第46話 正体は
転生後の二度目王宮訪問。だが、なんで前回もそうだったが、今回も不安を抱えながらこの豪華な宮殿に足を踏み入れなきゃいけないんだ。
しかも昨晩もろくに寝られなくて、目の下にクマができちまった。今から国王陛下と皇后陛下に会うと思うと、また心臓がギュッと締め付けられる感じがする。
深呼吸だ、落ち着かなきゃ。
「さあ、行こう。その場で対応すればいいさ」
王子が励ますように小声で言った。
「ああ。頑張るよ」
覚悟を決めて、半年前と同じように、俺はこっそりと決意を胸に秘め、スカートの裾を持ち上げて王宮の門をくぐる。
いつもなら、何度見ても息を呑むほど美しいこの建物をもっとゆっくり堪能したいところだが……。
今回は俺の運命がかかってるんだ。延々と続く部屋や通路を通り過ぎていく間、その果てしなさに緊張が募った。ようやく謁見の間にたどり着いた。
中に入った時、思わず息を呑んだ。
大広間はレイナちゃんの記憶よりもずっと壮大で堂々としていた。頭上を見上げると巨大なアーチ型の天井があり、壁には絹や金箔が飾られ、神聖で厳かな雰囲気を醸し出している。
大理石の床は鏡のように輝き、整然と並ぶ柱とシャンデリアが映り込んでいた。両側には複雑な装飾が施された壁画とシャンデリアがあり、金と銀の豪華な色彩が目を眩ませる。
脇には大勢の大臣や名だたる貴族たちも集まっていて、皆謁見の間に詰めかけていた。
国王陛下は玉座の中央に座り、豪華な王族の衣装に身を包み、金と銀の刺繍が織り交ぜられている。レイナちゃんの記憶通り、長身で威厳があり、金のドラゴンが刺繍された王冠をかぶり、眉間には笑みの欠片もなく、圧倒的な存在感を放っていた。
その隣には皇后陛下、そして……!?
俺の目は間違ってないよな。
「……っ」
……そして頭のてっぺんから「わたくしは悪役婦人ですわ~」オーラを発している第二夫人。
マジかよ!? 今回の誘拐事件の首謀者である第二夫人が、謁見の間に姿を現すなんて!? 俺の目は狂ってないよな!?
心は即座に警報が鳴り響いた。彼女の目つきは陰湿で、顔は冷たく、周囲には不気味な空気が漂っている。
うっかり視線が合っちまって、慌てて目をそらした。
俺が動揺した様子を見せると、王子が耳元で囁いた。
「レイナ、私もこの人には会いたくなかったが、皇族の一員として、この場に出席する権利があるんだ」
「で、でも……」
「そう。裁判はまだ決着がついてない。今はまだ罪を問えないから、平静の態度で対応しかないんだ」
「……」
マジで予想外だった。この人は本当に自分のやったことへの批判を聞きに来たっていうのか?
「それに、父上と母后がいるから、好き勝手なことはできないさ」
「そりゃそうだけど。それにしてもよく出席する気になったもんだ」
「私も少し驚いてた」
まだ疑問は残るけど、とにかく謁見に臨まなきゃいけない。
俺と王子は片膝をついて、儀仗隊の演奏が終わるのを静かに待った。低い声で「二人とも立ちなさい」と命じられ、顔を上げると陛下が口髭をさすっていた。
「愛しき息子のエドウィン、そして汝の婚約者のレイナよ」
彼の口調は穏やかだが威厳があり、まるで俺を貫くかのようだった。
「先日の光の少女誘拐事件において、お主ら二人は見事な働きをし、強敵を恐れず、オマ王国の未来を担う者を救出した。この事件は王国が近年直面した最大の危機であったが、お主らはその危機を慎重さと大胆さをもって乗り越え、国家の平和を守ったのだ。よって、朕はここに直接感謝の意を表さねばならん」
陛下が俺を褒めているのに、俺の頭の中は今ただ一つのことでいっぱいだった。
第二夫人が隣にいるぞ!? その企みを阻止した本人を堂々と褒めるなんて。そのことを知ってても国王はそうするんだ。ある意味国王もすげぇやな。
彼女は国王の言葉を聞きながら、何の反応も見せていないようだった。彼女の反応が気になって、チラッと見てみたが、次の瞬間後悔した。
第二夫人の目が、今、ゾッとするような視線で、俺をギロリと睨んでいる。
ひぃっ!!
