第22話 予想外の遭遇
午前中に近づいてきたので、スケジュールの最初の予定は高級レストランの食べ放題に行くことになった。
「この時間なら、レイナのお腹の音がもうすぐ聞こえてくる頃かな。もう一度聞きたいな」
「はあ……さっきまで心の中にお前を褒めていたのに……。もし今後もさっきのように続けばいいのにな」
コイツ、いったいいつまで俺をからかうつもりなんだろう。
まあでも、確かに少し腹が減ってきた。今日は起きてから何も食べていないから。
だがそれより、さっきからちょっと違和感を感じている。
「おい、お前、さっきからずっと俺の名前を呼び捨てにしているんだろう?」
「今さら気づいたのか。ダメかな? もっとレイナとの関係が深まったと思っていたのに、やっぱり私だけがそう思っていたのか。悲しいですね」
「まあ、ダメってわけじゃないけど、突然そう呼ばれるとちょっと慣れない」
「そうか。なにせレイナはミリーさんともう呼び捨ての関係なんですね。婚約者としては本当に羨ましいな」
くっ……! なんでコイツが知っているんだ! 明らかに現場にいないのに!
「はあ、しょうがないな。俺を『世界を救った勇者』と呼ぶのも何と呼んでもいい。好きに呼んでいいんだよ」
「それって許可を得たってことですね」
相変わらず王子と話すときはいつも不利になるのは俺の方だった……。なんでコイツに勝てないのかよ。
「でも同じく、私もレイナに直接『エドウィン』と呼んでもらいたいですよ。『王子』って呼ばれるとちょっと変だと思う」
「それはダメだ。直接にエドウィンって呼ばれると、ちょっとキモい感じがするから。個人的に受け入れられない」
「そうか……それは残念ですね」
偽りのがっかりをフリの表情を見せないでよ。でもまあ、完璧な王子様と見えても内心は他人に名前で呼ばれたいか。素直じゃない一面があるなんて思ってなかった。ふふ、またアイツの弱点を見つけちゃった。
ところで、今度のランチがすっごく楽しみだな。前の世界じゃ給料日に自分にご褒美として美味しい食事をすることを考えていたけど、高級レストランの値段を見ると躊躇ってしまっていた。だが今は無料で何でも食べられるなんて!
「あら、あらあら。これはこれは、エドウィン様じゃありませんか? またお会いできましたわね」
突然、王子との会話を遮るような女性の声が聞こえた。顔を上げてその方に目を向けると、俺たちの前に印象のない女の子が立っている。
その女の子は俺よりも華やかなドレスを着ており、銀色のなめらかな髪と、碧色の目が印象的で、白い手袋をした手には扇子を持っている。全体からは非常に高貴で優雅な雰囲気だった。それに濃厚な香水の香りが漂っている。
ああ、これはまさにお嬢様って感じだ。レイナちゃんが外見を演じるときとほとんど同じ。
だが、どれだけレイナちゃんの記憶を辿っても、この人は誰か、それと俺たちが会ったことないかのは思い出せない。
「ええ、またお会いしましたね。カトリーナさん」
王子は俺を見ている時しか出せない面白いものを見つけたかのような表情をすぐに取り繕い、以前の完璧な王子の営業用の顔に戻った。そして俺にこっそりと目で合図した。
つまり、この人は警戒すべき相手なのか。でも俺も王子のように挨拶した方がいいのかな。今はこの人の名前はわかったけど、苗字も知らないし、俺たちの関係がどれくらい親しいのかもわからない。
「あら、あなたもここにらっしたわね、レイナ・ナフィールド公爵令嬢。久しぶりだわ」
「あ、ええ、久しぶりですわ」
幸い、彼女が先に挨拶してくれたおかげで安心した。以前会ったことがあるのか。ただ彼女の口調から俺に対してあまり友好的じゃないように感じる。気のせいかな?
「珍しいわね、あなたたち二人がこんなにラブラブなデートでもしているなんて」
「そうですね。だから、カトリーナさん、ごめんね、特に用事がなければ先に行くよ」
「え~久しぶりに会ったのに、もう少し話せない? ――ああ、そうか、どうやらある人が嫉妬するのを心配しているんだわね~?」
カトリーナさんはそう言って、意地悪そうな目で俺を見つめた。
これは……俺を皮肉っているのか? この人、レイナちゃんが嫌いなのか?
