第41話  Never Gonna Give You Up(1987年)Rick Astley



 男子はのこり4人。


 わたし(星夏美)はドキドキして成り行きを見守っている。


 最初は強気なわたしだったが、やはり緊張するものだ。


 橘恭平クンと五十嵐和彦クン、あとは真水しみずさん狙いの2人か。

 いかにも巨乳好きの男子という感じだ。


 真水さんの意中の人は、五十嵐和彦クンだろう。


 次に告白する男子が誰か、会場は固唾をもって見守る。


 司会「つぎは久須美敏夫くすみ としおクン!」


 橘クンじゃなかった……


 司会

「久須美くん、誰に告白しますか?」

「真水さんです!」



「そうですよね。私もいいなと……」

 司会も正直だ。おっぱい星人め。


 久須美クンは、ゆっくりと前に進む。

 そして真水さんのところに行った。


 そして、久須美クンが真水さんと正面に向き合って立ったとき、

「ちょっと待った!」


 予定通りというか、五十嵐和彦クンが、待ったを掛けた。

 待ったを掛けたのは1人。


 え……ということは、残る男子は2人?

 橘恭平ともう1人の男子。


 最後は、私のところで、一騎打ちかぁぁぁぁぁ!?


 司会進行的には、一番美味しい展開だろう。


 私はチラと、真水さんの顔を見た。


 彼女は安堵の表情をしている。

 彼女の本命の五十嵐クンが告白に来てくれたのだ。


 司会は真水さんに聞くいた。

「気持ちは決まりましたか?」


「はい!」


 会場が響めきにつつまれた。

 この元気なハイは、撃沈の合図だろうか、と観衆は期待した。


 司会は久須美さんに振った

「それでは告白どうぞ!」


「真水さん、一目で気に入りました。僕とお付き合いお願いします!」


「五十嵐さんどうぞ!」


「真水さん、今度、栃尾で一緒に『あぶらげ』を食べましょう!」


 会場は失笑というか、笑いが、起こった。


 司会

「では真水さん、どうでしょう。はい、どうぞ!」


 真水さんは、しばらく沈黙すした。


 溜めて、溜めて、溜めて…………


 会場がざわめく。どうしたんだろう?


 そして、一歩前に出て、五十嵐クンの手をとった。


 「じゃ、おいしい『油揚げ』の店を教えてね♡」


 えええええええ!!!!くそーーーーー!

 やっぱりカップル成立かぁぁぁぁ!!!!


 たしかに栃尾同士と言った。

 五十嵐クンは文系の頭が良さそうな人だ。


 それと、何故かケバいというか、化粧が濃いというか……

 やはり巨乳の魅力に負けたか、五十嵐クンは


 真水さんも、もともと五十嵐クンが本命だったようだから、

 溜めたのは、フェイントを掛けたのだろう。


 会場は、巨乳……いや、真水さんを射止めた五十嵐に対するブーイングが巻き起こった。「チクショー!いいなぁ」という声も聞こえた。



 フン、どうせ私は貧乳ですよ!

 残り物……というか、

 わたしが、一番最後じゃないか!


 司会はわたしの所に来た。

「星夏美さん、いよいよ最後になりましたね」

「はあ……い」

「残り男子がふたりですけど……」

「もし誰も好きな人がいなかったら?」


「うーん、じゃふたりに聞いてきます」


 司会が橘クンともうひとり残っていた山崎クンという男子のところに先に行った。


「山崎さん、パスというのもあるんですよ」

「そうなんですか?」

「チェンジも」

「それもアリですか?」


 あの司会の野郎、何が「チェンジ」だ。

 殴ってやろうか?


「というのは冗談です。私は星さんのところに告白に行きます。あのあそこの橘ってヤロウには絶対に負けません」


「すごい自信ですね!」


「ラグビーだか知りませんけど、あんなヘナチョコなフォワードなんて、ぶちかましてやります!」


「え、プロフィールに……山崎クン、柔道部ですか!どうりで良い体格してますからね。じゃ、是非、アイツをぶちかましてください!」

「ハイ!わかりました」


 司会は次に橘クンの所に行った。


「あの柔道部の彼は重量級ですが、あなた、大丈夫ですか?」


「え、やば……体育授業のラクビーで、たしか、彼は重量級フォワードだったような……まずいなぁ」


「自信なさそうですね。もし星さんとカップル成立したら、柔道の授業で絞め技を掛けられますね」


「……マジ?」

 橘クンが山崎クンをチラと見たら、彼は不敵な笑みを浮かべていた。


「それでは、山崎クンからどうぞ」


 スタスタスタ……星さんのところに歩いて行った。


 わたしは、橘恭平はきっと私の所に来ると確信していた。

 

 しかしヘナチョコだからなぁ、あいつは。


 中々、恭平は「ちょっと待った」コールをしてこない。

 私は、彼の顔を見た。

 もう彼は告白する位置まで来るぞ……


 やはり、この中庭を囲む校舎から、大勢の観客がいる前で告白することにじけづいたのか?彼は……


 恭平はオドオドした目でコチラを見ている。

 そして、なにか踏ん切りが付いたように叫んだ。

 (ヘビに睨まれたカエルみたいなものですね)


 「ちょっと……(かすれ声で)まった~」


 なんか情けないコールだ。

 コイツ、ホントに、ごめんなさいをしてやろうか。


 恭平が、やっと、走って私の前に来た。


 司会、

「さあ、最後の星さんへの告白タイムです。この紅鮭団べにじゃけだんの最後、トリを飾ってもらいましょう。ふたりの男子は準備いいですか?」


「はい」

「はぃ……」


「じゃ、山崎クンから先にどうぞ!」



「星さん、星というよりもアナタは太陽です!僕と高校生活の最後を一緒に過ごしてください!よろしくお願いします!」


「橘クン、どうぞ!」


 …………

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