飛んだのはここの・・・ウルリカに跳ね上げてもらいましてな、海上から」
「おうよ、よく飛んだなあジュウベエ」
少し誇らしそうに、ウルリカが鼻を高くした。
「セイレーンの背で運ばれた・・・か。気に入られているなジュウベエ・・・それだけでも、お前がどれほどの使い手かわかる」
ディッセル殿が、口の端を持ち上げて歯を見せ、笑った。
おう、迫力があるのう。
「さて・・・それじゃあ話してもらおうか、ジュウベエ・・・どうやってクラーケンやイリオーンの眷属を倒したのか」
嘘やごまかしは許さぬ、とばかりに・・・ディッセル殿の圧力が増す。
ほう、ほうほう・・・引退したというのに、元気な御仁じゃわい。
わしはその殺気を感じながら、口を開く。
「さてのう・・・さほど話はうまくない故、聞き苦しいのは勘弁していただきたい」
そうして、わしが船に着いてからの顛末を話し始めた。
クラーケンのこと。
イリオーンの眷属のこと。
そして、最後に出てきたイルカもどきのこと。
「・・・うむ、よくわかった」
わしの話に続き、ウルリカからも聞き取りをしたディッセル殿はそう言った。
そのまま、ぎい、と椅子に身を預けて息を吐く。
「全員嘘を付いているわけでもないし・・・こちらが確認した情報とも齟齬はない。実は上空に観測用の飛竜を待機させていた」
・・・さもありなん。
始めにギルド前に下りた奴じゃな。
偵察は戦術の基本じゃからのう。
「その上で聞きたい。ジュウベエ・・・お前の腰の剣、それは・・・」
「『精霊機』ではありませぬ。これは某の雇い主であるセリンも知っておることでござる」
やはり、そこが気になるか。
どうやらこの世界、よほど精霊が大事にされておるようじゃ。
「・・・彼の剣は『魔法剣でも精霊機でもありません』わ。ディッセル様・・・これでおわかりになって?」
「・・・なる、ほど」
セリンの言いように、ディッセル殿も何かを察した様子じゃ。
この場におる全員に、それは伝わったらしい。
わしの刀に、一斉に視線が飛ぶ。
「精霊教にも、周知されておりますの」
「なんと・・・」
続く言葉に、ディッセル殿は絶句した。
精霊教・・・随分とまあ、権力というか影響力があるもんじゃ。
街くらい簡単に潰れる・・・そう聞いていたが、どうやら本当のことらしいのう。
「そして、この刀は某にしか扱えぬし、某以外が持てば悪くすれば死に申す。この話は外に漏れぬようにしていただきたい」
この場にいる連中は、考えのない馬鹿ではなさそうじゃ。
じゃが、世の中にはたまに信じられぬほどの阿呆がおる。
あまり派手に喧伝されては、わしの周りが騒がしくなりそうじゃ。
それに、アリオ殿たちに迷惑がかからぬとも限らぬしのう。
「わかった、そうしよう・・・精霊教絡みなら、上への報告もやりやすい・・・記録したな?」
「はい、滞りなく」
デュッセル殿は、傍らの職員と何やら打ち合わせの最中じゃ。
これで、なんとか八方丸く収まるのならええのう。
「おいおい、ジュウベエさんよ」
考え込んでいると、ゲインが声をかけてくる。
「聞きそびれてたんだが・・・」
わしの刀のことかな?
