第30話 チェックメイト

 王子の強力なサポートを得た後、俺は使命感に満ちて出発した。


 一秒も待たない。一刻も早くミリーちゃんをその地獄から救うのだ。これ以上引き延ばせば、ミリーちゃんはますます苦しむことになるんだろう。もしかしたら、ミリーちゃんは今彼女たちにいじめられているかも。俺の知らない間に。


 だから、ミリーちゃんの姿を早く見つけなければ。どこだ、どこにいるのか……ミリーちゃんーー!!


 広大な学園を探索してから、ついに裏庭の隠れた場所で四人の貴族女子たちに取り囲まれたミリーちゃんを見つけた。


 彼女たちはミリーちゃんとは対照的な存在。絶対的な力を持つ四人の貴族令嬢たちは背筋を伸ばし、高慢な態度で立ち、ミリーちゃんはただ無力に頭を下げ、さらに抵抗することもできず、深刻な言葉の暴力に黙って耐えるしかない。


 でも俺にとっては、ミリーちゃんこそ勇敢な巨人だ。逆に、自分の地位をアピールするだけの人は、それ以外何も持っていない。


 もうこいつらに頭を下げる必要はないんだ、ミリーちゃん。なぜなら、俺が来たから。


「そこまでわ」


 彼女たちの近くに行って声をかけた後、全員頭を回して俺を見つめていた。


 その四人は俺の登場に驚いたみたい。でもそのうちの一人がすぐに反応した。


「あ、あなたは……! レイナ・ナフィールド公爵令嬢!」


 学園内での知名度のおかげで、自己紹介すら必要ないようだ。


「……レイナ様!」


 一方、ミリーちゃんの目からは希望の輝きが見えたが、同時に顔に俺を巻き込まれたくないという微妙な表情も浮かんでいた。


 大丈夫だよ、ミリーちゃん。すぐに解決するから。


「あなたたち、貴族生徒なの? 一人の無力な生徒を四人で囲んで、一体何をしているのかしら?」


 俺は彼女たちを冷たい目で見つめながらそう言った。二人が下がっていたが、もう一人の生徒が代わりに立ち上がっていた。


「私たちは非常に重要なことをしているの。邪魔しないでくれる? これは私たちの間の問題だ。レイナ様には関係ないの」


 こいつはとても厚かましいだよね。ふん、本当に弱者らしい挑発だな。この公爵令嬢に対してよくこの言い方をするんね。心の中にこいつの顔面に一撃を浴びせたくてたまらないが、王子は俺に冷静になるよう忠告し、作戦を台無しにしないように。


「なぜわたくしに関係ないと言えるんかしら? あなたたちがこの生徒に悪口を言っているのを聞いたの。それを聞いた以上、見て見ぬふりをするわけにはいかない。他人を守る義務、それは貴族として持つべきものでしょう? それはあなたたちもよくわかっているはずだのかしら?」


 彼女たちは一瞬反論する理由が見つからない。俺が言っていることはすべて正論だから、もちろん俺を否定できない。


「か、彼女に悪いことをしたなんてないわよ! 私たちはただ……そう! この平民に教育を施しているだけなの!」

「そ、そうなの! 私たちはこの身分も知らない平民に、貴族学園で何が正しいかをしっかりと教えてあげているわよ! 平民が貴族に対してそんな傍若無人な態度を取るべきではないの。自分の持つべき階級を理解させてあげているだけなのよ」


 ちっ。なんて下手クソで欠点だらけな口実だ。やっぱりこいつらは、実力で貴族の地位を手に入れたミリーちゃんはただ一介の平民として見下している。


 しかし、これは私の思い通りになる絶好の機会だ。


「ほう? なんだって? 教育って言ったって? 冗談じゃないわよ。何かが教育のありべく態度か、わたくしが教えてあげるかしら? あなたたちが言っている教育って、卑劣な態度と悪質な行動を指すんなの?」

