第29話 一矢報い

「いやぁミリー、あの時の魔法は本当に目新しいでしたよ!」

「も、もう。からかわないでよ。レイナ」


 魔法のデモンストレーションから約2週間が経っていた。その間、俺は毎日ミリーちゃんとよくおしゃべりをした。


 しかし、この期間でなんか変になったことに気づいた。具体的には、ミリーちゃんは何かを隠しているような感じがする。


 最初は何も感じられないだが、最近はミリーちゃんの表情の変化が明らかになってきた。内心が限界になって隠し切れなくなったのかもしれない。


 最近のミリーちゃんの振る舞いは今の感じみたい。俺の前で楽しそうに笑って話しているように見えるけど、一転して顔を背ける瞬間に陰鬱な気分に陥ってしまうのだ。


 おそらく、俺の視点からは正面が見えないと思っているから、その表情をこっそり出していたんだろう。


 でも、俺はちゃんと見ていたよ。


 けど毎回真実を知りたい時――


「あのさ、ミリー、最近何かあったのか?」

「え、えっ!? な、ないよ! あはは。なんでいきなり?」

「本当に何もないの? 顔色が悪いよ」

「そ、そうなのか? いや、本当に大丈夫だよ。うん、大丈夫」

「そうか。何か悩み事があるなら話してね。いつでも付き合ってあげるから」

「は、はい。ありがとうございます、レイナ。心配させてごめんなさいね」


 こうみたいに、誤魔化すみたいな返事をしてくれた。隠してることは何も教えてくれない。ただどもりながら言い訳ばっかり。何回聞いてもそんな答えしか返ってこないんだ。


 おかしい。おかしいだよ。ミリーちゃんの後ろ姿を見送った後、その隠そうとしていた表情を思い出した。それは悲しみや恐怖、そして自尊心が傷ついたが混じった表情だった。ミリーちゃんがこんな表情をしてるのを見たことない。


 ああでも聞いても何も言えない! 何回ミリーちゃんに聞いても知りたい答えがこない! ああもう、超焦るよ! きっと何かが起こっているはずだ! でも全然わからない! なぜ教えてくれないんだ! ああ本当に助けたいけど!


 なにかそれを知る方法はあるのか? ミリーちゃんの周りの人に聞いてみれば? たとえばメアリさん? でもあの子とそんなに親しい間柄じゃないから、なかなか口を開きづらいな。


 はぁ……。本当に心配だよ。だが、ミリーちゃんは俺の助けを受け入れようとしないのは、俺に迷惑をかけるのが悪いと思っているからなのか、それとも俺たちの関係がまだミリーちゃんに頼る程度じゃないからなのか。


 やっぱり俺の努力はまだまだ足りないのかな……。



「ミリーさんは、いじめられた。何人共に」

「……はっ?」


 ついバカみたいな声をしてしまった。でも王子の真剣な表情と視線から判断すると、これは嘘じゃなさそうだ。


 いや、確かにミリーちゃんは貴族になったばっかりの平民の身分であり、貴族生徒たちから嫌われることもあるかもしれないが、俺と王子の観察では、入学後の2ヶ月間は平穏に過ごしていた。


 少なくとも、ミリーちゃんに公然と悪口を言ったり、悪いことをしたりする様子はないでした。


 だが実際にこんなことが起きたと聞くと、やはりちょっと驚いた。


 たとえ異世界でも、こんなことがあっても全然おかしくないが、全然納得できない。


 感情的に聞きたくなくても、それでも王子に尋ねなければ。


「……ミリーちゃんに何がされたのか、教えてもらえるか?」

「冷静さを保つのを約束してくれるなら話す」

「できる限り頑張る……」


 具体的には、魔法デモンストレーションの後、数人の伯爵以上の貴族令嬢たちがミリーちゃんを狙って、一人でいる時や人気のない場所でミリーちゃんを取り囲む。


 そして、彼女たちはミリーちゃんに言葉の暴力を振るい、容姿、身長、出身などの個人的な要素から、家族や友人などの身近な人まで、非常に酷いな攻撃をした。


 さらに、彼女たちはミリーちゃんに直接手を出すことはない、つまり身体的な傷害を与えるのはなかったが、ミリーちゃんの持ち物を破壊した。水筒を捨てたり、宿題を隠したりと、小学生みたいな幼稚ないじめを行った。


