第20話 十兵衛、のんびりする。

「・・・むう」




目を開けると、窓からは朝の光が差し込んでおる。


もう、朝か。




軽く頭を回しながら起きると、部屋の状況が目に入ってきた。


床には乱雑に脱ぎ散らかされた服が見える。


ここは・・・黒糸館の2階じゃな。




昨日リーノとラクロに引きずり込まれ、一晩中ある意味戦っておった。


攻守に隙の無い、なかなかの難敵じゃった・・・うむ。




わしの左右に目をやれば、死んだように眠る2人の姿がある。


おうおう、朝から眼福じゃな。


色々丸出しで寝おってからに・・・風邪をひくぞ。




「じゅうべえしゃまぁ・・・しゅごぃい・・・♡」




「しぬぅ・・・♡しんじゃうぅ・・・♡」




あられもない寝言を言う二人に毛布をかぶせ、ベッドから床に下りる。


わしの服は・・・あったあった。




手早く着替えをすませると、蛇口をひねって水を出す。


水道は上水道ではなく、魔法で動いてるとアゼルが言うておったな。


「そんなに手間がかかるものより魔法が便利ですよ」とも。


ううむ、魔法とは至れり尽くせりじゃの。


まあ、わしのこの世界に来て今までにない相手と存分に戦えるので満足じゃが。




顔を洗い、口をゆすぐ。


手早く服を着込み、大小を差して一度振り返る。


・・・まだ寝かせておいてやろうか、大分その・・・いじめたしのう、うむ。




種族ゆえか、個人差か。


わしが前の世界で経験したどんな女よりもタフであったな、2人とも。


是非また稼いで来よう。


これからもしっかり働かねばな。




扉をそっと開け、廊下に出る。




階下を覗き込むが、誰もいない。


ふむ、とりあえず下に行くか。


代金も払わねばならんし、その上で何か食い物でもあれば・・・




『ゆーべはー』『おたのしみー』『でしたねー!』




「うむ、最高であった」




壁の中から出てきた精霊に軽く返しながら、階段を下りる。




適当なソファーに腰を下ろすと、精霊たちは肩に乗ってきた。


よほどわしの肩が気に入ったのか。


視界の隅で足をぶらつかせる精霊を見ながら、人を待つ。




あのまま上にいたら3回戦が始まるかもしれんしのう。


わしとしては望むところじゃが、金が足りるかわからんからな。


一旦ここで清算しておきたい。


・・・しかし、皆まだ寝ておるのか物音ひとつせんな。


部屋々々には防音の魔法具があるのでそれも当然か。


昨日リーノに教えてもらった。


あ奴の声があまりに大きいので心配になってのう・・・




視線を虚空にさ迷わせていると、不意に違和感に気付く。






「・・・おぬしが凄腕の用心棒とやらか、やり逃げをする気はないぞ」






後方に向かって声をかける。


存在感が極端に薄い。


ラギ以上の隠形じゃな。


じゃが、気配に殺気が混じっておるとわかりやすい。




「誰か人を呼んでくれんか、ここで待つゆえ」




「・・・じきにミリィが起きて来る、それまで待て」




「わかった」




背後の気配が雲散霧消し、後には静寂だけが残った。


・・・男か女かわからぬ声じゃの。


恐らく何らかの手段で声を変えておるんじゃろう。


ここでも魔法か。


ふふ、面白い・・・やはりこの世界は面白いのう・・・


娼館で無粋なことはしたくないが、強そうなものを見ると戦いたくなるわい。








「あらぁ、おはようジュウベエさん」




「おう、すまんが勝手に座っておるぞ」




しばらくすると、奥からミリィが顔を出した。


