第35話 表面化した対抗

 誘拐予定の土曜日がついにやってきた。この日は元々、ミリーとメアリが一緒に楽しいお出かけする約束をしていた日だ。彼女たちはきっと喜びと期待に胸を膨らませて今日を迎えるだろう。


 しかし、もし彼女たちがこの先が何を待ち受けているのか知ってるなら、きっと喜びにはなれないでしょう。


 エドウィン王子は王都にあるカフェの2階でコーヒーを楽しんでいるように見えるが、実際はガラス越しに外の様子を観察している。


 暗部に所属する部下をこの街のさまざまな場所に秘密裏に配置してた。念のため、シュバルツ宰相に所属する暗部のメンバーも一部借り受けていた。


 現在、全員が情報を共有する魔法に接続されており、エドウィン王子は一人ひとりを通じて状況の変化を総合的に把握している。


 自分が現場で直接監視する必要があるのは仕方ないなこと。理想的なシナリオは、この誘拐計画を初めから粉砕し、計画そのものが未然に阻止されること。


 しかし、第二夫人派のこの作戦を秘密になるためには非常に力に入っていた。


 このような巨大な計画、細かな役割分担、多くの人々の関与にもかかわらず、漏れのないまま進行し、計画を実行する前の数日間に第一夫人派が知ることさえできないでした。第二夫人派としては非常に珍しい。


 王子に残っている時間はあまりないが、まだできることがある。例えば、部下を集めて対抗策を立て、第二夫人派の計画をできるだけ破壊する、そして損失を最大化すること。これがエドウィン王子がこの数日悩ませていたことだ。


 実は、この切迫した状況の中で積極的な対応をするだけでなく、もう一つ方法がある。それは、誘拐の対象から着手すること。


 第二夫人派はこの誘拐作戦の準備に多くの労力を費やし、最終的に目標を土曜日に定めてた。


 自分がさまざまな口実を使ってミリーに説得し、土曜日に外出しないように寮に留まるように誘導すれば、誘拐計画は目標が不在となり失敗に終わるでしょう。


 でもこの方法には3つのリスクが存在する。


 まずは実現可能性。ミリーはエドウィン王子の「外出しない」の要求に従ってない可能性がある。たとえミリーが従ったとしても、メアリにも説得する必要がある。


 さらに、これは彼女たち二人の休日であり、自分が外の人として二人に外出を控えるように頼んだり、計画をキャンセルしたり、延期したりすることは少し不適切かもしれないん。


 次に秘密保持の問題。エドウィン王子の個人的な理由により、レイナはこのことについては全然知らない。もし目標としてのあの二人をうまく扱ったとしても、レイナはきっとあの二人の突然の予定変更に疑問を抱くでしょう。


 レイナの性格からすると、答えを知るまで追求するのだろう。もしそうなった場合、レイナはこの誘拐計画を知ることになり、それはエドウィン王子が避けたい事態だ。


 さらに、この誘拐を回避できたとしても、次は2回目、3回目、そして無数の誘拐が起こる可能性がある。


 次回がいつになるかわからない誘拐を待つよりも、今回の機会を利用して第二夫人派に意識してしましょう、王子に対抗するのは永遠に失敗する、だと。


 こうして、第二夫人派の愚かな欲望が打破され、将来的に同様の出来事が起こる可能性が絶たれる。


 でも具体的な行動詳細はあまり把握できないから、上手く反応するだろう。


(さて。そろそろ時間だね)


 王子は時計を一目見てからすぐに情報共有の魔法に集中する。


(うーん……相手もかなりの人数だな。もう攻撃の準備ができているだけでもほぼ10人近く。隠れている見張り役は20人以上。幸いにもこちらにも十分な人手がある。おっ、向こう側の数人はもうこっそりと解決されているのか)


 王子はほっと息をついた。やはり3日間の準備は緊迫しすぎたのか、とそう考えた。


 自分の能力を信じても、もしもっと情報をもう少し早く知れば……まあ、もう過去のことだ。今は現在起ころうとしていることに集中するだけ。


 王都出かけると言っていたが、実際にはミリーとメアリは主にこの有名な商店街を散策する予定だ。さまざまな商品が揃っているで王国で知られている。


 もちろん、王都には他の商店街もあるが、情報によると彼女たちはここで一日中過ごすつもりのようだ。


 おそらく第二夫人派はある時点で行動を起こすだろう。このカフェの付近は商店街の一番賑やかな場所。混雑しているこの場所が混乱を利用した誘拐の最適なターゲットになるでしょう。


 今は状況を注意深く監視するしかない。何しろ主導権はこっちではない。受動的に待つしかない。


『報告。ターゲット人物が範囲に入りました』


 ついにか。あの二人の姿がぼんやりと見えるようになった。


 よく見ると、彼女たちは楽しそうに会話している。今度のお出かけに対する期待が顔に溢れていた。悲劇がまもなく起こることに全く気づいていない二人の少女は、どれほど幸せそうでしょう。


 王子は遠くにいるミリーとメアリをじっと見つめながら、同時に情報共有の魔法から第二夫人派の人々を人ごみの中から注意深く監視している。


『報告! 敵は動きました!』


 そう聞いたら、王子はすぐに注目を人ごみの集まる交差点に向ける。そこから一人が路地から歩いてきた。


 そこか。


 黒いローブに身を包み、フードをかぶって慌てずに交差点の中央まで歩いている。そして、手から微量の火の元素魔法がゆっくりと広がっていた。


 怪しいけど、なにをするつもりか?


 突然、恐ろしい考えが王子の頭に浮かんだ。


『爆発』


 近くのいくつかの暗部はそれを見て、すぐに人々を押しのけてその人を地面に押し倒した。しかし、それでも間に合いませんでした。


 ドカーン!!


 王子の予想通り、火の玉が人々の中で爆発した。すぐに恐怖が広がっていた。


 第二夫人派が場面をこんなにも大騒ぎにするとは思いませんでした。人ごみの中で爆発を引き起こして混乱を引き起こすために、どんな手段でも惜しまないようだ。相変わらず狂気を持っていると言える。


 だが、誤算だった。この騒ぎを止めなかった。動きが早すぎて反応の時間すらなかった。


「きゃああっ!」

「わぁあああっ!」

「どうしたの!? 何が起こったの!?」

「おい! 押しつぶされないでくれよ!」


 爆発を目撃した人たちはパニックに陥れたり騒ぎ回り、あちこちを逃げ回る。


 一方、後ろの方にいる人は前で起きたことに全く理解を示さず、押し寄せる人たちに押されてしまった。


(このような遮眼法に視線を逸らされないようにしないと。最優先の目標は向こう側だ)


「わぁっ! ほら、ミリー、これ見て! すごくキレイ!」


 この時、メアリは興奮してある店のショーウィンドウの外に走り出し、喜んでそう言った。


「もう、待ってよメアリ」


 ミリーがそう言っているの瞬間、遠くから突然爆発音が聞こえる。二人の注意はそちらに引き寄せられた。


(っ!! あいつらが動いた!)


 これは間違いなく第二夫人派にとって最適なタイミング。ミリーの近くに潜んでいた誘拐犯たちは人の流れに逆らって前に進み、この絶好のチャンスを絶対に無駄にしない。


『全員!ターゲット人物を守れ!!』


 王子がそう言った瞬間、暗部の部下は命令が下される前に足を踏み出し、即座風のようににミリーを守るために駆け出した。


 ミリーの方に向かっているものの、両方の目的はまったく違う。


 そして、第二夫人派の誘拐犯がミリーに手を伸ばそうとしたその瞬間——


(((......えっ?)))


「ちょっ!? あなたたちは誰だ!? 放してくれ! だから放してくれって!」


 ——現場にいるの暗部達を驚かせたのは、誘拐犯が狙っていたのはミリーではなく、ショーウィンドウに寄りかかっていたメアリだったことでした。


 間違えたのか? あいつらが何かミスでもしてるのか?


 一瞬そう考えが頭をよぎったが、王子はすぐにそれは違うと気づいた。


『動きを止めるな! まだ終わっていない!』


 もう手遅だった。暗部たちが驚きで行動が停滞している間、後ろから突然飛び出したいくつかの大男たちはその隙をついてミリーを素早く路地裏に引きずり込んた。


「っ!? んっ!んんんん!」


 ミリーが必死に抵抗する中、暗部たちはやっと反応した。そして急いで誘拐犯が逃げた方向を追いかける。


(......ちっ!)


 引っかかった。まさかまた別の手口があるとは。それに笑えるほど単純な手口だった。でもこの手の策略が効果を上げたなんて。しかも王子の目の前で。


 挫折感に満ちた王子は歯を食いしばり、拳を握り締めた。


 最初はメアリを誘拐したフリをして、唖然とした部下がまだ反応できていない時間差を利用し、その時にこそミリーを誘拐したのだ。


 なんと屈辱。なんと大失態。こんなバカみたいな技で騙されるなんて。


 自分がこれまで順調すぎたことが原因で、油断してしまったのか?


 過去に一度も失敗しなかった自分を思い出し、いつも絶対的な理性に基づいて相手を打ち破ってきたことを思い返した。


 なら、今回の失敗は、やはり感性が入ってしまったからなのか?


(いや、今はそんなことを考える時間じゃない)


 まだチャンスがある。ミリーはたった今誘拐されたばかりで、彼女を取り戻す可能性がある。そして、自分の部下たちもいま誘拐犯を追っている。情報共有の魔法を利用すれば、簡単に追いつくことができるだろう。


「やはり、自ら出向くしかないのか……」


 そうつぶやいて王子は、座席から立ち上がり、隣に掛かっていたコートを着て、速足で1階に向かった。


 どうあっても、自分は全力を尽くしてでもレイナに悲しい表情を見せるわけにはいかない。


 エドウィン王子は鋭い眼差しを浮かべながら、心の中でそう考える。

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