第02話 優しくで完璧の腹黒王子

 悲報、俺は男と結婚しなければならない運命だった。


 レイナ・ナフィールド公爵令嬢は俺……いや、この身体の本来の持ち主であるだ。


 何らかの理由で、レイナちゃんの魂は突然消え去り、俺の魂はレイナちゃんの体に入り込んでしまったのだ。


 今日はこの世界に来て二日目。俺はレイナちゃんの記憶を読むことができ、彼女が物事に抱く感情も理解できる。ただし、この身体の支配権は俺だ。


 つまり転生言というよりも、憑依の方が正しい。


 まだ分からないことは、ここは現実世界のヨーロッパのが、それとも地球と異りな中世期みたいな異世界か。


 もしここは17世紀から19世紀頃のヨーロッパならば、ナポレオンやフリードリヒ大王本物を見ることができるかもしれないな。考えただけで興奮する。


 神聖ローマ帝国にはさまざまな国が存在する。俺はその中の一つの貴族かも。


 もちろん、それはただの可能性に過ぎない。ここも異世界かもしれない。全ての可能性を排除するのはいけない。


 魔法などの力を使えたらいいなあ。


 それにしでも、本当によくわからない状況だな……今でも現実を受け入れられないだ。


 まあでも、一番受け入れられないのは……あの王子だ。


 ◇


 話は昨日に戻る。


 俺がレイナちゃんになった初日、銀髪のメイド、シェラさんに美しいドレスに着替えさせられた。


 男である俺は、スカートなどの女装は全然着たことないから……


 まだレイナちゃんの体に慣れておらず、あわただしい気持ちでエドウィン王子――レイナちゃんの婚約者――を迎えに行った。


 俺はレイナちゃんの親父とともに屋敷の門口に立っていた。当時、脳は過負荷状態に陥っており、思考は停止寸前だった。


 遠くから馬車の音が聞こえる。しかし、頭の中にあったのはただ一つの念。


 男と結婚したくない……男と結婚したくない……男と結婚したくない……。


 やがて、馬車が目の前で止まった。そして馬車の扉がゆっくりと開けられ、その瞬間、扉の向こうから聖なる光が差し込んでくるのを見たかのように感じた。視界は徐々にゆっくりと色あせていった。


 なぜかというと……眩しさがあまりにも強烈だったからだ! もう目がくらんでしまいそう!!


 太陽神アポロン再臨のような、金色の髪と朝日のような光を目に灌み込んでくるエドウィン殿下。彼の少し成熟した顔には優しい笑みが浮かび、青い氷のような瞳は太陽の光を反射したかのように輝いている。


 くっ、認めたくないが、男としてもコイツはイケメンすぎるんだ! なんでこんな超勝ち組が世界に存在するのか! 悔し——! 前世の俺は普通の会社員で、ガキたちはみな俺をおじさんと呼んでいた! まあ、悔しでもしょうがない。王子だから。


 その時、レイナちゃん元の記憶と感情は突然に頭に押し寄せ、頭がクラクラしてしまった。


「殿、殿下……」


 頭が混乱しすぎて、話す言葉の調子が少し奇妙になってしまった。でも、レイナちゃんの感情が分かっているけど、俺自身は王子への気持ちには影響されていない。


 正直、完璧すぎるで高評価を得て、周りの人たちを虜にする男に対して、羨ましさと嫉妬心が交錯する。


 レイナちゃんはすっかり王子に夢中になったね。王子はと何度も会っていて、そして王子への感情は毎回濃くなっている。


 レイナちゃんの記憶によると、王子はいつも営業用の優しい笑顔でレイナちゃんを見ている。社会に出て人々と接している俺にとって、本当の笑顔と偽物の笑顔を見分けるのは簡単だ。そして、王子の笑顔は偽物の方だ。


 可哀想なレイナちゃん。本当に。もし俺が転生していないと、多分このまま一生王子に偽りの優しさに騙されるだろう。


 婚約をしたのは数年前なので、自分自身で体験していないのは幸いだ。もしこんな裏面がある人、特に男との結婚を突然告げられたら、俺はその場で気絶してしまうだろう。


「レイナ嬢、大丈夫ですか? 顔色が悪いですよ」


 エドウィン王子の声で現実に戻され、アイツはその完璧な優しさと思いやりで偽物の笑顔を見せる。偽物を演じるのはやめてくれない? 疲れないのか? レイナちゃんの記憶を見る限り、お前はレイナちゃんに対する感情は全くないことがもう分かってるんだ。


「心配いりません、大丈夫ですわ……いつもの通りですか? 殿下」


 いつもの通りとは、王子とレイナちゃん二人きりで公爵の屋敷で過ごすこと。何か特別なことはなく、単にお互いの感情を深めるだけだ。


「そうですよ、レイナ嬢」


……あのさ、もうあのまぶしい光を出すのをやめてくれるか?