彼女はその脚を器用に動かして、音を立てずにわしの前に座る。


どのような仕組みじゃろうか、体捌きも見事よな。




「・・・随分元気そうねえ、ビーストとサキュバスを相手にしてまさか立って歩けるなんて」




「どうもの、随分と貯まっておったらしい・・・ご無沙汰じゃったしの」




まあのう、ざっと20年分程ご無沙汰じゃったし。


若い体とは素晴らしいものじゃな。


リトス様に感謝感謝じゃ。


・・・相手をしてもらった2人には悪いがの。




「あなた、色々と規格外のようねぇ・・・うちの用心棒にも気付いたみたいだしぃ」




「おおあやつか、見事な隠形であった。ここが娼館でなければ一戦所望したい所じゃな」




「人族なのに・・・考え方がオーガとかっぽいのよねぇ、あなた」




色っぽく溜息を付きながら、ミリィが頭を押さえる。




「それはそうと・・・朝食でもいかがぁ?安くしとくわよぉ?」




「それはありがたい、何しろ腹ペコでな」




はぁい、と言うとミリィはまた奥へ入っていく。


・・・背中のラインが何とも艶めかしいのう。




「あらぁ?私を朝ご飯にする気ぃ?」




振り返ったミリィが軽く睨んでくる。


さすが、男の視線には敏感なようじゃな。


そうすると少女のようにも見える、不思議じゃ。




「まさか・・・お主は朝餉で済ますには勿体ない。また金を溜めて夜に来るわい」




「本気ぃ・・・?蜘蛛の夜は長いわよぉ?」




不意に複眼が怪しく光る。


ほう・・・やはり美しい。




「戦から逃げぬのがわしの信条でな、こと美人が相手では余計にのう」




「そう、じゃあ・・・いい夜を選んで来てねぇ?待ってるからぁ・・・」




ミリィは妖艶に微笑むと、今度こそ店の奥に消えていった。




『じゅうべー、すけこましー』




「ふん、いい女を褒めぬ方がどうかしておるわ」








「お口に合ったかしらぁ?」




「うむ、うまい!昼に飯屋でもやれば客が殺到するのう」




「やぁよ、夜だけで十分ですものぉ」




ケラケラと笑いながらミリィが言う。




ミリィが出してくれた朝食は、ことのほか美味であった。


例によって、見たことも聞いたこともない外見と味であったが。


これは・・・飯だけでも通いたくなるのう。




「さて、それではお暇するとしようかの、清算してくれ」




「はぁい、ラクロの分と2回戦目は安くしておくわぁ。あの子たちが勝手に暴走したんだしねぇ?」




「ぬ、それはいかん。きっちりと払うぞ、あやつらはしっかり働いた」




ありがたいが、そこはきっちりしておかねばな。


働きに応じた対価は払われてしかるべき、じゃ。




「・・・しっかりしてるのねぇ、わかったわぁ」




「うむ、それに・・・次に来にくくなるしのう」




なお、料金はなかなかのものであった。


・・・多めに持って来ておいて助かったわい。


ちなみに報酬やらの金はギルドに預けてある。


いくらかの手数料を取られるが、持ち歩いて落とすよりマシじゃ。


なによりこの国の通貨に紙幣はない、持ち歩くには重すぎる。




「じゅ・・・じゅうべえ・・・さまぁ・・・」




代金を払い終わり、帰ろうとすると2階から声がかかる。


見上げると、体にシーツを巻き付けたリーノの姿があった。


おい、もそっとしっかり巻かぬか、見えておるぞ色々と。




「寝ておってもよかったのに、疲れておるじゃろう」




手すりに体を預け、両足をがくがくと震わせたリーノに言う。




「お見送り・・・ですぅ・・・」




見上げたプロ根性じゃ。


若いのにしっかりしておる。




「そうかそうか・・・リーノ、昨日はすまんのう・・・また来るぞ、もういいから休め」




「はぁい・・・私ぃ、待ってますからぁ・・・」




しんどそうに手を振るリーノ。


次に来たときは、もう少し優しくしてやろう。




「リーノ、今日はずっと寝てていいわよぉ?10人分以上の仕事量でしょうしねぇ?」




「はぁい・・・ママぁ・・・」




「しっかりお薬だけは飲んでおきなさいねぇ?」




「はぁい・・・」




リーノはそれだけ言うと、さすがにしんどいようで這うように部屋に戻っていった。




ちなみに薬とは避妊用の魔法薬のことじゃ。


これも昨日2人に教えてもらった。


なんでも『した』後に飲めば子供はできぬし性病にもかからぬという。


なんとも便利な世の中よのう。




さて、わしも帰るとするか。




「それではの、ミリィ」




「またのご来店、お待ちしておりまぁす♪・・・あと、私は、高いわよぉ?」




不意に寄ってきたミリィが、わしの頬を手でするりと撫でる。




「ほう・・・それではまた地竜でも斬ってくるわい」




その手を撫で、わしは店の外に出た。


ふむ、だいたい・・・朝の9時ごろといったところか。


腕の時砂で大体の当たりを付ける。




とりあえず・・・魔法ギルドで匂い消しじゃな。




全身から漂う香水や女の体臭やらなんやら。


さすがにこのままでは屋敷に帰れんのう。


またキトゥン嬢に固まられてしまうわい。








「ジュウベエ様!お帰りなさいませ!」




「おう、アゼル」




店先におったアゼルが駆け寄ってくる。


魔法ギルドで匂い消しをしてもらった後、街中をしばし散策して昼前にアリオ殿の屋敷へ帰った。


しかし本当に一瞬で匂いが消えるものじゃな・・・


携帯型の消臭魔法具、結構な値段じゃが買ってみようかの。




「セリン様からの使いで知りました・・・それで、お体は大丈夫なのですか!?」




ぬ、セリンめそのようなことをしておったのか。


確かにアリオ商会に居候しておるとは言ったが・・




「もうすっかり元気よ、知らせが来ておったとは知らずに外泊してしまう程度にはのう」




「それは・・・ようございました、アリオ様たちも心配しておいでですよ」




「ぬう、それは悪いことをしたのう・・・」




いかん・・・セリンめえ、使いを出すなら出すと言わぬか!








「じゅうべえさま!ドラゴンとたたかったって、ほんとうですか!?おけがはありませんか!?」




ここは、アリオ邸の食卓である。


丁度昼食の時間なのでとアゼルに案内されると、さっそくナリア嬢に話しかけられた。


セリンの言伝は、そこまで伝えておったのか。




「心配をかけたようで、すまんのう。うむ、本当じゃよ、怪我ももう治ったわい」




「よかったです!・・・あの、つよかったですか!ドラゴン!」




「これナリア、お行儀が悪いわよ」




目をキラキラさせて身を乗り出すナリア嬢を、ロニー女史がたしなめる。




「ふうむ、仲間がよく手助けしてくれたからのう・・・さほど強い相手でもなかったわい」




「そうなのですか?」




「うむ、空も飛ばぬし火も吹かぬ、あんなものちょっと大きい蜥蜴のようなものじゃ」




「へぇ~」




「ナリア、地竜は決して弱くはないよ。ジュウベエ様が強すぎるだけだからね?・・・普通は傭兵でも軍隊でも、10人20人で囲って戦うのだから」




アリオ殿が苦笑いしながら補足する。


・・・アレに集団で?


