第26話 十兵衛、暗殺者を葬る。
「・・・っ!!」
わしを囲んだ4人が空中で振り下ろしの体勢を取る。
連携はかなりのものだが・・・甘い!
斬撃の方向が同一とは、舐められたものよ!!
適当に当たりをつけた1人に向かい、大地を蹴る。
「あぁっ!!」
低くした姿勢のまま、空中の足を斬る。
若干足を引いたようじゃが、左足首を半分は斬り込んだ。
音を立てぬために、布の靴を履いていたのが仇となったのう。
「・・・っぎぃ!?」
斬った黒ローブが、地面に落下して悲鳴を上げる。
あの音・・・足首が折れたのう。
そのまま囲いから抜けて逃げる・・・と見せかけ、反転して再び戻る。
右手で刀を持ち、左手に十字手裏剣を2枚用意する。
「しゃあっ!!」
別の1人に斬りかかると、地を蹴って素早く避けられた。
ほう、さすがの身のこなしじゃな。
・・・が、狙いはお前ではない。
「ぎゅ・・・が・・・?」
斬りかかると同時に、先程足をやった奴に向けて飛ばした手裏剣。
見事に脳天に命中しておるわ。
そ奴は不思議そうな声を出した後、血反吐を吐いて死んだ。
残りは、3人。
「レィ・・・おのれ!!」
仲間の名前を口に出そうとして止めた1人が、わしに向かって猛然と突っ込んできた。
こやつは男か。
しかも若い。
この怒りよう・・・死んだのは恋人か友人かのう?
馬鹿め、大事ならそもそも戦いの場に連れて来るなよ。
「あああああっ!!」
突進の勢いを乗せた横薙ぎが迫る。
ふん、勢い任せで技にもなっておらぬ。
つまらぬのう。
わしも突っ込む、と見せかけ寸前で後ろへ跳ぶ。
目測を見誤った斬撃がわしの前を掠める。
跳び下がりながら、空振った後にがら空きになった右手首を斬る。
「があ!?」
神経を斬った影響で、否応なしに揺るんだ手から剣が落ちる。
さてトドメを・・・おっと。
残る2人が斬り込んできた。
こ奴らは冷静じゃな、年長者か。
わしを下がらせ、引き離すのが目的じゃな。
が、乗ってはやれぬのう。
「・・・っし!!」
前方に一足で飛び込み、左右の斬撃をくぐる。
着地の勢いを保ったまま、低く腰を落とす。
「おおっ・・・りゃあ!!」
「ぎゃっ!?」
独楽のように低く1回転しながら、その勢いを刀に乗せる。
手首を押さえて呻く男の左足を、ひざ下のあたりで斬り飛ばした。
ほう、我が愛刀ながらいい切れ味じゃ。
南雲流、『草薙くさなぎ』
本来は斬り込むだけの技じゃが・・・まさか切断できるとはわしも思わなんだ。
若い力のおかげかの。
・・・はは、思うた通りに体が動くわい。
素晴らしいのう。
楽しいのう!
「ぐううう!!あああああああ!!」
切断面から鮮血を噴出させながら、男は地面をのたうち回る。
いかに魔法があろうとも、これではすぐに復帰もできまいて。
さて、残りは2人。
動揺したのか一瞬動きを止めた1人に狙いを合わせる。
空中に刀を放って柄を口で噛み、両手で挟んだ手裏剣を投げる。
「・・・っが!」
顔と胴体狙いのものは弾いたが、残念、下腹までは気が回らんかったな。
深々と刺さった手裏剣に悲鳴を上げる奴に突っ込む・・・と、思うておるじゃろう?