「い、いや、そういう意味じゃなくてーー」

「他人に人身攻撃を加えて、罵倒しまくって、幼稚ないじめ行為をするのも教育の一環なのか? それが本当に教育だというのか?」

「ち、違うんだわ。さっきの言い方がうまく伝わらなかったから、だからーー」

「なら、わたくしも今からあなたたちを罵倒して、卑下して、地底の泥のように貶めることもできるんでしょうね。だって、それも教育の一環だから、そうだわね?」

「……っ」


 自分の言ってることが道理に合わないと彼女は後ずさった。でもこいつらはまるでリレーのように次々と立ち上がった。きりがないな。


「とにかく、私たちはミリーさんに何も悪いことをしていないんだから! 冤罪をかけないでよ! 証拠はあるのかしら? ないなら勝手なこと言わないでよ!」

「あら、わたくしがいつあなたたちに『ミリー』をいじめたって指摘したことある?」

「あっ、やばっ……!」


 ふん、お前自身が言ったことだぞ。自白したってわけだぞ。言葉の芸術を学んでから俺と話すほうがいい。


「な、なんて卑劣なやり方! レイナ様は最初から私たちがやったことを知っていて、罪をつけるために来たんだろうね! 貴族は光明磊落であり、奇襲なんて最低の行為――」

「黙れ! わたくしは公爵令嬢なんですわ! この国で最高位の爵位を持っているの! 王族に次ぐ地位なんだわ! どういう態度でわたくしを扱っているの!? あなたたちの爵位にわたくしの高さはあるのかしら!? 自分の地位をよく理解してから話せわよ!」

「……くっ!」


 俺がそう言ってから言葉を失った。彼女の仲間が最初に主張したのは学園には階級に従うということだった。いま俺はこいつらの言葉に従って行動しているだけだ。もし彼女たちはそれに異を唱えるなら、先ほど言ったことを否定することになる。


「レイナ様、なぜそんなことをするのかしら? 私たちは皆貴族ですし、平民に対して一致団結すべきなのですわ。貴族としてのあなたなら理解してくれるはず。なぜ私たちがこの平民に対して行ったことに反対するのですか?」


 今回は自分の貴族の身分で俺を説得するつもりか? 残念だが、こっちも準備はできている。


「は? 理解していないのはこっちなんですわ。あなたたちはさっき、貴族の行いは光明磊落であると言ったじゃないかしら。しかし、ミリーに対して行ったことは光明磊落とは言い難いでしょうね。あなたたちの行動は貴族とは程遠いものわよ」


「くっ……!た、たとえそうだとしても、私たちは生まれながらにして貴族だ! 血筋が平民よりも上位なのは疑いようがないわ!」


「俗に言うところ、力ある者ほど責任も大きい。あなたたちが自分は平民よりも高貴であることを自覚しているなら、それはつまり権利も平民よりも大きいということわよ。先王は貴族に権利を与えたのは、平民を守り、幸福を追求するためだった。あなたたちが平民を虐げるような行為は、先王の意思に反するものわよ!  それで本当に貴族と言えるの? そして、あなたたちの認識を訂正しておくが、ミリー・スロータックは子爵令嬢だ。もはや平民ではない」


「この……! ただの平民にすぎないのに、最高位の貴族であるレイナ様がこの人をここまで擁護する理由は何なんだわよ!? ただの幸運で貴族になった平民がその強大な魔力を持っていることは、我々貴族の学生にとって大きな脅威わよ! 私たちは何も間違ったことはしていない!」


「あのさ、貴族平民貴族平民とわいわい騒がして、個人の視点に立って考えしましょう。無力で弱い少女が、あらゆる面で優位な四人の学生たちから悪質な虐待を受けたのだ。もし今日、あなた自身がいじめられて無力な状況に置かれたとしたら、悲しみや無力感、怒りを感じるでしょう」


「だ、だから彼女はただざまあだ! いじめられるのはざまあだったわよ!」


 はぁ、まだ強がっているか。このような普通の話術ではこいつらを黙らせることはできないのか。もうこの詭弁には飽き飽きするんだ。そしてこの四人は言葉を乱して反論し始めた。


 結局、やっぱりあの手段を使うか。


「おほん。ソフィア・ロッシ。イザベラ・ビアンキ。ヴァレンティナ・モロー。エミリア・フィッシャー」


 自分の名前を聞いた四人ともは言葉を失っていた。先ほどまでの強気な態度は一瞬にして消え去った。


「あなたたち、上層部の命令に逆らっていること、それで本当にいいのかしら?」


 彼女たちの反応はまるで予想外のことを聞かれたのように、呆然と立ち尽くしていた。それに冷や汗もかいている。俺は冷笑しながらこいつらを見つめた。


 ふん。チェックメイトだ。天秤はすでに俺の方に傾いている。これからは俺の番だ。

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