第31話 安心しろ

「……ななな、なんの命令かしら? な、何を言っているか全然わからないですけど」


 この四人はしばらく固まっていた後、やっと我に返って、あわててごまかそうとする。


「あら、そんなにわたくしがそれをはっきり話すがしたいの? そうかそうか」

「や、やめ——」

「あなたたち、つまらない自尊心のために上からの命令に逆らえなんて、笑っちまったわよ。自分より地位はずっと下のミリーが魔力がよっぽど強いなんて、この事実を受け入れない敗者たちが集めてミリーを取り囲んだでしょう? あ~あ、思い出すたびに思わず笑ってしまうよ」

「だ、黙ってください——」

「もし、この面白いことをあの人に知られたら、どうなるかしら? 名前は確かに……カトリーナだって? 自分の計画がこんなつまらないで些細な理由でこのクズどもによって台無しにされたと知ったら、どんな結末を迎えるのかな?」


 その人の名前を聞いた途端、加えて俺の不敵な笑みとともに見せたところ、その中の二人が恐怖心からか直接地面にひざまずいた。そして、全員の視線と身体が震えている。


 貴族以外の何もない敗者たちが、俺に対してみっともない姿をさらけ出した。ちょっと本気をだせだけでそんな格好になるなんて。


 さすが王子、やるんだな。もし俺の戦略が相手に肉体的な苦痛を与えるものなら、王子の戦略は心理的に徐々に崩壊させるもの。あまりにも冷酷だ。


「お、お願いだから! レイナ様! 絶対にカトリーナ様に私たちのことは言わないでください!」

「そ、そうですよ! お願いしますわ!」

「「どうか許してください!!」」


 そして彼女たち四人が俺に土下座し、許しを請う姿勢を取っている。おやおや、さっきの傲慢で生意気な態度はどこに行ったのか? 見苦しいね。こんなことになるなら最初からしなければよかったのに。


 もっと心の奥底まで攻撃するがしたいけど、今は王子の作戦に従って進める必要がある。


「はぁ? 冗談じゃないわよ。まだあなたたちを罵り足りないわよ。許してもらおうって? 寝言は寝て言いいなさい」

「ひっ⋯⋯!」


 こんな窮地に追い込まれると人は、抵抗するか、ひれ伏して許しを乞うか。こいつらは明らかに俺を逆らう勇気なんてないのね。だから、あの言葉はもうすぐに出てくるはず。


「わ、私たちは何でもしますから……。だから、許してください!」

「そ、そうだよレイナ様! 何でも言うことを聞きますわ!」

「反省しています! 謝罪も賠償もしますから、ただしカトリーナ様には言わないでください!」

「ごめんなさい! レイナ様! 私、間違いました! 許してください!」


 うわ……予想以上に悲惨な泣きっ面だ。でも俺は同情しない。お前らの言う通り、これは自業自得だ。哀れな敗者たち、証拠をつかまれると命乞いのように泣き叫ぶのね。第二夫人派の人はみんなこんなバカみたいなやつなのか?


 では、次は作戦の最後の一手。それは、相手の駒を自分の駒に変えていく。まさに王子らしい考え方だ。


 そして、俺はしばらく考え込んだフリをしてゆっくりと口を開いた。


「まあ~。あなたたちがミリーに対する行為に許しても、ダメなわけじゃないけど」

「……っ! ほ、本当か――」

「ただし、わたくしが提示する3つの条件を受け入れるこそ見逃してやるわ。さもなく、あのカトリーナにこのことを伝えたら、何か起こるかわからないよ」

「ひっ……!」


 ふん、自分たちは許される可能性があると聞くとまた生意気になるのね。俺がそんな甘い人間だと思うなよ。


 そして俺はこいつらに向かって一本の指を立てた。


「一、ミリーに真摯な謝罪をし、その後はミリーが自由に使役できるようにする。そしてあなたたちはそれを拒絶する権利はない」


 自分が貴族でありながら、こいつらが最も軽蔑する人物に自由に使役されることを思うと、四人は嫌悪の表情を浮かべた。だが俺は彼女たちの反応など気にせず、すぐさま次の指を立てた。


「二、もう二度と誰に対しても集団でいじめることはないことを保証する。貴族でも平民でも、男でも女でも関係ない。他の誰かに手を出すのは、このレイナに手を出すことになる。わたくしは見て見ぬふりはしない。今回のようなことが再び起きれば、あなたたちが受ける処罰は今日よりも遥かに厳しいことを保証する。今日のように幸運にもなることはないわ」


 今回の一件を経て、彼女たちは慎重になるはずだ。しかし、この四人の悪質な性格を考えれば、追加の保険措置は必要だ。同様の出来事が再び起きないようにするために。


「三、わたくしのためにあのカトリーナやその背後にある情報を秘密裏に収集する。こんな簡単なことはできるでしょう? まあ、何を心配しているかは分かる。安心しなさい。あなたたちがばれる時にあのカトリーナの報復から守る。それを保証するわ」


 そう、王子はこれを狙っている。でも、たとえバカでもわかる、これは何を意味するか。


 自分たちがカトリーナを裏切ると聞いて、四人お互いを見つめ合う、どうしたらいいか分からない。


「れ、レイナ様の意味は、私たちがスパイになることですか……?」

「あらあら、この言い方はあまりよくないわ。単純に手伝ってもらうと思って。報酬もあげるわよ」


 実は彼女たちに甘い条件を与えるつもりはなかった。でも、こいつらが妥協しないと王子の作戦が進まない。仕方なくこれをするしかなかった。


「念のため言っておく。隠し通せるならあのカトリーナを怒らせない。でもわたくしの条件を受け入れないと、両方とも怒らせるわ。さあ、賢いなあなたたちはもう答えが出ているでしょう」

「わ、わかりましたけど……でも他の条件は話し合えません——」

「話し合う? まだ自分の立場がわかっていないみたいね。全部受け入れて一時的に命を守るか、受け入れないで全滅するか。それだけの選択肢わよ」


 最後の言葉を放った後、彼女たちは騒々しく議論し始めた。


 そして、この四人は皆表情を固くしたままだったが、俺と王子の望む答えを出した。


「私たちは、レイナ様の条件を全面的に受け入れます」


 俺は抑えきれずに勝利の表情を出していた。こいつらが卑屈になる様子を見て、心がとても軽やかになった。これが拳で味わえない喜びなのか。


 そして彼女たちは俺の前でミリーちゃんに謝罪した後、あの四人を追い出した。ここにミリーちゃんと俺だけが残っている。


「ほら、ミリー。もう大丈夫よ」

「レイナ——!!」


 ミリーちゃんは急いで俺に向かって走ってきて、胸に飛び込んできて、しっかりと抱きしめた。


「うおっ! え、えっと……ミリーちゃん?」

「ありがとう……ありがとうよ、レイナ。私、怖かった……。私……彼女たちに対して何もできず、抵抗しようとしても無力で……。ただずっと耐え続けるしかなくて、もう限界だ……。本当に怖かったんだ……」


 ミリーちゃんの泣き声が胸から聞こえてきた。高い緊張感から生じる疲労感で、ミリーちゃんの筋肉が緩んで、俺の腕の中に倒れ込んだ。


 俺もミリーちゃんを抱きしめて、そっと彼女の淡いピンクの髪を軽く撫でる。


 大変だったな、ミリーちゃん。一人でよくこんなに耐えてきたんだ。君は本当に強くて偉いんだよ。


 思い切り感情をぶつけていいんだよ。もう少し俺に頼って、一人で全てを抱え込まないで。


「安心しろ、ミリーちゃん。俺が守ってやるから」


 もうミリーちゃんが悲しそうに泣く顔を見たくない。誰にもミリーちゃんに傷つけさせない。その決意を心の中で固めた。

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