第37話 諦めない

 カトリーナの声を聞くだけで、不快感が押し寄せてきた。またこの得意そうな笑顔でそんなことを言ってくるのは本当に不愉快で吐き気がする。


 エドウィン王子は深呼吸して、心の怒りを抑え、冷静を持つで口を開いた。


「いや、なんていうか、見事ですね。少し取り扱いにくいですな」

「あらあら~わたくしをそう褒めてくれるなんて、光栄ですわ~エドウィン様」


 やはり、今回の誘拐事件の主犯はカトリーナに違いない。第二夫人派の重要人物として、カトリーナはきっと関与してる。


 上から降りてきたカトリーナに向かって、暗部たちは皆驚いた。その時、王子はこっそりと情報共有の魔法を使って彼らに動かないように伝えてきた。


 相手はカトリーナだ。油断はできない。


「カトリーナさん、気になることがありますが、なぜ今日はここまでしてしまうのですか?」

「あらあら。いつも言っているじゃないですか、エドウィン様も分かっているはず。わたくしは諦めない、て」


 これまで何度も聞いた言葉を、再びカトリーナの口から聞くと、王子嫌悪感が芽生えた。


 どんなに拒絶されても消極的にならない。振り切られても諦めない。カトリーナはそういう人なのだ。希望を持つ、努力をし続け、決して諦めない。その人格はまるで小説の主人公のようだ。


 エドウィン王子が明らかに示す嫌悪感や蔑視の態度を見ても、カトリーナは落胆することもなく、むしろ次回は必ず成功するわっという様子だった。マジで強大な神経と心臓を持ってる。


 しかし、そのような人物がエドウィン王子と対立しているのだ。王子にとって、彼女は手強い相手だ。


 明確に拒絶の意思を示しているにも関わらず、彼女はまるで拒絶の言葉を聞いていないかのように、毎回も優雅な淑女のような態度で近づいてくる。少し非現実的で恐ろしいだった。


 普通なら、嫌われたら手を放すべきだよね。だから王子にとって、カトリーナは理屈をわきまえない人。


 カトリーナはこんな信条を信じているかのよう。何度失敗しても、努力し続ければ必ず成功すると。多分カトリーナはこの信念を持っていつも成功を収めてきたのだろう。


 カトリーナは振り払われても片思いを貫くキャラだ。美辞麗句で言えば不屈の精神だが、悪く言えば度が過ぎた執着心。


 だから、エドウィン王子はカトリーナと出会うたびに、彼女の態度にイライラする。


 たとえ個人の気性がどれだけ良くても、忍耐力があっても、嫌いな人に長期間で迷惑をかけると、不快感を感じるものだ。ましてや、どんな手を使ってもエドウィン王子の心を掴みたいと必死なカトリーナの場合はなおさらだ。


 カトリーナ自身が王子に嫌われていることに気づいていないのかもしれない。


 エドウィン王子にとってカトリーナはただ自己中心の存在で、自分が非常に嫌悪感や厭気を感じていることに彼女は全く気づいていない。


 カトリーナは自分自身しか気にかけず、自分の意思に全世界が従うべきだと思ってう。そうでなければカトリーナは従わない人々に執拗に絡みつき、我慢の限界に追い込んた。


 結局、カトリーナの周りに集ったのはその魅力に惹かれて性格を好む人ばっかり。でも一方、カトリーナから遠ざかるのは、根本的から彼女を嫌っている人だ。


(ここで決断をしないと)


「諦めない、か。その執念を正しい場所に向ければ、どれほど素晴らしいことでしょうね」

「あら、わたくしはずっと正しい場所に向けてきたと思いますわ」


 やっぱりだめなのか。理屈が通じないんだこの人。


「もしミリーさんを第二夫人派に引き入れてたら、これで実力を見せて私があなたへの見方を変えると思ったら、大間違いですよ」


 カトリーナは痛いところを突かれたかのように目を見開いた。


「それとも、私を何度も拒否されたから腹を立てている、私に報復がしたいのですか? なにせ、カトリーナさんの一言で何千人、何百人もが従うことができることをよく知っているですよね」

「まあ、その点もあるわ。それに、少なからずエドウィン様の注意を引くことができるんですから、悪くないでしょう?」


 カトリーナの言葉によって、エドウィン王子は再び彼女の頭がどれほど非常識なのか気づかされた。論理に合わないことを言っているばっかり。


「カトリーナさん、あなたの行動はもうすでに限界を超えた。ミリーさんは無実だ。他人の安否を利用して目的を達成することによって、他人にどのような影響を与えるか真剣に考えたことはありますか? それとも自分が喜ぶことさえあれば他人の意思を無視してもいいと思っているのですか?」

「何を言ってるの? 自慢じゃないけど、わたくしは周囲の空気を読むのが得意なんだから。他人の意思を無視するなんてことは一度もないわ」


 もう無理だ。普通の言葉でカトリーナとコミュニケーションを取られない。それにカトリーナのペースに乗ったら、気づかないうちに罠にも引っかかってしまうかもしれない。


 どうすれば。


(もし、レイナだったら、どうするんだ?)