じゃが、今話した以上のことを話す気は・・・
「アンタも、セイレーンとよろしくやったのかい?昨日」
・・・どうやら違うようじゃな。
「・・・ふふ、いい夜であったよ」
「・・・へへ、やっぱりか・・・まさか、ウルリカの姐さんとかい?」
好色そうな表情で、嬉しそうに言ってくる。
全く、世界は変われど・・・男は助平じゃのう。
わしもじゃが。
「おう、俺だけじゃなくてアマラも一緒にな・・・かわいそうに、アイツは今日一日使い物になんねえぜ、へへ」
・・・何故、お主が答えるのじゃウルリカ。
しかも誇らしげに。
「せ、セイレーンの族長と幹部筆頭を・・・!2人、向こうに回して平然としてやがる・・・す、すげえなジュウベエ!」
ゲインは何やら尊敬の眼差しじゃ。
・・・ほう、アマラは結構なお偉いさんだったのじゃな、『蒼の団』では。
「・・・お前、実は小型のオーガキングだったりしねえ?」
似たようなことをよく聞かれるのう。
オーガ・・・ペトラの種族はそんなに性欲が物凄いのかのう。
いつか、妙齢のオーガと『勝負』してみたいものじゃな。
「・・・」
無言で背中を抓るな、ウルリカよ。
妬いておるのか?
ただの客じゃというのに・・・気に入られたもんじゃな。
セリンがいる後方から、「破廉恥ですわぁ・・・ド変態ですわぁ・・・」と声が聞こえてくる。
お上品じゃな、エルフは。
面倒臭いので聞こえぬふりをしておこうかのう。
「・・・よし、まあこんなもんか」
しばし後、デュッセル殿が書類をまとめ終えたようじゃ。
高級そうな羊皮紙のようなものの束を、何度か読み返しておる。
「トール、頼む」
「はい」
それをくるりと丸め、筒に入れたディッセル殿が職員へ手渡す。
受け取った男は、窓を開けて何事かを呟く。
すると、空中から光り輝く鷹が姿を現した。
「王都の、本部へ」
両足でその筒を掴んだ鷹は、綺麗な声を上げるとまたもや虚空へ溶けるように消えた。
・・・あれが連絡手段か。
魔法とは、便利なものよのう。
「ふう、済んだ済んだ・・・お前らもご苦労さんだな。報酬は王都からすぐに・・・!」
その瞬間、うなじの毛が逆立った。
何かが、来る。
じゃが、悪い気配ではない。
これは・・・覚えがあるのう。
窓の外の空間が、先程鷹が出現した時のように歪む。
そして・・・
『やっほー!!!!』
昨日会った、金色のイルカが出現した。
海の上でもないのに出てこれるのか・・・?
あ、いや。
そういえば精霊みたいなものか、こやつも。
大分、格上のようじゃが。
『おー!いたいた、ジュウベー!!』
耳にはキュイキュイと聞こえるのに、脳裏に意味が響くようじゃ。
変なものよな。
『探したよー!お前面白い気配だからすぐわかったけどな!!』
「・・・おう、お主も元気そうじゃな」
気安げにヒレで肩をぺんぺん叩かれる。
「にゅん!?にょわあああああああああああああああああん!?」
後ろから、何かが倒れるような音と幸せそうな悲鳴。
・・・セリンじゃろうなあ。
それ以外の人間も、顔を引きつらせてわしらを凝視しておる。
・・・見えておるのか。
いや、『見せて』おるのじゃろうな。
「・・・け、眷属、様」
ディッセル殿が、声を絞り出す。
その顔には脂汗が浮かび、このイルカに対する畏敬の念が透けて見えるようじゃ。
『にゅ?・・・お、おー!お前もしかしてディッセル坊主かぁ!?老けたなあ!!』
・・・知り合いか。
『この前会ったときはこ~んなに小っちゃくて可愛かったのにな~!人族、老けるのはっや!』
「・・・お久しぶりで御座います、40年ぶりですから・・・」
やはり、こやつらの時間感覚は随分とズレておるのう。
しかし、随分と早い再訪じゃな。
『いや~、今回は眠りこけて迷惑かけちゃったからなあ、おとんにもおかんにもえらく怒られちゃって・・・へへ』
精霊にも父母がおるのか。
それにしても迷惑とは、一体・・・?