顔を前方に向けたまま、斜め前方に跳ぶ。
わしが手負いの1人に斬りかかると見越し、庇いに行こうとしていた奴の方じゃ。
口から柄を吐き出し、そ奴をすれ違いざまに斬りつける。
「っはぁ!!」
「っぐう!?」
一拍の遅れが命取りよ。
ぞぶり、と確かな手応え。
肋骨の下を深々と切り裂いた。
「があ・・・!!!」
大きく開いた腹の傷からはらわたをはみ出させながら、奴は地に沈む。
・・・あれでも治るというのじゃから、魔法とはすさまじいものよのう。
が、この場に医療魔法使いはおらん。
仮にこ奴らの中におったとしても、悠長に治療する暇など与えん。
残るは、1人。
「・・・」
下腹の手裏剣を無理やり引き抜き、最後の1人がわしに剣を向ける。
おうおう、「返し」付きを無理やり引き抜いたな。
傷が大きくなったぞ。
その剣先は痛みのためか怒りのためか、微かに震えている。
背後で足を押さえていた男の悲鳴が徐々に小さくなっていく。
・・・遠からず死ぬな、あ奴は。
さて、このままのらりくらりと時を稼げば手負いの2人は死ぬじゃろう。
正面のこ奴も、出血で弱っていくはずじゃ。
だが、それでは面白くもない。
故に、前へ出る。
「・・・っ!!」
わしの動きに呼応し、正面も動く。
細かく、動きの小さい動作からの斬撃。
そうじゃ、毒を使うのであれば大振りはいらぬ。
体のどこかに当てさえすればいい。
ここへ来てようやくまともな使い手に会ったな。
どうやらこ奴が、4人の中では一番腕が立つらしいのう。
間合いに踏み込み、細かく体を動かして躱す。
顔、胴体、手足。
ふん、攻めが一辺倒でつまらぬ。
もそっと幻惑せねば、当たってはやれぬのう。
そもそも当てればよいのなら、顔など狙う必要もなかろう。
「・・・っ!!」
当たらぬわしに業を煮やしたのか、奴は一歩さらに踏み込んだ。
馬鹿者が、自ら優位を捨てるとは。
暗殺者の癖に、随分とこらえ性がないの。
踏み込みの勢いを乗せた、胴体への突きが迫る。
刀を左手に持ち替えつつ、わしも踏み込む。
突きは半身になったわしの後方へ抜けていく。
「えぇいっ!!!」
「っご!?」
慌てて引き戻そうとするが、遅いわ!
半身から体を戻す反動を使い、右肘を奴の胸の中心に叩き込んだ。
奴はたまらず呼吸を止め、後ろに跳ぶ。
「っしゃぁ!!!」
「ぎ!?」
飛んだことで間合いが開いた。
そのまま腕を引き戻しつつ柄を握り、上から奴の左腕を斬り飛ばす。
剣を持ったままの左手が、地面にどちゃりと落ちる。
ふん、これで終いか。
「のう・・・引くなら、追わぬが?」
これ以上やってもなにも楽しくはない。
どうせ聞いたところで素性も吐かぬじゃろうしのう。
「・・・」
鮮血を滴らせる左腕を脇の下で押さえつつ、奴は迷っているようじゃ。
「1人は無理じゃが、2人は助かるのではないか?このままだとお主も含めて皆死ぬぞ」
「・・・馬鹿に、するな!」
奴が無事な右手を振ると、ローブの裾から長目のナイフが現れる。
刀身には何も塗られている様子がない。
ふむ、やはり引かぬか。
「・・・あああっ!!っぐが!?」
逆手にナイフを握り、わしの方に跳ぼうとした奴の額に棒手裏剣が突き立つ。
馬鹿めが、あたら命を捨てるとはのう・・・
生き延びて修練すれば、万に一つわしを殺せるようにもなるかもしれんのに。
「・・・さま、おゆるし、くだ、さ・・・」
何事かを呟きながら、奴は前のめりに倒れ込んだ。
地面との衝突で手裏剣がさらに押し込まれたんじゃろう、びくりと震えるとそのまま奴は死んだ。
はらわたが出た奴はとうに出血で死に、足を斬った男も緩慢な動きしかしておらぬ。
このまま死ぬな。
まあ、助けてやる義理もないしもう数分でくたばるじゃろう。
まあまあよい敵であった。
もう少し戦い方を変えておれば、わしも苦戦したじゃろうに・・・もったいない事よ。
血振りをして納刀する。
加護のおかげでそんなことをせずともいいのじゃが、こればかりはもう癖じゃな。
さあて・・・この惨状、どうしたものか。
一面の状況を見る。
呻いていた2人は・・・死んだな。
