第41話 もうすぐだ
必要なものをウエストバッグに詰め終えると、俺は素早くに屋敷の馬車に乗り込み、御者に命じて隠れ家から一番近い郊外の小さな町へ直行させた。
馬車は揺れる道路を進んでいき、窓の外の景色が速く流れていく。
正直、すべての有用な手がかりを掴んでいるけど、実際の行動はこれほど順調に進むのだろう? 未来は未知だから。
困ったな。目的地に到着するまでいつになるかわからない馬車の中で座っていると、自分の準備が十分かどうかをずっと繰り返し考えてしまうんだ。
今回はちゃんとミリーちゃんを守れるのか? それとも自分の不器用さで危険に巻き込まれることになるのか?
さっき王子が言った言葉が頭に浮かぶ――「それにはあまりにも無謀だ」。
「はあ……」
不安でため息が出てしまった。
情報を再びチェックして確実にするために読み直したいが、俺の経験によると、このような状況で確認作業をするとますます新たな問題が生じるだけだ。何か見落としはなかったか、敵の手口を過小評価していなかったかと自己疑念することになる。
だからこそ、自分の自信を動揺させないために、俺はただ窓の外の景色を見つめ、心の中でミリーちゃんのもとに早く到着することを願っているだけだ。
◇
やっとあの郊外の小さな町に到着した。結果我慢できなくて地図を見てしまった。停車するとすぐに地図をウエストバッグに戻し、急いで馬車から降りて、隠れ家の方向に向かって全速力で走る。
はぁ……はぁ……
もっと速く、もっと速く行かなければ。草地の踏みしめる音が森の小道に響いている。
ミリーちゃんが待っている。隠れ家はもうすぐそこだ。
長時間の移動で体が疲れたのせいなのか、それとも普段運動不足なのか、もしかしたらその両方なのか、たった5分走っただけで息が切れてしまった。
足の筋肉が力を使い果たしそうだ。太ももはすでに痺れて、まるで自分の足じゃないような感覚だ。
疲れと覚悟が戦っているけど、諦めるなんて選択肢はない。ミリーちゃんの安全を俺が勝手に自分に託した以上、その責任を果たさなければならない。
力が尽きそうな時、道に邪魔な葉っぱを払いのけると、ついに小屋が見えた。
はぁ……はぁ……はぁ……
これから運動の習慣を取り戻るのを決めた。もう二度と今回のように息を切らすことは許されない。
息を整えて上を見上げると、小屋だと思うたが、結構大きだとに気付いた。4〜5人なら十分に収容できるだろう。
そして平面図を取り出して具体的な場所を確認する。今向かっているのは、きっとミリーちゃんがいる密室だろう。
外には看守の姿がない。おそらく、ただ家の中に大門を見守っており、自発的に外へ出て異変を察知することはないみたい。本当に助かる。
横を見ると、屋根へ通じる主要な柱にいくつかの不規則な足場がある。
天井の高さは約3メートル。登っていく途中で不注意に転倒したら痛そうだ。でも、そんなことは今はどうでもいい。
「ふぅ……ひゃっ!」
深く息を吸い込み、両手でザラザラした木の柱をしっかりと掴んだ。
そして、掴んだ場所を力強く握り締め、慎重に最初の足場に足を乗せた。木の感触が足に沈み込む感覚が、少し安心させてくれた。
でも次はもっと高い位置だ。全身の力を使わなければ、重心を上に引き上げることはできない。足をしっかりと木の柱に踏みしめ、両手を上に引っ張り、無事に2番目の足場に手をかけた。
先ほどの激しい走っていたのせいで、今はバランスを保つだけでも全身の筋肉が引き締まっている。でも頑張ろうよ俺! 屋根に近づいているぞ! 上に進もう!
3番目の足場に足を乗せて、あと一歩だ! これは前の二つよりも難しい。筋肉が硬っくなってきており、地面からの高さもますます高くなっている。
よし! 行くぞ!
全身の力を込めた両手で、体全体を引き上げる。
さあ! 上がれ! あとちょっとだ!!!
「ほああっ……!」
両足が屋根に乗り終わったとき、疲れ果ててその上に伏せてしまった。すると、頭上から風が吹き抜けてきて、顔を上げると、ついに謎の転生者が言った天窓が見える。
つまり……! ミリーちゃんはちょうど下にいるんだ!
力が十分に発揮できない両手で、全力で引っ張るものの、なかなか動かない。荒い息を吐きながらもう一度試みる。やっと「ギィ」と音を立てて引き開けることができた。
中を覗き込むと、ミリーちゃんの両手がロープで後ろに縛られているのが見えた。彼女は気を失っているようで、背後の木箱に弱々しく寄りかかっている。
ミリーちゃん! すぐに助け出すから!
天窓の外に加えて、隣にあるこの大きな煙突もミリーちゃんが安全に逃げられるかどうかの鍵だ。
ウエストバッグからロープを取り出し、輪を作って煙突に通した。この支点がしっかりしていることを確認してから、ロープを天窓から投げ下ろす。
ふぅ……まるでスパイがやることのようだな。映画や漫画で何度も見たけど、実際にやるのは初めてだ。
深呼吸して心を落ち着ける。よし! 降りるぞ!
縁をまたいで、ロープをしっかりと掴み、ゆっくりと体を降ろす。ザラザラとしたロープが手に摩擦を起こすが、しっかりと滑り降りる。
今は降りることに全神経を集中し、見張りの人を驚かせないように大きな音を出せずに注意しながら慎重に降りる必要がある。
頑張れ! ミリーちゃんにもうすぐ近づいている。あと少しだけだ……!