そして、王子は完璧な笑顔を保ちだが、黒いオーラが同時にどんどん漂っているのを感じた。
「レイナに誤解があるみたいですね。彼女はそんな人じゃないですよ」
「あら? わたくしは誰が嫉妬していると言ったわけではないけど。なぜ自分で当てはまると思ったの?」
ちょっと待って、この女の態度は一体どうなっているの? なんで最初から俺に攻撃的な態度を取るんだ? そして、なんで王子の前でそんなことを言う勇気がある?
王子はこっそりと舌打ちし、カトリーナさんに応えた。
「とにかくカトリーナさん、今はあまり話すことができない。また機会があれば」
「また機会があれば……ね。わたくしは何度もあなたにその言葉を聞いているわ」
彼女は少し残念そうな表情を浮かべ、腕を胸に組み、何かを思い出しているような様子だった。
「まあ、いいわ。わたくしにも用事があるの。これで失礼するわ」
「うん、また今度」
そして、カトリーナさんと王子がすれ違う間に、彼女が王子に対してささやく声が俺は聞こえた。
「――わたくしは諦めないわ。まだ負けていないから。あなたがナフィールド公爵令嬢を選んだことが間違いであることを証明するわよ」
そしてカトリーナさんは俺たちをここに置いて、従者と共に去っていった。
まずい、王子の黒いオーラがますます増している。この言葉が王子の地雷を踏んだのか。
カトリーナさんの姿が消えたことを確認した後、王子は営業用のスマイルを引っ込めた。
「ちっ。まだ死んでないのかよこの人」
そして王子は目を輝かせることなく、嫌悪の表情でその言葉を口にした。まるで汚れた生き物がまだ生きているのを見たかのように。
うわ、怖い言葉が出た。これが王子の本当の姿なのか。初めて見た。
「あの、王子?」
「……あっ、ごめん。レイナにこんな失礼な姿を見せてしまって」
俺の声で我に返った王子は、苦笑しながら俺に向かってそう言った。
「いやそれより、あの人は一体誰なんだ? なんで彼女がそんな勇気を持ってお前の前でそんなことを言えるのよ? それに彼女が俺に対して露骨な敵意を持っているのはどういうこと?」
「あの人は実はフェートハイム公爵家――つまり、第二夫人の家族の人なんです」
思いもよらぬ重要な人物に出くわした。
「彼女はかつて私の婚約者候補であり、私に好意を抱いていた。そして今でもそうなんだ。ただし、結果はレイナも知っている通り、最後はレイナが私の婚約者になったんだ。彼女は嫉妬心と勝ちたいという気持ちから、さっきの態度や行動を取ったんだ」
そうだったのか。カトリーナさんは感情に忠実なところはいいけど、人付き合いの態度は改善の余地があるな。少なくとも外で見栄を張るべきだ。
それに、王子の黒いオーラがまだ消えていないようだ。アイツら二人が以前何があったのかはよくわからないけど、言葉や反応から見る限り、本当にカトリーナさんの存在を嫌っているようだ。
今、王子の顔色もカトリーナさんのせいで悪くなっているな……普段の王子は感情のコントロールが上手く、こうした表情を見せるとは珍しい。
このままの雰囲気が続くわけにはいかない、何かをしないと。
「まぁ、元気出せよ!」
そう言いながら、俺は王子の肩を軽く叩いた。
「今日は遊びに来たんだろ? 遊ぶなら楽しく遊ぼうよ。そんなものに自分の気分を左右されちゃてだめだよ」
俺の言葉を聞いた王子は表情が少し緩んだ。
「ああ、そうだな」
そして王子は珍しく柔和な微笑みを見せた。
まあ、なにせアイツと一緒に過ごしている時間も長くなってきたし、自分もだんだんと王子と友達みたいに感じるようになった。友達が喜んでいるのを見ると、自分も同じように嬉しくなるんだ。
「いやー! 楽しみだなー、高級レストランの食べ放題!」
もしカトリーナさんのせいで遅れずに予定通りに行動できていたら、もうレストランに入っていたはずだ。ああ、もう待ちきれないよ!
「――ふん。ますますあの時の選択が正しかったと確信しているですね」
そう考えている時、隣の王子が何かを言っているようだった。
「えっ? 何か言った?」
「ううん、何でもない」
そうか、まあいいや。俺は必ず他人に確認してはっきりと聞き取るの人なわけじゃないし。それより、早くレストランに行きたいんだな。
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