あの傷では無理もなかろう、南無阿弥陀仏。
あ奴らから襲ってきたのは明らかじゃし、得物には毒が塗られておる。
衛兵に知らせれば、わしが悪く思われることはあるまいて。
あまり気は進まんが、アリオ殿の後ろ盾もある。
が、面倒くさいのう・・・セリンたちにも何と言われるか。
周囲には誰もおらぬし、このまま退散するとしようかのう・・・
わしは腕を組みながら唸りつつ、あたりをうろつく。
そうしながら、後方の暗がりへ声をかける。
「おうい、早くかかってこぬか。それとも、このままわしが油断するまで待つつもりかの?」
瞬間、膨れ上がる殺気。
いくつかの風切り音。
前方に飛び込み、地面にあるものを引っ掛ける。
後方に向けて跳ね上げ、わしはその影に。
鈍い音を立てながら、ローブの死体に長いナイフが何本も突き刺さる。
中々の精度じゃな。
いやあ、いい盾がたまたま落ちていて助かったわい。
そのまま死体の首を掴んで持ち、後ろから観察する。
気配は・・・1人か。
「貴様・・・なんということを」
暗がりから怒りを含んだ声が響く。
この世界は魔法で声を変えるのが流行っておるのう。
この死体どもも、闇の中の誰そも男か女かわからぬ。
「はは、毒を塗った剣で奇襲を仕掛けるお主らに比べればまともであろう?ほれほれ、もっと射たらどうじゃ・・・まだまだ面積は残っておるぞ」
「・・・おのれっ!!」
暗がりから横薙ぎに何かが迫る。
保持していた死体を前方に投げ、後ろへ跳ぶ。
ぞん、という音と共に空中の死体が無数の肉片へと変わる。
微かに銀色の光が見えた。
鞭・・・にしてはおかしな動きじゃったな、何じゃろうか。
「ほう、お主らの葬儀は鳥葬か。何とも早い供養じゃのう」
「ほざけっ!!」
おっと、ここにもいいものがあった。
死体の切断された左足を、爪先で空中へ蹴り、浮かせる。
それを前方へ向けて蹴り飛ばす。
「ほぉれ!まだまだあるぞォ!!」
再度光が走り、足は空中で挽肉へ変わる。
・・・見えた。
奴の獲物は、長大な刀身を持った蛇腹状の剣じゃ。
前の世界では古代の戦士が使っておったと聞いたが、あれほど長いものはなかった。
ざっと見ても刃渡りは7尺以上ある。
それをあれほどの速さで振るとは・・・こやつ、口調と態度は若いが中々の使い手よ。
ふふ、楽しくなってきよったわい。
「おのれ・・・貴様ァ!生かしては帰さんぞ!!」
「はなからそのつもりもなかろうに、何を今更」
鼻で笑いながら、鯉口を切る。
「さあて・・・かかってこい若造。南雲流、十兵衛・・・参る!」
「黙れェ!!」
暗がりから、そ奴が飛び出してきた。
先程の連中と同じローブじゃが、頭部は兜、四肢は鎧を身に着けておる。
色はどちらも闇のような黒。
月光すら反射せぬ。
「ぬあああっ!!」
右手に持った剣を振ると、刀身が空中で蛇腹状に分裂した上に伸びた。
ほう、便利な代物じゃな。
魔法か何かで刀身の形状を変化させているらしい。
真っ直ぐ振り下ろされた斬撃を、横に跳んで回避。
「ほう!」
躱したと思った斬撃は、空中で反転して横薙ぎに変わる。
地に伏せると、今度はわしの上を通過する時に螺旋状に回転しながら抜けて行った。
中途半端に腰をかがめていれば、背中の肉を持っていかれたのう。
小手調べに、伏せたまま手裏剣を3枚投げる。
狙いは正中線、頭、胸、下腹部。
・・・ほう、避けぬな。
奴は飛来した手裏剣を、自由な左腕で払った。
甲高い音を残して手裏剣は虚空へ消えた。
払ったのは下腹部狙いのみ・・・胸はローブの下に鎧を着込んでおるな。
「くだらぬ小細工ゥ!!!」
再びわしに向かって剣が伸びる。
「しゃあっ!!!」
飛来する剣先に刀を合わせる。
ぬ、斬り飛ばすつもりが撃ち込んだ所がたわんで衝撃が分散しおったか。
おまけに、刀を支点に蛇のように曲がって斬り込んできおった!
「ぬん!」
刀を上方向に跳ね上げ、剣の軌道を逸らす。
「甘いわ!」
ほう、空中で反転しよった!
急角度で頭を狙う斬撃を、後方に跳んで回避。
地面に突き刺さった剣先が土を抉る。
「・・・っ!」
奴は手を翻し、蛇腹を再び手元で剣に戻す。
ん?