両足が軽く地面に触れた瞬間、緊張していた心と筋肉が少し緩んだ。思わず一息つく。
意識を失ったミリーちゃんが足元にいる。急いで彼女の状態を確認する。まずはミリーちゃんを縛られたロープを外す。そして微かな天窓の光を頼りに、ミリーちゃんの状態を丁寧にチェックするが、傷は見当たらない。
多分ただ麻酔の薬を打たれて気絶してしまったのだろう。とりあえず呼吸と脈拍はある。
良かった。本当に良かった。ミリーちゃんは無傷で、とりあえず安心した。
「ミリー、ミリー」
俺は軽く呼びかける。声が届いたのか、ミリーからかすかなうめき声が聞こえてきた。
「ミリー、起きて」
ミリーちゃんのおでこに乱れた髪をそっとかき分け、再び優しく彼女の名前を呼びかける。
ミリーちゃんは微動したが、まだ目は閉じたままだった。
そこで俺はミリーちゃんの肩を軽く支え、彼女の涼しいく小さな手を握りながら、ゆっくりと彼女の体を揺らした。
「ミリー、俺の声が聞こえるか? 俺だ、レイナだ。起きて、ここは危ないから」
ミリーちゃんに反応を引き出せればいいなと思う。何度も揺らした後、やっと眉を軽くしかめ、口元も動いた。
そして彼女はゆっくりと目を開き、視線を俺の顔に集めた。
「レイ……ナっ?」
ミリーちゃんは弱々しく俺の呼びかけに応えた。よかった。無事に起こせた。虚弱そうに見えるけど、もう安全だ。彼女の冷たいほうを軽く撫で、優しく笑ってそう言った。
「安心しろ、ミリー。俺がいるから、何も心配しなくていいよ」
そしてまるでその言葉に応えるかのように、目に希望の輝きを宿し、明るくなっていった。
「レっ!……んん」
「しーー」
救われることに楽しくなるのは仕方ないが、声を大きく出すと外の看守に気づかれるかもしれない。だから俺は急いで手でミリーちゃんの口を押さえた。
「静かに。外の看守に気づかれちゃ困るんだ」
「う、うん」
こっそりと逃げなきゃ。さもないと大変なことになる。
てか屋根に登ってロープで降りてきたのに、バレずに済んだなんて。おそらく今の体重が以前の俺よりも軽くなったおかげだろう。
さて、ミリーちゃんも意識を取り戻したし、この場所から早く離れないと。
ロープで登る? でもちょっと力が足りないな。激しい運動をした俺も、麻酔を受けたミリーちゃんも同じだ。
そう思っていると、角に積まれている木箱に目が留まった。頑丈そうで頼めそうだ。
この密室は以前は物置だったんか? 急いで片付けてミリーちゃんを監禁する場所に変えたみたい。
俺は一つの木箱を押してみると、軽く移動できることが分かった。そして別の木箱を手に取り、最初の木箱の上に重ねた。
顔を上げて見ると、一番高い木箱に立てばちょうど窓に届くはずだ。
「いいかミリー。ここに上がって、木箱を使って天窓から脱出するんだ」
「うん、わかった」
ミリーちゃんはまだ少し弱っているけど、頭のいい子だからすぐに理解した。
俺は半身をかがめてミリーちゃんが肩に手を置けるようにし、彼女が木箱の上に乗れるようにゆっくりと立ち上がらせた。でもミリーちゃんの足は震えていた。
「レイナ……だめだ。足が力を使えない」
ミリーちゃんは泣き出しそうな声で言った。
彼女もきっとここから逃げ出したいはずだ。しかし麻酔のせいで力の入らない足に邪魔されているんだろう。きっと焦っているんだよな。
「大丈夫。俺が後ろから支えてるから」
後ろからミリーちゃんの腰を支えるようにして、少しでも負担を軽くできるだろう。だが、俺の手もなんだかまずい感じがする。
筋肉も……だんだん力が入らなくなってきた。全身の力を集中させても何の効果もない。
くそが……こんなところで力尽きるなんて……! 我慢だ……我慢しろ俺!!
やっとミリーちゃんを一番高いの木箱に乗せたけど、俺の震える手のせいで彼女は体が不安定に左右に揺れる。
「レイナ! 無理しないで! あとのことは私一人でやればいいから!」
虚弱なミリーちゃんを放っておけない。勝手に誓ったんだ。何があってもミリーちゃんを守ると。
まずい……もう限界だ。
次の瞬間、両手も勝手に緩んでいた。
「うぐっ」
ミリーちゃんはバランスを崩して木箱に座り込んだ。その余分な重みで木箱も揺れ始める。彼女は早くバランスを取り直そうとするが、その行動で木箱を倒してしまった。
「うわっ!」
ミリーちゃんは驚きの声を上げて、木箱から転げ落ちそうになった。
「ミリー!」
必死の力でミリーちゃんを抱きしめたけど、結局二人は地面に倒れ込み、木箱は散乱した。
ガタンガタン、ドンドン――!!
俺たち二人と木箱が倒れる音が大きく響いた。幸い、俺が先に着地して、俺の体でミリーちゃんが受け止めた。
「大丈夫か!?ミリー!」
「もうっ! レイナこそ無事なのか! こんな時は自分のことをもっと心配してよ! 着地したのはレイナだから!」
俺の体はどうでもいい。今一番大切なのはミリーちゃんの安全だ。
「おい! 誰かそこにいる!?」
どうやら、俺たちが引き起こした転倒の音が看守の人の注意を引いてしまった。
くっ……なんで俺はいつも上手く行けないんだよ!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます