第40話 お兄ちゃんの出番だぜ

 前言撤回。この手紙のタイミングは本当に良かった。さっきよりによってこのような時に来るとか言ったのは本当に申し訳ない。


 俺たちは素早いに封筒を開けて中を見ると、中には3つのものが入っていた。


 一つ目は手書きの簡易地図で、王都を中心にして、「王都の北東、約10キロメートル」と書かれた場所に黒い丸が描かれ、横に「☆ミリーの居場所!」と注釈がついていた。


 さらにいくつかの道が描かれていた。一つは王都から隠れ家へと通じる道で、「主要道路」と書かれていた。もう一つは隠れ家の横から後ろの森へと続く道で、「裏口の小道」と書かれていた。


 そして一番下には、「少し粗いのはごめん! 実際の場所とは異なる可能性があるので、注意してくださいね!」との注釈が書かれていた。


 地図作成者自身はあまり満足していないようだが、この地図の描かれた詳細さは本当に助かった。


「つまり、この場所を特定できるってことだ」


 王子のより詳細な地図と比較してみると、一つ赤クロスが描かれた隠れ家の位置に一致した。もうミリーちゃんの位置をほぼ特定できたと言っていいだろう。なんて素晴らしいこと。


 二つ目は平面図。明らかにその隠れ家に関するもの。


 いくつかの大部屋の隣に、小さな部屋が描かれており、「密室」と書かれていた。


 よく見ると、密室の中には人形の図が描かれ、「☆ミリー」と注釈が付いていた。


 密室の外には矢印が描かれており、そこを指して「ここから天窓に入る!」と書かれていた。


 そして隠れ家の他の部屋には、いくつかの人形が描かれていた。廊下には「看守A」、「リビング」と書かれた場所の隣は「看守B」と描かれていた。玄関には「看守C」と書かれていた。


 さらに平面図の横には、「隣の柱を利用して天窓に登る!」と書かれていた。


 手書き地図と安全屋の平面図を見ると、まるで自分が現場にいるかのように、各部屋の位置と構造が明確に示されていた。これによって行動計画をより簡単に準備できるようになった。


 三つ目は簡単な手紙。上には美しい文字で書かれた日本語がある。


『レイナへ:


君はこの疑問があるかもしれない。なぜこんなに詳しい情報を持っているのかと。


しかし安心して! あたしは信頼できるの友人よ! レイナさんが今、重いプレッシャーに立ち向かってミリーを救い出したいと願っていることは分かる。


ここに追加情報しましょう。ミリーは数日の間、安全な状態であり、ただ監禁されているだけだ。あたしが提供した方法に従えば、戦闘を回避して脱出する可能性が非常に高い。


だがまあ、未来は予測できないものだ。あたしの方法が完全に成功することを保証するわけじゃない。そこの看守を軽視してはならない。常に戦闘の準備をしておくように。


これがこの世界に関する情報を知っているあたしができることの全てだ。気をつけて頑張ってね!


謎の転生者』


「つまり、この人の状況はレイナと似ていて、この世界の人ではないってことだね?」

「そうだ。まさにその通りだ」


 正直、ミリーちゃんの位置がまだ確定していない状況で、どうしよもないになって、マジで探り当てるために全部一つ一つ探し回るつもりだった。


 でもこの謎の転生者の無私な援助のおかげで、全て明かるかなった。たとえこの人がこの世界のことを知っているとしても、私に教える義務はなかったはず。俺を放っておくこともできる。


