第38話 十兵衛、大いに暴れる。

「GRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRR!!!」




3つ首の太刀魚めいた魔物が、その口を大きく開いて飛び掛かってくる。


その口内にはびっしりと乱杭歯。


噛まれたら痛そうじゃのう。




「っしいいあっ!!」




身を沈めて初撃を躱しつつ、伸びあがるように刀を振るう。


喉元からするりと沈んだ刃が、多すぎる首を跳ねた。


ほほう・・・身は上品な白身じゃな。


刺身にすればさぞ美味かろう。




「DRDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDDD!!!」




益体もないことを考えておると、今度は双頭の伊勢海老のような魔物が肉薄してきた。


おう、これはまた硬そうじゃ。


関節を狙うかのう。




「天上の雷、唸れ!!」




その瞬間、わしの後方から鞭のようにしなる稲妻が飛び出して伊勢海老に巻き付く。




「『雷鎖天変ラザール』!!!」




「GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA⁉⁉⁉」




巻き付いてすぐに凄まじい放電が起こり、なんとも食欲をそそる匂いと共に伊勢海老は死んだ。


ううむ、腹が減るわい。




「すまんのう!助かったわい!!」




「お気になさらず、ですわ!!」




振り返ると、先程助けた魔法使いが杖を構えておった。


ほう、あれもエルフか。


耳がセリンほど長くないので、ハイ=エルフではなさそうじゃが。


しかし、セリンを思い出す喋り方じゃのう。


エルフはみんなああなのかもしれんな。




「好きに援護してくれい!お主の方には1匹も抜かさんから・・・のうっ!!」




宙を飛んできたナイフのような魚を斬り捨てる。


なんとも、多種多様じゃな。




「お任せください、ですわっ!」




ふふ、元気がいいのう。


先程は泣いておったが、あの分では大丈夫そうじゃ。




「すまねえ助かった!援軍か!?」




魔物の血で濡れた長槍を持った男が、わしの横に並ぶ。




この船の傭兵かのう?


動き易そうな皮鎧を着込んだ、筋骨隆々の大男じゃ。


なかなか強そうじゃの。




「おう、わしは十兵衛。すまんが人間はわしだけじゃ、海の方には『蒼の団』が来とるがの」




「セイレーンの姉ちゃん達がいりゃあ、海の上では百人力だぜ!あんたも、その背中に乗ってきたってこたあ・・・頼れそうだ、なっとぉ!!」




話の途中で男が凄まじい速さで槍を突き出し、カニのような魔物の装甲を貫く。


・・・片手突きであの威力、あの速さ。


はは、こやつ強いのう。




「さあての、それじゃあわしも精々頑張ると・・・しようか!!」




百足の足が生えたクラゲのような魔物を斬り捨てる。


しかしまあ、どういう進化をしたらこんな生き物が生まれるんじゃ・・・?




「へっへ!見込んだ通りだぜ!俺はグレンってんだ、よろしくなジュウベエ!!」




言うなりグレンは他の場所へ駆け出す。




「あっちにゃ新入りが多い!すまねえがこっちは任せたぜェ!!」




行き掛けの駄賃とばかりに魔物を蹴散らし、グレンはあっという間に見えなくなった。


どうやら、ここを任せてもいいくらいには見込まれたようじゃの。


それでは気張るとするか。




わしの後方には魔法使いたちと、それを囲うように槍を持つ戦士たちの一団。


大楯を構えた戦士の隙間から、矢継ぎ早に魔法が放たれておる。


その魔法は甲板を大きく越え、クラーケンの体表で炸裂しておる。


効いておるかも定かではないが、甲板の魔物を気にしている余裕はなさそうじゃ。


護衛の戦士も、降りかかる魔物を捌くだけで精一杯のようじゃの。


わしが動くしかあるまい。




「はっは、面白うなってきたわい!」




姿勢を低くしながら、魔物の一団へ突っ込む。




「GGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGGG!!!!!!!!!」




人間サイズのオニイソメめいた魔物が、わしに向かって口を開く。


大きく開かれた牙の隙間から、極小の礫が高速で放たれる。


このままでは顔面に喰らうので、加速して甲板を滑る。


血や海水で滑りやすくてええわい。




「しゃあァっ!!!」




礫をくぐりつつ、滑走の勢いを乗せて腹に突き。


腹を貫かれて痙攣する魔物を渾身の力で振り回し、その後ろで隙を伺う1匹にそのままぶつける。




「ギャガ、ギ!?」




仲間がぶつかって体勢を崩された巨大ウツボの、大きく開いた口から愛刀を真っ直ぐねじ込む。


脳まで達したであろうそれを、捻りつつ引き抜く。




「さあ!来い!来い!かかって来い!!」




引き抜いた勢いで前に倒れるウツボの頭を足場に、大きく跳躍。




「それともっ!!」




空中のわしに向け、多脚のホヤのような魔物が頭頂部の穴からぬめる触手を伸ばす。




「ここでっ!!」




しなやかかつ鋭いそれを、峰で受け流し。




「全員刺身にしてやろうかぁっ!!!」




落下の勢いを乗せてホヤの体表面をぞぶりと斬り裂く。




まだまだ敵は残っておる!


