第09話 約束する
「あ、紅茶はもう冷めちゃたんですね」
そういえば、話ばかりしていたから、目の前にカップが置かれているの気づかなかったんだ。
はあ、たった半時間であれだけたくさんのことが起こったなんて、まだ実感がないよな。
たくさん話していて喉が渇いてきたので、冷めていた紅茶を飲んでしまった。
「ん! これうまいね!」
甘くて香り高いお茶の味わい、喉越し感、口の中に残る余韻……きっととても良質な茶葉を使用しているに違いない。さすが王家だ。
「レイナくんが気に入ってるなら何よりです」
そう言った王子は、いつもと少し異なる雰囲気を漂わせる笑顔を浮かべた。
それにしても、今は少し休憩したい気持ちがあるだけど、話しはまだ終わっていない。
「ちょっと話しを戻ろうか。さっきお前は俺を脅すのが本心ではないなら、一体どういうこと? お前が言った通り、本当に俺と仲良しだと思っているのか? はっきり言いなさいよ」
俺の質問に対して、王子は少し躊躇う表情を見せた。
「どうした? 早く言えよ」
腹黒い人って、こんなにも真実を明かしたがらないのかよ?
「それはですね……大した理由ではないが、私はただ、レイナくんは面白いからちょっとイタズラがしたいです」
……はっ?
なんだその理由は!? イタズラがしたいだけ!? 俺は面白いから、だと?! 何なんだそれは?!
今まで他の人から自分は面白いと評価されたことがない……けどそんな理由でイタズラがしたいなんて、どう考えても理解できない……
「これは一体どういうことだ?! さっさとちゃんと説明しろ!」
どうせコイツはろくな考えを持っていないだろうけど、一応説明を聞いてみる。
「つまり、今のレイナくんはからかう価値があるという意味ですよ」
「なにも説明していないじゃない?!」
「あるですよ。以前のレイナ嬢は全く興味を引かなかったということですよ」
まあ……確かに、以前のレイナちゃんは王子にからかわれた時に、よくある少女らしいリアクションをしていたな。王子の言葉に喜びつつも、返答に困って恥ずかしたりするような感情、みたいなものだな。
この腹黒王子にとっては、あまりにも普通すぎる反応はつまらないと感じたのかも。
そして、俺は男から愛を示されることに全然慣れていないから、大騒ぎする反応をしているだ……そのギャップは王子にとって面白いと感じるのかもしれないだろう。
「でも今のレイナくんは、あの日からすべての言動や雰囲気が外見と完全に反対であるので、本当に面白いですよね」
……はぁ、すべて俺が転生初日で自爆してしまったせいなのだ。
でもしょうがないでしょう? あの日レイナちゃんに転生したばかりで、未知なことに驚きだから頭が混乱しているんだよ。そして、あの時は王子から遠ざかりたいと思っていたから、そのような言葉を口にした……
ああああ! 俺のバカぁぁ!!
このような展開になるなんて全然思っていなかった……後悔の程度がますます高まっているんだ。
ああだめだ、胃が痛い……
「どうしたの、レイナくん? 体調が悪いですか? ずっとお腹を抱えて」
「そうだよ! お前のせいだから!」
「私のせい? なぜかな?」
「しかも自覚がない!?」
まあでも、このように素直に言えるほうがいいと思う。もうコイツの考えを推測する必要はないし、そのせいで悩むこともなくなりますからな。
この機会でコイツにしっかりと伝えよう。
「あのさ、王子。ちゃんと話したいことがある。お前の腹黒いな性格を改めてのか? 少なくとも俺の前でそのようなことをやめていただけるとありがたいだ。俺にとってそれは本当に不快なことなんだ」
王子に伝えた後すぐに性格が改善されることを期待しているわけじゃないし、コイツが本当に変わるかどうかも分からないが、俺自身の考えを伝えことが大事だ。
なにせ、人と人との関係において最も重要なのはコミュニケーションだな。
「……レイナくん、実は私はずっと聞きたかったのですが、ハラグロ、っとは何ですか? レイナくんはいつも私にハラグロい、と言っていたが、その意味が分かりません」
王子の口調や表情から判断すると、本当に知らないようだ……
そこから説明しなければならないか!? ああ、頭がますます痛くなるんだ……
「いいかい! 腹黒いとは、本心とは違うことを言って、心に何か悪だくみを持っている、みたいな意味で、お前とそっくりなんだよ! レイナちゃんに対して口ではいいことを言っていても、心の中では悪だくみをしているだよね! レイナちゃんに悪いことがしたいでしょう!?」
「いや前半は当たるだが、後半は間違ってると思いますけど……」
「でも俺からはお前はそういう人のように見えるし、他に適切な形容詞を見つからないだから」
アイツが本当にレイナちゃんを悪いことをするつもりはないかもしれないが、愛情を求めるレイナちゃんに対して無関心だったことは、もう悪いことをしているだ。
「できるだけ俺に素直に話しをしろう。何かあれば直接言ってくれよ。お前の考えを読み取るのは精神的にも肉体的にも疲れてしまうからもうしたくないよ」
「……そうですか。知らないうちににレイナくんに迷惑をかけているのは本当にごめんなさい」
そして王子は再び謝った。
……コイツが謝るのは珍しいな。しかもこんなにも謙虚な態度を取るなんて、今日のアイツは一体どうしたのか?
「まあ、自発的じゃなかったが、これで俺たちはお互いの秘密を知っているんだ。二人きりの時は何を話しても構わないが、外でこんなことを話すのは絶対に禁止だ。約束するよ?」
「うん。約束します」
そう言った俺たちは紅茶を一気に飲んだ。
話している間に気づかぬうちに夕食の時間になってしまったね。王宮内での夕食は公爵家よりもっと贅沢だ。
王子は俺にからかうがしたいからまたそのキモいな言葉を言っているのはもう知っているから、アイツを無視して美味しい食べ物を楽しんでいる。
◇
はあ……本当に長い一日だった。
王子は「一緒に寝ようか」という変態的な発言をするかと思っていたが、「おやすみなさい」と言ってから自分の部屋に帰ってきた。
そして俺は今、王宮内の寝室にいる。
すごく疲れていた俺はベッドに横たわっていた。部屋の照明はすでに消されていたが、窓のカーテンから月光が少し差し込んでいた。
いやぁ、今日はマジで疲れたな。身も心も、疲れ果てた感じがした。目を閉じた瞬間に眠りにつけそうと思う。
でもまあ、俺と王子の色々なやり取りを振り返っても、まだ実感がないと感じるんだな。
半日の間に、王子が何を企んでいるのか分からないことや、どうしてアイツが日本語を理解できるのかという疑問、秘密が漏らされることを恐れる不安、アイツから秘密を自ら明かされる衝撃、そして誤解が解けた後の安堵。気持ちの変化はまるでジェットコースターに乗っているような感じがする。
とにかく、俺と王子はお互いが受け入れられる付き合い方が見つけたな。これからしっかりと説明すれば、アイツはきっと俺は女の子だけが好きなことを理解してくれるでしょう。
とりあえず、今はすっげー疲れている。お休みなさい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます