第23話 いっただきまーすっ!!


「うわ……でかすぎだろう」


 王都でも比較的繁華な地域にいるこの高級レストランは特に豪華に見える。広々としたスペースを占めている。


「ふふ。レイナが中に入ったら、いったい何回こんな反応をするのかな」


 王子までそう言うのなら、中はさぞかし凄まじいことのは違いない。まずい、緊張感が急に襲ってきた……。


「えっと、こんな環境で食事するなら、もう少しテーブルマナーを磨いてから来るべきかな……」


 レイナちゃんから素晴らしいテーブルマナーを受け継いでいるけど、自分で実践した回数はまだそれほど多くない。


「心配しなくていいですよ。私たちは個室で食事するから。どんなに荒っぽく食べても誰にも見られないからね」


 そうか、それなら安心だ。でもその代わりに王子が見られるけど、俺は気にしない。


「当レストランへようこそ、エドウィン様、レイナ様。ご案内いたしますので、お席までお越しください」

「ありがとうございます」


 レストランに入って受付に店員さんに招待券を渡した後、丁寧に俺たちを案内してくれた。


 想像はついていたけど、実際にレストランに入ってみると、その豪華さに自分の驚きを隠せなかった。


 ロビーの天井は非常に高く、とても広々とした印象を与える。そこに華麗なシャンデリアが吊り下げられている。


 壁には数多くのオイルランプが掛けられており、柔らかな光が広がっていて、とてもロマンチックだった。それに、壁に絵画や小さな彫刻などの装飾品も飾られている。店内外ともに高級感が漂っている。


「こちらがお席です」


 個室に入ると、白いテーブルクロスが敷かれたテーブルには、精巧なナプキン、食器、グラスが並べられている。部屋はかなり広く、外との雰囲気は似ている。


 このレストランは二つの営業モードがあるって王子はさっきそう言った。一つは通常のアラカルトで注文するモードで、もう一つは一定の金額を支払って制限時間内で何でも食べられるモード、つまり食べ放題だ。


 通常、食べ放題モードはかなり前から予約をしないといけないが、王子が少し力を使ったらすぐに俺たちの番になった。


「うわ~」


 席に座った後、食べ物のメニューをワクワクと開いた。目に入るのはさまざまな高級料理だ。前菜はフォアグラのパンや他にも食欲をそそるものがあり、メインディッシュはロブスターなどの高級食材があり、デザートはムースケーキなどがある。


 くわ! もうこれを全部お腹の中に入れたくてたまらない!


「ふふ。このレストランの食べ物の量を見ていると、たとえレイナでもここのものを全部食べきれないだろーー」

「とりあえず全部を一度に注文しましょう!」

「えっ……?」


 何を食べるか迷っているから、全部頼んじゃおう。


 えっ? 王子の表情は少し驚いているように見える。俺の食欲を知ってるはずだし、今さらなにが驚きなのか。


「レイナ……本気でそれでいいの? 頭大丈夫?」

「え? 頭はいつも正常だよ」

「それを口から言われても説得力に欠けるな……」


 なんだ、そんなに俺を信じつらいのか。


「大丈夫大丈夫。俺の力を信じろ。全部完食する自信があるから」

「いや、それだけじゃないーー」

「よし! ウェイターさんを呼ぼう」

「……」


 驚きの表情を浮かべた王子を置いておいて、ウェイターさんを呼び寄せる。


「すみません! 注文をお願いします」

「かしこまりました。レイナ様は何をご希望されますか」

「全部にします!」

「……はい?」


 なんでウェイターさんまで理解できない顔をしているのだろう。食べ放題って、すべての料理を一度に注文して食べるものじゃないのか?


「あの、全部、ですか?」

「ええ、全部ですよ。メニューに載っているここから、で、ここまでも、全部お願いしますわ」


 メニューを手に取り、最初のページから最後のページまで指差すと、ウェイターさんがようやく気づいたようだ。


「あ、はい。わかりました。全部ですね。了解しました」

「ふふ~♪」


 とにかくメニューの全部を頼むことに成功した。王子は相変わらず「本気なのか」という表情を浮かべている。


「もう一度聞くけど、レイナ、冗談じゃないよね?」

「もう注文したんだから、当然本気だよ」

「まだ悔やむ時間はあるから、ウェイターさんを呼んで注文を変更しようか」

「いいんだ。後でちゃんと俺を見てろ」


 王子に実際に見てもらわないと疑いが晴れないと思う。俺が「暴食の悪魔」に呼ばれるのは冗談じゃない。本当に凄まじいことを目の当たりにしないとわからない。


「まだ来ないのか~まだ来ないのかな~」

「なんだか急に胃が痛くなってきた……」


 しばらく待った後、個室の扉がついに開かれた。もうすでに香りが漂ってきている。


 おおっ! 来た来た! ウェイターさんが一つずつ料理を個室に運び込み、次々とテーブルにいっぱい並べられる! さすが貴族レストランの長テーブルだ!