何故もう一度反転しない。
そこからまた追撃すればいいじゃろうに。
・・・ほう。
これは、もしや。
剣に戻したタイミングで、奴の顔に向けて手裏剣を放りながら前方へ踏み込む。
「無駄だと・・・わからぬかっ!!」
兜で手裏剣を弾き、再び剣を蛇腹に。
真っ直ぐ突きの軌道で飛んでくる。
斜めに刀を合わせ、弾く。
反転して首を回り込む剣先。
抜いた脇差で回り込んできた剣先をまた弾く。
もう一度反転した剣先が、顔面に。
足の力を抜き、地面すれすれに姿勢を落とす。
「ぬうっ!」
再び剣が奴の手元に戻る。
・・・やはり、な。
無限に反転できるというわけではないらしい。
限度は3回。
3回剣の軌道を変化させれば、一度は剣の状態に戻さねばならぬ。
種が割れたな。
もっと変化を付ければよかろうに、怒りか憎しみか。
初めから全力で使ってしもうたのう。
精霊機は無限に魔力を使えるらしいから、アレは魔法剣というわけか。
さあて、そろそろ攻めに転じるとするかのう。
右手に脇差、左手に刀を持ち、大きく横へ広げる。
さあ、胴ががら空きじゃぞ。
かかって来い。
緩い動きから、一気に前へ踏み込む。
それに呼応するように、奴が剣を振る。
振りの途中から剣が伸び、唐竹割りの軌道で迫る。
まだじゃ、まだこのまま。
剣先が頭を断ち割る軌道で迫る。
まだじゃ・・・ここぉ!!
剣先が額に触れる瞬間、片足を後ろへ引いて体を開き、後ろへ反る。
唸りを上げる剣が、わしの体擦れ擦れを通過していく。
「っし!」
脇差を振り下ろし、剣を地面の方向へ叩く。
若干反転しかけた剣が、勢いを増して地面に突き刺さる。
突き刺さった剣を足で上から踏みつける。
腹を踏んだから、足は斬れぬ。
「っなにぃ!?」
「おおおっ!!!!」
引き戻すゆとりを与えぬ速さで、ピンと張られた剣に刀で斬り込む。
飛び散る火花。
一瞬の抵抗の後、剣は綺麗に両断された。
「馬鹿な、馬鹿なあ!?テリアル鋼を斬るだと・・・!?」
何やら驚愕しておる奴に向け、地面に残った剣先を脇差で空中に跳ね上げる。
「そおら!!」
浮いた剣の腹を叩き、奴に向けて飛ばすと同時に駆け出した。
剣が切れたぐらいで狼狽するとはのう。
馬鹿めが、まだまだ長さは残っておろうに。
間合いに入ったあたりで、奴が正気を取り戻した。
が、遅い!!
「っひ!この・・・」
飛ばした剣先を左腕ではじいたことで、奴の体が正面に開く。
「ぬうん!」
「ぎゃっ!?あが!?」
すかさず脇差を腹に突き刺し、ぎゅりりと捻って抜く。
振り下ろそうとした右腕は、肘の所に刀を添えて止める。
抜いた脇差を後ろに放り、刀の柄を握りつつ奴の右腕を上に向かってかち上げた。
「おお・・・りいやぁっ!!!!」
かち上げることで振りあがった刀を、渾身の力を込めて斜めに振り下ろす。
今の、わしなら。
この若い力と、積み上げた技を持ったわしなら。
やれるはず・・・斬れるはずじゃ!!!
ローブに隠された鎧に、刀が触れる。
「ああああああああああああああっ!!!」
裂帛の気合と、重心移動によって全体重を乗せた刃が鎧にめり込む。
火花と紫電を纏った刃が、ぞぶりと鎧に守られた肉体に触れる。
鎧を切断しながら、刃は首の根元から胸を斜めに横断して抜けた。
確かな感触。
鎖骨と肋骨は断てた!
刃が抜ける勢いを乗せ、左肩から体当たりを胸にぶち込み吹き飛ばす。
どご、という音。
奴は血飛沫をまき散らしながら吹き飛び、仰向けに倒れる。
南雲流、奥伝の五『鋼断はがねだち』
咄嗟に・・・できてしもうたのう。
前は精神を統一し、呼吸を整えてなお止まった物しか斬れなんだのに。
「は、は・・・ははははははは!!」
体の奥底から喜びが噴き出す。
「ははははははははぁっ!!!!!」
無駄ではなかった!