止まっておる暇は・・・ない!!




「キシャアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」




背中に小舟の残骸を背負った軽自動車ほどのヤドカリが、周囲の魔物を薙ぎ倒しながらこちらへ迫る。


なるほどなるほど、仲間という意識はないらしいのう。




ねじくれた槍の穂先のような先端を持ったハサミが、わしを薙ぐように振るわれる。




「よっ」




跳び上がってそこを足場にしつつ、さらに前へ。




「ほっ」




空中のわしに向けて振るわれるもう一方のハサミ。


その根元を蹴りつけて顔へ跳ぶ。




「っはぁあ!!!」




「キュシュ!?!?」




そのまま、勢いを乗せてヤドカリの口に刀を突き立てる。




「ぬうう・・・!!」




あまりやりすぎないように手加減しながら、柄を握る手に力を込める。


ほんの少しの疲れを感じる。


・・・このくらいかのう?




「ギギガ・・・!?ガガガガガガガガガガガガガ!?!?!?」




口内にわずかに紫電が飛ぶのが見え、ヤドカリは痙攣しながら絶命した。


刀を引き抜きながら後方へ跳躍し、甲板に着地した。




よし、これくらいの力加減でいいじゃろう。


あまり魔力を込め過ぎて、前の吸血鬼のように消滅しては目立つ。


これならば変にも思われまいて。




『まりょくできづかれる、よー?』




耳元で精霊の声。


・・・ならお主も話しかけてくるな。


後ろにはエルフがおるんじゃぞ。




『ことばはわかってないからー』『あんしん!』




はいはい、そうであるか。


せいぜい気を付けるとしよう。






気を取り直して甲板を見回す。


大物を屠ったからか、その他の魔物はわしを遠巻きにして攻めあぐねておるようじゃ。


先程のグレンが向かった方も、聞こえるのは魔物の悲鳴ばかり。


ふむ、小康状態かのう。






そう思った途端、船が下から突き上げられるように振動した。






これは・・・クラーケンか!?




クラーケンは変わらず、魔法を受けて平然としておる。


いや、距離はまだある・・・触手もここまでは伸びておらん。




では、海面下に新手が現れたのか!?


せめてこちらに来てくれればやりようがあるが・・・セイレーンたちにまかせるしかあるまい。






「で、伝令!!」




しばらく後、甲板から船内への出入り口であろう扉から男が顔を出す。


水兵服のようなものを着たその男は、体中が煤と血で汚れていた。




「魔導機関が臨界により1基破損!!さらに速度が落ちます!!!」




ざわり、と空気が変わった。




魔導機関は、たしか6つあって残りは3つだったはずじゃな。


それでギリギリクラーケンに取りつかれておらんかったから・・・これは、ちとまずいぞ。


追いつかれてしまう。




・・・じゃがまあ、わしのやることに変わりはないか。


とりあえず甲板を掃除せねばな。




「呆けておる場合かあ!前を見ろォ!!」




青ざめる護衛や魔法使いに叫ぶ。




「動け動け!戦わねば死ぬるぞ!!手を止めるな!頭を休めるな!!」




そう言いつつ、手近にいたフグの化け物を両断する。


飛び散った血液が甲板に付着し、煙を上げた。


おっと、こういう魔物もおるのか。




「与えられた責務を果たせ!!魔法を撃て!!魔法使いを守れ!!」




フグを蹴り飛ばし、魔物の集団に叩き込む。


おお、溶けよる溶けよる。




「できることをやれ!最善を、尽くさぬかぁ!!」




足の生えたカジキマグロが、長大な背びれで斬りかかってくる。


剣先を添えて勢いを逸らし、脇差で目を突く。


魚っぽい魔物は柔らかくてええのう。




「安心せい!ここからはわしが1匹も通さん!!」




二刀を持ち、左右に広げて構える。


一丁前に怯んだのか、魔物たちがじりじりと下がる。


は、魔物でも恐怖は感じるらしいのう。




「さあ来い、ホラ来い、死ぬまで戦ってやるわい!もっとも・・・わしを殺せるほどのものがおるかのう!?」




そう叫びながら、甲板を蹴って走り出した。








「ぬんっ!」




「GGGGGGGGGGGGGGGGGGGG!?!?!?」




巨大なカブトエビだかカブトガニめいた魔物。


その頭部に、振り下ろした剣先が斬り込む。


硬い・・・が!




