第42話 弱者の戦い方
てっきり木箱を使って脱出する計画は順調に進むと思っていた。だが逆に失敗してしまい、俺たちをバレた。
このバカなアイデアを思いつかないなら、ミリーちゃんと俺は傷つくこともなく、看守の注意を引くこともなかっただろう。
ミリーちゃんが俺をそんなに信頼してくれているのに、今は俺のせいで危険にさらされているなんて。
俺たちがまだ完全に立ち上げる前に、密室の鉄扉が一瞬で開かれた。
強い光が差し込んできた瞬間、俺は本能的にミリーちゃんを抱きしめて守った。次の瞬間、背の高い三人の姿が密室に入ってきた。
看守はすぐに地面に散らばる木箱に気付き、素早く周りを見回した。俺はミリーちゃんを抱きしめたまま動けず、二人は影に身を縮めた。
どうしよう……どうすればいいんだ……看守の注意を引いた場合の対処法なんて考えていなかった。
頭が真っ白になり、ミリーちゃんの口を押さえる手が震える。必死に呼吸を我慢する。もう一つの手が胸を抑え、バクバクと跳ねる鼓動の音を押し殺す。
「おい、もう逃げれたのか」
吊り下がっているロープや開いた天窓を見て、一人がそう言った。
「はあ……またあの女に叱られるか。めんどくせえ」
そうそう、このまま俺たちは既に逃げたと思ってもらおう。早くここから出て行け――
「あっ! そこの隅にいるじゃないか!」
くっ! こんな時にそんな強いな探索能力を持っているんじゃないよ!!
その時、看守の手に持っている懐中電灯が俺とミリーちゃんを照れ出した。
まずい。完全に見つかってしまった。逃げ場はないのか……
看守たちが近づいてくる中、魔法でミリーちゃんを守るしかない。たとえ俺の魔法がどれほど弱くても、全力で戦うんだ。
少なくとも、ただ待ち構えるよりはましだ。
「おい! クソガキ! いい度胸じゃねえか! よくここに潜入してきたんだな!」
「まずはぶん殴ってやるぜ」
俺はこいつらの言葉に無視をして、深呼吸をして集中力を手に水元素を集める。
だが実際のところ、今でも俺は水元素の力を上手く制御するのができていない。
限られた魔力を正しく使わないと終わりだ。プレッシャーの中、心はドキドキと速く響く。
「ふぅ……。『水の柱』」
残りわずかな魔力を手に集め、そっと呪文を唱える。俺の声と共に、手のひらに弱々しい水の流れが現れる。
そして、もっと魔力を注ぎ込み、水の流れを三本の柱に変え、三人の目を狙う。
「ああっ! 目が!」
「ぐああっ! 何だこれは!?」
「痛ってぇぇ! 痛ってぇんだよ! くっそったれか!」
俺の水魔法で一時的にこいつらを失明したから、少し動き遅させたらいい。でも短時間しか遅らせる。もがくが終わると、行動能力を取り戻すだろう。
だから、この絶好のタイミングを逃すわけにはいかない。
「ミリー、急いで逃げるんだーー」
「そこかあ!!」
「気をつけてレイナ!」
ガチャン!!
ミリーちゃんに急いでここから逃げ出すと伝えたいとき、その中の一人が、何も見えない状態で俺に向かって突進してきた。おそらく俺の声を聞いたのだろう。幸い、素早く避けたのはよかった。
とりあえず、この三人を解決しないと限り逃げられない。問題は……俺の体力と魔力が足りないことだ。加えて俺の魔法の威力も強くない。地獄級の難しさだよおい。
仕方ない。もう少し時間を作りだすの必要がある。それじゃ、ちょっと小細工使ってみよう。
「おい、お前らこのバカども。俺はここにいるぞ」
俺は挑発的に言い放ち、こいつらの注意を引こうとした。
「どこだっ! このクソガキめ!」
「捕まえてやる!」
思った通り、残りの2人も俺に向かって突進してきた。でも今回俺も避けた。
ドンドンッ!!
「うわっ!」
「ぐはっ!」
「痛っ……!! バカどもか! 俺を潰せるんだよ!」
そう簡単に俺の罠に嵌ってくれるとは思わなかった。このチャンスを逃すわけにはいかない。
再び右手に魔力を集中させるため、全神経を集中させた。
今回はさっきよりも多くの魔力が必要だ。体力は使い果たしているが、この作戦が成功することを信じて賭けるしかない。
全身の魔力が手に集まるのを感じる。筋肉が潰されようになってきた。体力の限界に近づいてるが、まだ足りない……もう少しだけで足りる!
よし! 今だ!!
「ほああっ!!」
俺の一声と共に、看守たちのいる場所に巨大な水の球が現れ、3人を包み込んだ。見た目はたくましそうだが、突然現れた魔法には避けることもできなかった。
こいつらが気づく頃には、完全に俺の支配下に置かれていた。
「ごくっ!?」
「ごくごくごく!!」
頭部まで覆われているから、急に酸素を失った3人は必死にもがき始める。
俺は王子のように頭脳明晰じゃなく、環境や相手の弱点を利用して強者を制する賢い戦略なんてできない。
でも見てろよ! これこそが、弱者の戦い方だ!!