人生を賭けた修練の日々は、無駄ではなかった!!
「女神よぉ!!感謝しますぞぉ!!!」
頭上に見える月に、拳を突き上げる。
「わしをここに連れて来てくれたこと・・・幾万も幾億もの感謝を!!!!!」
頬を伝う気配。
・・・嬉し涙なぞ、最後に流したのはいつだったであろうか。
笑い続けるわしに答えるように、月が一層輝きを増した気がした。
ぱりん、と何かが割れるような音がした。
途端に、耳に街の音が戻ってきた。
そういえば、先程までは恐ろしいほど静かじゃったのう。
近くには歓楽街もあるというのにおかしなことじゃ。
「ジュウベエ!」
聞き馴れた声がする。
「・・・おう、セリンか」
顔に汗をかいたセリンが暗がりから飛び出してきた。
「大規模な隠蔽魔法の気配を感じて来てみたら・・・この惨状はどういうわけですの!?」
転がる死体を見たセリンが聞いてくる。
「さてのう・・・わしにも心当たりがない。追剥かのう?」
「こおんな大掛かりな魔法を使える魔法使いが、なんでそんなセコい真似をする必要がありますの!?」
きいきいわめくセリン。
・・・大分消耗しておるな。
その隠蔽魔法とやら、破るのに大分手焼ける代物なんじゃろうな。
「そこで転がっている生き残りに聞けばよかろう・・・もっとも、喋るとも思えぬがな」
仰向けに倒れたローブを指し示す・・・ぬ。
立ち上がっておる。
ぼたぼたとローブの隙間から血を流しつつ、奴が震えながら立っておる。
「おの・・・れ、このまま、では・・・済まさぬ・・・ぞ」
傷を押さえた手の隙間から、青白い光が漏れている。
回復魔法か。
「いずれ・・・おま、えを、殺・・・す、ころして」
前に跳ぶ。
「われ、らの、神・・・に」
間合いに入る。
「ささ、げ・・・」
「しいいいいいあっ!!!」
兜を真っ向から唐竹割に立ち割る。
最後の言葉を言い終わらぬまま、奴の顔が縦にズレた。
・・・馬鹿め、口上をほざく暇があったら逃げればよかったものを。
・・・よし、この呼吸じゃ。
コツは掴めたの。
血振りをし、納刀。
さすがに頭を割られれば回復はできんようじゃな。
「ちょっとぉ!?」
後ろでセリンがうるさい。
「情報!情報を吐かせる前に何で殺しちゃいますの!?」
「・・・こういう手合いはな、決して漏らさぬよ。無駄なことじゃ」
「あのねえ・・・ジュウベエが狙われたんですのよ?気になりませんの?」
「ふん、まだ用があればまた同じようなのが来るじゃろう。それだけのことよ」
がくり、とセリンが肩を落とす。
「発想・・・発想が物騒ですわ、ジュウベエはいったいどんな修羅の国から来たんですの・・・」
「まあまあ、いいではないか。・・・運動したら喉が渇いたわい、付き合わぬか?」
脇差を拾い、納刀する。
「どうするんですの、この状況・・・いずれ他の魔法使いも嗅ぎつけますわよ?」
「知らぬ。襲ってきた奴らの後始末なぞ、知ったことではないわ・・・で、飲まぬか?」
「・・・ジュウベエの奢りでしてよ?よくって?」
「誘った女に金を出させる男がおるか、当たり前じゃろう」
「・・・ほんと、不思議な人ですのね、ジュウベエは」
諦めたように笑い、セリンがこぼす。
「さあて、それではとっとと行くとするか。野次馬が来ぬうちにな」
「はいはい、しっかりエスコートしてくださいましね?」
わしらは連れ立って歩き出した。
今日の酒は、ことのほか美味そうじゃわい。
・
・
・
『あの、リトス様・・・どうしましょう』
『消せ、あのような不埒者ども・・・この世に一片の残滓も残すな』
『はい、そのように』
『輪廻も転生も許さぬ。存在ごと消せ・・・全く、もう嗅ぎつけよったか』
『十兵衛様には、お伝えしますか?』
『いいや、いらぬお節介であろ。捨て置け・・・必要な時は我が直接伝える』
『はい、承知いたしました。それでは』
『連れて来て、ほんの少しの加護だけじゃというのに幾億・・・か』
『ふふ・・・愛い奴よな、十兵衛』
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