第2章

第12話 入学式

 ついにこの日がやってきた。今日から俺は公爵令嬢のレイナちゃんだけじゃなく、王立学園の生徒の一員でもあるということだ。


 昨日はもうすでに必要なものを寮に移動した。なので今日は学園の寮で目覚めることになる。


「おはようございます、お嬢様」

「んん……」


 シェラさんが俺を起こしてた後、カーテンを開けに行っていた。眩しい日差しが顔に当たった。


 ここは広すぎるから、一瞬まだ公爵家の寝室にいるのかと思った。


 さすが階級制度が厳格な封建国家だ。公爵階級の人って他の人よりも多くのものを手に入れることができるだな。


 隣のベッドはシェラさんが寝る場所だ。でも一応ここは寮だから、広いとしていても限られたスペースだ。


 使用人も連れてきた生徒は二人で同じ部屋に寝るしかないな。だが俺にとってはこの寝室はすでに非常にでかい。そして外側のより広いスペースはリビング兼書斎です。


「朝食はリビングで用意されていますわ」

「うぅん……」


 朝に弱いって本当に不便だよな……。


 その後、俺はシェラさんに学園の制服に着替えられた。自分で着ることもできるだが、メイドとしてのシェラさんは俺に手伝わせることを頑なに拒みた。


 家にも同じだ。シェイラさんに何度かドレスを着せられた後、自分で着る方法が理解したが、どうしても自分で服を着せることを許しないでした。


 専属メイドとはいえ、俺は1か月が経過しても他人に肌を晒すことにはまだ慣れていない。


「お似合いですわ、お嬢様」

「おお、確かに可愛いなぁ」


 鏡の前で自分を見つめながら感嘆の声をあげる。小説や漫画でしか見たことない異世界学園の制服が、今は実際にそれを着ているなんて。


 それに、俺は徐々にスカートを履くことにも慣れてきているから、違和感を感じることはないようだ。


 よし。準備万端だ。俺は鞄を持って学園に行く。


 学期の始まりの定番といえば入学式だよね。が……これを考えるとやる気が全然出なくなるだよ。異世界に行ってもまだこんな退屈なことをやらなければならないとはな。


「おはようございます、レイナ嬢」

「あら、殿下、おはようございますわ」


 寮のを出ると、王子が俺を迎えてくれているのが見えた。


 自分で学校に行くつもりだが、婚約者同士の俺たちはできるだけ一緒に歩く方が良いかも。


 寮から学園の校舎まで歩くと約5分かかる。途中には他の学生もたくさんいるだな。


「はあ……まだ二回目の学校生活が始まったよっての実感がないなぁ」

「そうか」


 ついに王都の中心にいるの王立学園の前に到着し、公爵家とほぼ同じくらいの大きな校舎を見た時、非現実的な感覚が心に湧き上がった。


「大学規模の校舎で高校のような授業を受けるなんて……なんだか不思議な感じがする」

「そう言えばレイナくん、ニホンの『大学』はこの国の『研究院』に相当するのか?」

「うん……多分そうだと思う」


 周りの人が誰も俺たちの会話を聞いていないと確認してから、元の話し方に戻った。


 王立研究院は、王立学園に優秀な成績を収めた人が卒業した後採用され、自分の得意分野でさらなる研究を行う機会が与えられます。ウィルさんはきっと研究院に入るでしょうね。


