第34話 迫っている危機

(暫くエドウィン王子の視点となります)


「エドウィン様、これ」

「ああ、お疲れ様」


 王宮にいるある部屋に、王子はある人物から手渡された書類を受け取り、読み始めた。


 書類の内容に、エドウィン王子は珍しく驚きと緊張が入り交じった表情を見せた。そして、思わず息を吸い込んだ。


 読み終えた後、その書類を暖炉に投げ入れて燃やした。そして王子は急いでシュバルツ宰相のオフィスに向かった。


 コンコン!


「入ってください」


 バン!っとドアを開けた目にしたのは、同じく不安そうな表情を浮かべたシュバルツ宰相だ。


「殿下もその情報を知ったようですね」

「はい。さっき知ったばかりだ」


 そして、エドウィン王子は礼儀を度外視し、椅子を荒々しく引っ張ってシュバルツ宰相のデスクの前に座った。


 シュバルツ宰相はすぐに王子様の異変に気付いた。


「いつもの殿下らしくないな。こんなに焦っているなんて」

「まさに今回は深刻な事態なんだから、早く解決しないといけないんだ」

「確かにですね。いつもは些細な騒ぎばかりですが、今回は本当にでかいやつが来ていたみたい」


 そう。二人がこんなに緊張するほどの情報は、第二夫人派が大事件の準備が進行中だということだ。


 正確に言えば、彼らはミリーを誘拐する計画を立っている。しかも、それを王都の中に行おうと考えているようだ。


「最初は目を疑ったほどでした。だがもっと緻密な計画を見て、少しずつ信じるようになった」

「なにせ第二夫人派は長い間にこのような大規模な行動をとっていなかったですからね」


 第二夫人派は最初、この稀少な光属性の魔法使いに対して様子見の姿勢を取っていた。


 以前、オマ王国は平民の中から光属性の魔法使いを発掘したこともある。その時は多くの期待が寄せられたが、彼女の能力は非常に弱く、傷を癒す程度しかできないでした。


 その光属性の女の子の魔力はどんなに増えしも、他の魔法を発動する術式も学んでもうまく強力な魔法を使えないでした。


 その弱い能力は、彼女を利用しようとしたい人々の予想とは大きくかけ離れていたので、この無能な少女には再び投資する価値はないと判断され、彼女への支援は全て取り消され、ほっておくって自滅することになった。


 しかし今回は違う。魔法デモンストレーションのあの日に、まばゆい光に目を覆いたくなるような魔法を見せられて、ほぼ世界を破壊するような光景を目の当たりにった。それは空き地にいた全員にとって、非常に衝撃的なものでした。


 その後、王政府と学園はミリーにさらに多くの資源を投入した。でも同時に、ミリーはあらゆる勢力が積極的に引き入れようとする対象ともになった。


 なぜなら、この光の少女が自分の勢力に組み込まれれば、勢力を大幅に拡大することができ、王国の現在の二つの主要な政治勢力の対立状況のバランスを破れ、一方を完全に排除することができるからだ。


 だから、第一夫人派のリーダーである国王とエドウィン王子は、光の少女と王子の婚約者であるレイナがこんなに親しくなったことを見て、希望をレイナに寄せた。


 一方、第二夫人派は学園で広範な人脈を持つカトリーナを派遣し、彼女が学園内で持つ部下を使ってこの光の少女を引き入れしようとした。


 しかし、こんなの重要な任務を与えられた貴族女子たちは、劣等感や高慢さから、些細で幼稚な理由で命令に背いてた。


 この光の少女に近づこうとする学園内の第二夫人派の生徒たちの中に、その貴族女子たち以外の人々もいるが、王子がほとんどを阻止した。彼女と話ができる少数の人々でも、ミリーの警戒心を解くことはできないでした。


 元々王子は、ミリーに近づく人々を阻止していたのは政治的な目的でしたが、それが結果的にレイナがミリーを長い時間で占めして、二人が仲良くできる、まさに一石二鳥だ。


 第二夫人派はさらにミリーの家族であるスロータック子爵家を引き入れようとする試みもした。スロータック子爵は貴族社会で「嫌われる新興貴族」として知られている。


 彼はかつて商人であり、長年商業の世界で活動していた。投資が成功し多くの財宝を手にし、一躍新興貴族となった。


 子爵自体は政治的な立場を持っていない。彼はビジネスをするために両派にも接触した。両派の悪い面を目にし、彼は断固として中立を選択した。


 でも、彼は現在年老いており、終身未婚であるから、継承者がいないままだ。そのため、光の魔法を持つミリーが注目され始めたことから、良い選択肢だと思ってから、未亡人となっていた母親との結婚により、ミリーは子爵令嬢となった。


 子爵は、自分の養女によって両派が動くことを予測し、表面上は中立を保っていたが、実際は第一夫人派の方が信頼できるように見えたから、子爵は彼らに接近することを選んた。だから、子爵は第二夫人派の取り込みには無関心でした。


