第28話 光の少女
そう言えば、ここは本物の魔法の世界のことを忘れかけていた。
学園に入ってから、家庭教師の姉さんが責務を終わってから実際に魔法の練習をする機会はなくなった。
学園の授業は主に魔法の原理や理論が教えられているだけで、レイナちゃんは小さい頃からもう学んでいた。でも、知識を復習したりのはいいことだ。
そして、今日は授業を1か月以上経てからついに魔力の実践の時間がやってきた。
新入生たち全員は、学園の広い運動場の空き地に集まっていた。まもなく、誰もが自分の魔法を見せ、学んだ成果を示すことになる。
貴族生徒たちは事前の知識を学んでいるから、直接魔法を使うには問題がない。
しかし、ほとんど白紙の状態の平民生徒と魔法の才能があまりない低位貴族の生徒にとっては、基礎をしっかりと固めることが重要だ。特に魔力の制御方法や魔法の規範などの安全面が非常に重要だからだ。
ところで、思い返してみると、レイナちゃんも俺も家庭教師の指導のもとで、せいぜい数秒間しか続かない大きな水柱を噴き出したり、手のひらから噴水を演じたりする程度だったな……。
はあ、なんてださいんだろう。本当は自分の水属性の魔法でいろんなことができたらいいのにと期待していた。
待っている間に、周りの人たちを見回してみると、空き地にいる生徒たちは様々な表情を浮かべていた。
自信に満ちた表情で、自分のすごい魔法を早く披露したいと待ちきれない人もいる。俺みたいに自信が持てず、または恥ずかしさから出番したくない人もいる。そして、何人かは落ち着いていたり、ただ静かに座っていたりしていた。
「おや、落ち込んだ表情ですね」
「はあ……当たり前だろう」
隣にいる王子が笑って俺に話しかけた。
「レイナに今日はどんなわざを見せてくれるかちょっと期待してたんだけど、前とあまり変わらないみたいですね。ただの見せ物程度だろうね」
「そういうことなんだよ……。だから俺は今日のことにあまり期待してないのだ。みんなの前でエンターテイメントみたいな魔法をするなんて、笑われるに決まってるじゃん。あああ、考えるだけで恥ずかしいよ」
まったく、なんの公開処刑だよこれは……。
「いいなあ、王子はそんなに楽々と華麗でカッコいい魔法が使えるんなんで」
「まあ、実はそんなに楽じゃないんだけどね」
「絶対に嘘でしょ。ねえ、少しでも俺に才能を分けてくれない?」
「それはちょっと難しいかも」
レイナちゃんの記憶を通して見たけど、コイツの氷属性の魔法は本当に格好いいんだよ。それに王子は簡単そうにやってのける姿を見ると、憧れるのも当然だよね。
「じゃあ、違う角度から考えてみると少し気分が良くなるかもしれないよ。今回の機会にミリーさんの魔法を見ることができるよ」
「……!」
そうだ! なんでそれを思いつかなかったんだろう!
俺はすぐに周囲を見渡してミリーちゃんの姿を探しる。あ、いた。それにメアリさんと話している。いいなあ、隣にいるのが俺だったらいいなあ。しかもミリーちゃんも自信がないような様子。
ミリーちゃんを励まして安心した表情を見せてあげたいなあ。やっぱり笑顔が一番可愛いもんね。ああでも緊張してちょっと心配そうな表情もいいなあ、ああああ。
「それでは、魔法デモンストレーションを始めます」
先生の声が俺をミリーちゃんから引き戻った。自信がなくても最後は立ち向かわなくちゃいけないんだよな。頑張るよ俺。
最初に登場するのは王子。さすがアイツだ、登場するだけで全員から歓声が上がってる。
王子は真っすぐに空地に立ち、整った制服を着ていると威風堂々とした姿になた。さて、どんなわざを使うのかな?
