第10話 ナフィールド公爵家


 ……疲れてるから12時間ほど眠ってしまった。


 シェラさんはこの間にずっと俺を起こしたいだが、俺は全く聞こえずに寝続けていたみたいだな。


「はぁ、やっと起きましたね、お嬢様。おはようございます」

「うぅ……」


 十分な休憩がとれたとはいえ、寝すぎると起きた時に体がだるくなってしまったな。加えて俺は朝弱いから、この状況は更に悪化している。


 王子と朝食をした後そろそろ家に戻るんだ。アイツはまた変なことを言っていたが、俺はまだボーッとしていたので、アイツの言葉に注意を払わず適当に返答していた。


「レイナ嬢、王宮に来てくれてありがとう。お気をつけて帰ってくださいね」

「ええ。こちらこそおもてなしいただきありがとうございましたわ。それではまた今度ですわ」


 王子は玄関で俺たちに別れを告げた。アイツが仮面モードに戻ったのがわかった。どうやら俺との約束を守ってくれるんだよな。


 帰りは王家の馬車で、座席の快適さは公爵家の馬車とあまり変わらないように感じだな。上流社会って基本的に同じようなものか。


 でもこの馬車はまだ一番重要なサスペンションがつけていないだ……ここに転生した機械オタクがあれば、早くそんな便利なものを発明してくれよ。


「はぁ、すっげー揺れてるだよな……」

「そうですわね」


 隣に座っているシェラさんはそう言った。


 そう言えば、昨日はシェラさんに会うことができず、王宮にいる最初の時以外は一言も話していなかった。


 ……あっ! やっべ! レイナちゃんモードに戻るのを忘れていた!


「えっと......! それは! その……」

「分かっていますわよ、お嬢様」


 分かっている……なにを? もしかして……! もうシェラさんに俺のことがバレてしまったのか!?


「これが、お嬢様の最も自然な一面なんですね。ついに私にこの一面が見れるですわ」


 そう言ったシェラさんは嬉しそうな笑顔をした。


「最も自然な、一面?」

「そうでうよ。以前のお嬢様は、完璧な公爵令嬢の姿を周りの人に見せるが、なんかそんな背中は悲しくに見えますわ」


 悲しく……ああ、レイナちゃんの記憶と感情を知っているから、シェラさんが何を言っているのか理解できるんだ。


 レイナちゃんは王子が自分の婚約者であるという事実にとてすごく喜んでいたが、彼女は同時に自分がこんなに「完璧」な王子様に相応しい存在じゃないかっと不安に思っていたようだな。


 それに、レイナちゃんは小さい頃から自信がないみたい。その原因は学習効率が低かったり、何をやってもうまくいかなかったりしたことかもしれない。


 とは言え、レイナちゃんは諦めずに最後まで努力し続けたことで、完璧なお嬢様になることができた。彼女は本当に努力家なんだよな。


「だから、お嬢様は自分自身の束縛を解き放ち、本来の自分を見せてくれることは、本当に素晴らしいことですわ」


 そして、シェラさんは俺に優しい笑顔をした。


 ああ……! シェラさん! なんとレイナちゃんのことを思ってるんだ! さすが専属メイドだ! もう感動した!


 見ろよ王子! これが本当の優しさなんだよ! お前のフリをした優しさと全然違うんだ!


 でも、シェラさんは俺今の姿がレイナちゃんの今まで隠していた一面だと誤解していたようだな。


 シェラさんの優しさを利用することは良心が痛いですが、今はシェラさんに話す良いタイミングじゃない。その適切な時が来たら、彼女に全てを明けるから。


「シェラさん……これから私も、シェラさんに本当の一面、見せてもいいのか?」

「もちろんいいですわ、お嬢様。 私はいつもお嬢様を応援していますから」

「そっか。ありがとう、シェラさん」


 俺はそう言っていながらシェラさんの肩に頭をかけた。



 馬車はゆっくりと公爵の屋敷に帰ってきた。俺は降りた瞬間に見上げたところ、やっぱリアルじゃないほど大きすぎるだと思う。


 家に入った瞬間、思いがけない人物が俺たちを出迎えた。


「やあ、レイナ、お帰りなさい」

「……お兄様、ただいまですわ」


 レイナちゃんの兄である、ウィル・ナフィールドは、公爵家の後継者として非常に有望な存在で優秀的な人物だ。


 赤くて短い髪は非常に清楚で、青宝石のような目は輝いている。


 もし彼はキャラクタ属性が持っているとしたら、常に誠実な微笑みをして、優しいお兄さん属性である、腹黒王子とは対照的にと思う。


 王子がウィルさんのことを1パーセントでも学べるといいだよな。


 俺の知る限り、彼は現在、俺がすぐに入学する予定の王立学院の2年生で、もうすぐ3年生になるんだ。学院に入学した後、彼に面倒を見てもらえると本当に助かったな。


 レイナちゃんになってから、彼に直接会った回数はあまり多くない。今は夏休みだが、彼は非常に優秀だから学院に戻って研究などをすることが多いようなんだ。


「王宮は楽しかったか?」

「ええ、とでも楽しいですわ」


 レイナちゃんの家族に会う際には、元の姿を演じることが必要だ。ちょっど疲れるが仕方ないな。


「まあ~レイナ~エドウィン殿下との関係はどこまで進んでいたんのでしょうか?」

「そんなの決まっているじゃないか、あなた。うちの娘は最強だから」

「あら、あなた、もちろんそうですわ〜」


 夫婦漫才をしているのは、ナフィールド公爵夫妻、つまりレイナちゃんのお父さんとお母さんだ。


 この二人はお互いの手を取り合い、軽快な足取りで踊っているでした。


 うん……公爵家で過ごした日々を通じて、この二人はバカ親であることがほぼ確定された。


 なんていうか……公爵家全員の属性が非常に鮮明で、俺も加えた場合はなおさらそうだ。


「レイナはきっともう既にエドウィン殿下を魅了されるなんですよ」

「そうですわよ~あなた~」

「あ、あはは……そんなことないですわ。お父様、お母様」


 ……隣にいる本人である俺はそんなもの聞いたらすっごい恥ずかしいなんだろ! しかし、夫婦漫才はまだ止まる気配がないみたいだ。


 まあでも、それはあまり悪くないな。毎日子供たちを叱る親よりも、公爵夫妻の方がいいと思う。


 叱咤される環境で育つと、子供たちは自信を失うだけでなく、自己肯定感も低下することだろう。そのため、褒めることは非常に重要だ。だからこそ、ウィルさんがいい性格を持っているのも納得できる。


 この家族の中で成長しているレイナちゃんはすごく幸せなんだな。


 そう考えると、俺は思わず温かい笑みが浮かんでしまう。

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