第52話 未来が、変わった?
正直、乙女ゲームのバッドエンドやグッドエンドとかがどんなもんか、まだよく分かってない。ジュディさんの説明を聞いても、半分くらいは理解できてない。
ゲームのハッピーエンドが悪役令嬢レイナにとってはバッドエンドだとか、ピンとこないんだ。
「えっ? どういうこと? ゲームのレイナって死ぬんじゃないの? 今は死ぬのか死なないのか、どっちなの?」
「まずはあたしの説明を聞いて。ゲームのストーリーでは、悪役令嬢レイナはずっと冷酷非情な悪役で、ミリーに嫉妬と憎しみを抱き、他の和解の可能性を考えたことがなかったの。でも、おにーちゃんの今の行動と態度は、ゲームのレイナとは大きく違うでしょ?」
「それって……転生のせいなのか?」
「そうだわ。おにーちゃんの行動は、この世界の人々やストーリーのイベントに影響を与えた、いや、変えたんだよ。例えば、一番重要な二つのこと。エドウィン王子からレイナに対する態度と、レイナからヒロインのミリーに対する態度」
確かにそうだ……この二点だけでも、ジュディさんが言ったストーリーとはかなり違う。
「ヒロインに愛意を示し続けるだけで、悪役令嬢レイナがやらないことなんだよね。ふふふ」
ジュディさんはそう言いながら、意味ありげにクスクス笑った。俺の頬は一気に真っ赤になった。
「そ、そんなに明らかなのか……?」
「そうだよ~! 今、学園中に噂が広まってるんだから! うふふ。悪役令嬢がヒロインを追いかけ回すなんて、本当に笑っちゃうよね! うけるうける! ミリーさんのヒロインオーラは女の子まで引き付けるのかなって信じられない」
「い、言わないでよ。恥ずかしいじゃないか」
「それにおにーちゃんは今、ミリーに対して悪役令嬢レイナのように嫉妬や憎しみを抱いてるんじゃなくて、好意に満ちてる。あっ、愛意だよね」
うぐぅ、自分がミリーちゃんのことが好きなのは分かってるけど、直接言われるとやっぱり恥ずかしい。
「おにーちゃんが今やったことで、ミリーさんはもうおにーちゃんをライバル視せず、むしろおにーちゃんを好きになり始めてるんだよ。原作ではミリーはレイナの悪行のせいでエドウィン王子を攻略するのに必死になったけど、今は攻略したいという強い欲望はないみたいの」
なるほど。つまりミリーちゃんが王子ルートに入らなければ、バッドエンドには行かないってことか。
「それは~今はおにーちゃんの攻略に手を焼いてるだけで~他の男を攻略する暇がないからだよね~そうでしょ~おにーちゃん~」
「ぐうっ……」
頭から湯気が出そうな気分だ。
「それに~ミリーだけじゃなくて、エドウィン王子もおにーちゃんに落とされちゃったよ~もう~おにーちゃんったら罪深い女だね~」
「ち、違うって」
「うひひ~おにーちゃん可愛い~」
こうしてからかわれると、内心の波濤は収まらない。嬉しさと不安が入り混じる複雑な気持ちだ。
「それに、おにーちゃんの性格が面白いせいなのか、エドウィン王子の気持ちも原作のように悪役令嬢レイナを嫌悪してないみたい。よそのあたしから見ても、エドウィン王子はおにーちゃんに興味とからかいの心を抱き始めてる。それで態度が一変して、自らおにーちゃんに近づくようになった。これは原作には絶対にありえないことなんだよ」
これも確かにそうらしい。今はもう王子がレイナちゃんを見る時の、一見優しそうで内心は冷たい目つきは全く感じられない。
少なくとも王子が俺をからかうようにレイナちゃんをからかったことはないはずだ。それに、俺に対してあまり表面的な対応をしてない気がする。
「そうなると、悪役令嬢レイナの死亡エンドも起こる理由がなくなるの。エドウィン王子はもうレイナを敵視してないし、ミリーもレイナを敵だと思ってない。これらはみんなレイナの死亡フラグを取り除いたんだよ」
ジュディさんの説明を聞いて、ようやく目から鱗が落ちた気分だ。全てのことがつながったみたいに、思わずほっと息をついた。内心の重荷が少し軽くなったような気がする。
「そういうことか……」
「そうだよ。だからおにーちゃんは今の行動と態度を保ち続ければ、バッドエンドを避けて、新しい未来を迎えられるんだよ!」
「そうか」
そうだったら本当に良かった。これでようやくリラックスできる……いや、違う。もっと重要なことを聞かないと。
「ところでさ、佐藤さん。俺と王子とミリーちゃん三人の人間関係は大きく変わったけど、ストーリーの重大なイベントはまだ起きてるよな? 今までどんなことがあったんだ?」
「あ、そうだね。でもあたしはストーリーがおにーちゃんのせいでどう変わったのか、詳しくは分からないの。じゃあ重大なイベントがどんなものだったか言うから、おにーちゃんで比べてみようか」
「うん。そうしよう」
ストーリーを知ってる人から見たら、俺がどんなストーリー破壊者なのか気になるな。
「まずが入学式のイベント。これはゲーム全体の最初の必ず起こるイベントなの。ミリーは入学式に遅刻しそうで慌てて走ってたら、偶然廊下で攻略対象のエドウィン王子とぶつかっちゃった。そのシーンは印象的で、王子は倒れたミリーを起こして、散らばった教科書を拾ってあげた。二人は見つめ合って、ミリーの頬が赤くなって、王子も優しく微笑んだの。このイベントはミリーとエドウィン王子の出会いの始まりで、二人の絆の起点なんだ」
「……!」
まさかそうだったとは。偶然じゃなかったのか。
あの時のことを思い出した。ミリーちゃんは確かに「遅刻だ遅刻だ!」って言いながら、真っ直ぐ俺にぶつかって、ミリーちゃんは跳ね返ってこけた。そして俺と王子が教科書を拾ってあげた。あの時はミリーちゃんにたいして気まずかったけど、でもこれが俺とミリーちゃんの絆の始まりだったんだ。
このイベントがなかったら、ミリーちゃんに夢中な俺もいなかったと言えるな。
「次はデートイベント。これはミリーと攻略対象の好感度次第で決まるの。ミリーとある攻略対象の好感度が一定に達すると、デートイベントが発生する。例えばエドウィン王子なら、ミリーを王都でデートに誘って、二人で街を散歩しながら談笑したり、甘いやり取りもあるの。王子がミリーに高価なアクセサリーを買ってあげたりもするんだ」
これは......起きなかった出来事、か。
いや、正確に言えば王子はデートしたけど、そのお相手は俺だった......。そうか、いつの間にかバッドエンドのフラグを抜けてちゃったのか。
「そして、ミリーがいじめられるイベント。これはレイナを筆頭とした貴族令嬢たちが、身分の低いミリーが身分の高いイケメンたちを攻略して、イケメンたちに好かれるのを快く思わず、羨ましくて妬ましくて仕方ない。彼女たちが結託してミリーをいじめて、学園内でも排除や辱めを受けさせるんだ。でも、あるときミリーがいじめられてる最中に、好感度が一番高い攻略対象が突然現れて、問題を解決してくれて、ミリーは守られて支えられてる気持ちになるの」
まさかそうだったとは。ゲームではレイナちゃんが率先してたのか。今回ミリーちゃんがいじめられたときは、俺が立ち上がって、あの貴族令嬢たちの行為を止めさせて、ちょっと策略を使って彼女たちにミリーちゃんに謝らせた。
ミリーちゃんが警戒心を解いて俺の胸に飛び込んで泣いてた様子は、まだ鮮明に覚えてる。
「次はミリーが誘拐されるイベント。ゲームではカトリーナとレイナが共謀して誘拐するんだけど——」
「ちょっと待って! 佐藤さん! あのカトリーナ……その背景について、もっと教えてくれないか?」
カトリーナの名前を聞いて、俺は思わず立ち上がって、ジュディさんの言葉を遮った。
この人物が一体何者なのか、ハッキリさせないと。この謎の女について知りたいことが山ほどある。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます