第16話 本当の一面

 あれから数日間、ミリーちゃんが意図的に俺を避けていることに気付いた。


 俺と目を合わせるのを避けるだけじゃなく、偶然出会って挨拶をすると、ミリーちゃんは軽く返事をして急いで俺のそばから離れていきた。


 ああ……どうやら俺は完全にミリーちゃんに嫌われてしまったようだ。きっと変な人と思われているに違いない。


 頭を撫でたり、デコピンたりなんて、それを思い出すとどう考えても変なヤツだ。


 もしあの時王子は俺を止めてくれなかったら、ミリーちゃんにさらに変なことをするかもしれない、状況は今より悪化してしまうだろうね。


 理性的にはそうだが、感情的にはアイツにすっごく不満だ。それに俺を引っ張った理由は俺の暴走を止めるなんて。


 全然暴走してねーだろう!? いくら俺でもあんな状況にならないでしょう! ミリーちゃんと少しでも長く一緒にいられるならば嬉しいのに。あれが最後の会話かもしれないから。


 何かヤキモチ作戦だ、バカバカしい。


 そう言えば、最初は自信満々でなにをするって決めて、結局なんであの時あんなことをしたのかっと後悔することがよくあることだ。


 昔からもうこんな状況があるんだ。なんで俺はいつもこうなんだ? 何か呪いがかかっているのでもあるのか?


 はあ、心が疲れた。もう二度とミリーちゃんに話しかけなくなるのかな? 泣きたい。


 やる気がないから、放課後は王子のいちゃつきな言葉を完全に無視して、真っ直ぐ寮に帰いてきた。


「お帰りなさいませ、お嬢様」

「あっ、うん、ただいま」


 シェラさんは玄関に俺を迎えてくれた。でも俺は今その気分じゃないから、靴を適当に脱ぎ捨て、鞄を適当に床に投げ、そしてベッドに飛び乗って頭を枕に埋めた。


「もう、お嬢様、礼儀に合わないわよ」

「いいから、誰も見ていないんだから」

「私が見ていますよ」

「シェラさんに見られたって別にどうてもいいじゃん」


 俺はもう一度ため息をした。だが口は枕に密着しているから、意味不明な音しか出せた。


「……なんか最近、お嬢様の顔色が少し悪いが気がしますね。何かあったのでしょうか?」

「色々があってな」

「それなら、私に聞かせてもらえませんか? もうお嬢様が苦しんでいる表情を見るのは耐えられません」


 やっぱりシェラさんは本当に優しいよね。その口調で話せると甘えたくなってしまう。


 だがシェラさんに話をする前に、癒しがしたいなあ。


「じゃあ、シェラさん、ベッドに座ってくれ」

「……わかりました」


 この時は公爵令嬢の特権を利用するべきだ。


 よし、今日のシェラエネルギーの補給はこれで決まりね。


「よいしょっと」

「っ!?!?」


 俺は枕から頭を上げて、ベッドに座ったシェラさんのそばに這い寄り、頭を彼女の白いタイツがきていた太ももに置いた。


「はあ……気持ちいなぁ」


 以前の世界じゃ完全に実現できないことだね。ずっとこれで癒したかったんだ。


「お、おおお、お嬢……」

「ふう、シェラさんの膝枕は本当に素晴らしいね」


 最初の膝枕体験はシェラさんだったけど、それでもこの快適さは俺の心の中で1位になっているんだ。


 シェラさんは少し戸惑っているようだが、横になった俺は頭上のふたつの豊かなものに視界を遮られているから、彼女の表情は見えない。


「……も、もうぅ。こういうことをする前に必ず言ってくださいね? 少なくとも心の準備ができるようにしてください」

「ごめんね。でもちょっとわがままさせて〜」

「もう……」


 俺の行動でシェラさんを怒らせたと思った時、彼女の細い指が優しく俺の髪を撫でていた。


 さすが専属メイドだ。気持ち良くて眠りたいになった。でもここは本題に戻る方が良い。


「私の悩みはね、学園に仲良くなりたい子がいるんだけど、どうしても上手くいかないんだよぉ」

「それがお嬢様がこんな様子になった原因ですか」


 俺もなんでこうになったのかわからない。今まで好きな女の子に意図的に避けられたこともあったけれど、こんなに落ち込んだのはなかった。


 これは推測に過ぎないけど、レイナちゃんのその眠っていた人格が俺の考え方に影響を与えている可能性がある。レイナちゃんは他人に認められたいから、嫌われることを怖がっている。


