第45話 Holding Out For A Hero (1984年) Bonnie Tyler
9月中旬の土曜日
わたし(星夏美)と橘恭平は12時代の長岡発直江津行の電車で一緒に乗り、塚山駅で降りて、そこで彼のバイクに乗った
ふたりお揃いのライダージャケットを来て、リュックサックに学校へ行く時に着ていた服を詰めこんだ。
彼と久しぶりのタンデム・ツーリングだ。
「海に出て北上しようか」
「そうね、秋の海がみたいわ」
「じゃ、そうしよう」
バッテリーが弱っている彼のスズキΓ(ガンマ)250
従兄弟からもらったと言ってたバイク。
彼は綺麗に整備をしているが、さすがに高い部品の交換はお小遣いが厳しいのか。
キックでエンジンを始動すると、2ストロークのエンジンが甲高く響いた。
「寒くないか?」
「大丈夫よ」
「じゃ、出発するからな」
ガチャッと変速レバーを踏み、スロットルを回して、
ビィィーーンとエンジンを轟かせてバイクは走り出した。
峠道を越え、
目の前に、真っ青な、群青色よいうべきか、秋の日本海が広がる。
「わぁ、綺麗な海」
「ああ、このまま北へ走ろう」
バイクは海岸沿いの国道を走っていく。
海岸沿いの木造家屋の漁師町を過ぎて、そして出雲崎に入った。
彼はそこでいったん海岸の駐車場に入った。
そしてバイクを停めた。
わたしは彼に聞いた。
「どこへ行くつもり?」
「弥彦神社かな?合格祈願なら……」
「えー、お弥彦さまに、カップルで行くと別れるって噂だよー」
「そんなの迷信じゃ?」
「合格祈願も迷信みたいなものでしょ?」
「まぁ…そういわれれば身も蓋もない…じゃ、どこへ?」
「新潟の白山神社が……あそこは恋人同士が結ばれる神社だから」
「恋人同士? 結ばれる……そう?」
「それが何か?何か問題でも?」
「え、じゃ、そうしよう。そうか、途中で新潟大学の五十嵐キャンパスを通るよね」
「そうだよ」
と、言ったものの、わたしは慶応義塾大学の指定校推薦の願書を出すかどうか、決めかねていた。
というか、あれだけ担任にお願いされて、もう出すつもりで、願書を書いていた。
彼には言えない。
彼は無邪気にも新潟大学のキャンパスの横を通ると言っている。
ああ、どうしよう。慶應の願書の話、彼に言うべきか、言わないべきか。
合格祈願?
恋愛成就?
寺泊を過ぎて、野積の橋を渡り、シーサイドラインを北上していく。
奇岩と険しい山々が切り立った海岸のワインディングロードを2人乗りのバイクは駆け抜けていく。
暴走族の聖地のような場所だ。
時折、防波堤の上に止まっているカモメやウミネコを見た。
彼と初めてキスをしたのは、柏崎の笠島の防波堤
その時のカモメを思い出した
あれは、わずか2年と少しほど前のこと
あっという間の高校時代だ
もうすぐ冬が来て、この日本海は鉛色に変わる
そして町はまた雪の包まれて、
春が来て、わたしたちは高校から旅立っていく
ぼんやりと遠くに浮かぶ紫色の佐渡ヶ島を見た
岩場がつづく道を過ぎて、広くどこまでも続く海岸林の道に入った
この林の道を抜けると、砂漠になり、
その砂丘に新潟大学五十嵐キャンパスが立っている
「ほら見えてきた。あの手前の建物が工学部だって」
「そうなの?」
「先輩から聞いた話だとね。電車で通うと人文学部は新潟大学前駅で降りるそうけど、工学部は内野駅の方が近いから、そこで降りるんだってよ」
「JRの駅一つ分あるの?五十嵐キャンパスって」
「そう、横に長ーい」
「とても広いんだね」
「ああ」
「恭平は進学したら下宿するんでしょ?」
「官舎からは追い出されるし、そうだな……」
彼はそこで黙ってしまった
やがてバイクは町に入る
緑色とオレンジ色の路面電車が前を走っている
轟音を立てて街中を走っている電車を、その横からバイクは追い越した
「ほら県庁跡を過ぎたらそこが白山神社だ」
車のお祓いをする場所の近くにある駐車場にバイクを停めた
ヘルメットをチェーンロックで施錠して、2人で境内を歩いて行った
わたしも、この神社は初めて来た。彼も初めてで勝手がよく分からないようだ
大きな神門をくぐり本殿の前の広場に出た。
「たくさん神様が祀られているようだけど、どれが合格祈願?」
「本殿で参拝すればいいんでしょ」
ライダージャケットを着た2人の男女は、まわりの参拝客とは違和感があるような格好ですこし恥ずかしい
恭平はわたしに聞いた
「何をお祈りした?」
「言うと御利益が消えるのよ。言わない」
「ちぇ、ケチ」
「ケチなもんですか。さあ、お守りを買いましょ」
2人でお守りを見る。
彼は合格祈願のお守りを手にとった。
「ほら、キミには赤がいいかな?」
「こっちにしましょう」
「恋愛成就!?って、ホント!?」
「何かわたしに不満?この神社は縁結びの御利益だと言ったじゃない」
「そうだけど。じゃ、俺が合格祈願を二つ買うから」
「わたしの恋愛成就を二つ買うわ」
そう言って、二人でお守りを買って、互いに交換した
彼からもらった合格祈願のお守りを見つめた
しかし、わたしが願書を出す「だろう」大学は、彼は知らない。
彼は
「合格するといいね」と言った。
その言葉がグサリと胸に突き刺さった
「ええ、そうね……」
わたしには、まだそこで引き返す猶予はあったのだが……
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