俺がそんなことを考えているときに、王子は自信満々で手を伸ばし、ゆっくりと口を開けた。
「さあ、『寒冷の槍』」
穏やかに詠唱した後、いくつかの氷の矢が空中に生まれ、高速で標的に飛び込み、命中する瞬間に大量の雪が舞い上がり、ゆっくりと漂って地面に散らばり、周囲の温度も下がていた。
「うわあ~! すごい技ですねエドウィン様!」
「雪が美しい~」
「王子様、かっこいい! さすがです!」
周りの生徒たちも感嘆の声を上げていた。人気者でいるのは本当にいいなあ。まあでも、確かに華やかな技だよね。
ところで、学園の魔法の授業や家庭教師が教えてくれたことを思い出した。「魔法使いは詠唱を通じて魔法を発動する必要はない。しかし、詠唱は魔法使いの尊厳な位置を示すだけでなく、自分自身に誇りを持つ象徴でもある」ということ。
とは言え、以前の中二病の頃なら、このような技名を叫び出すことはかっこいいと感じるかもしれないが、今じゃあまりにも恥ずかしすぎて、そんなことはできないだろう。
「非常に素晴らしい魔法ですね、エドウィンくん。美しさと力が完璧に融合しているのは見事です」
「ありがとうございます」
次は俺たちのクラスメートが順番に登場し、自分の番が近づくにつれて、心臓の鼓動がますます速くなっていた。
「緊張しなくてもいいよ、レイナ。落ち着いて」
「そう簡単できるものじゃないよこれは」
特にクラスの他の人たちがすごい魔法を展示する時、自分が彼らに匹敵できるのか?
「次、レイナくん」
「あっ、はい!」
ついに俺の番だ。緊張しながら空地に歩みを進める。うわあ……たくさんの人が見ている。きっとミリーちゃんもどこかで俺を見ているだろう。果たして俺はできるのか……
「始めてください」
「はい……」
もうどうにもならない。覚悟を決めて臨むしかない。
「ふ、ふあっ!」
手を伸ばし、力を溜め終えると、空中に水色の魔法陣が現れた。そして、一本の大水柱が標的に向かって直撃し、的ごと吹き飛ばした。ただ水柱は数秒しか持続せず、すぐにバテてしまった。
はぁ……はぁ……まぁまぁ、かな。多分。
「うおお、レイナ様もすごいですね」
「そういえば、レイナ様は水属性の魔法使いだったんですね、知りませんでした」
「自分はレイナ様にそう撃ってもらえたいっす……」
周りの評価はまずまず良さそうかな? いや待って、ちょっと変な感想も混ざってきたような気がする。
「うむ。悪くないね。技の使い方は完璧だけど、持続時間のテクニックを改善する必要があります」
「わかりました! ありがとうございます!」
やっぱり高強度の魔法を使うのは今の俺にはまだちょっと厳しいのかな。どうやらもっと頑張らないと。
「いいじゃないか、この魔法」
「数秒しか持たないだけで疲れてしまったぁ」
「そうか。レイナが手抜きせずに頑張ってくれていてよかったですよ。噴水パフォーマンスをやたら大変ですね」
「正直、一瞬本当にそうしようかと思ったんだけど……」
少し自分の力を信じられるのは本当によかった。
この間、さまざまな魔法を見ながら王子とおしゃべりしていた。そして、どこかで聞いたことあるような声が俺の注意を現実に引き戻った。
「では次ぎ、ジュディくん」
「はーい~~」
亜麻色の長い髪が歩くたびに風になびいている。彼女は元気に手を振りながら空き地に向かって歩いてきた。
間違いない。それは兄のウィルさんのそばにいるあの女の子だ。ジュディという名前なのか。相変わらず陽キャだよね。いつでも元気いっぱいだ。
空き地に立ったジュディさんは他の生徒たちと同じく、魔法を使う前に準備の動きをする。
えっ、待って。なんでジュディさんは走る準備のポーズを取っているんだろう。
「はあっ!」
ジュディさんの一声と共に、標的の方向に向かって走り出した。いや、一体何をしようとしているんだ? 魔法のデモンストレーションじゃなかったけ? なんで突然走り出すんだ? 理解できない。
標的まで約5メートルの距離まで突進すると、ジュディさんの右腕は急速に生成されたいくつかの銀色の魔法陣に囲まれて、そして拳を握り締め、右手を後ろに引いた。
噓だろう……この動き! まさか!!
バンッ!!!
大きな音を出している時、かわいそうな木製の標的がジュディさんに猛烈に吹き飛ばされた。
いや、なんていうか、自分の思考も吹き飛ばされたような感じがした。
「ジャジャン! どう?」
自分のデモンストレーションにとても自信を持っているようだ。ジュディさんは喜んで右手を伸ばして周りの人に「イェー!」を示した。
全ての人々が驚きを浮かべ、表情の変化が少ない王子さえも少しびっくりしたの様子に見える。俺だけじゃなく、この非凡な魔法に皆が驚いているようだ。一体どんな魔法なのかよ??
「素晴らしい! 常識を超え、予想外の一撃を放ち、相手を驚かせました。新しい魔法の使い方ですね!」
「ありがとうございます、先生! へへっ!」
ジュディさんはまだ驚きの渦が広がる中で退場した。その後の魔法は、あの子を超えるのは難しいように感じられる。
筋肉を強化する魔法を使用したのか、もしくはこの魔法自体がボクシングの能力なのか、俺はそう思う。
もしそうなら、これは魔法少女じゃなくて、物理少女かな……?
「ところで、今回の魔法デモンストレーションはミリーさんにとっても学園にとっても特に重要が、なぜだか知ってるか?」
そんなことを考えていると、王子が突然俺に質問を投げかけた。
ふむ、両方にとって重要なものか……ミリーちゃんの重要性は、希少な光属性魔法を持っているのこと。そして学園は、生徒たちの能力を重視してる。
「ミリーちゃんの光属性魔法が学園にどれだけの価値をもたらす、ということか」
「そうです。学園は平民生徒の魔法能力が貴族生徒に匹敵することを証明したいのです。それが学園が平民生徒を受け入れる際の基本的なロジックです。さらに、光属性魔法の使い手はめったにいないから、もしミリーさんの魔法が弱すぎたり、悪い言い方をすれば、無価値だった場合、彼女は捨てられたり冷遇される可能性が非常に高いと思います」
「……!」
それは……認めたくないが、これは現実的な考慮事項だ。異世界であってもダーウィン主義から逃れることはできないみたい。
いまミリーちゃんはもう貴族生徒と言えるだとうしても、彼女の光属性魔法のおかげで貴族になったからであり、本質的には平民生徒を代表しているのだ。
「次ぎ,ミリーくん」
「は、はい!」
ついにミリーちゃんの番だ。さて、いろんな人の期待を載せたミリーちゃん、魔法の実力は一体どうでしょうか。うわ、俺まで緊張してるんだ。
呼ばれたミリーちゃんが空き地に進んでいた。目からは緊張が溢れているのがわる。頑張れ、君はできるよ。
深呼吸して目を閉じた。両手を伸ばし、光が徐々に彼女の手から放たれている。そして、ミリーちゃんは突然目を開けた。
「『煌めく光』!」
一瞬、光が眩しく輝き、視界が真っ白になった。
視力が回復すると、空き地には一列に並んだ標的が灰になっていた。
あ、これ、さっきの光が原因だったのか……?
ミリーちゃんの魔法……なのか? もしそうだったらすごすぎない?
「あ、あわわわ……ほ、本当にごめんなさいっ!!!」
自分の強力な魔法がここをめちゃくちゃにしたことに気づき、ミリーちゃんは急いで謝ってた。
「これが……光の少女なのか」
先生さえも座り込んで驚いていた。
もし先程のジュディさんのボクシングが認識を覆すもので驚いたのなら、ミリーちゃんの魔法は本人の雰囲気とは完全に逆の巨大な威力で、ここにいる生徒も教師も、無尽蔵に驚かせた。
「どうやらミリーさんのことはしばらく心配しなくても良さそうですね、レイナ。レイナ? もしもし? おーい」
口が開いたままじっと閉じられない。ミリーちゃんに対する印象が完全に更新された。驚きすぎて反応できないほどだ。
その後の魔法のデモンストレーションは、覚えている人はいませんでした。
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