 王子はレイナちゃんに対して淑女に対する心配りを表現しながら、話をしながら表面上の演技をしているだけで、深い話はしたことがない。


 それにしても、レイナちゃんはこんな表面的な演技で王子に魅了されてしまっているなんて。意外と抵抗力低いかも。


 なぜ王子はレイナちゃんの好感度を高めるために時間を浪費してまで演技をするのか、唯一思いつくのは国の利益だろう。王室は貴族たちとの関係を保つことで国を統治するためだから。


 いま俺たち二人は公爵邸宅の客室にる。改めてエドウィン王子を見ると、またあの営業用スマイルと目つきか。レイナちゃんに興味がないならさっさと帰れよ。


「レイナ嬢、今日も美しいですね」


 俺にそういう気持ち悪い言葉は言わないでほしい。聞いているだけで鳥肌が立つだ。


 俺が反応しないのを見て、王子は優しく尋ねてきた。


「どうしたの? 具合でも悪いんですか?」


 彼の瞳孔を通して熱い視線の裏にある感情が——冷たい、シベリアや南極よりも冷たい——が見える。返事を促すような態度を見せているが、レイナちゃんに興味がないということが分かる。


 ふん、王子様、俺はおとなしく言うことを聞いている人ではない。その偽りの表情がどの程度維持されるのか試してみる価値はある。


 俺はマイペースで本棚から興味がある本を取り出し、そして客室は静けている。


「レイナ嬢、正直、今日のあなたは少し変です」

「ん? 例えば?」

「言動とか、それと雰囲気がいつもと違う」

「そうか? 確かにそうかもしれない」


 俺の突飛な返答に、王子の完璧な笑顔は徐々崩れてしまう。


「ねえ、王子。この世界には王族に対する不敬罪ってものがあるか?」

「そうか。なるほどですね。レイナ嬢はきっと何かな悪い事でも遭遇したので気分が悪くなっていたんですね。もし私に八つ当たりしたいなら付き合いますよ。責めることはありませんよ」


 王子にもうこれ以上そのような態度が欲しくないことを伝えなくては。この偽りの会話を続けるのは本当に疲れた。


 どうする、言えるか? 俺実はレイナちゃんじゃなくて男だ、と言ったらバカにされるかもしれない。


 まあ、いいか。バカにあつかいされるでもなんでもいい。とりあえずアイツに俺の状況を理解したら、ショックでもう二度と俺と話たり会えたくないだろう。


「なあ、エドウィン王子。俺は男だ。見かけは女だけど、実は男なんだ。男から愛の告白を貰うのは本当に嫌だし、正直気持ち悪い。俺は女の子が好きで、女の子しか好きじゃない。これだけははっきり言っておかないと」


 ああ、転生初日で自爆した。


 その言葉を聞いた王子は完璧な笑顔を一直線になった。


「分かったらもう演じなくていい。お前も俺も疲れるだろう。もしお前は本当に俺と仲良くなりたいなら、友達か相棒としては構わないが、恋愛感情については一切ダメだ。なぜなら俺は男だ」


 とはいえ、俺の言ったことを信じてくれるだろうか? レイナちゃんが実は男だということ自体がこの世界の人にとって信じられないだろう。


「これは嘘じゃない。俺は男と恋愛したくない。もう無駄な心配をしないでくれ、王子」


 王子の眉毛が少し動いたが、偽りの熱い目で俺を見つめ続け、口元には微かな笑みが浮かんでいた。


「レイナ嬢、あなたの想像力は本当に豊かですね」

「そう思うならどうぞ、俺は構わない。お前とは友人になる程度で十分だ」


 俺の口調はつい前世に戻った。もちろん、レイナちゃんの記憶を持っているから、彼女の話し方や行動の仕方も知っているし、ちょっと練習すれば切り替えられるだろう。


 しかし、やっぱり自分らしくいるのが一番心地いい。おそらく、今後も大半の時間はこのスタイルを維持することになるだろう。


 正直、王子に自爆した後、頭がスッキリした気分だ。レイナちゃんをフリで王子に対処する方法を考える必要がなくなったからだ。


 自分の秘密を明かすの結果や、もし王子が他の人に話した場合のことも考えたが、レイナちゃんが男であることは他の人にとって非常に荒唐無稽なことだろう。多分誰も信じていない。だから大丈夫だと思う。


 その後、俺は客間の棚から取り出してこの国の歴史に関する本を読んでいた。ちょうどこの世界が異世界かどうか確認してみたいと思っていたところだ。


 王子は静かに俺を邪魔せずにただそこに座っている。驚きすぎるたのか、それとも仮面を外したのか?


 まあ、俺もアイツに興味がないし、気にしなくでいい。




 ーーこの時点で俺はまだ知らなかった。エドウィン王子は俺が本を読んでいるのを興味深くで見ている。まるで、獲物を見つけたように俺をじ〜〜っと見つめている。


「ふ〜ん、これはちょっと面白そう、だね」


 もちろん、俺はその小声で呟いた腹黒な言葉も聞こえなかった。

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