 そして俺たちは長くて広い廊下に進んた。ここは多くの学生が行き来している。これらの人達は恐らく俺と同じく新入生だと思う。


 今はまず鞄を教室に置きから講堂に入るつもりだ。


「ご機嫌よ、レイナ様、エドウィン様」

「ええ、ご機嫌よ」

「おはようございます」


 ある人に挨拶をしてくれた後、他の俺たちを知っているような人達も挨拶に来た。


 これらのちょっとした馴染みがあるも見慣れない顔を見ると、レイナちゃんの記憶によると彼らは社交界にレイナちゃんと知り合った貴族の令息や令嬢であることを分かった。


 中には本当にレイナちゃんと友達になりたいと思っている人もいるかもしれないが、多くは貴族の礼儀を行うから仕方なく挨拶に来てくるれたんだろうね。


 俺たちは注目されているから、生徒は徐々に集まってきているようだ。


「見て見て! エドウィン王子様本人ですわ!」

「ああ! 王子様!! 初めてこの目で見たんだわ!」

「あら、隣には婚約者のレイナ公爵令嬢様ですよね?」

「そうそう! この二人は本当にお似合いですわ!」

「とても綺麗な方ですね!」


 有名な芸能人ってこんな感じかな……。注目されるのは初めてだよね。けど、以前はずっと普通の人間だった俺にとってはすごく慣れない感じがする。


「おいおい、お前頭がいいだろう? 早く何とかしろよ」


 俺は淑女の姿を維持するまま、王子に向かってお互いにしか聞こえない小さな声でにそう言った。


「え、てっきりレイナくんはもう心の準備ができてると思いますけど」

「全然ないよ!」


 アイツ絶対にわざっとそう言った。きっと俺の恥ずかしい姿を楽しんでいるだろうな。


「ここはちょっと我慢して」

「はあ……いいだろ」


 この生徒たちに対処するのを決めた矢先、背後から急速な足音が聞こえ、俺の方に向かって近づいてきている。


「うわああああ!! 間に合わないぃ! 間に合わないよぉぉ!」


 甲高いな女性の声と足音が一緒に耳に入った。


 俺は身を振り返って何が起こっているのかを確認しようとした瞬間、その女子生徒は俺に向かって突進し、俺の腕の中に飛び込んでた。


「ぷうぅ!!」

「あ……」


 う、痛い……ってあれ、痛くない。


 この子がその速度で俺にぶつかると全身を傷つけられるだろうと思っていたが、この子の体重が軽いのか、俺の胸が衝撃を吸収してくれたのか、まるでぬいぐるみが俺に自らぶつかってきたような感じだった。


 女の子の胸ってすごいよなあ。


 俺の胸に当たったこの子の頭は上げていて俺を見ているから、この子をよく観察することができる。


 ピンク色の肩までの長さの髪を持ち、目は緑の宝石のように輝いている。小さな鼻は可愛らしくで、艶やかな赤い唇、そして端正な顔立ちは活力に満ちて見える。


 ……可愛い。


 この子はまるでとても繊細な人形のようだな。もし俺はこの子が走ることや話すことが見ていないなら、マジで人形だと思い込んでしまうかもしれないな。


 それに、俺とこの子との身長差があり、加えてこの子が俺に密着しているから、髪や体から発せられる香りが俺の鼻に強く押し寄せてきている。


 俺と数秒間の視線を交わした後、この子はついにパッとして、自分がとても失礼なことをしてしまったことに気づいたようだ。


「……ああああ!! すすす、すいません!!! 本当にすいません!!」


 この子の表情は一瞬でパニックになって、頭を下げながら繰り返し俺に謝罪していた。


「怪我はないか?! きっと痛いでしょう!」

「だ、大丈夫ですわ」


 あ……必死に俺のことを心配している姿も可愛いね。


「って、ああっ! 教科書が散りばめられた!」


 この子がそう言っているから俺も地面を見ると、俺とぶつかったことで鞄が手から滑り落ち、中にいる教科書が地面に散乱しているのを気付いた。


 うっ、慌てる声でもとても萌だな!


「あわわ……」


 急いで教科書を片付ける姿……あの子への庇護欲はどんどん溢れているだ。


「わたくしも手伝えしましょうか」


 俺はそう言ってながらしゃがんで片付けを手伝えた。


 周りの生徒たちは俺たちのことについて議論しているようが、それはどうでもいい。


「大丈夫ですよ! 自分でやりますから!」

「気にしくてもいいですわ」


 なにしろ、学校が始まったばかりの日にこんな出会いがあるなんて、興奮することじゃないか!


 俺は顔の筋肉を抑えて興奮した表情を見せないように気をつけながら、地面に散らばった教科書や紙を拾い集めた。


「「はい」」


 教科書を持ていた手をあの子に伸ばしていると、どうやら王子も紳士的な態度で手助けをしてた。


「あ、ありがとうございました!! 二人とも!」


 あの子はお礼を言った後、慌てて教科書を鞄に詰め込み、再び足早に去っていく。


「まあ~心が優しい方ですね~」

「レイナ様は本当に寛大ですわ。相手に謝罪を求めるどころか、助けてあげたんわ」

「エドウィン様もとても紳士的で素晴らしいですよね!」


 どうやらさっき俺の言動は生徒たちから称賛されたようだな。俺は淑女の微笑みを浮かべながら、あの子が走り去る姿を見つめていた。


 はあ……背中さえ可愛いなぁ、あの子。

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