 もちろん、レイナちゃんとは関係ないで、単純に俺がミリーちゃんが好きすぎるだけかもしれない。


「どうすればいいのかわからないだ……」


 そして俺は深いため息をしてた。もはやヤキモチ作戦を使ってミリーちゃんに近づくことは不可能だ。彼女の前での失態で、公爵令嬢としてのイメージは壊れてしまったから。


 ミリーちゃんにその姿を見られた後、いつものイメージがただの演技でことを知っているかも。


「お嬢様、人間関係の中で最も重要なことは、知っています?」

「うん……信頼?」

「そうです。なので、お互いに信頼を取るために、良好なコミュニケーションを持つことが大事なんですわよ。お嬢様はその子としっかりと話し合ったを取ったことありますか?」


 当然そんなことは全くしてないんだ。そのバカみたいな作戦を実行するから、一方的にミリーちゃんに説教をして、変なことをするだけで、まったくコミュニケーションとは言えない。


「全然ないね……」

「そうですか。仲良くなるために、それではダメですわよ」

「……うん」


 結局、一周回って最も普通の方法に戻ってしまったのか。俺ってバカだな。


「ちなみに、その子の爵位は何ですか?」

「子爵令嬢ですよ。ただし、以前は平民で、貴族になったのはまだそれほど長い時間じゃないよ」

「ふむふむ、そうですか……」


 シェラさんは何かを分析しているように考え込んでいた。


「どこが問題なのか、大体わかりましたわ」


 そしてシェラさんは自信のある声でそう言った。


「なんですか?」

「お互いの身分差ですわ。この困難を乗り越えない限り、仲良くなるのは難しいでしょうね。そして、その子だけがこれに立ち向かう必要があるのではなく、お嬢様も同じですよ」

「やっぱりそうなのか」


 俺は貴族社会に実際に経験したのはわずか数ヶ月ですが、レイナちゃんの記憶や前世で学んだ知識に基づいて、貴族社会について十分な理解を持っていた。


 学園内では誰もあまりそんなことに気にしないっと王子がそう言っていたが、それは貴族の生徒たちだけがそうするのだと気づいた。かつては平民だったミリーちゃんは表面上は貴族の一員ですが、公爵令嬢の俺に対して、気にしすぎるのも仕方ないんだろう。


「そうですよ。私のアドバイスは、もしあの子と仲良くなりたいのであれば、お嬢様が自ら公爵令嬢の身分を脱ぎ捨て、対等な関係でその子と接することが必要がありますわ」

「それは確かに……」


 俺自身は貴族の身分を捨てることには全く問題ない。元々俺は貴族じゃないから。俺が気にしているのは、そうすると他人はどう思うかっと。もし本当にモードを切り替える必要があるなら、ミリーちゃんの前だけでそうするの方がいいと思う。


 だが問題はここだ。もし俺が「公爵令嬢レイナ」という身分を捨てるなら、ミリーちゃんに「レイナちゃん」を見せるべきなのか、それとも「俺」を見せるべきか、とても考えるべき問題だ。


「もしお嬢様がその子に誠意を示したいのであれば、時折自分の本当の一面を見せることも良いでしょう。もちろん、相手が自分に対して無害であることを確認した上でのことです。いくら学園内でも、貴族社会は危険な場所ですからね」

「本当の一面、か……」


 つまり「俺」ってことだね。それは自分の秘密を明けることとほぼ同じだな。できればその秘密は少ない人に知られるほど良いと思う。


 記憶を読み取ると「レイナちゃん」の一面を表現することはできるが、それをミリーちゃんと仲良くなら、まるでミリーちゃんを騙ているようなんだ。そのことを考えるだけで罪悪感が湧いてくる。


 どの選択をするべきか、マジで難しい。


 だがまあ、シェラさんと話してた後、少しつつ楽になった。先はまだ前方が霧に包まれていたようなのに、シェラさんが道を照らして、徐々に晴れてきた。


「ありがとう、シェラさん。おかげで今私は、憂鬱な気分はもう消えたよ」

「そうですか。それは良かったですわ」


 自分の気持ちも晴れやかになる時、意識が曖昧になり、気づかないうちにシェラさんの膝の上で眠てしまった。

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