 なんてことだ。彼女たちは一応貴族だろう。しかも幼い頃から良い教育を受けてきた貴族だぞ。礼儀やマナーはみんな忘れたのか? 他人へのリスペクトはすべて忘れたのか? ああ!? なんでミリーちゃんはそんな苦しみを受けなければならないんだよ!? 冗談じゃない!!


 聞いているだけで不快になる。実際にこんなひどいことを経験しているミリーちゃんがどんな感情や心境を抱いているのか想像つかない。一体どうやっていままで我慢しているのだろう……


 許せない。胸に湧き上がる鼓動が、俺を歯ぎしりさせ、拳を握らせる。


「落ち着け。レイナ。私に約束してくれたよね、冷静に私の話を聞くと」

「……すまん。わかった」


 王子の冷徹で無情な声が俺を現実に引き戻った。先ほどの衝動も少しずつ冷めていきた。


 しかし、無謀にミリーちゃんのために動くのはいかないと頭ではわかっていても、心の中ではこの怒りを抑えきれない。


 王子のように絶対的な理性の振る舞うことは、恐らく一生できないだろう。この事件を平然と話せるのは、ある意味すごいな。


「その貴族令嬢たちの身分と目的は基本的に判明していだ。第二夫人派に属して人たちだ。そして、ミリーさんをいじめる目的は、彼女たちよりも強力な魔法を使える『平民』に対する不快感からだ。たとえミリーさんはもう子爵令嬢になったとしても」


 やっぱりそうなのか……人を当然のように差別するのはまるで中世ヨーロッパの異世界だ。


「しかしここにはおかしいな所がある。情報によると、第二夫人派はミリーさんの光属性魔法の巨大な力を知った後、学院にいる派閥メンバーにミリーさんを引き入れると命じたはずだ。でも彼女たちは自身の利益とは逆のことをしていたとは……」


 何か理由があるかも。だが俺はそれを知る必要はない。


 俺はただ、貴族令嬢たちが多数で人をいじめ、貴族だからと思ってやりたい放題、ミリーちゃんを傷つけたのは事実だと知っているだけだ。このようなことが起こるのを許さない。


「もし私の推測が正しいならば……」


 王子は考え込んだようにしばらく頭を垂れてつぶやきた。そして頭を上げ、俺を見つめながら陰謀を思いついたかのような表情を浮かべた。


「ねえ、レイナ。あの人たちに仕返したいと思っているかな? ミリーさんのために一矢報いがしたいんでしょうね?」


 王子の意図に一瞬で理解した。まもなく行動するの表情だ。応えとして、俺もずるい笑顔を浮かべた。


「ああ、もちろんだよ。俺はもう待ちきれないんだよ」


「まあまあ、そんなに急いではいけませんよ。言うまでもなく、私もできるだけ早く彼女たちを解決してほしいと思ってるんですよ」


「でもさ、俺の頭はよくないから、もし王子が非常に有効な方法を知っていたら、ぜひ教えていね。すぐに解決できるかもしれないよ」


「ふふ、それは素晴らしいですね。ちょうど私も助けたいと思っていますよ。あのクズどもが人としてどう生きるべきかを学び直すチャンスですよ。それに第二夫人派の勢いを抑えるいい機会でもありますね。一石二鳥と言ってもいいでしょうね」


「そっかそっか! それは良かったね! おほほほっ!」


 王子の助けがあればマジで良かった。待ってろよ。第二夫人派であろうと第二十夫人派であろうと、罰はすぐにお前らの頭上に下るんのだ。

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