より被害が拡大しそうじゃが・・・




「ジュウベエ様、地竜は前衛の盾持ちが引き付けた後、後衛の魔法の波状攻撃で仕留めるのが定石なんです」




アゼルもまた苦笑いで補足する。


なるほど、それならば安全に倒せそうじゃな。




「しかしジュウベエ様、差し支えなければどのように倒したか教えていただいても・・・?」




「あなたも、お行儀が悪いですわよ」




アリオ殿もまた、娘と同じようにキラキラとした目で問いかけてくる。


似たもの親子じゃな・・・


よく見れば、たしなめたロニー女史も興味深そうにしておる。




「ふむ、それでは食前の手慰みにでも・・・荒野についた後、まずはゴブリンが・・・」




このままでは埒が明かぬので、今回の件を説明することにした。








「・・・ジュウベエ様、では地竜の頭と胴体に付いたのは切り傷だけですか?」




語り終わると、商人の目をしたアリオ殿が聞いてくる。




「目から刀をぶち込んだからのう、脳も駄目になっていると思うが・・・」




「・・・素晴らしい!こうしてはいられません!!」




わしの答えを聞くや否や、がたんと立ち上がったアリオ殿が急ぎ足で去っていく。


おうおう、飯も食わずにせわしない事じゃが・・・いったい何故じゃ?




「ジュウベエ様、先ほどアゼルが言った通り地竜は通常、魔法の波状攻撃で倒します」




ロニー女史が話しかけてくる。




「そのため、普通体表は破壊され、全身には多数の傷が残ります。しかし今回はほぼジュウベエ様が斬っただけとのこと、体表の綺麗な地竜は・・・垂涎の的なのです」




「革が高く売れるとか、そういうことかの?」




「それだけではありません、全身が残っていれば大きい面積の革も取れますし、全身をはく製にすることもできます」




・・・はく製?


そんなことをして何になる?




