第3章

第27話 兄の恋愛相談

 楽しい週末を過ごした後、普段通りの授業が俺を待ってる。今日は王子と一緒に食堂で食事を済ませた後、俺は一人で学園の庭園に散歩にやってきた。


 午後の授業前のこの時間帯は、学園でめったにない休憩時間なので、王子は俺を邪魔さないおうに昼食を終えた後教室に戻った。


 俺は通常、庭園の人のいないベンチや涼亭で小休憩したり、ぼんやりと過ごす。そして今日も同じように、慣れ親しんだベンチに戻り休憩したいと思っていた。


 しかし、そこに辿り着いた時、馴染みのある人物はすでに座っていた。


 おう、学園でまた会ったね、兄のウィルさん。


「はあ……どうしようかな」


 ウィルさんはため息をつきながら前に広がる石畳を見つめている。


 前回食堂で見た時とは違って、なんか沈んでいて悩んでいるように感じられる。様子を見てみよう。


「あら、これはお兄様じゃないの。学園でようやくお会いできましたわ」

「あっ、レイナか。悪いね、学期が始まってから挨拶していないみたいだな」

「気にしないで、お兄様は忙しいから。気にしないでくださいね」


 ウィルさんの前に歩み寄り、ちょっと挨拶してから隣に座ていた。


 レイナちゃんがブラコンかどうかはわからないけど、二人の関係は良さそうみたい。


 ここは庭園の中でも比較的隠れた場所だ。周りには大きな木や低木の緑地があり、静かで誰にも邪魔されない。こんなところなら、密談にも適しているようだね。ここなら気を使わずに話せるでしょう。


 ところで、普段は冷静で知性に満ちた印象を与えるウィルさんが、こんな表情を見せるなんて珍しい。


「あの、お兄様。何か悩みごとでもありますか? わたくしならお手伝いできるかもしれませんよ」

「っ!……あっ、うん。確かにちょっとね。ごめんなさい、レイナに心配させちゃって」

「謝ることなんてないわ。お兄様のことを気遣うのは妹としての責務だもん。さあ、思い切り話してみて」

「えっと、それは……い、言うべきかな。ちょっと恥ずかしいなあ」


 俺と同じく青い瞳は不安そうに細め、美しい指で赤い髪をいじりながら、頬が少し赤くなっていた。それにもじもじしている。


……いや、目の前の人は誰なのだ? マジで。


 ウィルさんが恋に落ちた少女のような表情を見せるなんて、今まで見たことない。このギャップがありすぎるよ。


 待って、恋愛? それって、あの子のことなのか? ああ、そうだったのか。少し分かった気がする。


「大丈夫ですわ。心に抱え込んで言わない方が辛いんじゃないかしら? さあ、言ってみて」

「まあ、確かにそうかもしれないが……。はあ、仕方ないな。他の人には言わないでくれよ」


 どうやらウィルさんはとうとう口を開いたようだ。


「じ、実は、最近、気になる女の子がいて……」


 ウィルさんはその言葉を言い終ってからますます顔を赤くした。やっぱりそうなのか。


「あら、珍しいわね。お兄様が恋に落ちるなんて」

「だ、だから、その子にどう接すればいいかわからなくて……」


 これはっ! 見れば見るほど恋に落ちた少女みたいじゃないか! ふふふっ、じゃあ少しいたずらをしてみよう。


「お兄様、その女の子は、亜麻色の長い髪に、茶色の瞳、そしてスレンダーな体型をしているのではないかしら?」

「っ!! ど、どうして知ってるんですか!!」

「ある日、学園の食堂で偶然あなたたちを見かけたのよ」

「見られたのか……!」

「それに、その子は積極的にアプローチしてきて、お兄様を無力にさせる表情を見せていたのでしょう?」

「も、もう言わないでくれ!!」


 やばい、少し王子の気持ちが理解できてしまった。人をからかうためにわざとそんな言葉を言うのは結構面白いなんて。


 ウィルさんが少し落ち着いた後、再び口を開いた。


「レイナは、先日エドウィン様と一緒にデートしたんじゃないか? だから、恋愛経験が僕より多くのレイナにいくつかのアドバイスを求めたいなんだ」


 くっ……! だ、だからそれはデートなんかなものじゃないって! ただのお出かけだよ! 友達と遊びに行っただけだって! そんな感じだけ!


