第48話 試練の庭
「緊張しないで、単に好奇心から聞いているだけわよ」
「えっと、その、実は……」
「実はなに?」
オフェリア様の声には期待の色が混じっていた。
俺は深く息を吸い込み、落ち着こうとする。
フル回転しろ、頭よ。一体どうやってこの質問に答えればいいんだ? 必死に考えるんだ。
信じられるような嘘を編み出す方法を考え始めると同時に、秘密がバレないようにする。
うまい嘘には常にいくらかの真実が混ざっているもんだ。だとしたら、こんな風に言ってみるか。
「……実は、あの時高熱で苦しんでいる時に、とても奇妙な夢を見たんです。その夢の中で今まで見たことのない光景をたくさん目にして、目が覚めた後、まるで思想的な衝撃を受けたみたいな感じがしたんですわ。目覚めてからというもの、あの夢の情景が頭から離れなくなってしまって」
「奇妙な、夢?」
オフェリア様の眉がかすかに顰められた。思わず生唾を飲み込む。
「具体的にはどんな夢を見たの?」
「えっと……夢の中で、……全く違う世界にいて、そこには高い建物や空を飛ぶ鉄の鳥、鉄でできた馬車、それに奇妙な服を着た人々がいました。中にいるどの人も、どんな物事も、何もかもが見覚えのないものばかりです。その夢にすごく衝撃を受けて、目が覚めたら、もっと広い世界を垣間見たような気がしたんです」
「ふむ……確かにとても不思議な夢ね。でも、性格の変化が夢だけが原因だなんて、ちょっと無理があるんじゃないかしら」
くっ……やっぱりこの言い訳じゃ無理か。どうやってさらにごまかせばいいんだ。
「もしかしたら……高熱のせいで、身体も心も何か変化を経験したのかもしれません。だって、よく言うじゃないですか。ほら、大病を患った後は人生観が変わって、生活や物事の捉え方が変わるって。まるで別人になったみたいに……わ、わたくしもそうなのかも……?」
完全に作り上げた言い訳を言にたいして、オフェリア様はすぐには答えず、しばらく沈黙していた。その眼差しは俺から離れず、まるで俺の言葉の真偽を見極めようとしているかのようだった。
「レイナ、分かっているでしょう。少なくとも正室の中では、本当に隠し通せる秘密なんてないわよ。何か言いづらいことがあるなら、今のうちに言っておいた方がいいわ」
ど、どうしよう? 日本人の俺がレイナちゃんに転生したことを本当に話すべきなのか?
とそろそろそれを言うかを決めたの寸前、エイミーさんが咳払いをして、この一瞬の膠着状態を破った。
「オフェリア様、もしかしたらレイナ様は本当に高熱の後遺症でこんな風に変わってしまったのかもしれません。とにかく、今の姿はエドウィンにとってはいいですから、少しは信じてあげるべきだと思います」
そしてオフェリア様は軽く頷いたが、その眼差しにはまだ疑いの色が残っていた。
「まあ、いいわ。説明が正しいことを願うわ、レイナ」
まあ、もしかしたらオフェリア様は俺に一体何が起きたのかぼんやりと察しているのだろうが、その本人の口から明確な説明が欲しいだけなんだろう。
「ご理解いただきありがとうございます、オフェリア様」
低い声で言い、自分の語気ができるだけ落ち着いて誠実に聞こえるようにする。
オフェリア様はただ軽く頷いて、冷静に菓子を一口食べた。エイミーさんは俺に励ましの微笑みを向けた。
「レイナ様、実は私は感謝しないといけませんわ。エドウィンの変化は、私たち全員にとって良いことなの。あの子はより成熟し、周りの人を気遣うようになり始めたわ」
「殿下のお役に立てて、とても光栄です」
どうやらオフェリア様は今のところ俺の正体について追及するつもりはないようだ。思わずほっと息をついた。
「ねえ、エイミー、この前言っていたエドウィンの最近の面白い話、覚えてる? 今日はレイナにも話してあげたら」
「もちろんです、オフェリア様。とても面白いですわ。何せあの子は絶対に自分からレイナ様に話してくれないから」
なになに? あいつに関しての面白いなこと? それは絶対聞きたい!!
「ふふ。それはね、最近エドウィンは庭園で道に迷ってしまったんです」
エイミーさんは軽く笑った。
「道に迷った......?」
あいつが? 長い時間に住んでいた王宮の庭園で迷子になるなんて信じられない。
「ええ、あの日、エドウィンと庭園を通り抜けないならないの場所で会う約束をしていたの。ちょうど新しい庭師が木々の手入れをしていて、庭園の様子が少し変わっていたのよ。エドウィンは散歩中につい迷路のような茂みの中に入り込んでしまって、結局侍従に見つけてもらうまで1時間以上もかかってしまったの」
エイミーさんは笑いを堪えきれなくなった。
「それに、あの子はただ中でもう少し散歩を楽しみたかっただけだと言っていたそうだけど、庭師の話だと5分以内に同じ場所を3回も通ったのを見かけたって......ぷっ! あははは!!」
こんなにも無防備に大笑いするなんて。うん。やっぱり実の母親だね。
「あの日、必死に平静を装おうとしていたけど顔中に照れくささが滲み出ていて。本当に吹き出しそうになったわ。うふふ」
オフェリア様も小さく笑った。
なんだそれ。まさか王子もたまにはこんなドジをやらかすのか。全然そんな風には見えないのに。
でもまあ、この話しのおかげで心の中の緊張がずいぶんと和らいだ。
目の前のオフェリア様とエイミーさんを見ていると、王子への愛情と心遣いが言葉に表れていて、こんな風に家族愛を示すのを見ると、この宮廷は権力と陰謀が交錯するだけの場所じゃなくて、温かみと優しさもあるんだなって思う。
「だから、これもみんなレイナのおかげなのよ。まさかエドウィンのあの氷の心を溶かせるなんて」
「本当にありがとうございます。レイナ様」
「わ、わたくしは別に特別なことは何もしてないですよ」
俺なんて普通の中の普通の人間だ。そんな俺が本当にあの王子に影響を与えたのだろうか?
お茶のカップの中の自分の姿を見下ろしながら、心の中に気持ちが湧き上がってくるのを感じる。
もしかして……そうなのかもな。
「今レイナ様の存在はエドウィンにとって非常に大切なのです。どうかあの子を支え続け、成長を助けてあげてください」
「そうね。私たちはみんな、レイナのおかげでエドウィンの感情がもっと豊かになって、人間味が出てくるのを心から楽しみにしているのよ」
「あ、はい。分かりました」
そして、三人のお茶会はこんな心温まる雰囲気の中で続いていき、木の葉の隙間から差し込む日差しがここを照らし、まるで会話に黄金色の輝きを添えているかのようだった。
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