「強力な魔物のはく製は、貴族の方々が己の力を誇示するための宣伝材料にもなるのです。それに生の内臓は薬や霊薬、骨は武器の材料として珍重されますし・・・」




なるほど、つまり傷が少ないものは高く売れると。




「それはわかったが、ではアリオ殿は一体どうして・・・」




「傭兵の狩った大型の魔物は、原則その傭兵の所属する街で競売にかけられるのです。夫はそれに参加するために出て行ったのですわ」




ほうほう、なるほどのう。


商人にとっては降ってわいたチャンスというわけじゃな。




ぬ?待てよ・・・セリンは国が買い上げてくれると言っておったが・・・




「国が買い上げるのは、買い手がつかなかった場合ですわ。ジュウベエ様がおっしゃる状態でしたら、商人が放っておくはずがありませんもの」




「なるほどのう・・・アリオ殿には世話になっておるゆえ、専売にするように仲間に言ってもよいが・・・」




「いけませんわ、主人も私も商売でそういう馴れあいは苦手ですの。お気になさらないでくださいな」




むう、できた夫婦であることよ・・・


しかし、どんどん恩ばかりが増えていくのう・・・




「ふふふ、魔法ギルドや貴族の方々は、ああいったものを買うのに金に糸目はつけませんから・・・」




ロニー女史の目が怪しく光る。


商人の妻としての本能かのう。


わしにはとんとわからぬ分野じゃし、好きにさせておこう。




まあ、わしにすれば誰が買おうが懐に入ってくる金が多いに越したことはない。


ミリィとも約束したしのう。


金はいくらあっても困るものではないわ。






「じゅうべえさま、すごいなあ・・・わたしも、つよくなれますか?」




なにやらわしの話に感じ入っておったナリア嬢が、キラキラした目を向けてくる。




「なんじゃ?ナリア嬢は強くなりたいのか?」




「はい!つよくなっておおねえさまをたすけて、おみせをもっとおおきくするの!」




「大姉さま?」




「わたくしたちの長女ですわ。今は王都の学校に通っておりますの」




ほう、そういえばナリア嬢は末の娘と言うておったな。




「ナリア嬢には何人兄弟がおるんじゃ?」




「おおねえさま、ちいねえさま、おおにいさま、ちいにいさまの4にんです!」




5人兄弟か、結構な大家族じゃのう。


・・・ロニー女史、そんなに子供を産んでいるとは思わなんだわ。




「長女と長男は王都に、それ以外の子供たちも他の街で学校に通っておりますわ」




「ほお、それはそれは・・・」




この世界で、子息全員に教育を受けさせるとは・・・


先見の妙もあるが、それ以上に子煩悩なことじゃのう。


それに、商売の繁盛ぶりを見れば羽振りもいいようじゃ。


考えてみるとわし、結構いいことをしたのう。


アリオ殿のような人間が死ねば、この街は大混乱になっておったかもしれん。




「ふむ、手助けか・・・そういうことなら護身術程度なら教えてやろうかの」




「よろしいのですか?ジュウベエ様。ご迷惑では・・・」




「なあに、ほんの手慰みじゃよ。ナリア嬢はまだ体が出来上がっておらぬので、初歩的なことじゃがな」




このような世界じゃ。


たとえ商人と言えど、自分の身くらいは守れた方がよい。


ここまでよくしてくれている恩返しも兼ねてのう。




「ほんとですか!?」




席を立ち、わしの傍らまで駆けてくるナリア嬢。




「うむ、アゼルと訓練している時に教えてやろうの」




頭を撫でると、はにかんだような笑みを見せる。




「えへぇ・・・ジュウベエさまのて、おじいさまみたい」




「ナリア!ジュウベエ様はお若いのに・・・」




「はっはっは、よいよい、よく言われるわい」




実質的には爺じゃしの、わし。








食事を済ませ、屋敷から出た。




あの様子ではしばらく商会は大忙しじゃろうな。


暇なときにアゼルとナリア嬢の訓練でもしてやろう。


おおそうじゃ、適当な短刀を探さねばな。


この国のナイフは脇差と微妙に違うので、教えるときにやり辛い。


近いうちにグリュン殿に頼んでみるか。




そんなことを考えながら歩いていると、傭兵ギルドに着いてしまった。


特に用事は・・・そういえばペトラが今日飲もうと言っておったな。


時間の指定もしていないし、おるかどうかもわからんが行ってみるとするか。






「ジュウベー!こっちだこっちぃ!」




おったわ。


赤い顔をしたペトラが酒場からジョッキを振り上げてわしを呼ぶ。


昼過ぎじゃというのに・・・こやつ朝から飲んでおったのか?