「プっ! おほんおほん! ……そ、そんなことないですわ。もうお兄様ったら」


 結局からかわれることになるのか……。これが運命なのか。


「では、詳しくにその女の子がお兄様に対して何をしたのか、またはこれまでのやり取りを教えてもらえないかしら?」

「何をした、か。なんて言うか、彼女が何をしなかったを言うの方をが簡単だと思うけど」


 そんなすごいなのか? あの子。


「彼女は本当に僕が見た人の中で一番活力にあふれ、行動力のある子だ。彼女のエネルギーはいつまでも尽きれないみたい。初めて彼女と会った日からわかったんだ」

「初めて会ったの日? 以前からの知り合いだったの?」

「いいえ、彼女もレイナと同じく新入生で、学校が始まった日に初めて彼女と出会ったんだ」


 確かに、ウィルさんは以前から女性と何か噂を聞いたことなかった。なにせまだ適切な婚約者を見つけていないからだ。


「その子は……学校が始まった最初の日に僕にとても驚くべきことを言ってきたんだ。今でも頭から離れない……」

「そんなに大げさなのか? 何を言ったの?」

「えっと、その……彼女は廊下ですごく興奮して『ウィル先輩のことに超絶めっちゃ好きです。付き合っててください』とか言ってきたんだ。それから『一目惚れ』とか言って……うぅ、恥ずかしくて言えないんだ!」


 ウィルさんは話の途中で赤くなった顔を両手で隠した。うん、外見じゃ大人びているように見えるけど、恋愛のことになると抵抗できなくなるんことは確信した。


「まあ、確かに驚くべきことわね。それ以外に、彼女は何をしたの?」

「彼女は……まず言葉で、毎日『好き』や『愛してる』などと言ってくるんだ。僕のためになんでも犠牲にすることもできる、とか……」

「とても頻繁に言ってるのかしら? それって愛が安っぽくて軽々しい感じがするけど」


 でも、食堂で見た光景からすると、その子はウィルさんに真剣なんだよな。


「違う。彼女の強い気持ちを感じることができるんだ。ただ言っているだけじゃないと思う。彼女は暇な時はいつも僕の元に来て、僕が研究していることを手伝ってくれる。だけどそれだけじゃなく、積極的に僕のことを尋ねてくれるもある。さらに、彼女は自分のことを僕に楽しそうに話してくれることもよくある。最近のあった事や好きなものなど。僕のことも気にかけてくれて、普段野菜が足りないと聞いた彼女は毎日手作りのお弁当を昼に作ってくれるんだ」

「確かに。好意を持たない相手に自分の生活の一部を分かち合うことはないわよね」


 くぅ……! 羨ましい、本当に羨ましいよ!! 俺も女の子にこう積極的に接してもらいたいよ! 特にミリーちゃんに!


「しかし、それが困惑している点でもあるんだ。こんなに熱情的に僕に接してくる女の子に、どう反応すればいいのかわからない。正確に言えば、彼女の好意にどう応えればよくわからないんだ」


 くっ……。これがイケメン特有の悩みなのか。


 でも考えてみると、あの子もなかなかすごい。自分の感情に向き合い、その相手に情熱を注ぎ、報われなくても献身的に尽くすなんて。


 それに比べて自分は、いつもミリーちゃんとの関係をどう近づけるか迷い、自分の面子を気にして引っ張りだこの行動をしている。そして結果はなかなか進展しない。


 自分にちょっと嫌いになるなあ。俺は本当に同じ轍を踏みたくないのか? 本当に自分を変えたいのか? ならなんで俺は今も足踏みしているのか? その子を見ていると、一体自分は何をやっているんだろ?


 もしウィルさんがその子の好意を拒絶して、努力が水泡に帰すようなことがあったら、きっととてもとても悲しいだろうな。なぜなら、好きな人に愛されるのはどんな感じか、俺はよく知っているから。


「ではお兄様、その女の子の言動が嫌いだったりするのはありますか?」

「それはね……最近彼女はいつも僕のそばにいる感じがあるけど、嫌な感じはしないんだ。むしろ少し慣れてきて、安心感があるかな」

「それなら迷うことはないでしょうね。彼女の好意にどう応えるかは、お二人で自分たちで見つける必要はありますが、お互いのコミュニケーションをもっと増やすのをおすすめしますわ。お兄様、誰かに愛されるのはとても素晴らしいことなんですわよ」

「そうですか……」


 ウィルさんの表情が少し明るくなったように見える。


 ただ、恋愛が成功していない人からの意見にはあまり説得力はないかもしれないけど。


 しばらく考えた後、ウィルさんが目を開けて、安堵の表情で俺を見つめた。


「ありがとう、レイナ。僕は今、大体わかった。突然僕の人生に入り込んできて、それでも嫌な感じがしないんだ。こんな感覚は初めてだよ」

「そんなに礼を言わなくてもいいよ。お兄様のお手伝いができてわたくしも嬉しいんだから」

「うん、本当に助かった」


 そしてウィルさんはまだ研究があると言って去っていき、俺一人がベンチに座っていた。


 あの子、こんなに頑張っているんだ。本当に彼女の行動力に感服する。


 よし、俺も頑張らないと。心の中で決意を固めた。

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