第46話 Tonight Is What It Means to Be Young (1984年) Fire Inc. ※
※(日本語カバー)今夜はANGEL(1986年)椎名恵
恭平とツーリングに行った翌日の日曜日
ジリジリジリジリ……
わたし(星夏美)は夕方、リビングで電話が鳴っているのを、部屋で聞いた。
恭平からの電話だろうと、部屋を出て階段を降りていくと、
ガチャッ「はい星です」
お母さん、もう、帰ってきていたの!
「もしもし、あ、夏美、ん? 違う……お母さん!星さんのお宅ですか?」
橘恭平は私の母と電話で話した。
「あ、ちょっと待ってね、夏美~、カレシから電話よ~」
あちゃー、恭平の電話を母親が取ってしまった。
「ちょっと、お母さん、帰りが早いって言ってよ!」
「そんなの仕事の都合なんだから仕方ないわよ」
わたしは、母の持っている受話器を取った。
母親は私の顔を見て、ニコニコしている。
そして小声で話した
「ちょっと、恭平、お母さんが出たじゃないの」
「だってこの時間なら大丈夫かと思って……」
「だっても、へちまも無い! いったい、どうしたのよ」
「君の家に忘れ物を……」
「何を忘れたの?」
「タオル、長岡高校ラグビー愛好会のもの……」
わたしは、チラと物干しを見た
母親はそのタオルを洗濯をして、干してぶら下げていた……
チーン
ジ・エンド(The End)……、ダス・エンデ(Das Ende)、……ラ・ファン(La Fin)……
母親にバレバレだ 男を家に連れ込み、部屋に連れ込んでいたことを
私は受話器を置いた。チンと音がした。
電話を切ると、まだ母親は電話のそばにいる
「カレシ、長高なのね。ふふふ」
私は、首を下げ、トボトボと階段を上っていった
お父さんにお目玉を食らうのか
いや、なんとかごまかそう
その日の夜、食事を終えて風呂から上がって、
わたしは日曜洋画劇場を見ていた
その時にまた電話が鳴った
すかさず、ダッシュして電話を取った
母は台所仕事をしていて、リビングにはいない。セーフ!
「ちょっと、恭平、また、なんの用なのよ!」
「あ、夏美か? キョーヘーって、男の名前?」
「あ、お父さん!(しまった!) たしか、東ドイツに行くんじゃなかったの?」
「いやね、夏美。東ドイツ行きは取りやめになった」
「どうして?」
「ニュースを見てるだろ、あっちこっちでデモが激しくなってさ、ドレスデンとかでも……もう仕事どころじゃない」
「そう?」
「これじゃ、天安門の二の舞になるかもしれないって、大騒ぎになっている。ウチの選手がいるユーゴスラビアでもデモとかが起こっているし」
「それで何の用?お母さんに電話を替わろうか?」
「いや、今日はおまえと話をするために電話した」
「わたしに?もしかして……進路のこと?」
「そうだ、担任の先生から聞いたか?」
「聞いたわよ。わたし、ちょっと先生が何を言っているのか、それに考えがまとまらないんだけど」
「(ふぅ)こんないい機会、滅多にないことだから。黙って先生の言うことを受けとけ」
「どうしてよ。お父さん、地元の大学へ行け、と前に言っていたじゃない!」
「気が変わった」
担任と同じく「気が変わった」ですか?