「おうペトラ、座ってもいいかの?」




「ったりめえだろ?飲むって言ったじゃねえか!」




向かいの席に座ると、いつぞやの尻の綺麗な女給が注文を取りに来た。




「いらっしゃいませ~何にしましょ・・・あ、前の酒瓶の人!」




なんちゅうあだ名じゃ。


・・・ああ、セリンを見捨てた傭兵を殴った時のことじゃな。




「ジュウベエじゃ、わしもお主の旨そうな尻が忘れられぬわい」




「きゃあ、相変わらずケダモノぉ♪私はノナっ!よろしくねっ」




「おう、よろしくの。とりあえず適当に強い酒とつまみをくれ」




真昼間じゃが、セリンに街から出るなと言われておるし呑んでもよかろう。




「じゃああたいもジュウベエと同じやつ!」




「は~い」




サービスのつもりか、ノナは尻を振り振り厨房へと帰って行った。


ううむ、見事じゃ。


通おう、ここにも。




「ジュウベエって意外に女好きだよな、あんなに強ええのに」




「なんじゃ、戦士が女好きではおかしいか?」




「いや・・・おかしかねえけどよ。うちの兄貴とか師匠とか、強ええ奴ってのはそういうの、邪魔だと思ってるからさ・・・あいつら女嫌いだし」




「まあそこは個々人の主義があろうな。人それぞれじゃよ」




わしとて女好きじゃが色々と好みはあるしの。


子供と他人の女には手を出さんし。


基本的に、言い方は悪いが商売女だけじゃの。


後腐れもないしのう。




「ふうん・・・そういうもんかぁ」




「そういうもんじゃよ、強くなる方法に決まりはない」




ペトラは椅子に反り返って腕を組む。


おおう・・・眼福じゃ。


今日は眼福が多いのう、日頃の行いがいいからかの。




「おっまたせしましたぁ~」




ごとりと目の前に酒瓶と湯気の立つ肉が置かれる。


ほう、何の肉かわからんがうまそうじゃ。


それにこの酒は・・・




「前は飲めなかったでしょ?」




「いいサービスじゃな、これから通うぞ」




「うふ、まいどありぃ~」




酒瓶からわしとペトラのコップに酒を注ぐ。




「では、乾杯といこうか」




「おう!地竜討伐を祝して!」




「「乾杯!!」」




ごつんとコップをぶつけ、口を付ける。


・・・ふむ、雑味の多いどぶろくのような味がする。


米ではないな・・・何かの雑穀から作った酒かのう。


じゃが、野生的でなかなか悪くない。


差し向かいに美女もおるしのう。




つまみの肉も胡椒が効いておってうまい。


さっき昼飯を食うたばかりじゃが、いくらでも入るわ。


あとでギルドの闘技場を借りて、腹ごなしに訓練でもするかの。




「・・・ああそうだ、ジュウベエならわかるかもな」




しばらく飲んでおると、ペトラがふと思いついたように口を開く。




「なあなあ、最近あたいの乳とか尻とかやたら見てくる男が多いんだけどよ、ありゃなんでだ?」




つい、口をあんぐりと開けてしまう。


・・・何を言うておるのか、こやつは。




「・・・本当にわからぬのか?」




「ああ!見当もつかねえ」




・・・うむ、はっきり言うてやった方がええじゃろうな。




「それはのう、お主の露出が激しい上にすこぶる美人だからじゃ」




「・・・あたいが!?まっさかぁ!」




ぽかんとした後、ゲラゲラ笑うペトラ。


これは・・・本当に冗談だと思っておるな。


始末が悪い。




わしは、仕事仲間には手を出さんことに決めておる。


これは前の世界から一貫してそうじゃ。


道場の門下生にも何人か女性がおったが、それにも決して手を出したことはない。


結婚したいほど惚れた相手なら別じゃが、そうでないなら手を出すべきではないからのう。


ゆえに、わしはほとんど商売女しか相手にしたことはない。




ここでペトラの魅力を語りつくして諫めてもよいが・・・やめておこう。


昼間からする話でもないしの。




「・・・ちなみにじゃがな、お主、夫にしたいのはどういう男じゃ」




適当にお茶を濁しておくとするかのう。




「うう~ん・・・あたいより強くて・・・優しけりゃいいかな」




「・・・まあのう、強くて優しいというのは重要じゃの」




随分とまあ、あっさりした条件じゃな。


容姿や出自が重要でないとは。


・・・やはりこやつ、中身はずいぶん男らしいのう。




「あたいが傭兵やってんのも里から出たかったっていうのと・・・婿探しだしな、まあ今は傭兵家業が楽しいからそっちはあんま真剣に考えてねえけどよ」




「ふむ、なるほどのう・・・ちなみに今まで出会った中でいい男はおったか?」




「駄目だなあ、みぃんなあたいより弱っちい。たまぁに強いのがいても、性格が最悪だったりしたし」




この前の戦いを見る限り、ペトラの力量はかなりのものじゃ。


条件に合う男を探すのは、中々に大変じゃろうのう。




「ま、そこまで急ぐことも無かろうよ・・・お主もまだ若い・・・よの?いくつじゃ」






「あたい?もうすぐ17だけど」






・・・なんじゃと。


つまり16ではないか!?




身長と体つき、喋り方からして、もっと上じゃと勝手に思うておった。


予想以上に若かったわ。


この世界は色々とわかりにくくて困るわい、エルフなんぞもおるしのう。


なるほど、それなら今までの態度も納得じゃ。




「まあ、気長に探せばよかろう・・・人生は長い」




「だよなあ?」




「うむ、飲もう飲もう、どうせあと2日は街から出れぬのじゃし」




「おう!」




わしらは再度コップをぶつけ、中身を一気に飲み干した。


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