「眷属様はな、いるだけで魔物が寄ってこれねえんだ。ここの港が今まで平和だったのも、そういう理由なのさ」
ウルリカが教えてくれる。
「ぬ、じゃが30年近く寝ておったという話じゃが・・・」
『いや~、兄弟たちが頑張って穴埋めしててくれたみたいなんだよね!でもここ最近、いろんな所の海が荒れてるらしくって・・・ここの防備がおろそかになっちゃって』
父母に、兄弟・・・
いや、深く考えるのはよそう。
「陸の方でも何やら魔物の分布がおかしいと・・・」
後ろを振り返ると、白目を剥いて失神しているセリンが見えた。
また下着が見えておるぞ、はしたない。
「このハイ=エルフが言うておった」
『んにゅう~?そりゃあ変だなあ・・・節もまだ巡ってこないのになあ?』
・・・節?
『おかんに聞いてみよっかなあ・・・お、そうだそうだ』
イルカは気を取り直したように、宙でくるりと一回転。
『というわけで・・・大儀であった!皆の者~!』
その瞬間、イルカを中心として黄金の波紋のようなものが一瞬で広がった。
『んみゅみゅみゅみゅみゅ~ん!!!』
波紋は一度ではなく何度も起こり、壁を突き抜けて外まで及んでいるようじゃ。
その証拠に、往来からは人々の驚く声がいくつも聞こえてくる。
なんじゃ、この波紋・・・?
「しゅ、祝福・・・眷属様の祝福だ・・・ひいばあちゃんから聞いた通りだ!!」
ウルリカがわしにしがみつき、興奮しきった声で叫ぶ。
まるで、おとぎ話が現実になった少女のようじゃ。
「祝福・・・?」
「これが、これが街や海を守ってくれるんだよ!これのお陰で、大型の魔物は近海に近付けなくなるんだ!!」
・・・なるほどのう。
にわかには信じがたいが・・・まあ、今更じゃな。
しかしこの祝福とやら・・・なんとも心地よい。
僅かばかり残っておった疲労も、消し飛んでいくようじゃ。
「・・・ぬ?」
ゲインの顔色がよくなった。
どうやら本当に効果があるようじゃな。
港で倒れておったダイドラにも効くとええのう・・・
セイレーンたちも実に気持ちよさそうな顔をしておる。
ふふ・・・なんとも、眼福じゃわい。
幾度も続く黄金の波紋に身を任せることしばし。
『・・・ふいいぃ~!つっかれたぁ!!久しぶりだからきっついなあ!!』
さほど疲れても見えぬ様子で、イルカがキュイキュイ鳴く。
「・・・ありがとうございます、眷属様。これでデュルケンは安泰です」
『こっちの不手際なんだから気にすんなよデュッセル坊主ゥ!』
恭しく頭を下げるデュッセル殿に対し、イルカは気楽そうにヒレを振った。
『さーてさて、これで港は良し・・・と。次は海だなあ』
イルカの姿がじわじわ消えていく。
『おとと、肝心なことを忘れてたぞ。ジュウベー!』
「ぬ?」
『こほん、此度の働き・・・まことに大儀であった!のでっ!これあげる~』
薄れゆくイルカは、わしの方に何か輝くものを投げてよこした。
なんじゃこれは・・・青い、真珠?
見るからに値打ちものに見えるが・・・
『な~んかお前さんとはちょこちょこ縁がありそうだからな~!仲良くしようぜ~!!』
言うだけ言って、イルカは虚空に溶けるように消えた。
後には、静寂だけが残される。
・・・忙しないイルカじゃのう。
「お、おま、おまままままま・・・」
手の中の青真珠をころころと転がしておると、ウルリカが体ごと抱き着いてきた。
随分な取り乱しようじゃな。
「おう、これはなんじゃろう?売ればそこそこの値打ちになるかのう」
「ばっ!!!!!!ばばばばばば馬鹿野郎ジュウベエ!!!!!」
青真珠を食い入るように見つめるウルリカ。
「・・・いるか?」
「ふっふっふふふふ!!ふざけんな絶対手放すんじゃねえぞそれぇえ!!!!!」
「いやしかし、お主が運んでくれねばこれも手に入らなかったんじゃし・・・」
「持ってろいいから持ってろ頼むから持ってておねがぁい!!!!!」
なんともはや、半狂乱じゃな。
これは、そんなに値打ちものじゃろうか?