 どの料理も見た目がとても美しく、香りが漂ってくる。見るだけでお腹がグーグー! もう待ちきれない!


「レイナ……ちゃんと考えておけよ、食べきれなかったら――」

「わーい! いっただきまーすっ!!」


 そして、俺が全て食べ終わった後に王子が呆然として信じられない表情を浮かべている光景は、一生忘れられないものだった。



「ふわぁ~、大満足、大満足~」

「……本当に無理してないのね?」

「そんなことない。俺は強いから」


 テーブルにあるたくさんの高級食材を完食し、これ以上の幸せはない!


 お腹は少し膨れてきたけど、このドレスのデザインは完璧に隠してくれているから、外見の心配はいらない。


 ピアノの演奏は夜だから、午後の時間はまだある。お腹いっぱいになったら散歩が一番いいね。よし、この異世界の街をゆっくりと散策しよう。


 初めて見る印象通り、ここは活気にあふれつつもヨーロッパの町の高級感が漂っている。建物の建築様式も、以前旅行で訪れたヨーロッパの都市と同じように、低いけど美しくて繊細な外観を持っている。


「はぁ……では、レイナは特に行きたい場所はありますか?」

「そうですね……あっ! お土産屋さんはどうでしょう?」


 レイナちゃんはずっと王都で暮らしてきたから、この街の美しい風景もある程度知っている。だから、この世界や国の特色が感じられるものを見たいなあって思っているの。


 変わった装飾品がたくさんあるお土産屋さん、一度行ってみたい!


「そうだったのか。私はてっきり宝石店などに行きたいと思っていると勘違いして、勝手にどの店がいいか調べていたのに」

「いや、そんなに気を使わなくてもいいよ。それに宝石やアクセサリーはあまり好きじゃないし」

「そうなのか。やはりそうか。だから私もレイナが好きそうなお土産屋さんも調べたんですよ」

「え!? そ、そこまで心を配ってくれるんなんて……」


 正直、今日は王子から色んなのお世話を受けていた。今日の遊びにたくさんの準備をしてくれているのがわかる。今朝嫌悪の態度をして、やはり申し訳ないと思う。


 そして王子は俺を連れて、美しい外観を持つ店にやってきた。ガラスケースにたくさんの美しい装飾品が並べられている。店内の装飾も、上品な雰囲気と洗練されたセンスが漂っている。


 そう、まさにこの雰囲気!


「こ、これはっ、エドウィン王子様!?お、お店へようこそ、おもてなし足りずお許しください……!ど、どうぞご自由にお選びください!」


 王子の身分を見抜いた店員の一人が、他の店員たちも緊張した表情を浮かべる。


「そんなに緊張しなくてもいいよ、店員さんたち。私たちはただ気軽にデートがしたいだけから。だから店員さんもリラックスして大丈夫ですよ」

「は、はい!」


 店員さんたちの反応はわかる。ここは時々貴族のお客様をもてなすのもあるみたいけど、王子様がお越しになるなんて思いもしなかっただろう。もし俺が働く店にアメリカ大統領が突然現れたら同じ反応をするんだろうな。


 一瞬の騒ぎで王子は注目を浴び、何人かの貴族女子が近づいてきた。くっ、俺もあんな人気者になりたいよ!


 まあ、アイツをほっておこう。変わったおもしろい商品を見てみよう。


 木の棚には特色ある飾りや小物が並べられている。言ってしまえば、記念品みたいなものかな。


 おお、これは素敵だな。透き通ったクリスタルガラスの球体は表面が滑らかで、中に入っているものがはっきりと見える。


 クリスタルガラスの球体からは柔らかな金色の光が放たれ、その光源は上部にある。


 雪の上に立つたくさんのギフトボックスが飾られたクリスマスツリーと、隣にある小屋の屋根には積雪が積もっている。そして、その前には可愛らしい雪だるまが立っている。


 クリスタル球か。これは素敵だな。1つ買ってもいいかな。


「おい、王子。これ、どう思う——」

「レイナ、様?」


 このクリスタル球を持って王子のところに戻ろうとしていると、隣の近くから懐かしい甘い声が聞こえてきた。


 まさか……こんなに偶然なんて……


 振り返ってその声の方向を見ると、そこには美しいピンク色の髪、澄み切った緑瞳、可愛らしい顔立ちが広がっていた。


 私服のミリーちゃんと彼女の……友達?がそこに立っている。今日の「デート」にミリーちゃんが現れるとは全く予想していなかった。

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