よし、この状態を維持して、ミリーちゃんが早く逃げられるようにしよう。
「ミリー! 早く上がれ!」
「だめ! じゃレイナはどうするんだよ!?」
「俺は……」
俺のことはどうでもいい。やっと時間を稼げるだから、早く逃げてくれよ。なんで逃げないんだ。
あっ、そうだ。箱がさっき倒れてるんだ。これじゃミリーちゃんがどうやって上に登るんだよ。俺のバカ。なんでこんな重要なことを忘れたかよ。
くっ……もうだめだ。体が力を使えなくなってきた。この魔法を維持するのは難しいだろうな。
「ぐはっ!!」
俺はやっと支えきれず、力なく地面に座り込んだ。あいつらを包まれてたの水の球も消えた。
「レイナ!! 大丈夫か!?」
だから……俺をほっておいて、早く逃げろよ、ミリーちゃん。
もう戦える魔力は完全にない。地面に座り込んで息を切らせる姿は情けなさすぎる。
「クソ……やるんだな、このクソガキ……よく俺様をからかうな」
「これでお前らが終わりだ……生きて帰れると思わねえ!!」
まずい。あの三人はもう立ち上がってきた。そして怒りを込めて俺に向かって叫び始めた。
くそっ……俺はもうちょっと強くなれないのか! 全然変わっていないじゃないか俺は! こんなに弱くて何もできない!
自信満々でここに突っ込んで無茶をして、結局ミリーちゃんを救えず、自分まで危険に巻き込んでしまった。
俺はいつもこの情けない姿。何をやっても失敗する存在。転生しても変わらない。
そう自暴自棄になってそんなことを考えていると、ミリーちゃんは立ち上がり、俺の前に回り背中を向けた。
そして彼女は深呼吸をし、目に輝く光を放った。
「ここに来るな!」
ミリーちゃんは叫び声をあげ、密室に響き渡った。俺だけでなく、看守たちもちょっとビビったみたい。
「ちょっと待ってミリー、何を――」
「私だって、いつもレイナに頼りっぱなしではいけない。もうレイナに借りが多すぎるから」
「でも――」
「今度は、私がレイナを守る番だ」
俺にそう言ってると、ミリーちゃんは前に向けて、魔力を集める。
「『煌めく光』」
次の瞬間、彼女から強力な光線が放たれ、瞬時に密室全体が照らされた。
「ああっ! 目が!」
「何も見えない、くそが!」
「うぐぁあっ!」
看守たちは苦痛のうめき声を上げ、手にしていた武器も手放してしまった。
これが……ミリーちゃんの光属性の魔法か。やっぱりこの光景は何度見ても凄い感じがする。
光が薄れると、看守たちは動かないまま地面に倒れていた。
「ふぅ。安心して、レイナ。この人たちはただ気絶しただけだよ」
「え、あ、うん」
ミリーちゃんは微笑みながら、明らかに疲れている様子だった。あんな強力な魔法を使ったら、エネルギーも相当奪われるだろう。
今、俺たちの体力はほとんど限界だ。でも、ついにこの場所から安全に脱出できるって思うと嬉しい。
「ありがとう、ミリー」
俺がミリーちゃんを守ると決めたのに、結局彼女が俺を守ってくれるなんて。皮肉だな。
「私こそお礼を言わなきゃ。レイナが自信と勇気をくれたおかげで、私は人として他の可能性に気づけたんだ。自称が『俺』になったレイナは、本当にかっこいいよ!」
「そ、そうなんだ……」
いつの間にか俺がうっかりと言ってしまったのか……いやぁ、なんだか少し恥ずかしい気持ちになる。
以前は自分のことをどう呼ぶかに気になるけど、相手は全然気にしていないなんて。俺は相変わらずバカだな。
でも、自分が無意識に他の人に元気づけていたのか。なんだか心が温かくなる感じ。
しばらく休憩して、俺たちはさっさとここを出ることにした。なにせここはカトリーナの領地だから、長居はいけない。
看守たちが突入してくれたおかげで、密室の扉は開いたままだ。
謎の転生者からの情報によると、隠れ家全体で看守はこの3人だけ。外には誰もいないはず。
もともとは天窓から出るつもりだったけど、今は扉から簡単に出られる。登り降りする力もそろそろ限界だし、楽にしよう。
ミリーちゃんと急いでリビングに置いてある食べ物を少し食べて体力を補給し、必要な道具をウエストバッグに収納した。そして隠れ家の扉を軽々と開ける。
「さあミリー、俺に乗って」
俺は半身をかがめ、ミリーちゃんを背負うように合図する。
「大丈夫! 自分で歩けるわ! もうレイナに迷惑かけられない!」
「無理しないで。まだ足はグラグラしてるんでしょ? 俺はちょっと疲れただけだし、ミリーは麻痺した足でなかなか歩かないだろう。今はとにかく早く帰るのが最優先だ。ね」
「わ、わかった……」
よし。ミリーちゃんを説得して乗せることに成功した。幸い彼女は俺よりも軽い体重なので、楽々と背負うことができる。
あと少し頑張れば、町に戻ってからは馬車に乗れる。
だから、体の中の筋肉がどんなに警告を発しても、その時まで支えなければならない。
「よし! 出発だーー」
「どこに……行くのっ……? あなたたち二人」
突然、身長が俺と近い女性が遠くから現れ、ゆっくりとここに近づいていてる。
その鋭く高い声はいつもよりも少し息が抜けていたが、声の主が誰かは一聴でわかった。
「カトリーナ……」
まずい。こんな時に現れて道を塞ぐなんて。
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