「があああああああああああああああああああああっ!!!」




斬り込んだ所から火花を散らし、するりと刃が内部へと進入していく。


がむしゃらにもがく魔物であったが、ある一定の距離を刃が進むとおとなしくなった。


脳を破壊したか。




「・・・ふう」




跳び下がって残心。


息を吐くと同時に、地響きを立てて魔物が沈んだ。


こいつで、わしの方におる魔物は最後じゃな。




「中々に楽しかったわい」




周囲を見渡せば、甲板のそこかしこに死んだ魔物の姿がある。


ううむ、大体食えそうじゃが・・・肉食っぽいから不味いんじゃろうの。


勿体ない事じゃ。




後方の一団も無事。


脱落は誰一人おらん。


まあ、わしが1匹たりとも後ろに行かさんかったからのう。


わしの方は一息ついたが、奴らは相変わらず魔法をバンバン撃っておる。


そしてクラーケンにも全弾命中しておるが・・・うむ、効いておるようには見えんのう。


変わらずにこちらを追っている。




海上では『蒼の団』の面々も攻撃を仕掛けておるが・・・こちらも効いておるようには見えんのう。


クラーケンの周囲には『眷属』も大量におるし、それを乗り越えて行くのも難しそうじゃ。


見た所誰も死んではおらんようじゃが・・・




じゃが、速度が下がったこの船に追いつけぬ程度には、クラーケンも嫌がっておるようじゃな。


船上の魔法使いだけでは、ひょっとしたら肉薄されておったかもしれん。


さあて、この膠着状態が続けばいいのじゃが・・・


港に近付けば近付くほど、わしらの味方は増える。


それまでこの船が持てばいいのじゃがなあ。




『あっ』




と、考えておると精霊が声を出した。


なんじゃ、気になる声じゃのう。




『じゅーべー、くる』『こわいの、くる』『こわい』




いつもの陽気さはどこへやら。


何かを怖がるように、精霊どもが口々に言う。




「(怖いの・・・?新手か)」




ぼそりと呟くと、精霊どもが震えながらわしの頬にすがりついてきた。


よほど怖いらしい。




『くらうもの』『ししゃ』『まつろわぬたましい』




「(ふむ、よくはわからんが恐ろしそうじゃのう・・・)」




何を言っておるのかわからぬが、あまり歓迎したい手合いではないようじゃ。




「(よし、こうしよう。精霊どもよ、お主らは船室に行ってくれぬか?そこに、アリオ殿の娘御がおるはずじゃ)」




『むすめ?』『まもる?』『さがす』




「(おう、守ってやってくれい・・・ぬ、じゃがわかるか?)」




『においがいっしょなら、わかる』『ありおっさん、すきだからおぼえてる』『おかし、おそなえしてくれるから』




・・・好きならもっとマシな呼び方にしてやってくれ。


まあ、わかるならそれに越したことはないが。




「(うむ、頼むぞみんな・・・ここは、わしに任せておけい)」




『わかった!』『たのんだぞー!』『ほねはひろってやる!』




いつもの調子を取り戻した精霊どもは、嬉しそうに甲板を貫通して行った。


・・・果たして、あ奴らがいつもと同じか初対面かはわからんがな。


見分けがつかん、精霊は。




「何か来るぞ・・・お主らはクラーケンのことだけ考えて・・・!?」




仔細をぼやかして注意しようとした所、背筋に悪寒が走った。


・・・来る、か。






その瞬間、船とクラーケンの中間地点ほどに大きな水柱が出現した。






轟音と海水をまき散らした『それ』は、高く空中へ跳び上がり・・・


放物線を描いて、甲板・・・わしの正面に着地した。


甲板は軽く陥没し、『それ』が纏った海水で水浸しになる。




「ほうほう・・・派手な登場じゃな、千両役者」




柄の握りを確かめながら、わしは『それ』に声をかける。






『それ』は、人の形をしていたが人ではなかった。






大きさは・・・2メートル半といったところか。


背中には大きな巻貝を背負い、体は見るからに硬そうな装甲で覆われておる。


目鼻のあるべき部分には何もなく、つるりとしたのっぺらぼうのような頭部があるばかり。


その顔の中心には、見るからに禍々しい色をした宝石のようなものがはまっておる。


手には、まるで漆黒の珊瑚のような刃がついた長大な槍を持っておる。




「ひっ・・・!」




後ろから、息を呑むような悲鳴。




「嘘だろ・・・『イリオーンの眷属』じゃねえか!?」「クラーケンだけでも手に余るってのに・・・!!」




口々に叫ばれる。


そのどれもが、絶望の色を濃くしている。


『イリオーンの眷属』と言っておったな。


こやつ、中々の有名人?らしいのう。


あいにく、頭の中の知識にはないが。




さてさて、どう攻めたものか・・・と柄の握りをもう一度確かめた瞬間。




やつは体がブレるほどの速度で動き、風をはらませた槍が横薙ぎに襲い掛かる。


甲板に向けて沈み込んだわしの頭上を通過した槍が、すぐさま反転して上から降ってくる。




「っし!!」




迎撃の斬撃が穂先をとらえ、わずかにその軌道をずらす。


わしの脳天をかち割るはずの一撃が、音を立てて甲板に深々と埋まる。


好機!




「あぁっ!!」




気合を込め、装甲の隙間を狙って斬る。


槍を振り下ろしたことで空いた脇の下、急所。


斬り上げの形になった斬撃が、装甲の隙間を確かにとらえた。




「・・・ぬ?」




手に伝わる感触がどうにもおかしい。


肉や血管を断ったものではない。


まるで粘土でも切ったようじゃ。


こやつ・・・人の形をしているが、中身は全く違うらしい。




「オオオ・・・!!!」




どこから出しているかは見当もつかんが、奴は声を出して突き刺さった槍をそのまま横へ振るう。


甲板の破片をまき散らしながら。




「っく!?」




抜きもせんか!


そのままとは・・・なんちゅう馬鹿力か、化け物め!!


速度が出始めた槍の中ほどを蹴りつけ、振るわれる勢いに乗って跳ぶ。


浮遊感とともに、一気に距離が開く。




仕切り直し・・・じゃな。


下段に構え、呼吸を整える。




「オオ・・・オオオ・・・」




目はないはずだが、奴はしっかりとこちらを見ている。


切り裂いた脇の下からは、なにやら青いオイルのような液体が流れ出ている。


アレが血液・・・か?




「ウウ・・・オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」




滴る血液?を指で掬い取った奴は、突如として吠える。


怒りか、憎しみか・・・


なんにせよ、効かぬわけではないらしい。


興奮する程度には痛手を与えたようじゃ。




「『血が出るなら殺せる』・・・じゃったか?まあいい」




誰かが言っておった名言を思い出しつつ、正眼に構える。


さあ、どう来る?




「オオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!!」




奴は槍を両手で天に捧げるように持ち、凄まじい勢いで回転させ始めた。


回転数が上がるにつれ、ごうごうと竜巻のような風切り音が周囲に響く。




「・・・いけません!『明け来る天上の光よ・・・』」




後ろから、何か慌てたようなエルフの声が聞こえる。


続いて詠唱を始めた所を見ると、どうやらあの行動は何か危ないらしいのう。




「っふ!!」




懐から取り出した十字手裏剣を、矢継ぎ早に放つ。


アレが詠唱と同じものなら、ここで止めておかねばならん!


時間差をつけて放たれた4枚の手裏剣が、空気を切り裂いて飛ぶ・・・が。




「ルウウウウウルウウウウウウウウウウウウウウウウルルルルル!!!!」




回転によって生じた空気の壁に弾かれ、軌道を逸らされる。


何ちゅう圧力じゃ!!




「だ、だめだ・・・もうどうしようもねえ・・・」「アレが発動しちまったら・・・」




後方の戦士たちから、絶望とも諦観ともとれる声が聞こえる。


馬鹿めが、動けるうちから諦めてどうする。


情けないのう・・・




「嬢ちゃん!わしの合図で魔法を撃て!!返事はせんでいい!!」




あの嬢ちゃんはまだ諦めておらぬ。


わしもそうじゃ。


死ぬ瞬間まで戦う。


負けてもいいが、逃げることは許されん。






そうでなければ・・・若返った意味も、ここに来た甲斐もないわ!!






相変わらずぶんぶんと景気よく槍を振り回す奴の、真正面に立つ。


息を整え、肩に担いだ愛刀の柄を強く握る。


呼吸と共に、体から魔力が抜けていく感覚。




まだじゃ、まだ。


もっと絞り出せ。




刀身に、紫電が纏わりつく。


それを隠すように、納刀した。


鞘の隙間から、早く出せと言わんばかりに光が漏れる。




さあて・・・往くか。




「お嬢ちゃん・・・いけるか?」




振り返ると、詠唱を止めたエルフがわしを見て頷く。


ふふ、いい目をしておる。


周囲の男どもより、よほど戦士の目じゃ。




「よおし・・・では、往くぞ!」




甲板を蹴って奴に向かって走る。


後方からはどよめきが伝わってくる。


見る見るうちに奴が近付き、風圧が強くわしの体を打つ。




「今じゃあ!!わしごと撃ていっ!!!!!」




「い、『旋環閃光華イリュオス・ルルリオ』!!!!!!!!!!」




ほう、躊躇もなしか。


いいのう、いいのう。




エルフの叫びと共に、後方から魔力の圧力が増す。


ぎゅるぎゅると空気を切り裂いて、それはわしに迫る。




「今ですわ!」




「応っ!!」




その声に上体を折る。


倒せるだけ体を倒し、疾走するわしの頭上を光り輝く槍のような閃光が通過する。


高速で螺旋回転する槍は、そのまま奴の風の結界めいたものに衝突。


飛び散る閃光。


ぐらりと揺れる奴。




「ルウウウウウウウウウウウウウウ!!!オオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」




焦ったような声と、弱まる圧力。


ここじゃあ!!!




一瞬生じた隙を逃さず、結界の穴に飛び込む。


ざくりざくりと皮膚が切り裂かれる痛みがあるが、骨までには届いておらん。


目さえ無事ならそれでよい。




「オオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!!!!!!」




戦法を切り替えたか、奴は頭上で旋回させた槍をわしに振り下ろそうとする。




はっは!


ここはもう・・・わしの間合いよ!!!




鯉口を切ると、視界に閃光。


魔力の圧力か、まるで刀が鞘から飛び出すようじゃ。




踏み込んだ勢いのままさらに沈み、居合の体勢へ。


添えた手を後押しするように、周囲に紫電が満ちる。




「っしぃ・・・あああああああああああああああ!!!」




右腕の筋繊維がぶちぶちと千切れる音を聞きながら、凄まじい速度で抜刀する。


まるで肉も骨もないように、愛刀は雷の尾を引きながら奴の両足を膝下で両断した。






南雲流居合、奥伝『紫電』


この前よりは速くなったかのう。






「オオオオッ!?!?!?」




奴は驚愕の叫びを発しながら、重力に従って崩れる。




「っしゃあああっ!!!!!!」




振り抜いた愛刀を翻しながら左手を添え、さらに前へと踏み込みながら振り下ろす。


上腕や背中から軋む筋肉の悲鳴を感じつつ、全力で暴れ回る愛刀を押さえつける。




「オオオ・・・OOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!?!?!?!?!?!?!」




「ぬうううううううううううううあああああああああああああああ!!!!!!!!!」




奴のつるりとした鏡面のような頭部。


そこへ食い込んだ刃が、紫電を放ちながらさらに斬り進む。


硬い・・・のう!まるで鋼鉄の塊じゃ!


が、斬り込んだ!このまま断ち斬る・・・!!!




「WAERRRRRRRRRRRRRAAA!!?!?!?」




痙攣を始めた奴が、不意に槍から手を離し。


わしの首元に貫き手を叩き込んできよった。


反応が一瞬遅れたわい!


貫き手は鎖骨の上に入り、体内で止まった。




「っご!?」




こみあげる吐き気。


・・・たまげたわい。


まさか頭を半分斬られても反撃してくるとは・・・のう!!




「ぬぅうううん!!!!」




「OIREEEE・・・WA・・・TTO・・・」




首元から噴き出る血を感じながら、さらに踏み込んで刃を食い込ませる。


甲板を踏み割りながら斬り下ろした刃は、奴の顔面をその趣味の悪い宝石ごと両断した。


その途端、奴の体から一切の力は消え失せ・・・ずしりと音を立てながら甲板に沈んだ。


わしの首元から、奴の手もずるりと抜ける。




下がれば、さらに突き入れられておったかもしれんからのう・・・


踏み込まねば死んでおったかもしれぬ。




残心を取りつつ観察。


・・・動く気配はないな。




「・・・ふぅ」




息を吐くと、どっと疲れと痛みが襲い掛かってきた。


ぬう、疲れの方はいいが、止血せねば。


医療魔法使いが乗っておればいいのう。




それに・・・まだ『ヤツ』がおる。




吹き出す血に手拭いをあてがいながら、わしは遠くでこちらを見下ろすクラーケンを睨み返した。


その目には、今までなかった感情が見える。




ふふ、こやつは知り合いだったのか?


怒るな怒るな・・・死ぬまで戦ってやるわい。






さあ、やろうか。

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