 一か月以上にわたる取り込み作戦がまったく成果を上げず、ミリーが第一夫人派とますます親しくなっているのを見て、絶望した第二夫人派は動き出した。


 即効性のある効果が必要だ。柔らかい手段ではうまくいかないなら、強硬手段に出るしかない。


 そこで、ミリーへの誘拐計画を立ていた。ミリーを第一夫人派の人々から遠ざけ、彼女自身または彼女の家族を賭けて、第二夫人派に協力するよう脅迫した。拒否する場合は無期限の監禁という形。


 ミリーがそんな強いの能力があるこそ、第二夫人派から狙っている。もし、以前のあの能力不足の子のようにであれば、平穏に余生を過ごせたかもしれないでしょう。


「正直こんな計画には多くの欠陥があると思いませんか? 殿下」


 確かに、光の少女の誘拐そのものの論議性はさておき、たとえ誘拐に成功した場合でも、反対勢力や世論の圧力にどう対処するのでしょう? それに、ミリーは強大な魔力を持っているんだ。それは明白な事実。


 もしミリーが反抗的な行動をとり、それを第二夫人派に対してそれを使う覚悟があるなら、勝算はないでしょう。


「でも、こんな奴らが本気を出せば、最も狂気的なことをやり遂げることになるでしょう。第二夫人派は頭がおかしい連中ばかりだから、彼らの行動を常識で理解することはできません」

「そうですよね……」

「恐らく、彼らは最初からミリーさんが自分の強力な光魔法で抵抗することの可能性すら考えていなかったかもしれない。でもミリーさんの性格を考えると、まさにその通りだよね……誰かが彼女について研究をしていたのかもしれない」


 ミリーは他人に非常に友好的で善良な態度を取るが、自分が危機に陥るとその善良さは臆病さに変わる。エドウィン王子はその光景をもう予想できる。


 ミリーが自分が誘拐されたことに気づいた時、きっと手探り状態で戸惑い、恐怖におののいて動けなくなるだろう。抵抗するどころか、自分が何をすべきかさえ分からない。


 誘拐計画自体に戻る。第二夫人派は、この休日にミリーがメアリと王都の街に出かける約束をしている間に、人混みで気づかれにくい場所で直接彼女を連れ去るつもりだ。


 その内部に潜入している人からの報告によると、第二夫人派のメンバーは部門をまたいで協力して行動する。


 裏で計画の詳細を立てた貴族、学園内の情報収集を担当する生徒、彼らに仕える暗部、街の警備を担当する治安部隊、誘拐後の収容担当者。ほぼ全ての手が使える者を投入し、成功確率の微々たる賭けに挑んだのだ。


「第二夫人派が勝利すれば、王国政治を支配する勢力となり、第一夫人派や他の声は政界から消えるかもしれませんね」

「そうだね、このような絶好の機会を見逃すわけにはいかないから、完璧ではない計画でも実行するのわけか」


 そう、今回は大きな騒ぎに見えるけど、実際にはいつものやることとそれほど変わらない。自分には事件を成功解決する自信がある。


 しかし、なぜ心の焦りが収まらないのだろう。


 この時、レイナの明るい笑顔がエドウィン王子の頭に浮かんだ。彼女に心からの笑顔を見せることができるのは、ミリーだけだ。


 だから、もしレイナがミリーの誘拐や近い将来の誘拐を知ったら、心配そうな表情を見せるだろう。


 自分はレイナがその表情を見せるのを見たくないから、この事件を早く解決したいと思っているのだ。


 だから、自分が一人で耐えることで、レイナはそのままでいてくれればいい。


(いつからこんなに感性的になったんだろう……私は)


 以前、自分の絶頂の理性だけで問題を解決することができる。感性なんて考慮する必要はなかった。しかし、今回は感性の一面がこっそりと心に入り込んで、どうしても離れない。


(それはやっぱり、レイナのせいだかな。彼女がおかしくなる以来、自分は本当に変わったんだな)


 そう思いながら、王子は諦めたように頭を振り、考え込んでいた頭を上げた。


「シュバルツさん、もう少し部下を私にもらえますか。私はそれを止める方法を見つけた。シュバルツさんは後方で指揮をお願いします」

「……殿下が直接出るのですか? 君の決断は信じていますが、今回の規模は以前とは違う。十分に注意してください」

「ご心配ありがとうございます。シュバルツさんの心配を無駄だと私が証明します」


 幸いなことに、脳はいつものようにさまざまな情報をまとめ上げ、迅速に適切な対策を立てた。今回は多くの人に関わっているから、完全にミスがないとは言えないが、目標を最大限に達成することができるだろう。


 さて、準備を始めよう。土曜日まであとわずか。時間は迫っており、待つわけにはいかない。


(レイナの笑顔をちゃんと守るから、だから待っていてくれ)

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