背中から冷たいものが這い上がるのを感じ、体中の血が凍りついたみたいだった。その視線は鋭すぎて、心の奥底まで貫かれそうだ。
ヤバい、これ以上見てたら心臓発作起こしちまう。俺は必死で内なる恐怖を押し殺し、彼女の前で少しでも怯える素振りを見せまいとした。
心の独り言を知らない国王陛下は、ふっと微笑んでから話を続けた。
「レイナ、お主は今回の事件でも称賛に値する働きをしてくれた。強敵に立ち向かい、並外れた勇気と知恵を発揮して、見事に光の少女を守り抜いた。これこそ将来の王妃にふさわしい品格。王妃として、お主はこれからエドウィンと共にオマ王国の未来を守っていくことになるだろう」
「陛下のお褒めの言葉、光栄です」
恭しく頭を下げて国王の賛辞に応えた。
国王に褒められるのは本当に嬉しいことだけどさ、隣にいる黒いオーラのせいで素直に喜べない。
「エドウィン、レイナ。光の少女を救出した功績を称えるため、朕は王国最高の栄誉である勇者勲章を授けることにした」
二つの眩いばかりに輝く勲章が差し出され、王国近衛隊長が直接俺と王子の胸に付けてくれた。場内の人々は皆、拍手で祝福してくれた。
この金色の勲章には王国を象徴する双頭の鷲が刻まれていて、キラキラ光ってて、すごく精巧だ。
だけどさぁ、うわぁ……。国王は狙ってやってんのか、空気読めないのか、もうわかんないよ。
首謀者の目の前で、自分の陰謀を阻止した功労者に勲章授与なんて。第二夫人の黒いオーラがどんだけ膨れ上がってるか、想像もつかない。
そして国王は笏を叩いて、今回の謁見の終了を宣言した。
めちゃくちゃ長く感じたけど、全体の流れはたったの10分くらいだったのが信じられない。
◇
「ふわあぁー」
すごい勢いでソファーにドカッと座り込んで、俺は思わず長いため息をついた。
「やっぱ俺、あんな高い所に座ってるような連中とは付き合いきれないよ。特にあの人とは」
「確かに。あの厚顔無恥にそこに座ってるとは思わなかった」
王子は俺の向かいに腰掛け、紅茶を一口飲んでからゆっくりと言った。
「そうだよな〜。なんであの女、まるで当然みたいに国王の隣に座ってんだよ。恥ずかしいとか思わないのかな」
まあ本当に思ってないのかも。あの女が俺を睨む目つきが忘れられねぇ。
「そうだね。私もあの人に対しては少し苦手意識がある」
「へぇ〜、王子にも苦手な相手がいるんだ。珍しいな」
まぁ、あの鬼のような形相を見た後で、何事もなかったようにできる奴なんてそうそういないだろうけどな。
とにかく、謁見は何とか乗り切った。ひとまずホッとできる——
「おや、これで安心していいと思ったら大間違いだよ」
「うっ」
そう。本当の試練はこれからなんだ。
これから俺の秘密を知ってるかもしれない二人と……いや、知らないかもしれないが。
「大丈夫。二人も優しいんだから」
「そういう問題じゃないだよ」
こいつが王妃様が俺だけを招待して茶会をする理由を教えてくれないから、めちゃくちゃプレッシャーを感じるんだよ。
コンコン——
「どうぞ」
まだどう対応すればいいのか悩んでいると、メイドが部屋に入ってきた。
「レイナ様。王妃様がお呼びです」
こんなに早く!? まだ心の準備ができてないんだけど!?
「わ、わかった」
深呼吸をして、内心の緊張をほぐそうとする。そして頭の中で淑女のマナーを繰り返し復習する。
気楽なおしゃべりだと思えばいいんだ。うん、気楽なおしゃべりだと。女子会を楽しむ……いや、俺は男だっけ。
俺は立ち上がり、茶髪のメイドに付いて扉まで歩いた。そして、そのメイドが扉のノブに手をかけた時、突然足を止めた。
ん? どうしたんだ?
「エドウィン」
えっ?
俺、聞き間違いじゃないよな。エドウィン? 呼び捨て? 王族に? 失礼じゃね?
「夜更かしはほどほどにしてください。早めに休んで」
「うん。わかった」
すると王子は穏やかな口調で答え、王族としての扱いを受けていないことに何の不満も示さなかった。
ちょ、ちょっと待て。つまり、ええええっ!?
今の瞬間、頭にいる情報を素早く繋がってる。
こ、このメイドさんまさか……。まさかだよな。
目の前にいる人物の正体に気づいた時、驚いて言葉を失った。まだショックから立ち直れないまま、離宮の庭に到着してしまった。
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