 レイナは非常に素直で無神経な人。好きなものがあれば何もかも全力で自分を捧げられて、嫌いなものに対しては容赦なく嫌悪を表明する。


(そう、レイナだったらこう言うでしょう)


「ふん、もし私の意思は、カトリーナさんがこれからずっと私から離れることだと言ったら、それを顧慮したことがありますか?」


 カトリーナはエドウィン王子らしくない言葉を口にしたことに一瞬言葉を失った。それに対して王子は追い討ちをかける。


「真実の愛は、強制や他人への傷害をことではない。もしカトリーナさんは本当に私を大切に思っているのなら、そのような方法では私の心を掴むことができないと認識して方がいいと思いますよ。どれだけ頑張っても結果は同じだ」

「なんでだ……わたくしは一体何をしたの? どうしてエドウィン様はわたくしをそんなに嫌いになるの? 理由は何なの?」

「感情は両方の意思が必要だ。カトリーナさんは自分のことしか考えず、何度も私が明確に表明した意思を無視するような執拗な方法では、遠ざけるばかりだ。それに気づかないのですか?」


 カトリーナの驚きと失望に満ちた表情を見ても、エドウィン王子の心には一切の同情がない。真実を言うだけで、この一方的な苦しいな絡みを終わらせるしかない。


「エドウィン様は理解してない……。エドウィン様の愛を得るために、わたくしは一体何を犠牲にしてきたか」

「さっきも言ってたはず。真実の愛はお互いを思いやり、相手をリスペクトすることが必要だ。強制するのではない。カトリーナさん、君のやり方が私たちの関係をここまで追い込んだの原因だと考えたことはありますか?」

「う、うるさいわ……」

「私はカトリーナの感情に応えることはできませんし、君の行動をもう容認することもできない。私のそばから去り、もう迷惑をかけないでください」

「うるさいわよぉ!!!」


 我慢できなくなったカトリーナは咆哮を上げて、感情が失控しつつがある。でも、エドウィン王子は冷酷に彼女を見つめ続けた。


「それならば、戦闘で自分の覚悟を証明してやるわ! この娘を取り戻すたいならばかかって来い!!」

「言ったでしょう、覚悟不足の問題ではないと。でもまあ、カトリーナさんがそれを口にした以上、聞かなかったことにはできない」


 やはりカトリーナとの戦闘は避けられないのか。人数の優位を持っていたが、狭い場所では部隊戦は適していない。


「おっと。自分の部下を動かすのはやめておいた方がいいですわ、エドウィン様。知りませんかね? わたくしたちが話している間に、すでにあなたたちに逆包囲されているんですわ。一歩踏み出せたいならば、後ろから矢が頭を貫く覚悟をしなさい」

「っ!?」


 くそっ、また油断してしまった。今日一日で犯したミスは十分だ。今はまたミスを……


(こいつ……努力とはこういうことか。自分を被動の状況に陥れるために必死に努力していると)


 カトリーナが相変わらず狡猾であることと、自分が窮地に陥っているエドウィン王子は憤りを感じながらも、それを思わず感嘆している。


「でもまあ、代わりにわたくしの部下にも手出しはさせませんわ。どうでしょう? エドウィン様。貴族らしいな決闘をしませんか?」


 この状況はまさに進退窮まるものだ。そう言えば、カトリーナが自分をここまで追い詰めるなんて、これが初めてかも。


 エドウィン王子は今日何度目かの苦笑を浮かべ、無念さを感じながらも、首を振った。


「しょうがないですね。ふん、上等じゃないか」


 すると、王子は輝く王家の剣を腰から抜き出し、刃がきらめいた。


「カトリーナさん、今日ここで全てを終わらせにしましょう」


 王子の目は手に持つ剣の刃と同じくらい鋭くなった。


 カトレーナも剣を上げて、冷笑しながらそう言った。


「ふふん、いいわ。わたくしも遠慮しませんわよ。エドウィン様、よく見ていなさい! このわたくしがエドウィン様を打ち倒す時は、完全にわたくしに従う時なんだわ!」


 戦闘の構えを整えた二人は、狭い小道で対峙する。

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