「どうしてよ?」
「お前は担任の先生に『将来はジャーナリストになりたい』と言ったそうだな。ちょうどいいじゃないか。俺も来年あたり、東京に転勤になるという話が来ているし」
「私だけ、新潟大学でもいいでしょ!マスコミなら新潟日報社だって、テレビ局だってあるし!」
「担任の先生はね、夏美が英語が堪能だと褒めていたぞ。それもドイツ語訛りの英語でさ、ははは。地方紙、地方局のマスコミもいいけど、世界に目を向けて見ろ。お前の語学が活かせる大学に行け」
「行けって、なんて乱暴な。だいたい『可愛い娘』をひとりで東京にやろうなんて、どういう親だよ!見損なった!」
「お母さんから、聞いてるぞ」
「何を?」
「カレシがいることだよ。お前はカレシと一緒に
うっ、バレていたか……
「え、い、いいじゃないの、そのくらい……」
「お前、恋愛がいつまでも、永遠に続くと思っているのか? 若いうちの恋は実ることなんて、そんなにないんだよ」
「何いってんの!お父さんはお母さんは、中学の同級生だと言ったじゃない!」
「それとこれとは話が別だ……まあ、とにかく。よく考えろ。慶應、早稲田は入りたくても入れない者が大勢いるんだ。マスコミに入りたいならその大学がいい。お前はジャーナリストになりたいんだろ?違うか?」
「そうよ……でも、あれは勢いで、わたしだって、普通に結婚して……」
「西ドイツでお前は何を見てきたんだ?女性もみんな社会で活躍しているだろ」
「ええ、そうだけど」
「俺たちのことは気にするな……いや、カレシか……カレシは東京の大学には行かないのか?」
ついに父はカレシのことを探ってきた。
もう、言うしかないわね
「彼ね。父親が病気で倒れて、母は今は非常勤教員になって、彼の父親の介護をしているの。経済的な余裕がないそうよ。地元の大学へ進学できれば、それで充分というところで……」
「そうか。まあ、遠距離恋愛ってものあるからな。大抵はうまくいかないけどな」
「うまくいかない~って」!!!
なに言っているんだ。この父親は。カレシと別れさせるつもりだな!
頭に来た!
「わかったわよ! 遠距離恋愛を続けてみせるわよ! わたし、慶應の願書を出すわ! 西ドイツからの電話代は高いでしょ!切るわよ。じゃあね。お休み!」
ガチャン!
受話器を置いた。
言ってやったぜ。
でも、それでいいのか、勢いで父親に願書を出すと言ったけど。
私は気が短いかもしれないな。
売り言葉に買い言葉か……
◇◇◇
翌日の月曜日、
出願書類をもって登校した。でも、まだ私には踏切りがつかない
朝の出欠の確認が終わった時、担任から昼に教務室に来るように言われた。
わたしは、昼休みに、なるようになるがまま、出願書類を持っていった。
担任の先生の机に行くと、先生は私の手に持っている封筒をチラと見た。
わたしは、コレを提出したら、恭平にすなおに、東京へ進学を告げようとしていた。
わたしは、封筒を渡した。
「星君、決心してくれたか」
「はい……」
「ありがとう。キミには感謝するよ」
「いいえ、どういたしまして」
「ひとつ、先生からお願いがあるんだ」
「なんですか?」
「来年、共通一次からセンター試験に変わって、新しい試験が始まるだろ」
「はい。そうですが」
「いま、君が指定校推薦に出願したら、おそらく99%の確立で合格する。面接とかもあるけどな。指定校推薦というのはそういうものだ」
「そうですか」
「だから、このことは一切、他の学生、他校の生徒に言わないで欲しい。出願したことも」
「え、言ってはいけないんですか?」
「だって、みんなが必死で受験勉強をしているのに、みんなの気が散るだろ。高校卒業式まで誰にも言わないこと! 他校の生徒にも言っちゃダメだ」
え、そんな? 恭平には、私の進学のことを言ってはいけないなんて……
とんでもない裏切り者か……わたしは
「それに……」
「なんですか?」
「大学へ行って成績が悪いと、ウチの学校の推薦がなくなるからな。後輩に恨まれるような、遊びほうけるなよ。あと変なこと考えるな。面接でボケて大学を落ちようとするとかね」
「わかってます」
くそ、「落第作戦」も見透かされた。
「もうひとつ」
「カレシとはホドホドにしておけ。彼の父親は中学教師だろ? キミが教員住宅に出入りしていることくらい、教員同士の情報網でわかってるわ!この、アンポンタン!」
カレシとの関係、先生に、バレていましたか……
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