 なのにこんなに豊富な手がかりや詳細な情報を明かしてくれなんて、本当に感謝している。この貴重な情報はミリーちゃんを救い出すための重要な手がかりとなるだろう。


 今の気持ちはただ喜びと興奮でいっぱい。この情報はまるで明かりのように、暗い世界を照らし、希望の光を取り戻すものだ。俺は今、興奮を抑えることができない。


 このチャンスを逃すわけにはいかない。謎の転生者はミリーちゃんが数日間傷つけられないと言っているが、もう待ちきれない。


 ミリーちゃんを早く救い出し、彼女の顔をもう一度見たい。無事であることを確認したい。


 でも、次に王子が言った言葉はまるで冷水を浴びせられるように、俺の情熱を冷やしてしまった。


「レイナ、君の希望を打ち砕くつもりはないし、信じないつもりもない。ただ、この地図と平面図の詳細はあまりにも細かすぎて、何か変だと思う」


 王子は眉をひそめ、隠れ家の平面図を指さしてそう言った。


「ほら、たとえばここ、家の内部構造が描かれていて、さらに天窓まで詳細に示されている。これは外部の人が知ることのできない詳細だ」


 今のタイミングで疑問を提起したくないで欲しい。たとえ王子が言っていることが事実であったとしても、ミリーちゃんを救う決意を揺るがせるだけだ。


「そして私が気になるのは、なぜ見知らぬ人が私たちのことをこんなに気にかけて、こんなに情報を提供してくるのか? この人が第二夫人派ではないかと心配している」


 確かに理性的なエドウィン王子らしいの表現だ。でも、いくら一つひとつ細かな点を指摘しても、俺は揺れない。


 王子の安心のために、説得する方法を急いで考えなければならない。


「ね、王子。以前言ったことあるだっけ。俺たち転生者にとって、このような世界は『異世界』と呼ばれているんだ。覚えているか?」

「覚えているよ。でもそれが今回の事件と何の関係があるのか?」

「もちろん関係があるさ。お前は知らないかもしれないが、普通、こんな異世界はゲームや漫画の世界の可能性が高い。だから、そのゲームや漫画については詳しいなら、このような情報を知っていても何も不思議じゃないんだ」

「……」


 俺は転生したばかりの頃からもこのような疑問を抱いていたんだ。もしかしたら、ここはあるゲームや漫画の世界なのかなって。でも具体的な印象はなかったから答えがない。


 王子は少し俺の説明を受け入れたようだが、まだ眉をひそめたままだ。


「たとえそうであろうと、なぜその人が直接私たちに手を貸してなくてで、回りくどく手紙で知らせてくるんだ?」

「多分、その人は現在の身分から直接俺たちに話しかけるのが適切じゃないと思う。もういいから、あまり考えすぎない方がいいよ」

「でも……」


 もうだめだ。きっと今日の挫折が大きすぎて、王子は普段ならこのような状況に対して別の方法をすでに考えていたのだろう。


 今おびえた様子をしている王子は、普段俺が知っている格好と全く違う。


 でもこの挫折感、俺はよくわかる。ショックを受けて自信を失うことの辛さを。彼はきっととてもつらいし、苦しいんだろう。


「王子、俺の安全を心配していることを知っている。これについては感謝する。でも、危険があっても、この唯一の手がかりを諦めるのはできない。ミリーちゃんは俺を待っているだから」

「しかし——」

「それに、もっと重要なのは、お互いを信じること。人と人の関係で一番大切なのは信頼じゃない?」

「まあ……それはそうなんだけど……」

「だから、一度だけでも、俺はこの謎の転生者に信じるよ。それに、試さなかったら、一生後悔することになるかもしれない。俺はそうしたくない。後悔と共に余生を過ごすなんて絶対に嫌だ!」


 さて、どうだろう。ここまで言って納得させるのかな。王子は言葉に詰まっているようで、まだ迷っている表情だった。


 仕方ない。王子が行動しないなら、俺一人でもいい。ミリちゃんを救ってやる。


 もう決めた。今すぐ出発するぞ。


「どうやらお前はまだ心配してるだな。気持ちはわかるが、でも俺にも自分の考えがある。もう待たないんだ、ミリーちゃんの命がだんだんと消えていくんだ」


 時間が待ってくれないことを深く理解している。もう迷っている時間はない。だから俺は立ち上がり、迷わずにそう言った。


「お前が同意してもらえなくても、俺は今すぐに出発する。お前はここに待っていてもいいし、俺と一緒に行動することもできる。どちらでもいい。ただし、今は俺の足を止めるものは何もない」


 封筒の中身を整理し、すぐに玄関に向かった。俺が玄関に近づいていくのを見て、王子は焦って立ち上がった。


「ちょっと待って、レイナ! どこに行くつもりなんだ?!」

「決まってるんじゃない。ミリーちゃんを救いに行くんだ」

「一人で行くのは危険すぎる! もう考え直せ! それにはあまりにも無謀だ!」


 王子はそう言いながら俺の後ろに駆け寄ってきた。


「安心しろ。ここは頼れるお兄ちゃんの出番だぜ。年下なのに俺に全方位完勝するなんて、生意気過ぎるんだおい」

「……」


 忘れるな。俺の方こそ先輩だぞ。お前より百倍強いだ。


「いつも年下の弟のペースを乗るのはダメだな。こうなるとお兄ちゃんの面子はどこに行くんだよ」


 またっくコイツは。たまには俺にもかっこつけさせてくれよ。さもないと、お笑いキャラになってしまうぞ。これじゃ全然かっこよくないじゃん。


「もし、俺を心配したら、追いついてこい」


 そう言って振り返ると、俺は急いで必要な物を整え、出発の準備をした。


 俺は決心した。結果がどうあれ、ミリーちゃんを救うだけが俺の目標だ。一人で危険に立ち向かう覚悟はできている。


 誰にもミリーちゃんを傷つけさせない。ミリーちゃんは俺が守る、そう約束しているからだ。


 だから、ミリーちゃん、心配するな。俺は必ず君を無事に連れて帰る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る