「す、すまんがジュウベエ・・・み、見せてくれるか、それを」
よろよろと、まるで老人のような足取りでデュッセル殿が近付いてくる。
その顔は、まるで10も20も老けたように見える。
「これでござるか」
手に乗せた青真珠を、その顔の前に持っていく。
デュッセル殿は、目を皿のようにして眺めた後。
「・・・精霊、石」
そう、震える声で呟いた。
ほう、そんな名前なのかこれ。
「この目で見るのは、初めてだ・・・」
どかり、とデュッセル殿は床に座り込んだ。
見るからに疲れ果てておるのう・・・
「上位の精霊から、友好の証として贈られる・・・そんな話を聞いたことがある。後ろで倒れているエルフの嬢ちゃんなら、もっと詳しいはずだ」
それは・・・なんとも間が悪いのう。
「値打ちと言ったな?・・・それには値段が付けられん。それに、渡された時点でお前との『縁』が結ばれているから、手放すこともできんぞ」
・・・また、無限に面倒をしょい込みそうな代物じゃの。
以前貰ったドワーフの石と似たようなものか。
「この場にいる全員に告げる・・・このことは他言無用だ、墓まで持ってけ」
周囲の連中が、一斉に頷いた。
「喋るわけがねえ・・・海神様の機嫌を損ねたら、一生海辺での加護を失うからな・・・」
また顔色を悪くさせたゲインが呟いた。
セイレーンたちも、カリンもこくこくと頷いておる。
傭兵ならば、それは恐ろしい罰じゃなあ。
「・・・そんなに珍しいのか、これは」
「セイレーンの本国にも、片手の指で数えられるくらいしか存在してねえんだよ・・・海と縁の深い俺たちでも、それなんだぜ?」
・・・いささか大盤振る舞いが過ぎるのではないか、これ。
「あのなあ・・・クラーケンを1人でぶち殺して、その上イリオーンの眷属まで殺して・・・あまつさえ眷属様まで助けたんだよ、ジュウベエ。世が世なら英雄譚で語り継がれるんだよ?」
ふむう。
たしかに強敵ではあったのじゃが・・・あのイルカを助けたのは偶然じゃし。
「ふうむ・・・まあ、貰えるものなら貰っておくわい。大事にせねばな」
「ほんっと!頼むよジュウベエ!!冗談じゃないからな!!!」
ウルリカは背中をバンバンと叩いてきよる。
確かにべらぼうに希少じゃということは理解した。
理解したが・・・手放せぬというのが困りものじゃの。
・・・海産物詰め合わせでも、よかったのじゃがなあ。
罰が当たりそうなので、言わぬが。
「相変わらず軽いのう・・・」
セリンを背負いながら歩く。
あの後、わしらはすぐに解散した。
精魂尽き果てた様子のデュッセル殿は、「くれぐれも、頼む」とわしに再度念を押してきおったわい。
管理職も辛いものじゃなあ。
ウルリカの所へ行く気もないし、色々疲れたので帰ることにした。
気絶したままのセリンも、連れて帰らねばならんしな。
「こ、これが海神様の精霊石・・・初めて見ましたわ」
「見た目は綺麗な青い真珠にしか見えんがのう・・・」
どうやら同じ宿に泊まるらしいカリンも、精霊石を見ながらついてくる。
「大事になさってくださいませ?子々孫々に受け継がれるべきものですわよ?」
・・・この世界でも天涯孤独のわしには辛いのう、それは。
子供をこさえる予定もないしの・・・
そもそも、異世界出身のわしがこの世界のおなご相手に子を成せるものなのじゃろうか。
ううむ・・・いつか真面目に考えるとしよう。
「にゅむにゅ・・・あはぁ、せいれいしゃまがわんさかですわあ・・・」
いい夢を見ておるのか、この上なく幸せそうなセリンの寝言。
それを聞き流しつつわしは、ため息をつきながら歩き続けた。
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